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依頼書No.5 リターンマッチ! メイジャー級ミュータント!

 イオの腹部に風穴が開き、ミュータントの触手が溶け落ちるのと同時に地面へ【ドッドスッ】と落下する。

 当然、痛みを感じるのは憑依している俺自身に決まってるだろ。

 けど、ここまでどでかい一撃を食らうと、痛みとかを感じる前に意識が飛びかけるわけだ。それでもお寝んねできなけりゃジワジワと波がやってきて、気づくと苦痛に呻きながら歯を食いしばる。


 しかし、だ。もう一撃受けるわけにはいかない俺は、脳味噌を焼き切るような激痛に耐えながら静かに横たわってるんだ。

 後、どれぐらい待てば良いんだよ。と、かき乱される頭で考える。

 腹部に穴を開けられてから十数秒くらい経ったか。

 閉じた目蓋の向こうで、“フィクスバルム”が身じろぎするのがわかるわけ。

 念を入れてとどめを差しに来たら、はいお終い。

 死出への時間を数えるしかできないのが悔しいぜ。


 1秒、2秒、と頭の中だけで数えて行く。

「なんちゃって、な!」

 俺は、ついに(きた)るべき時が到来したことを察し、目を開けておちゃらけてやった。

 “フィクスバルム”の奴に表情があったなら、きっと驚いて目を見開いていたに違いねぇな。


 何せ、俺の体が光ると同時に、腹の傷が奇麗さっぱり治って立ち上がってくるんだからよ。

 “フィクスバルム”が僅かに動きを止めてくれたおかげで、程良い時間になってくれたぜ。

「シュルルルルルッ」

 触手の擦れ合う音か、それとも“フィクスバルム”の威嚇か、何とも表現し辛い音を立てて身構えやがんの。今頃本気になったところで、もう遅いってぇんだよ。


「行くぜ! “狂える王”!」

 個人技(スキル)休憩時間(インターバル)が終わって、俺はもう一度それを発動させる。敵が動き出すのも同時だ。

 襲ってくる二本の触手を掻い潜りながら、三つぐらいずつ並んだコアをトンファーで殴り割って行く。滑り込んで付け根の、たぶん頭部を囲うように並ぶ二つを砕いてやる。


「シャラララララララッ!」

 これまた気色悪い音を触手で奏で悶える“フィクスバルム”に、追い打ちとばかりの突きの一撃を見舞ってやる。触手を四本ばかり失って、付け根のところでバランスをとれなくなった巨体は、胴体の重みに耐えきれず倒れていった。

 体を起こすより早く、俺は残りの触手からコアを奪い取ると、今度は胴体の方へと回りこんで大きめのコアをブン殴る。ちょこっと頭を出したコアが三割ばかりのところから圧し折れちゃった。


 さて、後は頭部周りの数個と触手の12個ばかしなんだが。どうやら、ここでタイムアップがやってきたみたいだ。個人技のリミットじゃない。

「耳を澄ませば、ほら騒ぎを聞きつけた奴らがやってくる」

 俺が戦っていることを察した30人近くの一団が、こっちにやってくる足音が僅かに聞こえ始めたわけだ。戦っているところを見られるわけにはいかない俺は、上昇した身体能力で一気に“フィクスバルム”から距離を取る。


 触手が届かないぐらいのところまで来たら、後は個人技を解除してわざとやられたフリをする。ここで、イオとの憑依も解く。当然、落とした眼鏡を拾って掛けることも忘れない。

 ――さぁ、後はお前の口八丁でどうにかしてくれや――

「いつもいつも、無茶ぶりしすぎ……」

 ――はいはい、黙って皆が駆けつけてくるのをお待ちなさい――

「……」

 革鎧を壊された所為か、不機嫌そうなイオをたしなめる。さて、弁償の代わりに今度の依頼は少し手を貸してやるか。


 そうしてるうちに“フィクスバルム”が体勢を立て直して、イオの方へと【ズズガリリ】って近づいてこようとすんの。こっちくんな。

 イオも、ちょっとやばげな表情しちゃってるから、ほんとこっち来ないでフィムちゃん。

「お、おい! イオ坊、大丈夫か!?」

「い、生きていらっしゃるのですの!?」

「イオさん! イオさぁーん!」

「チッ。だから一人では危険だと……!」

 なんとか、触手の攻撃範囲に入る前にバシュキルシェの冒険者軍団が駆けつけてくれる。


 あ、一匹オオカミな感じの彼とはそれなりに仲がいいのかね。コレー、お前はもっと罪悪感を覚えろ。ビアンカちゃーん、イオなら大丈夫ですよぉ。えーと、最後はイオのご先輩のいけ好かないアルトラス=ティスだったか。

