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依頼書No20 イオとコレーと

 アポロ兄弟が詰所のブタ箱に入れられて、無事に一日が経過したわけだ。

 俺もイオも、一安心ってところかな。何が、って。

 そりゃ、コレーの怪我がそれほど悪くなかったって点だ。“刃の前に臥せ”は怪我の治りこそ遅くなるが、効果の時間がそれほど長くないって言うのが救いだ。


「えーと、コレリーウスさんの病室はここだね?」

 今日もこうして、仕事終わりにお見舞いへとやってきているのだった。

 ――コレーはこっちだと一人暮らしなんだな。取り巻きの誰かが世話をしてるもんだと思ってたぜ――


 まさか、一人暮らしまで始めているというのは予想外だぜ。料理はそこそこできるし、一般常識みたいなものはあるから、とりあえず不可能じゃないのか。

「全員、第一主都に返しちゃったんだってさ。もともと、皆さんが無理やりついてきたって感じだったらしいけどね」

 ――だから一人寂しく、入院中のコレーにお見舞いってわけだ。イオは相変わらず優しいねぇ――


 からかってやると、イオがふくれっ面になる。

 これぐらいは普通だよ、と。仲間なんだから当たり前じゃん、って。

 ――お、モォちゃんも先に来てたみたいだな――


 イオを無視して、俺は病室へと先に入って行く。

 扉がノックされたことにモォちゃんも気付いて、どうぞと返事をしてくれましたよ。イオが扉を開いたんで、僅かに首をこちらへ向けてきた。

 病室自体は大部屋なんだが、病院側が配慮したのか偶然なのか、コレー以外の患者は見当たらない。


「イオ君が来たんだ」

「はい、大事な冒険者仲間なんですから。どこかの誰かと違って、仲間は大事にしますよ」

 モォちゃんに応えて、イオが胸を張って入って行きやがる。変なところで格好つけやがって、いつもみたいに抜かった返事をしろよ、そこは。

 それに、俺を暗に冷たい奴と蔑んでんじゃないですかねぇ。


「嬉しいことを言ってくださいますわね。あ、モウポリエさん、水を取り換えてきてくださいませんこと?」

「看護婦さんが、今日はもう取りか……えーと、わかったよ!」

 珍しくコレーが我がままを言うじゃないか。

 モォちゃんは表情で何かを察したみたいだけどさ、良い予感はしない俺なわけ。と言うか、イオに対してか。


「えっと?」

 さすがのイオ君も感じ取ったみたいね。逃げるならイマノウチダヨ。

 コレーが手招きするので、イオも思わず誘われてしまったんだ。

 どうして焚き火に突っ込む虫の如き愚行を犯すのやら。

 誘われるままに、さっきまでモォちゃんが座ってた椅子を勧められた。もう逃げられないぞ、イオ君よ。


「なんですか、コレリーウ、ゥ?」

 訊きかけたところで、コレーの指がイオの口を塞いだのだが。

「コレー、ですわよ」

「……」


 何が言いたいのか察しちゃいましたイオが、静かに視線を俺へと向けた。

 ――ヤ、ハハハッ。まさか、ギリギリのところで聞かれてたとはねぇ……――

 そう睨まれても、過ぎたことは取り戻せんのだよ。口からでた言葉は、飲み込めないんだぜ。

 許せ。


「この体勢は傷に障って辛いのですわ。コレーって、呼んでくださいませ」

 上体を起こした形から片手をベッドについて、もう片手の指をイオに差し出す状態。確かに横っ腹をやられてたからきついな。

「こ、コレー……さん?」

 しどろもどろになりながらも答えるイオ君。キャワイ、イ~ってな。

 しかし、コレーはまだ不満げだ。


「コレー、ですわ」

「……」

 愛称で呼ぶくらいどうってことないだろ。

 礼儀の問題とかはねぇんだし、何をためらうんだか。

 ――本人がそう呼んで欲しいって言ってんだ。呼んでやれば良いじゃねぇか――

 まぁ、一種の線引きなのはわからなくもないのよ。


「コ、レー」

「もう一度」

「コレー……」

「大きな声で」

「コレー!」

「はいッ!」


 にっこり微笑まれたら、イオが顔を赤くして余所を向く。

 駄目だ。濃い目の紅茶が飲みたくなった。

「では、お礼を言わせていただきますわ。助けてくださり、ありがとうでしたわね」


 体勢を戻して、コレーが頭を下げてきやがる。

 そういうのは小恥ずかしいって言ってるだろ。イオだって困ってる。

「あれは単に運が良かったというか……! その、コレーさ……コレーが相手の個人技を暴いてくれてたから勝てただけなんですよッ。だから、お礼を言われるほどのことではなくて!」

