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依頼書No17 アポロ兄弟はどこに?

 依頼を受けてみたは良いが、一つ問題が発生していた。

「僕は、あまり人と戦うのって好きではないんですよ。なので、こういう対人の依頼を受けるのは少ないですね」

「私はそれなりに受けるけど。ただ、それほど大きな犯罪者を相手にしたことはないかな」

「私は個人技(スキル)からしても対人用ですわ。けれど、地の理という点では皆さんに劣りますわね」


 要は、誰一人としてこの依頼に対する優位性を握っていないのである。

 かろうじてモォちゃんのアドバンテージが上というだけで、どんぐりの背比べ状態ってわけだ。

 こういうことは、冒険者をしていると往々にしてあるから仕方ないんだが。ほら、各自の専門性って好き好きとか都合で違うだろ。

 そんなとき、情けないものの専門家ないしは慣れている奴に協力して貰おう。恥ずかしがらずに、レッツ土下座。


「誰かに聞こうにも、誰に聞けば良いかもわからないね」

 ズコーッだよ、君ら。

「申し訳ないですわ、イオさん。せっかく貰った休みなのに、無駄にするようなことをしてしまいましたわ……」

「あ、いえ、良いんです。こんなことなんて前からもしょっちゅうありましたから」


 まぁ、何でもかんでも計画性を持ってやれるほど冒険者って仕事らしい仕事じゃないよな。段取って、何それ美味しいのって奴は五万といる。

「今はわかっている情報だけ整理しつつ、路地裏をしばし探索などしてみましょうよ」


 モォちゃんも頭脳プレイタイプじゃないし、この面子にゃリーダーになるのがいないわけだ。

 ビアンカちゃんくらいのブレインが欲しいね。

 しかしだよ、世の中には情報屋とかそんなのがいるもんじゃない。情報が報酬より高くなっちゃう可能性はあるけど、受けた依頼を突っ返す汚名よりかはマシだよ。


「あっ」

 そこでイオが何かを思い出した様子だ。

 ――知っているのか、イオ!?――


「いや、その……。僕は普段からそういうことをしない所為で忘れていましたけど、依頼について情報が必要なら、冒険者ギルドに行けば良いんですよ」

 そんな単純なことを思い出し、皆一様に間抜けな面をしたんだとさ。


 そう、冒険者同士の相互扶助を目的とした組織である冒険者ギルドであれば、これまでの事件や彼らなりの調査で分かったことを教えてくれるよな。大金を(はた)いて買う情報に比べれば素人当然だが。

