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依頼書No24 どこの誰だか

どーこーのだれかはーしーらないけーれどー。

(中略)


変装がかなりおふざけっぽいですが、ガチガチに考える部分じゃないってことでお許しを。

 眩い雷光が空を染める間に、俺はイオとの憑依を済ませておく。

 加えて、長いボロ布をつないだ物で顔を隠すように巻き付けたわけだ。

 目元は隠せなんだが、イオはややタレ目ってこと以外は特徴もないんで放っておこう。喋らなけりゃなんとかなるだろう。

 なんだか、額に三日月(クレセント・ルナ)でも付けたくなる覆面だね。


「あれは……アーティ?」

 ナマカが戸惑うような声を上げたのは、これが初めてか。

 雑魚ミュータントを自らの命に賭けて、纏めて焼き払うつもりなのかよ。無茶しやがって。

 とはならなかったんだけどな。


「地面が、沈んで行きますわ!?」

 閃光の後に、砂埃を上げて軍勢が地面に吸い込まれていくんだからコレーが驚きの声を上げた。

 雑魚ミュータントどもを巻き込んでの地面崩落。

 だが、人間だとこれで大怪我を負っても、ミュータントは手足が折れ曲がったくらいじゃ死なない。

 そもそも、この地面が吸い込まれたのはどうしてかね。それを説明してくれるのがビアンカちゃんだ。


「あの一帯は地下水が蓄えられているはずです。地面からミュータント達を操る手段があるとすれば、それに伝導させて蒸発させたのでしょう」

 確かに、水を蓄えた地面が突如として沈む現象ってぇのは聞く話だ。


「それだけの“青の一閃(ライトニング)”なら相当のミュータントを倒せたはずだけど……」

 悠然と構えていたナマカも、さすがに焦りを見せ始めたな。

 アーティの心配をしたいのかもしれんが、口には出したくないって感じか。


「とりあえず、出るのは今しかないかな」

 ナマカの言う通り、ここで手を打たないとバシュキルシェへと群れがやってくからな。

 そういうわけで、そろそろ覆面の俺について触れて欲しいかな。


「イオさ……えっと?」

 ナイスだビアンカちゃん。痒いところに手を届かせてくれて嬉しいよ。


「私が、君達の噂する『ジュピター』だ。町の危機に駆けつけた」

 可能な限り声を渋く絞ってみたがどうだろう。


「い……そう、ですか。よ、よろしくお願いします」

 そうだ。イオ君じゃないんだ。


「よろしく頼む」

 ほら、バレてなーい。


「お会いできて光栄ですわ!」

「ププッ……いや、さすがは噂の『ジュピター』だ。気配が違うね……」

 コレーの反応は予想済みだが、ナマカもなんとかバレないように努めてくれている。

 まぁ、見ておけって。誤魔化し切れるからさ。


「じゃあ、今から作戦を説明しつつ出発しよう」

 作戦会議をしてからでは遅いらしく、向き直ったナマカが周囲の奴らを名指ししていく。


「僕、『ジュピター』、ビアンカ、コレリーウス、モウポリエ、この五人で前線を務めよう」

 言って、防壁の上からヒイアカ()で駆け下りていく。

 指名した面子に確認さえしなかったな。他のエキストラ共も、何がなんだかって具合で呆然としてるぞ。

 しかし、考えている暇も無いらしいな。


「ビアンカ、まず君の鎖を残る皆に貸してあげて。コレリーウスとモウポリエは僕の後ろ両翼を固めてね」

「は、はいッ」

「わかりましたわ!」

「私を指名したことは褒めてあげる!」


 唐突の指示にもかかわらず、さすがは軍師の認める面々か、順応するのが早いね。

 コレーは元々単純だからわかる。モォちゃんはちょっとお怒り状態って感じか。

 そして、ナマカは部族の奴らだろう人達から旗を受け取っていた。

 軍旗って奴だ。いかにも軍師らしいじゃん。


「俺はどうすれば良い?」

 馬に追いつきながら話す俺の身にもなって欲しいではあるな。


「あぁ、『ジュピター』はビアンカと並んで僕の後ろだ」

「かなり一点突破の策だな。いや、これが正解なのはわかるんだが」

 少数で多くのミュータントを相手するなど自殺行為だしな。さっきの見てたらわかるでしょ。

 それに、雑魚を操っているヴァイス級ミュータントは、全体を押し上げて前進してきやがる。

 それが意味することは、要するにそいつ()さえ落とせば雑魚は烏合の衆になるってことだろ。


「囲まれる前にあの……良くわからない『山』を崩せば良いだけのことですわね」

「『山』……まぁ、確かにそうだね……」

 コレーのセリフにやや戸惑いを見せるモォちゃんの通り、ヴァイス級ミュータントは円錐状のお山だな。

 見た目はどう足掻いても白い山だね。ところどころに棘が突き出ているな。すっごく単純過ぎる造形だな。


「あれはタケですね。その子供のタケノコと呼ばれる植物です」

 さすがはビアンカちゃんだ。メルティノではほとんど見られない植物についてまで知っているとは、な。


「タケやタケノコは地面の下で根がつながっているので、地下水を蒸発させ、操れている理屈はそういうことなのかもしれません」

 なるほどな、と俺達は納得する。


「さぁ、お喋りはこれぐらいだッ。のりこめー!」

 ネタがわかった辺りで、俺達は丁度ミュータントの群れへ突っ込んで行くことになっちまった。作戦の説明がまだなんですが、その。

 しかし、俺達の裁量で暴れられるという点では細かく指定しなくてよかったのかもしれないな。

 コレーやモォちゃんなんかは、その技量とタフネスで露払いを務めてくれる。

