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依頼書No.7 さーて、今日の冒険は?

 イザベラの店に着いたのは水の始刻(しこく)ほどだ。

 既にイオのお仲間である三人は到着してた。

 野郎の名前なんていちいち覚える気もないだろうから、左から順に説明していく。

「イオ、レディを待たせるものじゃないぜ」

 この気障(きざ)ったらしく話しかけてた長身痩躯のクソガキは博士(はかせ)だ。別に頭が良いってわけではないが、悪知恵のためなら個人技で色々と作り出せるからそう呼んでやってる。


「ごめん、ニクス。朝は早い者勝ちだからね、油断してたよ」

 イオも、これぐらいの軽口に頭を下げるんじゃねぇよ。

「おっと、その後ろに侍らせているお姉さんはどなたでやんすか?」

 この変な喋り方をする二十歳ぐらいのニーちゃんはハリベーって名前にした。こいつも個人技からで、危なくなると全身を棘で覆って身を守れる。名前とハリネズミみたいな個人技と合わせて直ぐハリベーになった。


「ハリメデさんが朝早いなんて珍しいね。えっと、まぁ、こちらはコレリーウスさん。しばらく、僕らのパーティーでお世話になりたいって話、なんだけど……」

 仮初ながらリーダーをしているとは言え、流石に急な話を持ち込むのは気が引けるようだ。イオはもっとガンガン意見を言っても良いと思うぜ。

 こいつらはイオが大人しいことを良いことに、責任だけはおっ被せてやりたい放題やろうとしてんだよ。イオがビシッと言って纏めてやらねぇと、いつか大損こくことになるぞ。


「急に話を持ちかけてしまって申し訳ございませんわ。コレリーウスと申し上げますの。不都合でなければどうかよろしくしていただけないでしょうかしら?」

『喜んでッ! やんす!』

 直ぐにオッケーが出た。

 テーブルの上に身を乗り出して、コレーの差し出した握手に答える阿呆二人(博士とハリベー)


 そんな様子を微笑みながらもやや呆れた感じの苦笑いで見つめている少女が、つい数時間前までこのパーティーの紅一点だったモォちゃんだ。薄桃のツインテールと豊満な二つの肉団子で阿呆どもを(とりこ)にしていたのに、さすがにコレーの美貌には叶わなかったようだな。コレーは大きさより形の良さだから、後は顔の勝負ってところなんだな、これが。

 ちなみに、牛の鳴き声みたいな名前は元の名前と牛の如き胸部の丘からだ。


「モウポリエさんも、大丈夫かな……?」

 イオが恐る恐るモォちゃんにも許可を求める。

「大丈夫だよ。リーダーのイオ君がそう決めたなら、あたしは反対しないよ」

 気の良いモォちゃんも快諾してくれる。

ハリベー、博士、モォちゃんと並べてみると、どこかで聞いたことがあるような三人組の名前になるが、たぶん気の所為だ。気の所為に決まっている。気の所為だからな。


 まぁ、名前のことはさておいて、今日受ける依頼を決めなければならない。

「それで、もう受ける依頼は決めてるの? そろそろ、他の皆も集まってくる頃だけど。確か、討伐依頼にしようって話だったよね」

「抜かりはない。一応、二つ選び出して置いたぜ」

「四人になったから少し大きく出やんして、一級(ランク)上の採取依頼ッ」

「それか、身の丈に合った討伐依頼だね」

 流石というべきか、問題なく依頼の選択をしてやがる。ここへ来る前の心配はどこへやら、こいつらが勝手にイオと同じく採取依頼を選択しに入れてくれやがった。


 そして、ここでコレーが加わったという事実がイオ達の無謀へと駆り立てるわけだ。

 コレーがフルネームを名乗らなかったのは、イオみたいに恐縮されることを嫌ったから。名前だけで受け入れられるというのは気に入らないらしいな。そういうとこ、付き人どもの件もだし、細かい奴だよな。

 他に理由を上げるなら、自身の階級を隠すためだろう。


「コレーさんは何級なんだい?」

「ウォーラント級ですわ。得意な獲物が刃物なので、皆さんより長くやっていてもなかなか上に上がれなくて」

「いやいや、十分でやんすよ! 俺達はサージェント級の集まりでやんすッ」

 やっぱり、サージェント級の中にメイジャー級が混ざるとやりにくくもなるし、な。

 イオもコレーの意図を察してか、事実の部分は黙っている。嘘も方便って言葉ぐらいはイオだって分かるみたいだな。


「それじゃあ、もう決まったも当然だな」

 博士の一声で、採取依頼の方になったみたいだ。

 コレーもいるからウォーラント級の採取依頼ぐらいは問題ないはずだが。あぁ、いや、コレーがいることが問題なんだった。ついウッカリ、最初の目的を忘れそうになっていたぜ。