 しかし、と俺は考えた。


 今日は、昨日までのお祭りの後処理ということもあって、ほとんどのギルド職員は中央広場に出向いている。バシュキルシェのギルド職員はイオを含めて七人だ。

 イオとビアンカちゃんが抜ければ残るは五人。


 ――アーティ、キツネ、ブーブが肉体労働なら、残ってるのはカロン支部長と……――

「えっと……たぶん、大丈夫だと思うから」

「私達の持っている情報に比べれば何倍もマシですわよね!」

「じゃあ、早速行こうか!」

 イオの不安材料は情報の有無や質なんかじゃぁない。

 渋々と言った様子のイオについてギルドへとたどり着いた俺達を待っていたのは、もしかしたら犯罪者を相手にする以上のプレッシャーかもしれねぇな。


「……」

 出迎えるのは沈黙だ。

 冷ややかな視線による非常に厄介な奴だ。


「あの……ちょっと情報をいただきに……」

 イオが、なんとかって感じで受付に立つ女性へと言葉を発する。

 女性がイオの身につけている物に比べりゃ幾分か似合っている眼鏡を正し、空色の目で睨み返してくるんだよ。


 ギルド職員の対応じゃない気もするけど、窓際へと追いやられているイオに対するものとしては正常か。

「えぇ、では主旨を述べてください。早急に」

 女性が沈黙以外で答えてくれたよ。


 この何とかって感じの対応は、以前より氷解してくれているな。先の活躍とコレーの存在と、それから少しだけモォちゃんがいることによるものか。

 それでも、何か別の感情を感じるのはなんでだろうね。


「それでは、トリンキュルさん。アポロ兄弟という賞金首について、お願いできますか?」

「もう少し必要な情報を絞ってくださると良いのですが。具体的に」

 繰り返し強調しなくても良いじゃない。優しくしてよ、パレネ女史。

 いくらビアンカちゃんの教育担当って言っても、イオに冷たくして良い理由にならないと思うんだ。


 俺に任せりゃ、三十路の脂が乗り始めた淑女の男不信を融解するぐらいはなんてこともない。

 この切り揃えたブルネットのストレートボブを撫でながら、ちょいとエメラルド色の目の奇麗さとかを褒めてやりゃ良いんですよ。

「今はどんな情報でも欲しいぐらいなので……」


 話術についてはさておき、イオも何とか食い下がる。

 どこぞの駄目先輩とは違って職務に忠実なのがまだ救いかも、な。

「……では、まず概要から。端的に」


 さてさて、ここから彼女パレネ=トリンキュルの語る内容は、専門用語や余分な人名などが面倒なので俺が要約するぜ。

 事の起こりはバシュキルシェよりそこそこ離れ、何と、命知らずにも第二主都プラージで始まった。

 最初の犠牲者は冒険者になり立ての若者達。三人くらいの犠牲者が出たところで、コロナも動き出す。しかし、その頃には街から姿を消していた様子だ。


 そこからは転々と南部の街やら、偶発的に出会った冒険者を狩って行っているのが情報から推測できる。実力をつけ、自信を得て、アポロ兄弟は事件を重ねて行く。

 一つの街ごとに2~3人って具合か。初心者冒険者に始まり、順に階級(ランク)の中堅どころを狙う辺りに几帳面さや自己顕示欲がうかがえる。


 最近は、バシュキルシェでルーテネント(二佐)級の奴が一人やられてる。

 単独で行動している冒険者に限らず、他にいたなら同時に殺されるということもある。女性がいた場合は、いや、やめておこう。

 アポロ兄弟という命名だが、当然ながら何者なのか正体が分かってるわけじゃねぇ。


事件現場に残された足跡から、たぶん二人以上で行動しているって予想が出てるだけだ。もし個人技や、工作されているとすればこっちはお手上げよ。

 アポロという名前についても、単純に最初の事件現場が『アポロ地区』というゴミ溜め(スラム)だったからさ。


――肥溜めから生まれたクソみてぇな殺人鬼か――

「厄介だね……。容姿とかも全然分かってない相手を探すなんて、探していないのと同じだよ」

「そうですわね。使用する凶器はその時で様々、まるで自分達の成長だけを考えるミュータントみたいな存在ですわ」

「進化する殺人鬼って嫌だなぁ」


 そう、こちらからアポロ兄弟を探し出す手段はほぼ皆無なんだ。

 街への出入り記録から当たるなんてことは、既にギルドがやっている。もしアポロ兄弟の正体が放浪型の冒険者だったりすれば、偽の身分証で街に駐留することも簡単だからな。


