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依頼書No.6 面倒なお・ね・が・い

 件のメイジャー級ミュータント“フィクスバルム”の討伐を伝えてから三度の夜が過ぎたころだ。緊急依頼発令から一週間と十刻が過ぎたわけだ。

 思ったよりもバシュキルシェの街に混乱はなかったみたいだな。自主的に避難した奴らがオズオズと帰ってくる姿を見かける以外は、いつもの街並みか。商工会の奴らなんて、こんな時にまで商売してるくらいに商魂逞しいのばっかだよ。

 そんで、俺やイオは何をしているかって言うと。


「はいよ。それじゃ、一週間後に取りに来な」

「それでは、よろしくお願いします」

 武具屋の旦那がそう言うのに合わせて、イオもご丁寧に頭を下げる。

 先日の戦いで壊れてしまったレザーアーマーを直してもらうためだ。臨時の収入がいくらになるかはわからんけど、壊れたまんまと言うわけにはいかず大枚叩いて直しにきたわけ。

 たぶん、人数割りになるから一人頭1万Yeってところじゃないだろうか。それに対して、鎧の修理費用が2万以上5万未満と言ったところだから、ほぼ赤字だろうな。ソフトレザーじゃこの先やってけないからって、無理にハードレザーでの補修を頼んだんだよ。


 ――そ、そうしょげんなよ……なッ――

「……」

 高い支払に落ち込んだイオを慰めてやる。それとも、アーティの奴に独断専行を叱られて落ち込んでるイオを、か。

 ――結果として、誰も死なずに済んだんだからさぁ。元気出してよ、イオちゅぁ~ん――

「もう……気持ち悪い声出さないでよ。別に落ち込んでなんていないって。ただ、明日からビアンカさんが数日の討伐依頼に出かけるからさ……」

――あ、そっちですか――

 心配してやって損した。


 今日はイオが休日で、早朝から鎧の修理に出かけている。今日から明日にかけて簡単な依頼をこなして、明後日の月の始刻がやってくるまでに街へ戻ればギルドの仕事には間に合う算段だ。まぁ、窓際に干されたイオがもう数回ぐらい遅刻したところで、何が変わるってこともないと思うが。

 さておき、明日からビアンカちゃんがいないってことは、今日と合わせて三日か四日ぐらいは愛しき人の顔を見ることができないってことなのよな。


「そういうわけで、今日の仕事は採取依頼にしようかって思う」

 ――討伐依頼じゃなくてえぇのんか? 他の奴らも、緊急依頼の件で奮起しちゃってんでしょ――

「うーん、まぁ、そうかもしれないね……」

 いくらやる気が落ちているとは言え、それで依頼内容を変えるのはどうなのよ。イオ一人で戦ってるわけじゃねぇんだしよ。

 いやはや、実年齢的には三十近くともなれば、俺も説教臭くなっていかんね。


 ――それに、お前のチームに可愛い新人ちゃんが入ったじゃん。ここで採取依頼とか日和見したら、リーダーの地位が危ぶまれるぞ?――

 『冒険の家:イザベリア』サージェント級冒険者の集いの中では隊長を張るイオに、最終決定権があるという決めごとだ。しかし、他の奴らの意見も汲んでやらねばナカヨシコヨシなんてできないのである。人間関係って難しいね。

 特に、可愛い女の子が仲間に加わったなら、男どもは己の実力をアピールしたくなるのが世の営みよ。動物の本質なんだよ。人間も動物、というより女の前じゃケダモノよ。


「僕の心配というより、何か別のこと考えてない……? あー、そういうことか。ヤダよ、絶対にヤダからね?」

 ――え、何言っちゃってんの。ちょっと、生物について哲学的なサムシングをだな。って、なんとあそこに見えるは『ワールド・レディ』じゃないか!――

 イオが何かブツブツと文句を言ってくると思えば、いつの間にかそんな日が来ていたみたいだ。

 武具屋のお隣に書店があるんだが、軒先のオススメ商品に『ワールド・レディ』なる俺の待望していた芸術品(・・・)が販売されているのが見えるのである。流石は、商工会が「何でも揃える」と豪語するだけある目抜き通り端のお店。英霊になってから何年か待ちましたよ。


