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依頼書No.26 後始末が大変!

 さて、タケノコミュータントはこれにて討伐完了だ。

 雑魚と巨体が完全に沈黙したのを確認した後、俺は脱兎の如く駆け出した。


「では諸君、さらばだ!」

「えッ? ちょッ!」


 颯爽と走り出す俺に戸惑いを見せるビアンカちゃん。

 だが、待つわけには行かない。


「“狂える王”」

 個人技を発動してまで、大人気なんて一切合切なしにビアンカちゃんを振り切り町の中へと入っていった。

 即座に覆面の布を取り、街角を迂回して皆へと合流しようとするんだが。


 ――急がねぇ、と……? あれ?」

「おっとと!」


 飛び出して行こうとしたところで、俺がイオの身体から抜けたんだ。

 もしかして何か時間制限みたいなのがあったのか、これ。今回ぐらい長く憑依していたことってあったかな。

 俺はちょっと新鮮な出来事に驚きつつも、ゆっくりはしていられないことをイオに伝えたぜ。


 ――とりあえず、皆のところにそれとなく合流しろ! 早く、ビアンカちゃんが来る前に!――

 イオもなんとか状況を察してくれたらしく、布を隠してから皆の待つ人混みへとこっそり混ざり込んだな。


「あれ? イオ坊、お前今までどこにいたんだ?」

 目ざとく一匹オオカミが気づきやがる。


「え? 何を言っているんですか? 僕ならずっと後ろの方に居たじゃないですか」

 やだ、すっごく棒読みになってる。

 ここをフォローしたのが元気いっぱいになったコレーだな。


「いましたわね。えぇ、ちゃんといらしましたわよッ」

 うわぁ、妙な必死さが逆に怪しい。

 お前ら本当に下手くそだな。喋らない方が逆に良いかもしれんぞ。


「そっかー? まぁ、コレリーウスちゃんが言うならそうなんだろな。ハハハハハッ」

 お前らそれで信じるんかーい。


「ビアンカさんも、コレーも、ナマカさんも、皆無事で良かったですよ」

 イオめ、上手く誤魔化せたとか思って話題を反らしやがった。

 まぁ、もはや水を差しても得なことはねぇか。


「皆さんのおかげです」

「そうですわ。後は『ラオメディア』と『フォーボス』の方々を救助して、万事解決と参りましょう」

「だねッ。あ、おーい、ヒイアカ? アーティ?」


 ビアンカちゃんは冒険者一同に深々と頭を下げるじゃないか。良い子だよ。

 コレーが既にスコップやら何やらを抱えて崩落地点へ向かおうとしちゃってる。

 ナマカに至っては、愛馬とアーティを探して外壁に上って行ったな。


「居た、居た。むぅ……?」

 イオ達が救助の準備を整えている間に、俺はナマカの視線を追うことにする。どうせ、後は手伝うこともなさそうだし、な。

 というか、手伝えない。

 そんで、そこに見えている状況に俺とナマカは色々と複雑な気持ちになるわけだよ。


「アルトラス様……」

 傷ついたアーティを馬から下ろして、悲しそうに抱きかかえているのはモォちゃんだ。

 さっき居ないと思ったらこうなってたか。

 まさか、モォちゃんがアーティのことを好きだったとは。


「……なるほど」

 これには普段から余裕ぶってるナマカも考えるところがあるか。幼馴染なんていうのは大したアドバンテージじゃないんだよな。

 ただ、モォちゃんもナマカも、片思いなのは確かさ。

 アーティの頭の固さは、イオの奥手さと匹敵するわ。恋愛にうつつを抜かさないストイックさって言っても良いんだろうかね。


「馬に蹴られる前に退散しようか」

 おや、諦めるのか。

 ある程度放っといても大丈夫っていう愛馬への信頼が垣間見えるね。

 しかし、昔から言うだろ。恋と戦争は手段を選ぶな、って。


「よーし、僕も手伝うよー」

 ナマカもちゃっちゃと皆に合流していく。

 正直、救助は見ていてもあまりおもし――事件も起きなかったので流す。結果だけ言えば、かなりの負傷者こそ出たが、死人は30人中2人だったな。

 不幸中の幸いと言いますか、ヴァイス級にこの戦果なら最良よ。

 遺体の埋葬に、皆が黙祷を捧げていた。


『……』

 ――こんなことを言ったら怒るかもしれねぇけどよ。四人の英雄を失った戦いに比べりゃ、これ以上を望むなんてワガママってぇもんだ――


 イオならわかってるさ。

