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依頼書No.14 空を支配する太陽!?

「やはり、考えなおしてくださいませんのね?」

「……えぇ、コレリーウスさんの頼みでも聞けませんね」

 そんな感じで、コレーがハカセを説得していることだろ。一日くらいが経って頭も冷えたころで、イオともう一度パーティーを組んでくれるようにって話だ。

 だが、ハカセは突っぱねるだろうよ。

 あれでハカセは頭の固いところがあるのよね。


「そう、ですのね……。分かりましたわ」

 例え揉めないためとは言え、だ。イオが大人しく引き下がって、ニオイ玉のことを認めちまったからにはコレーの説得さえ聞きいれねぇな。コレーも諦めざるを得ないね。

 けどよ、ハカセとハリベェが離脱して一番喜ぶのはコレーのはずなんだよな。本当ならモォちゃんも離脱して欲しいんだろうが、それはまだどうなるか分からねぇか。

 コレーはイオを『ジュピター』だと疑っているから、邪魔されずに観察できる状態が出来上がり始めているわけ。あれぇ、これってもしかして。と言うのはさておこう。


 最初に、トリミュータントに気づくのは当然ながらコレーだ。

「あれは……? ハッ! ニクスさん、ハリメデさん、ここから離れて!」

 そう叫ぶものだから、ハカセが何事かと空を見上げるだろうな。そして遠くに見えるトリミュータントに気づいて、戦意喪失したままのハリベェと一緒に避難しようとするだろうよ。

「あれは、ミュータント? まさか、飛行できるタイプ!?」

「ヒッ! もう、ダメだ、おしまいでやんす! こんな何もないところじゃ逃げきれないでやんすよ!?」

「諦めるな! 何か建物を思い浮かべろ。堅い奴とか深い奴とか!」

 大慌てで“想造(クレイマン)”を使って、ハリベェが想像した屋根付きの塹壕とかトーチカみたいなのを作り出すさ。メイジャー級トリミュータントが一体くらい集ったところでなんとか耐えるだろうが、二体、三体ともなると持ちこたえない。


 壁にヒビを作りながら、嘴を僅かな隙間にねじ込んでハカセ達をついばもうとする。貝の身を食べようとする海鳥みたいな感じだな。

 だが、コレーがその隙に一体ぐらいに切り掛かれたはずだ。

「ヒィッ……!?」

「く、クソッ!」

「離れてくださいませ!」

『コレリーウスさん!』

 首を半分くらいまで叩っ切られたトリミュータントは、それが治るまではバランスの崩れた水飲み鳥だ。こうして残る二体もコレーを先に食べちまおうとする。


 コレーは囲まれないように逃げる、逃げる。飛んでくる羽のナイフをなんとか弾いては逃げ、突っ込んできた巨体も大包丁を盾に使って上手く受け流して、逃げるの繰り返しってところか。

「コレリーウスさん……!」

「大丈夫ですわよ! この程度、私一人で問題ありませんの!」

 ハカセが心配するけど、コレーだって易々と餌になったりしねぇさ。


 とは言え、俺が受けてた羽ナイフなんて生温いな。暴風雨みたいに吹き荒れる攻撃を、なんとか致命傷にならないよう回避し続けられるコレーの戦闘センスが凄いんだぜ。

 それでも、三半刻と耐えきれないはずだ。

「ハァ……ハァ……」

 なんとか地道に削ってトリミュータントどもの機動力こそ落しはしたものの、三体目も復活して包囲され始めるころか。三方から嫌というほど攻撃を受けて、体力馬鹿のコレーも流石に疲弊を見せ始めるだろうな。


 それでもコレーは弱音一つ吐かず、ハカセとハリベェを守りながら戦うんだ。決着するまで絶対にあきらめることを知らない馬鹿さ。

「まだ……まだぁッ! ですのよ!」

 大包丁の腹で羽ナイフを受け流しては、後からバードストライクをかましてくるのに背を叩きつけて、投げ出されるように回避していく。


 強引な回避方法だから、俺みたいに上手く着地できないと攻撃の隙を与えちまう。

 ほら、上空からの下降アタックなんてほぼ避けられなくて、クチバシに掬いあげられたりしたんじゃないか。大包丁でなんとか閉じられなくして空中遊泳だ。

「クッ、アァァァァァァァァァァァァァァァッ――!」

 逆立った髪が、空へと投げ出されたことをよーく物語ってやがる。どれぐらいの距離から落ちたのかは知らないが、そこらじゅうに白濁ジェルが吹き飛んでるぐらいだから、相当だったんだろうな。