「こんな女の子の裸ばっかり集めた画集を、誰が芸術なんて認めるんだろ……。世の中の男ってみんな馬鹿なんじゃないか?」

 ――いや、その馬鹿な男の一人じゃんか、イオも……。第一、これを芸術として認めたコレーに文句を言え、コレーに。出版物の可否を決めてるのはあいつだからな――

「僕をその括りに入れないで欲しいんだけど……。ほんと、何でコレリーウス様は芸術って認めちゃったんだろ……」

 ――基本的に馬鹿だから、あいつ。芸術って言われたら芸術って思っちゃう馬鹿なコレーにこればかりは感謝だな――

「コレリーウスさんのば……」

 イオがバカァとか言いかけたところで、今度ばかりは流石に背後へとやってきた気配に気付きやがった。不敬罪にはならないと思うけど、イオが戸惑うところを見たかったぜ。


「私がどうかなさいましたか?」

「え、えっと、これはこれはコレリーウスさん……こんなところで奇遇ですね……。いえね、コレリーウスさんの場合は本よりドレスとかにお金を使うんじゃないかな、とね」

 イオも誤魔化すのが上手くなって。俺は嬉しいよ、君のその成長が。


「私が、ですの? どちらかと言うと、レシピ本や博物資料の方にお金をかけますわね」

「レシピ本? 博物資料って?」

「あら、ごめんあそばせ。私、趣味が料理ですのよ。博物資料には、その地方独特の食材なんかも乗っていて役に立つのですわ」

「なるほど、いが……いえ、結構な御趣味で」

 ――俺も最初は驚いたね。剣術馬鹿のこいつが、まさか料理にハマってるなんて、どんな笑い話だよ――


 調理場にエプロン姿で立つコレーという絵面ってぇのがなかなか飲み込めなかったね。あッ、でも別に全く似合わないってことはなかったぜ。それに、武器が多彩な包丁だから、回りには“ミュータント料理人”なんて呼ばれてるんだっけ。

 しかしだ。ミュータントの堅い外殻に対して刃物はないな。どんなに切れ味が良いと言ったって、直ぐに刃こぼれして使えなくなっちまう。こいつの個人技と合ってるっちゃぁ合ってるんだが、もっと戦鎚(ウォーハンマー)みたいな武器だってあったろうに。どうして寄りにも寄って剣、というか包丁なんかにしちまうかね。


「先ほど、どなたかとお話されているご様子でしたが?」

「え、えっと……独り言です! 独り言! 小さい頃から独り言が多いって両親に注意されてたんですけどね、治らずにこの年まで。アハハハハッ」

「独り言で私のことを、でございますの? それって……いえいえ、私はカリストのように強い男の方が好みですが。約束も果たさず、逝ってしまいましたけど……でも」

 いや、てめぇの男の好みとか聞いてねぇし。ま、そう言うことなら俺が憑依したイオの実力を見せない限りは問題ないな。と言うか、あの約束はちゃんと覚えてたんだな。


 俺に勝てたら結婚してやる、なんて馬鹿げた約束を。

 ――あー、ヤダヤダ。自分の好きなことだけは物覚えが良いんだよな、こいつは。さっさと他の男と結婚してくれ!――

 そんなこと言ってるとイオが睨んでくるけど、俺にとってはもはやどこ吹く風だ。

「そ、それは……まぁ、弱いのは承知していますけど。それより、コレリーウスさんはまだ第一主都にお戻りになられていないのですか? もう、緊急依頼の処理は大方終えられたはずですけど」

「私がいては不都合でございますの? 処理が終わったので、しばらくこちらの『冒険の家』でお世話になろうかと思ってますのよ。そこで、イオさんを探していたというわけですわ」

「僕を、ですか……? どうして、また。僕なんかより声を掛けるに相応しい方がいると思うんですけど?」

 ほんと、こいつは何を企んでるんだか。


 ビアンカちゃんやアーティの方が、明らかに実力として釣り合ってんだろ。いや、考えてみりゃ剣でメジャー級まで上がれる程度には、コレーって意外な実力を持ってるんだよなぁ。もしかしたら、本当に“武を司る者”を使って勝負しても良いところまで行くんじゃねぇか、こいつ。