 状況としてはジェネラル(大将)級の戦いだったのに比べりゃ、今回がまだ温いってことぐらい。

 ただ、改めて自分達が英雄だなんて言うと小っ恥ずかしいな。


「さぁ、後はおまかせしてギルドへ報告に行きましょう。アルトラスさんは、モウポリエさんが病院へ連れて言ってくださいましたから」

「……わかってる。行きましょうか」


 二人が歩くのを後ろからついていく俺。

 ちょっと離れているのは、二人の距離が近くなるように、だ。


「イオさん……」

「な、なんですか……?」

 よし、そこだ。

 ギルドまであまり時間がないぞ。


『……』

 だぁ、もう十数歩でギルドが見えてくるってば。

「『ジュピター』さんの正体は……いえ、やっぱりなんでもありません」


 そっちかよ。

 そりゃ、ここで暴露してさ。


 ――イオさん格好良い、抱いて。みたいな展開を――

 期待したりしたわけですよ。


「……」

 あ、心の声漏れてた。イオ君の冷たい視線が突き刺さるの。

 そんな事してる間に、ほら到着しちまった。

 不意に、窓が開いてカロン支部長殿が顔を出したぞ。


「いやぁ、お若いねぇ」

 なんつーか波長が合うと思ったけどよ。支部長殿と俺の性格って似てるのかね。


「な、何をおっしゃっていらっしゃるやらッ」

「か、からかわないでください、カロン支部長!」


 イオもビアンカちゃんも、その辺りの反応が似通ってるね。

 支部長殿は若い子らをからかうのを止めて、二人に声を掛けた理由を話してくれた。


「ついさっき早馬が届いてね。第一首都にいる総大将様から、犯罪者護送の催促なんだけど」

 言葉を切ったな。

 若手二人に任せたい要件ってことだよな、これ。いや、コロナからの伝言だと疑いたくなるぞ。


「あぁ、トリンキュルさんがいないんでしたね」

 イオのずれたところはさておき。


「私達にその護送を任せるということですね」

あんなの(タケノコミュータント)の後だけど、お願いできるかな?」

 さすがにイオも気づいて顔を赤くする。


「はいッ」

 誤魔化すように、奮起したっぽく答える。

 気づいてるけど気づいていないフリしてくれるカロン支部長は優しい。


「じゃ、頼んだよ。疲れてるだろうけど明日からお願いね」

『わかりました』

 二人揃って元気に返事できて偉いね。


「準備とかは最低限で大丈夫だよ。向こうでおもてなしの準備はしておいてくれるみたいだから」

 そいつは良かった。

 と言うか、コロナの家じゃないんだけどな、メルトは。


 ――とりあえず、良かったじゃねぇか。ビアンカちゃんと旅行だぜ――

「へッ? ビアンカさんと二人きり?」

 気づいて頭から火を噴きやがった。


 ――良い音したなぁ――

「良い音だ」

 やっぱり支部長殿と同じ性格してるみたいだ。

 ビアンカちゃんも、顔を背けて顔を赤らめてらぁ。


「ごめんね。二人で行かせて上げたいところなんだけどさ。さすがに許しちゃうと文句も出るから、後二人くらい連れてってよ」

 不純異性交遊はダメですよってことね。アポロ兄弟も、隔離しておけばなんとかなっちまうけど二人だけでの護送は不安もあるし。


「それでは、コレリーウスさんとモウポリエさんにお願いしましょうか」

「そうしましょう」

「じゃ、その二人に依頼出しておいてよ」


 支部長殿が言うには、ちゃんと依頼として成立するようだ。

 まぁ、イオやビアンカちゃんは特別休暇扱いだろうから、また冒険できる時間が減るな。


「さて、俺からの頼みは以上。二人共、何か用があって戻ってきたんじゃない?」

「えぇ、戦闘の報告に参りました。後、避難指示の解除もしなければなりませんので」


 本来の目的を思い出し、ビアンカちゃんが淡々と伝えた。イオももう少しキビキビやらないとな。

 町から避難させようと準備していた住人達も連れ戻さないといけない。

 報告のあれこれ。書類の記入に関係者への伝達。

こりゃ徹夜だ。


「それでは、町を駆け回るのは僕がやっておきますので」

「はい。書類作成は任せてください」


 こうして、イオ達は明日の出発に備えて作業を進める。

 ここだけの話、正直、俺は一抹の不安のようなものを抱えていたりした。本来、俺にとっては都合の良いことなのだが。


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