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依頼書No15 二階級昇格をこの手に

 トリミュータントの襲撃を生き延びた翌日、俺達はバシュキルシェの街の中心部にある広場へと集まっていたりする。

 集結しているのは俺達だけじゃなく、街に住む多くの冒険者とその関係者達も、だな。

 ぞろぞろと街のいたる所から人が集まってくるのを見るのは、なかなかに気持ちが悪いものである。そんな光景を空中から眺めているスキモノの俺を、奇特と呼ぶ奴がいるかもしれねぇ。

 まぁ、これもイオに頼まれたから仕方なくやってるだけさ。


 ――それにしたって、まさかこんなことになるとはな……――

 独りごちてみる。

 何かが変わるわけでもないんで止める。


『ご来場の皆様、本日はお集まりくださりありがとうございます』

 そうしている間に、イオの先輩にあたるギルド職員野郎がアナウンスを始めた。

『皆様のおかげで表彰式は盛大に執り行われ、お席が既にいっぱいとなってしまいました』

 今アナウンスをしているヒョロ長でキツネ目の男が、誰だっけか。


「マブ、立見席も後少しで満席だよ!」

 小太りのギルド職員が、キツネ目を呼ぶ。

 あぁ、そうだ。マブ=キャリバだ。俺はキツネ野郎って呼んでる。


「なんだと、アーブ!? 入場制限するしかねぇだろ……! とりあえず、入れられるだけ入れろ!」

 小太りの方はアンブリエル=シコラクムだったか。愛称はアーブって呼ばれてるらしいが、こいつにはブーブで十分だぜ。

 イオをいつもいつもいびってやがる癖に、こういうときだけ調子良く金づるにしやがんの。


「やぁ、イオさまさまだぜ」

「そだねぇ。ギルドの懐も温まるよー」

 露店やら席代やら、あれやこれやとバシュキルシェ冒険者ギルドの運営資金にしようと画策しておりますね。一応、冒険者達の働きが表彰される式典だから、ギルドが受け皿になるのをおかしいとは言わんが。