 ホントに、バッタバッタと雑魚のコアが砕けてくんだから面白い。他の先達が頑張ってくれたおかげでもあるんだけどね。


「『フォーボス』の皆さんが、足や武器になる部分のコアを破壊してくださったのでかなり楽ですわね」

「『ラオメディア』の皆やアルトラスさんも、ね。このまま、突っ切ってくよ!」

 さて、二人が調子よく敵を引きつけてくれてる間に、こっちもヴァイス級ミュータントへ突貫するとしましょうか。


「さぁ、『ジュピター』! こっちも負けていられないよ!」

 軍師自ら前線に立つというのはいかがなものかと思うが、ナマカの実力を考えると問題なさそうなんで任せた。

 いや、次の瞬間にはそれを後悔しそうになった。

 何せ、赤い無地の旗を広げたそこには、槍があった。


「……」

 沈黙しか出てこないわ。

 コレーに続いて、刃物を使う奴がいるなんてよ。

 しかし、あれは旗槍なだけであって武器ではない可能性が微量に存在するんじゃないかな。


「お手並拝見といきますか。“小さな小さな小人達”の」


 たぶん、個人技の方が主力だろうし。

 そう思っている間に、向かってきた『発生歴』五年くらいのサージェント級ミュータントが二体、側面から襲いかかってくる。

 けれども予想に反して、ナマカは旗槍でその二体を打ち上げる。細腕で良くぞまぁ、自分の二倍はある巨体を槍で掬い上げられるものだ。

 ミュータント達はね、馬を飛び越えて反対側へ。馬に轢かれたのとほぼ変わらない勢いで地面を転がっちゃった。

 まだ生きてるが、しばらくは動けそうにないか。


「無駄な戦いをしないのは良策です」

「だが、さすがにアレはどうなんだ……?」

 ビアンカちゃんの評価は最もだが、今度はその巨体だ。ヴァイス級ミュータント。

 刃物が通らないのは前に述べた通り、巨大な攻撃手段を回避ないしは防御するのも難しいわけだ。

 まぁ、回避と防御についてはあまり心配していないが。


「遅いッ!」

 この通り、体表に付いた棘を打ち出してくるんだけど、容易く馬で走り抜けちゃう。どこぞのトリミュータントに比べれば避けやすいな。

 問題の攻撃はどうなるやら。

 心配している間にお山へと辿り着いたな。

 翻るは旗。茜色は宙を彩り、炎を待ったかの如く流れるのだ。


「ッ……」

 が、当然ながら傷一つ付けられずに【ギキシィッ】って具合に弾かれる。なのにナマカは懲りずに、何度も何度も刃を突き立て石突をぶつける。

 タケノコの周りで駆けながらの攻撃なんで、遅れている俺を待ってるのかと思ったが。

 ちなみに、ビアンカちゃんは“飛鎧(チャリオット)”なら俺を放って先に行けたってぇのに、作戦の為なのか速度を合わせてくれている。


「ビアンカち……」

「ダメだッ。まだ、指示が出ていない。それに、私の役目は、えっと……『ジュピター』さんをサポートすることだから!」


 名前を呼び終えるよりも早い段階で、ビアンカちゃんは俺の言いたいことを察しくださいました。

 そいつを聞いて、俺は自分を笑ったね。自嘲だ。

 ビアンカちゃんって女の子は物事に従順だが、それは10を知った上だからこそ成り立つんだよ。分かってたことだけど、イオより男前ってことだよ。

どこまでナマカは面々を理解しているのやら。


「すまない。ナマカを信じよう」

 俺とビアンカちゃんが前を向き直ると、そこには信じ難い光景がありやがりました。

 一個のコアにヒビが入っていたんだが、砕けてスペクタクルの雨。


『……』

 これにはビアンカちゃんも言葉がないご様子。

 その間にも、次のコアを石突で叩くとヒビが入って砕けちまった。決して強く叩いたわけじゃないんだぞ。


「固有振動……」

 ビアンカちゃんがなんとかつぶやきを漏らした。


「どういうことだ?」

「えっと、端的に言えば振動で硬い物体を壊せるってことだ。物体には耐えうる振動の波長に固有のものがあって――」

 なるほど、わからん。

 まぁ、ナマカはタケノコミュータントのコアが壊れる叩き方を覚えたってことだろ。


「――細かい理屈は後にしよう。上層は俺達の役割だろうからな」

 端的に終わらない気がしたから、ビアンカちゃんの説明を遮って本題へ移る。


「す、すまないッ……。こういった現象はあまり見ないもので……」

「俺も驚いたが、それこそナマカの頑張りを無駄にはできないな」

 二人して見つめ合い、頷く。

 顔を隠しているのが嫌になるね。

 一番外側の皮がほとんど破れたんで、俺達も行動に移った。二層目の皮剥がしだ。


「“狂える王”」

 ビアンカちゃんに気づかれないよう、小声で布の下から個人技を漏らす。今までとは違い、ビアンカちゃんにもその効力を及ぼして、だ。


「?」

 さすがのビアンカちゃんも、知らない力が突然湧き上がってきたら戸惑うよね。


「命懸けの戦いになるだろうが、行くぞ!」

「え、え、えぇ……はい!」


 勢いで火事場の馬鹿力的な何かとして誤魔化してしまおうって力技だ。コレーだったら気づいていたかもしれないな。

 当然、ここから俺達はミュータント山を駆け回ってコアを破壊しまくるんだ。が、ビアンカちゃんに武器がないことはご存知の通り。

 大凡、俺一人でコアを破壊していかなければならんわけである。こんな時の為に用意しておいた、木彫りに使う金槌でな。

 その結果、どうしても一度目の“狂える王”じゃ仕事が終わらないんだ。


疾風のようにあらわれてー。

疾風のように去っていくー。

……古い。

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