 とは言え、ハリベー以下二名がコレーの同行を許してしまった以上、イオの独断で拒否することはできないだろう。

 コレーがいるから俺が出張らなくて良いという考え方もあるが、それでもいざと言うときの保険には心もとない。何しろ、依頼書の内容なんて全部『推定なんとか級』なんだからよ。


「えーと、村近くの森で治癒薬用の薬草を五十束採取だね。余分に採取できた場合は追加報酬あり。採取終了後、村の村長家まで薬草を届けることで依頼達成、と。備考欄は……依頼書が届けられる二日前にウォーラント級ミュータントの目撃談あり。それから今日まで二日が経過して、目的地まで半日くらいだから――大体五日間の差かな」

 イオが依頼書に書かれている文字を掻い摘んで要点を整理していく。


 そう、この五日間というのは微妙な数字だ。

 カーネル級やらメイジャー級ならいざ知らず、ウォーラント級ミュータントぐらいになると餌を求めて集まってくる可能性だってある。だから、急ぐに越したことはないんだ。

 その後、イオ達はロバを引いて移動するかなどの検討を終わらせ、イザベラに依頼書を提出しに行っちまった。イザベラが苦手だから、俺は残ってコレーを監視しておく。


 イオ達の居た席から離れたところでは、一匹オオカミと老冒険者が“フィクスバルム”の一件について話していたんで、なんとなく耳を傾けておく。

「緊急依頼の方は、任せっきりにしてしもぉて悪いのぉ。もう、年じゃわ」

「気にしなさんな。七十だっけか? じーさんも、その年でウォーラント級まで上がれたんなら恩の字だろうよ」

「そうじゃな。お前さんもメジャー級までもう少しってところじゃし、どんどん後続も育ってきておる。潮時じゃろうのぉ」

「プロミネンス・ポイントは143点だから、緊急依頼の報酬次第じゃ漸くってところかね。あのガキどもが今の俺と同じところに来たら、俺も引退する年になってるかねぇ」


 酒を朝っぱらから酌み交わし、昇級について話しになってやんの。

 プロミネンス・ポイントってぇのは、冒険者が昇級するのに必要な点数のことだ。コロナ=プロミネンスが制定した制度だから、プロミネンス・ポイント。略して『P.P(ピー・ピー)』だ。

 これが依頼をこなすごとに得点として加算されて行って、ギルド管理下の『冒険者登録証明書』こと冒険証に記載されるわけ。


「あれ、この依頼、P.Pが5点もあるんだね。やっぱり、それだけ出現する確率が高いってことかぁ」

 戻ってきたイオ達も、P.Pについて話している。

 5点と言えば決して少ない点数ではなく、採取依頼としては破格な方らしい。

「イオは上手くいけばこれで昇格もありえるな。俺達もすぐに追いつくから、待ってろよ?」

「待つも何も、直ぐに追い抜かされちゃうじゃないか。それに、生きて帰れなかったらどんなに高くても意味はないからね」

 イオは良く分かってるな。というか、俺が先の件で一度殺しかけたのも響いてんだろうなぁ。


 イオの神妙な面持ちを見て、さすがにハリベーと博士も気を引き締めたみたいだ。

 ただ一人、モォちゃんはどこ吹く風と言わんばかりに笑顔で追従してくる。やけに余裕があるというか、動じないタイプだよな。

「わ、わかった……。みんな、無事に帰ろうッ」

「そうでやんすねッ。五人で力を合わせれば達成できるでやんす!」

「うん。皆でがんばろうよ!」

「私も精いっぱい頑張りますのよ」

 五人の結束が固まったような気がするぜ。


 というのも、P.Pの在り方は冒険者やメルティノ国に大きな変革をもたらしたのは確かだ。

 P.Pは金銭報酬とは別に、依頼を達成できずとも進捗に合わせて少しだけ得られるようになってんのよ。ただし、それは依頼を受注した者達が全員で生還できた場合に限ってる。依頼を達成しても、全員が生還できていなかったらP.Pはもらえないわけだ。

 冒険者を一から育てるよりかは、生きて帰って次の依頼に挑んでもらう方が良いわな。

 冒険者人口を減らさないようにという努力でもあるんだが、どちらかと言うと裏切り防止の意味合いが強い。


「報酬の分け前については、私は然程多くいりませんですわ」

「えッ? でも、五十束より多く採れれば一人5000イェーナは固いですよ?」

「謙虚なコレリーウスさんに憧れちゃうでやんす」

「とか言って、一番喜んでるのはハリメデさんじゃないか」

 そう、分け前の分配で仲間を切り捨てるようなことをしないように、な。


「な、何を言ってるでやんす! 一番寝首を刈りそうなのはニクスでやんすよ!」

「ちょっと! ハリメデさん、それは酷いですよ……」

「そうだぞ! 何を根拠にそんなことを……!」

「お二人とも落ち付きなさいな。皆さんのことは詳しくありませんけれど、仲間割れをしても良いことなんてありませんわよ」

 ハリベーと博士の言い合いに、コレーが仲裁へ入って行く。イオも二人をなだめようとしているものの、下手に油を注がないか心配になってくるんだが。


 とまぁ、こういうこともあって、決して冒険者達の皆がナカヨシコヨシでやっていけるわけじゃない。初めて組んだ相手に裏切られたり、罠にはめられたなんてことになったら、ガラスのハートは砕けて二度と冒険者をやりたくなくなっちゃうよ。