 ――どうでも良いや……。ほとんど俺とイオがやったことだけどさ――

 “フィクスバルム”の討伐を表彰する式典がメインには違いない。しかし、偶発的なトリミュータント討伐もまた、組み込まれる形となったのだ。

 そうなれば、コレーは当たり前として、もう一人立役者がいるだろう。

 それがイオだ。


 とは言え、イオは次のように証言した。

『僕が到着した時には、既に覆面の男性がビアンカさんを助けた後でした』

 そう噂の『ジュピター』がトリミュータントを倒してビアンカちゃんを助け走り去ったというわけだ。

 ついついまくし立ててしまう程度に、俺はイオのお人好しさに呆れてしまっているのだった。


 だが、ここで譲らなかった奴らが二人もいた。

 一人は、ギルド最高指揮者コロナ=プロミネンスであーる。偶然にも、本当に偶然、バシュキルシェへ足を運んでいたコロナがビアンカちゃん救出の助力者としてイオを推した。

 うーん、なんでだろうねー。


 ――コレーを通したとは言え、コロナの推薦じゃ断れんだろうな。それでもイオには荷が重いってぇのに、ビアンカちゃんまで一票を投じたら逃げ場がねぇわな――

 二人目は、行った通りビアンカちゃんだった。

 コロナがコレーを丸めこんでくるかと思ったが、まさかの包囲網が完成したわけだな。

 そして今、俺がイオに頼まれた案件こそ、そのビアンカちゃんを探すことだったりする。


 ことが慌ただしく進んだ所為で、治療を受けることになったビアンカちゃんの様子を見に行けていないからだ。

 ――えーと、ビアンカちゃんはいずこかね?――

 上空からキョロキョロと人混みを眺める。


 十分ほど探したところで、その姿を発見する。ヒベリオル家ご一行様だ。

 やや厳格そうなお父様も、怪我をした娘の車椅子を押している時はいつもと違うのね。お母様も教育ママさんみたいなシワの寄った顔でなくなっている。


「昨日の今日で、大丈夫か?」

「大丈夫よ、お父さん。これが終わったらちゃんとお休みするから」

 今日ばかりは、イオの晴れ姿を見たくて鞭打って来てるみたいだ。おぉ、健気、健気。


「辛かったら直ぐに言いなさい?」

「うん、わかってるわ」

 良い家族に恵まれてるようだ。

 さて、様子を確認したしイオのところに戻るか。


 表彰式の舞台に戻った俺を待っていたのは、着飾ったイオの姿だった。舞台裾から俺や観客の様子を見てやがる。

 ――うーん、馬子にも衣装ってこういうことかね? プッ――

「なかなか似合っておりますわよ、イオさん」

 燕尾服なんだけどよ、眼鏡に童顔なイオだと着られてるって感じがしてしまうぜ。


 コレーも何とかお世辞を言うものの、ボソッと呟く。

「もう少し精悍でしたら……」

 イオも流石に困り顔だ。

「……聞こえてないとでも思った?」

 ――あ、てめぇ、ちゃっかり眼鏡かけてやがったのか!?――

「え、えっと、何もいっておりませんのよ……。ホホホホホッ!」

 “窓見(スクリーン)”で完全に俺の独り言を聞いていたようだ。


 コレーなど逃げるようにして表彰式の準備へと向かってしまう。少しでもお怒りを緩和できるかと思ったのだが。

「……ふぅ。良いよ、僕自身も似合わないと思ってるし」

 ――へいへい、悪うござんした。思ったより緊張はしてないみたいだな?――

「うん? あっ」

 なんだ、今まで自分が冒険者達の代表だってことを忘れていただけかね。ヤバいくらいに上下運動し始めちゃったよ。

 そういうのは大事な人と致す時だけにしておきなさい。


 ――おいおい、落ち付けイオ……!――

「そ、そそそそ、そうだねッ! こここ、これこれこれじゃ、舞台がこここわわわれちゃうううよねッ!」

 そうじゃない。

 ――こういうときは、眼鏡をはずせ。三つ数えたらかけろ――

「わ、わわわ、かかかか、ったッ」

 俺の指示通り、イオが眼鏡をはずす。


 三つを数え終える前に、俺は変顔を作る。

「か、カリスト!? ワハハハハハハッ!」

 どうやら落ち着かせることに成功したようだ。

 別の意味で落ち付いていない気はするが放っておこう。

「ハハッ。ありがとう、カリスト」

 ――今回だけだぞ? 直ぐに忘れろ――

 笑いも収まってきたところで、表彰式の時間がやってくる。


 会場のざわめきが一度静まる。

「レディース・エーン・ジェントルメーン!」

「お集まりの皆様、長らくお待たせしたよぅ!」

 キツネとブーブの挨拶が始まって、徐々に喧噪が高まって行く。


 最高潮は、簡易設置の舞台にそいつが姿を表したタイミングだ。

 割れんばかりの歓声と拍手が俺達の耳をつんざく。

『ワー! ワー!』

『キャー! キャー!』

『コロナ! コロナ様! プロミネンス! プロミネンス様! 最高指揮者様!』

 こうなったら男も女もない。皆が一様にこの祭りを楽しむだけだ。

 コロナとイオ、二つのご神体を祭り上げて、ジュピテル神のお許しの元なんて大義名分を掲げてな。


「静粛に! 今日は急な式典でありながら、集まってくれたことに感謝しよう」

 舞台袖から、コロナが挨拶をさっさと終わらせるのを眺めてやる。

 堂に入った立ち振る舞いだぜ。

 人はそんなコロナのことを、どう見ているんだろうな。


「とても奇麗だね……」

 ――反面で、とても醜い――

 ほとんどはその意見で一致すると思ってる。

 心が、とかそういう話じゃない。


「無理な願いを聞き届けてくれたことにも感謝を示し、こうして場を設けさせてもらった。忙しなく働いてくれた、バシュキルシェ冒険者ギルド職員一同にも礼の言葉を述べたいと思う!」