 アルトラスって呼ぶのも癪だから、年上だけどアーティで良いよな。どうもこの、紳士みたいな一本結びのオールバックと片眼鏡(モノクル)と杖って組み合わせが気に入らん。しかもサーコートってなんなの。紳士なの、騎士なの、気取ってんじゃねぇ。


 いや、まぁ、さっさとトドメを差してくださいな。ほら、さっさとやらねぇとまた姿を擬態して奇襲を仕掛けてくるぞ。君らだと姿を消されたら見つけられなくなるでしょ。

「とりあえず、敵は手負いだ」

「姿が消えて行きますのよ!?」

「完全に消える前に、こちらで捕縛します!」

「油断はするな! 手負いのミュータントほど何をしてくるかわからんぞ」


 四者四様に構え、一気にケリをつけるため攻撃を仕掛け始めたよ。あれで連携なんて取れんのかねぇ。

 俺達『ジュピターズ』だって、即席で組んだ最初のころは散々だったぜ。まだカーネル級のビアンカちゃんやアーティは状況に合わせて動けてるけど、一匹オオカミやコレーなんて敵の攻撃を受けないだけでもやっとじゃん。

 俺が触手を削ってなかったら危なかったよ、ほんと。


 でも、こうして遠巻きに他人の戦いを眺めるのも悪くないな。ハラハラするけど、生きてた時はいつも最前線でそんな余裕もなかったからねぇ。

 えーと、コレーのことは知ってるから後で良いとして。というか、相変わらずソレなんだな。

 一匹オオカミの方は、シンプルに戦棍(メイス)なのか。片手で持てる程度の長さにして、大盾で攻撃を受けたり捌いたりする、本当に一人で戦えるスタイルなわけね。個人技もシンプルに身体能力を強化するものっぽいな。


 続いてビアンカちゃんは、鎧と鎖が装備なのね。叩いてよし、縛ってよし、とビアンカちゃんは見かけによらず大胆。ミス・バシュキルシェ以外に“踊る石弓(アーバレスト)”の異名は聞いていたけど、個人技“飛鎧(チャリオット)”の機動性を考えれば頷ける呼び方だわ。“狂える王”を使ってるときの俺と良い勝負する速さに加えて、30メートルはある男の腕ぐらい太い鎖を自在に操る技術、どれを取ってもカーネル級に留まる代物じゃねぇな。


 最後はアーティだけど、杖は単なる打撃用の武器というわけじゃないのか。個人技“蒼き一閃(ライトニング)”が電気を放出する技だから、指向性を持たせるためのものでもあるわけね。距離もそれなりに届くし、どんな理屈か高速での移動も可能って、完全に全距離(オールレンジ)対応とか苛立(むか)つくわ。

 俺なんて“武を司る者(リーサルウェポン)”を除けば近距離戦闘向けの個人技しかないわけですよ。あ、ごめん。個人技をイオの分含めて五つも使える時点で俺らの方がズルでしたね。


「皆が頑張ってるのに、一人だけこんなことしてるのは申し訳ないなぁ……」

 ――今のお前が突っ込んで行ったところで、邪魔になるだけだからやめとけ。“来るべき未来のために(ホーリーナイト)”がありゃ多少はどうにでもなったが、もう使っちまったしな――

「そうだよッ。いくら保険で完全治癒が可能だからって、無茶しすぎなんじゃない……!?」

 ――声を抑えろって……。まぁ、なんとかなってたさ。先に来ちまってたら“狂える王”で離脱するし、時間が足りないと思えば最悪治癒薬を飲んださ――

「こんな傷、治癒薬でも間に合わないかもしれなかったじゃん……。鎧だって、これ買うのに、お小遣いをどんだけ貯めたか知らないだろうね……」

 ――悪かったって……な? ほら、今回の仕事代でとりあえず何とかなるし、良い物を買うために俺も協力するから、さ――


 その意欲は認めますが、勇敢と無謀を履き違えちゃいかんよイオ。

 クソ(アマ)エララが残していった個人技“来るべき未来のために”は、発動から10分間の何処かで意図せず発生する治癒型のものだから、俺達ぐらいでなければ使い勝手が悪くて仕方がない。どんな瀕死の傷でも死んでさえいなけりゃ毒だろうがなんだろうがさっぱりキレイにしちまて、それが一日に一回、使用から時刻が一周しないと使えない。視界に入っている相手になら任意で人数制限なし、という高性能だ。しかし、発動タイミングが決められないという使い勝手の悪さがある。