「そんなに謙遜しなくても良いのですわよ? イオがどうして実力を隠さなければならないかは聞きませんわ」


 これってもしかしてコロナへの密告もなくなるってことか。

 イオは、まだコレーの態度に慣れないようだな。

 ――あ、別に傷の所為で頭が変になったとかじゃないぞ。コレーは本質的に、強い相手に惚れるんだわ――

「そ、そうなんだ……。別に、僕は実力を隠していたわけではないですけど……。先に相手していた方だって、トンファー(武器)が上手い具合に当たってくれただけですよ?」


 頑張って誤魔化さなくても良いんだよ。グリーンだよ。

 ――イオ、これ以上はコレーの好意に傷をつけるぞ――

「……分かった。この話はこれまでにしましょう」

「えぇ、大丈夫ですわ」


 何が大丈夫なのか分からんけど、一安心と言えば一安心だ。

 そうしてる間に、また扉を叩く音がする。

「はい、どうぞですわ?」


 一瞬俺も、誰だ、って思った。

 考えなおせば、ギルドの代表がコレーの見舞いに来るってことになってたんだよ。それを思い出す。

 入ってきたのはアルトラスことアーティだ。

 イオが代表だと思っていたなら残念と言っておこう。流石にそこまでイオの立場は良くなってなどいない。


「失礼します。僭越ながら、バシュキルシェ冒険者ギルド支部の代表として、お見舞いに上がりました」

 アーティの奴が入室して、用件を端的に伝えた。

「これは、ティスさん。わざわざありがとうございますわ。こちらにどうぞ」

 コレーよ、そいつに椅子なんて進めなくても良いんだぜ。表情も、見舞いに来ましたって陽気な顔じゃねぇし。


「……ありがとうございます。本来ならば支部長(ギルドマスター)であるトレトンが赴くべきことなのですが……」

 一回頭を下げた後に椅子まで歩いて来て座るの。いちいち、動作が堂に入ってて気に入らん。

 アーティの台詞にコレーが先を察したみたいで、言葉を継いだ。


「年寄りの話じゃ若いのはわからんでしょ、とでも仰ったのではございませんの?」

「えぇ。故に、年の近い私が参った次第です。こちら、ギルド職員一同からの花束となります」

 コレーがわかるくらいに、カロン支部長殿みたいな人って多いのかね。


「こんなものまで。傷も大したことはありませんわ。皆様にもそうお伝えくださいまし、ティスさん」

「……はい」

 ここで、アーティの奴が変な間をおいた。さっきもあった気がするぞ。


「あの、大変申し訳ありませんが、そのファーストネームですとあまりに女々しく聞こえます。なので、アルトラスとお呼びくださればと」

 これには少し驚いたぜ。


「あら、失礼しましたわ。元貴族の名家と伺っておりましたが、気になさっておられるならそうさせていただきますわ」

「いえ、こちらこそ我が侭を申してすみません。本日は、こちらのギルド員がいながらコレリーウス様にお怪我をさせてしまったことをお詫びに参ったというのに……」

 おい、アーティ。というかティス君、その言い方はないんじゃねぇか。

 イオを睨んでんじゃねぇぞ。


 ――謝る必要なんてねぇからな、イオ――

 と言ってみても、イオは条件反射でコレーに頭を下げそうだ。

「やめてくださいましッ」

 それらをコレーが制止する。

「今回の怪我は、私の未熟がもたらした結果ですわ。なので、イオを責めるのはおやめくださいませ。それどころか、お礼を言い足りないくらいなのですのよ?」

「……」


 さすがのアーティも、こう言われては引き下がらざるを得ないだろ。アーティのこんな悔しそうな表情を見るのは初めてだぜ。

 ここのところ、イオの活躍が目覚ましくて嫉妬しちゃっているのかね。

 キツネとブーブみたいにコロコロと手の平を返せるタイプでもないだろうし、な。

 パレネ女史はまだ、ビアンカちゃんへの負い目からくる()()()()だからマシなんだけど。


 ――見下してたイオに嫉妬なんて、ざまぁねぇな!――

「……」

 あ、イオ、睨んじゃいやん。イオはそういうの嫌いだし、今の栄光自体がズルみたいなものだって思ってるもんな。


「失礼、しました……。それでは、私はこれで」

 恥ずかしさのあまり、逃げだすように立ち去っちまうアーティ。

 あーあ、イオの奴、アーティのことなんて心配してあげてさ。


「……。ありがとうございます、コレー。あの?」

「……うーん」

 何やら不満顔のコレー。


「やっぱり、もう少しその他人行儀なのも直したいですわね」

「さ、さすがにそこまでやると、立ち場というものが……」

「仕方ありませんわ。その辺りは、後々ということにしますわね」

「アハハ……お手柔らかにお願いします」


 なんだかんだで丸く収まったんだから、良しとしようじゃないの。

 イオにとってはビアンカちゃんが一番なんだろうけど、今のところはコレーを友達よりも親密な相手だと認識できれば良いさ。

 さすがにビアンカちゃんとコレーの二人に好かれてたんじゃ他のお嬢さんの入る余地なんてないだろうしな。イオが二人と良い関係になれるよう俺も全力でサポートしますとも。

 そう思っていた時期が、俺にもありました。


「それにしても、モウポリエさんが遅いですね?」

「ですわね。看護婦さんが見つからないのですの?」


 言われてみれば、どこまで行ったのやら。気を使うにしてもちょっと時間をかけ過ぎじゃございませんかね。

 俺達の心配を余所に、もういくらか待ってもモォちゃんは戻ってきませんでしたとさ。

 その後、水を持ってきた看護婦さんが言うんだ。モォちゃんは、急用ができてしまったから先に帰ったんだと。

 この日の進展と平穏無事が、まさか嵐の前の静けさだ、青天の霹靂だ、などと分かっていたのは性格の悪い神様だけだったのかもしれねぇな。


 次回、ついにロリ枠が登場!?

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