 あぁ、話がそれた。

 ――断れ、断れ。面倒事を抱えるだけだぞ――

「どうして、と申されましても……。不自然、だからですわね」

「不自然?」

 ――不自然?――

 イオと俺のセリフが重なる。


「えぇ、あの場、あの戦いの状況、イオさんの説明、いずれも上手く繋がらないんですのよ」

 コレーの言葉に、俺は参ったと額を抑えた。

 確かに、あの戦場において参戦した奴は緊急依頼の召集に応じたのばかりだ。“フィクスバルム”の正確な位置やこちらの行進状況はその時に決められた。あの時間、あの場所に、冒険者軍団が到着していないことを知っていたのは行進に参加していた奴だけということだ。


 緊張状態の中で一人が抜けだしていたところで気付かれないかもしれない。

 だが、召集に応じた者の中に『ジュピター』がいることを教えているようなもんだ。

 加えて、『ジュピター』はイオの存在に気付きながらも戦い、反面でコレー達の到着に対して逃げ出している。そしてコレーは“来るべき未来のために”のことは知っている。

 ともなれば、イオが『ジュピター』である可能性が一番高くなるのは当然だろうよ。

 コレーは、それを本能的に勘づいているわけだ。イオの実力云々は置いといて。

 だから、今回はイオと一緒に冒険者の仕事をこなしたいと、打診しにきたわけだな。


 仮に実力を隠したところで、しつこく付きまとわれることになるのだから頷かざるを得ない。いや、イオが断らない性格だと察して、わざわざ探し出してまで尋ねてきたに決まってる。

 ――断ったら余計に怪しまれそうだし、断らなくても面倒を抱え込むし、どうすりゃいいんだろねぇ……――

「ほ、他のみんなにも聞いてみないと、僕の一存では何とも……」

 ――それ、全然問題にならない気がするんだけど、気の所為か?――

 イオは頑張って穏便に断ろうと努力しているものの、どうせ盛りの付いた仕事仲間どもは女が増えたと喜ぶだけに決まっている。


 コレーは申し訳なさそうにしているものの、これもポーズ(フリ)だけだろうよ。

「無理を言って申し訳ありませんわ。皆さんへの口利き、お願いしてもよろしくて?」

「は、ハイ……。それはそうと、コレリーウスさん自身の仕事は良いんですか? お付きの方々も流石に止めたんじゃ?」

「それについては大丈夫ですわ。先に返しましたし、私の代わりに執務は取り行ってくださるもの。第一、私はあの子(コロナ)が定めた通りにただの象徴ですもの……」

「……」

  流石に、この話を持ち出すとコレーも神妙にならざるを得ないか。イオも、藪蛇だったようでバツが悪そうにしてやがる。


 メルティノ元王家が引き起こした災厄のことを思えば、コレーでも親の罪を感じずにはいられないよな。

 馬鹿だ、馬鹿だと言ってるが、俺はそういうところに少なからず恨みを抱いちまってるのかもしれねぇな。コレーだってそんな親の分の恨みまで買う謂われはないし、別に忘れてるわけでもないのによ。

 俺の心の方が狭かったのかもしれない。

「と、とりあえずイザベラさんの店に行きましょうッ。まだ朝早いんで皆揃ってないかもしれませんが、立ち話もなんですしね!」


 暗い雰囲気になり始めてしまったため、イオが『冒険の家:イザベリア』に促そうとする。ただ、俺は買い忘れたものがあることをイオに教えてやった。

 ――あ、『ワールド・レディ』ッ!――

「それはダメ」

 イオのケチんぼ。

「うん? あぁ、その芸術品を見ていらしたのね」

「え、あ、あの……その、別にアレを見ていたというわけでは……。でも、アレって芸術品で良いんですか……?」

 俺との会話は何とか聞こえてなかったみたいだが、イオが弁解を頑張って述べようとしている。


「えッ? でも、芸術品との申請を受けておりますわよ?」

 改めて言うが、やっぱりこいつは馬鹿だった。『ワールド・レディ』に関して言えば、コレーの馬鹿さ加減に感謝しておこう。

 俺は呆れながらも、イオとコレーについて『冒険の家:イザベリア』へとたどり着く。

 余談だが、『ワールド・レディ』は我がままを貫き通して購入させた。


男の動力源はエ○とカネである(byこすもどり

作家の動力源であるご意見、ご感想、アドバイス等お待ちしております。

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