「自由に渡りをしているタイプの冒険者ですと、街の出入りなんて簡単な情報記入だけですからね。簡易的に」

「数日の記録を遡ったのころで人数は、商人なども含めて数十人に渡りますわ」

「証拠がないので疑い出したらキリがありません。懐疑的」


 各所、街の出入り記録を集めて照合する間には、遠くへと消えているって寸法だ。

 アポロ兄弟を見つけ出すのは至難の技だってわけだ。しかし、糸口も見つかったぜ。

 ――この頃有名になり始めた冒険者が囮になれば良いわけだ――

「そうか。その手があったね!」


 イオが手を打つと、他の奴らに注目された。

「何か思いつきましたの?」

「あ、えっと、有名になり始めてる冒険者が囮になれば良いんですよ」

「と申しますと?」


 俺としては半分くらい冗談だったんだけどさ。

 だってよ、ここで丁度、話題性のある冒険者って言ったらイオしかいないじゃん。

 俺は顔に手を置いて嘆いた。あぁ、神よ、この抜けた男をなんとかしてください、ってな。


『……』

 皆の視線がイオに集まっているのがわかるだろ。

「い、いくらなんでも、イオさん一人を歩かせるわけはありませんわッ」

「そうだよッ。まずは三人で裏通とかを散策してみよう……!」

「一人でやった方が良いのは確かですが。効率的に」


 良い仲間を持ったなぁ、イオ。

 かくして、イオを囮にアポロ兄弟を誘い出す作戦が実行された。

「お役に立てたかはわかりませんが、健闘を祈っております。定型的な」

 三人も、パレネ女史に礼を言ってギルドの建物を出る。


「まぁ……荷が重いけど、頑張ります!」

 ――おや? もっと渋るものかと思っていたけど、存外やる気だね――

 言ってみて、俺は思い立つ。

 イオの性格を考えれば、コレーやモォちゃんが囮役じゃなくて良かった、と言うだろうよ。

 俺の呆れたような顔を見て、イオも苦笑を浮かべてくる。


「余裕があるみたいですわね。気を張らずにやるのが一番ですわ」

 コレーにも励まされ、イオが決意を固めた顔をする。

 路地裏へと入って行き、薄汚れた細い道を進む。次第に道幅こそ広がるものの、むき出しの水道が悪臭を放ち始めるんだ。

 俺は匂いなんて分からないから良いけどよ。


 しかめっ面のモォちゃんなんかを見てると、相当の汚物が投げ込まれているってぇのがわかるな。

「こんなところに長いこといたのでは、病気になってしまいますわ……」

「いるだけで臭いが体に付きそう……」

 住んでいる皆さんに失礼な。


 とは言え、汚水の処理が間に合っていないのは確かなんだよなぁ。

 ビアンカちゃんのご両親が、汚物を集めて畑の肥料にするなんて言う野外研究もしているみたいだ。色々なものが上手く片付くようになれば良いな。

 それはさておき、歩き回ること二十分くらい。そろそろ、扇状に区切られた裏通の一区画が終わるころだ。


 街を十字に貫く商店街と、外周の目抜き通り、その構造上からバシュキルシェの裏通は四区画存在する。

 ――ギルドから一等管理の届かねぇスプートニク区で現れないなら、他の区画じゃ難しいか――

 えーと、スプートニク区は街の南東。ギルドのあるアズール区が北西か。大丈夫、間違ってない。

 以前に、俺はこの区画の名前を間違った奴から話を盗み聞きして、三半刻ほどで遅れたのよな。その結果が、イオとの邂逅だったわけだが。


 閑話休題。日が真南に差し掛かって、後一本の通を歩き切れば一区画が終わる、と言った頃。

 俺は流石にこのままだと気配なんて分からなかったが、三人が動く。

 最初に気づいたのはコレーで、腰に差した中型の包丁で凶刃をいなす。イオとモォちゃんは飛び退って距離を開く。


 そう、二つの人影が陽光を遮ってくれたおかげで、なんとか反応することができたのだ。

「俺達の初撃を避けたよ、アンちゃん」

「腕は悪くねぇ。まずは合格ってところだ。気ぃ抜くなよ、ジョン」

 いや、違うな。


 こいつらは、俺達の間に割って入る感じで襲撃してきた。

「何が、腕は悪くない、ですのッ? こちらを分断するつもりでしたくせに……!」

 コレーが苦虫を噛み潰したって顔をする。

 こうして、アポロ兄弟との戦いの幕が切って落とされる。


 パレネ女史はヒロイン対象じゃないみたいです。

 ごめんなさい。

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