「ゴルァ! 貴方達ッ! 早く出ないと日が暮れちゃうわよ!」

『ご、ごめんなさい……』

 収拾がつかなくなり始めたころ、イザベラの一喝によりハリベーと博士の喧嘩は止まった。流石はイザベラ、こういうときはホント迫力があって有効だわ。


 俺も一瞬ビビった。

 関係のない一匹オオカミや老冒険者まで身を縮こまってるじゃねぇか。

「わかればよしッ。喧嘩をするのは構わないけど、やるなら外でやりなさいな。後、依頼の前の喧嘩はケチがつくわよ」

 ごもっとも。ケチっていうのは、裏切ったり切り捨てたりしなければならないような出来事が本当に起っちまうかもしれない、っていう感じだな。こういうのを一般的になんとかって言うんだっけ。


 それじゃ、本当に日が暮れる前に村の近くまで行っておかないといけないイオ達は、そそくさと『冒険の家:イザベリア』を出て行った。

「それじゃあ、モウポリエさんは荷物を改めて確認しておいて。コレリーウスさんはロバの準備をお願いできますか? 駄獣所(だじゅうじょ)の場所、わかりますか? そこじゃないとロバが借りられないんですけど」

 イオが、他の四人に指示を与えて行く。

 何度も言うが、イオはズレたところや抜けた性格をしていても、馬鹿ではないんだ。人が好過ぎて損することもあるけどさ、ギルドの仕事って実は性に合ってたりするわけ。


「うん、わかった」

「えぇ、バシュキルシェの街はちゃんと把握しておりますわ。ここから少し北へ進んだ門近くですわよね」

「じゃあ、よろしくお願い。コレリーウスさんも大丈夫そうなので、お願いします」

 モォちゃんとコレーが答えたのを聞いて、イオは残る二人と一緒に荷を車へ積み始める。五人ともなると、やはりパーティーとしては大所帯になっちまうな。準備もちゃんとしていかないと、これまた混乱の素になる。


「それで、リーダー。どうするつもりだ?」

 コレーが離れて行って、モォちゃんが荷物に集中している間に、イオとハリベーと博士が内緒話を始めやがった。一体何の悪だくみをするつもりだろうかね。

「何のことさ?」

「とぼけるんじゃないでやんすッ。モウポリエちゃんがいて、コレリーウスさんが加わって、誰が誰を狙うかでやんすよ」

「そうだ。俺は断然、モウポリエちゃんだがな」

「はぁ……?」

 ありゃりゃ、イオ君はもしかして本当に理解されていないのでございますか。なんて純朴な子なんでございましょう。


 いや、遠回りな言い方の所為で理解が追い付いていないだけか。

(ぼか)ぁ、コレリーウスさんで良いでやんす。イザベラ姉さんも認めるだけの素質があるでやんす」

「だから、イオはどっちが良いのかって話? まさか、俺達に譲って、ヒベリオルさん一筋なのか?」

 そりゃ、当然ですよ。ビアンカちゃんこそイオの大本命。というより、ビアンカちゃん以外はそう言う対象に入ってないんじゃないかって心配になるぜ。

 もしイオが頼むんなら、コレーだろうがモォちゃんだろうが、俺が協力してやらんこともないけどな。


 それと、イザベラはコレーに何の素質を見出したってんだよ。

「そんなこと言われてもなぁ……。まぁ、追々ってことで?」

「とぼけやがってぇッ。とりあえず、抜け駆けは禁止だぞ」

「抜け駆け禁止でやんすッ」

 そんなハリベーと博士の忠告を、イオは軽くいなして荷積みに行っちゃった。


 俺との会話でいろいろと鍛えられてるみたいね。

少し前とは違うイオの反応に、ハリベーと博士もちょっと拍子抜けしちまってんな。こりゃ、もう少し鍛え上げればイオの(なまく)らも立派な一本になるかもしれん。別に小さいってわけじゃないぜ、イオの息子はよ。

 おっと失礼。そんなこんなで、イオ達は本日の依頼こと薬草採取へと向かうのでした。


じゃん・けん・ぽん!

では、次話もまた見てくださいね~。

ご意見、ご感想、アドバイス等、の三本でお送りします。

お気に入り、評価、ブックマークもお待ちしています。

たぶん、某三人組なんて分かる人はほぼ同年代か、+30歳ぐらいじゃなかろうか。

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