 言葉遣いや清潔感といったことでもない。

「誰も口にしないけど、その通り……。なぜか酷く醜悪に見えるんだよね」

 ――もはや哲学とかそういう域の話なんだろうな。さ、主役が登場しないと始まらんぞ――

 この話は誰と議論しても答えが出ないため、俺はさっさと切り上げてイオを促してやった。


 まだ完全に(ほぐ)れてはいないようだが、それでも恥をかかないくらいには動けている。

「それでは紹介しよう。この戦いを真に解決したのは謎の冒険者だが、彼はその裏で活躍していた。イオ=ガニメル、こちらへ」

 イオが舞台に出て行くと同時に、拍手が巻き起こる。


 一際激しく拍手しているのは、筋骨隆々の髭親父だ。イオの父親である。

 その傍に、黒髪のロングヘアーを喜びに揺らす母親が立っている。

 立見席にいながらも、父親の存在はなかなかにインパクトがある。加えて、イザベラまで居たんじゃいやでも目についてしまうじゃないか。

 イオも気恥しくて仕方なさそうだ。


「イオ=ガニメルには代表として出てもらったのは、この度の働きで二階級の昇進が決まったからだ」

 一階級の昇進ならばイオも理解し得ただろうが、飛ばしてルーテネント(一尉)級になると言われて目を白黒している。

 コロナも人が悪い。


「え、あの……えっと……?」

「巨大ミュータントの討伐参加に加え、同ギルド職員ビアンカ=ヒベリオルよりプロミネンス・ポイントの贈呈が行われたのだ」

 こちらもイオにとっちゃ初耳だろう。俺も寝耳に水だしよ。

 要するに、トリミュータントの階級が予定より二段階も上だったが為、その分プロミネンス・ポイントが増えたわけだ。


 例えビアンカちゃん自身が討伐に失敗しているとしても、『ジュピター(俺とイオ)』に倒された。ビアンカちゃんが生還したからには、プロミネンス・ポイントがそれなりに貰えちまう。

 当然ながら、ビアンカちゃんはそれを受け取るのに不服を申し立てる。

 ビアンカちゃんの提案なのか、それともコロナの画策なのかはしらん。それでも、妥協案としてイオに贈呈することが決まったのだろう。

 本人の意思など無視して。


「ですから……」

 イオが何か言いかけるも、口を噤んじまう。

 視線の先、立見席のところにイオを嵌めた少女がいたのは察しが付くぜ。

 ――やられたな、イオ――

 俺は慰めの言葉をかけるのも諦めた。


「さて、それではイオ=ガニメルに一言いただくとしよう」

 司会を続ける。

「せっかくの好意だ。受け取らないなどとは言うまいな?」

 コロナが自然にイオへと詰め寄って、脅迫紛いの笑顔で選択権を奪い取って行く。

 イオは、もはや頷くしかなかった。

「はい……」

「一言どうぞ」


 ここからは予めコレーから聞いていたため、話す内容は決めていたようだ。

「皆さん、この度はお疲れ様でした。無事に全員が依頼を終えて帰還できたことを嬉しく思います」

 一日もない時間で考えた挨拶であるため、当たり障りのないものになっているな。

「今回は代表が私ということになりましたが、皆さんも頑張ってください。私もいただいたポイントを大事にして、自らも精進していきたいと思います」

 ――何のオチもなしか?――

 ちょっとぐらい面白いことを言ってくれると期待したのだが。あ、そんな目で睨まないでちょ。


「うむ、ありがとう。今から、各自へのポイントと報酬の分配について発表していく」

 コロナが後を継いで表彰式の締めに。イオもそれに合わせて舞台袖へと引っ込んじまて、安堵の息を吐いている。

「あー、もう恥ずかしかったぁ。第一、いろいろと初耳過ぎて……」

 ――ビアンカちゃんにしてみればサプライズでのお礼だったんだろうがな――


「二階級昇格か。急な話だから実感がわかないし、これからどうしていけばいいのか分からないよ」

 ――今まで通りで良いだろ。まぁ、できれば目立たずひっそりとやるスタイルに戻したいけどな――

 下手に動けば、またコロナに目を付けられるからな。今回だって、昇格されることで『ジュピター』の活動範囲を広げるのが目的だろう。

 しかし、コロナの手の平で踊らされている以上、俺達にできるのはひっそりと活動することだけだ。

 そんな形で、イオの昇格と表彰式は終わるのだった。


イオ君、作中の最初にして最後の昇格です(たぶん)。

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