 何度もいうが、使い勝手が悪い。

 さて、そろそろ時間か。

 “フィクスバルム”が倒れてくる姿を見ながら、俺はブーたれるイオをなだめるのだ。地面から浮き上がって逃げていてもイオの方へ倒れてくるあたり、やっぱりか。

 俺の持ってる個人技は全て強力ながら、どれもこれも使い勝手の悪さか制限が重いんだよ。その中で、一番軽いのが“釣り合わぬ天秤ラッキーアンドアンラッキー”だろうな。


 この個人技の難点は、発動回数に応じて使用者が『汚れる』ことだ。土や泥、時には動物の糞だったりすることもある。しかし、俺達冒険者が最も汚れる状況と言えば、ミュータントが倒れた後のこいつだ。

 コアが壊されて融けだしたミュータントの無味無臭白濁ジェル。

「オフッ!」

 ――これが、無害な範疇で発生するから卑怯だよな――

 ベーテがやられてた時は眼福にございました、もちろん。


「イオさん、大丈夫ですか……!?」

 そうしてるウチに、こっちもなかなか眼福状態のビアンカちゃんがやってくる。鎧を解除しちゃうと白濁ジェルは地面に落ちちゃうのが残念だ。

「ツゥ……あ、ビアンカさん。いやぁ、参りました、参りました」

 イオがビアンカちゃんに平気アピールをするのがまたわざとらしい。

「大丈夫でしたのね?」

「何があったんでぇ?」

「全く、馬鹿者だな……」

 アーティ、てめぇは絞めるぞ。


「えぇ、とりあえずは生きています。全く動かないミュータントなので油断して近づいたら、誰かが戦闘を始めてしまいまして、巻き込まれる形で……。傷は、多分、その誰かさんが治療してくれたんじゃないでしょうか……? ご迷惑をお掛けして、本当に申し訳ございません……」

 ――百点満点じゃねぇけど、まぁこんなところか――

 ビアンカちゃんは、イオの無事を確認して安心してるな。これ、結構脈のある方なんじゃねぇか。

 コレーは早速、推定『ジュピター』さんを探そうとしてやがる。一匹オオカミは、一応の無事を喜んでくれているみたいだ。


 そして、アーティが何かを考えているぞ。まさか、嘘がバレたんじゃなかろうな。

「おい、イオ。顔は見たか?」

「えッ……えっと、いえ、顔を隠していたので視えませんでした……」

 アーティの奴、妙に食いつくじゃないか。

 イオの個人技を知っている奴なら、メガネを掛けた状態を見て説明を受ければ、大抵は信じてくれるから楽だね。

 しかし、顔を隠してか。覆面をするのも考えておくしかねぇな。


「そうか……」

 凄く残念そうだな、アーティよ。

「残念で仕方ないでございますわね。顔を隠していて、私達には姿を見られたくないということなのですわね。全く、カリストさんは何をやっていらっしゃるのですかしらね」

「ま、まだ『ジュピターズ』の人だとは決まったわけじゃないですし……」

 ――コレーに何を言っても無駄だ、そう信じ込んでいる。というか、そう信じこまされているぜ、こいつ――


 コロナになんと言われたかは知らないが、どうせうまい具合に口車に乗せられたんだろうよ。どうして俺をそこまでして探し出したいかはなんとなくわかるんだけどさ。まさか、あんな昔の話を未だに覚えてるってぇのかね。

 ないない。この脳筋娘が十年以上前のことを覚えてるはず、ないよ、な。

「コレリーウス様は、どうしてそんなにカリスト……さんに会いたいんです?」

 ――おい、イオ、馬鹿やめろ! 絶対にその質問は藪蛇だから!――

「あ、様は付けなくて構いませんわよ。まぁ、どうしてと言われますと――」

『おーい!』


 コレーが言いかけたところで、ギリギリのタイミングで残る有象無象が来てくれたぜ。さぁコレーよ、話は後にして彼らにちゃんと説明をしてきたまえ。

「――と、この話の続きはまた今度に致しますわね。えーと、報酬は一人頭いくらになるのやら……」

 緊急依頼だ。この後の処理でコレーはてんてこ舞いになるはずだからな。多分、しばらくは思い出さないに決まってる。


「そちらは私もお手伝いします。イオさん、通達に走り回らなければなりませんので、がんばってくださいね」

「は、はい……! 頑張ります!」

 ビアンカちゃんも事務処理で忙しくなるし、イオも各『冒険の家』へ依頼の達成報告に奔走する上、今回の報酬についての説明も先輩方と分担することになるだろうな。


 そして俺は、今回の一件について色々と考えなくちゃならない。これから、しばらく顔を隠してやっていくか、とかな。

 こうしてイオは、というよりこいつとその他の冒険者達は、メイジャー級ミュータントを討伐して無事に帰還しましたとさ。

 ちゃん、ちゃん。


ビアンカちゃんの個人技使用バージョンと白濁塗れのシーンは時間ができた時にでも・・・お許しください!

というわけで、ご意見、ご感想、アドバイス等お待ちしております。

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