 落下しながらも、食い掛かってくるトリミュータントの頭をブン殴って、翼でお手玉にされては何とか速度を落としながら地面へとたどり着く。

 当然、ダメージのない着地などほぼ無理だっただろうし、足首を挫きましたでは済まなかったことだろうよ。

「グッ!」


「コレリーウスさん!?」

「だ、大丈夫ですわ……! お二人はそこから出てこないでくださいませッ」

 そう、地面に叩きつけられながらも健気にハカセとハリベェのことを案じるんだろうな、コレーは。

 身動きができない程度のダメージを受けてもなお、余裕を崩さないのはそれが見えていたからだぜ。空に吹き飛ばされている間に、太陽がコレーに微笑んだのが見えたからだ。

 もはや絶体絶命という状況で、コレーは動かなくなっちまった。というか、動いた方が危ないんだけどな。


「ギャッ――!」

「ガッ――!」

「――!」

 次の瞬間には、降り注ぐ閃光が集まってきたトリミュータントどもを串刺しにして大地へと縫い止めるんだ。それは光ではなく、数十本くらいになるミスリル鋼の棒なんだが。

比喩とかじゃなくて、本当に3メートル長、5センチ経くらいの棒。先端は鋭すぎず丸過ぎず。


「全く……とんだ無茶をしてくだくださいますわね。コロナ」

 トリミュータントどもの断末魔の鳴き声を愛しげに聞きながら、その女の名前を呟くんだから実は仲が良いのかもしれない。

 あー、それはないな。

 なにせ、コロナが落とした棒はギリギリのところでコレーに当たっていないんだ。少しでも動いていたら五体満足じゃ帰れなかっただろう。


「腕の一本ぐらい差し出してもよかったんだぞ?」

 大の字になって寝転んでいるコレーを見下(みくだ)すように歩み寄って、イケシャアシャアと言ってみせたはずだ。

「何をッ……私が足止めしていたから当てられたのですわよ!?」

「感情的になるな、筋肉馬鹿。生かしておいてやるだけマシだと思え」

「クッ……」

 顔を合わせると何かと言い合っている二人だが、どうしてこう仲が悪いんだろうね。二人とも幼馴染だから、女にしか分からない確執があるのかもしれねぇな。


「ほら、また。お前は少し感情的すぎるな。そんなものはこの世で最も邪魔なものだというのに、捨てきれずにいる」

「御高説どうもですわ……」

 何がコロナをそこまで(すさ)ませたのかね。

 感情が不必要だと説く人間が、この世にどれほどいるんだか。こんなんだから、陰で『ミュータントガール』なんて呼ばれてるんだぞ。


 コレーはこの話が始まると正面から向かい合わずに受け流すだろうぜ。無と有、永遠の平行線だからな。

「ふんッ。まぁ、良い。さっさとこれらを抜いてくれるか、筋力馬鹿?」

「さっきから筋肉だの筋力だの、馬鹿にしすぎですのよ……。第一、なぜ貴女の個人技(スキル)の後片付けをしなければならないのですの? こちとら、足を挫いているのですわよ?」

 そう文句を言いつつも、地面に埋まったミスリル棒を引っこ抜いて行くたんだから結構気の良い奴だよな。逆らえないだけかもしれんけど。


 少しコロナの個人技について説明しておこうか。

 “浮遊(コメット)”って言うらしい。その名の通り、物体を浮かび上がらせて前後左右に動かすことができるんだ。個人技を解除すると自由落下を開始しちゃう。

 あ、期待外れ、とでも言うような顔をしないでくれよ。俺は悪くない。

 基本的に個人技は、それを発動させるための燃料が要らないんだよな。中には体力だったりと燃料を必要とするものもあるけど、大抵は“狂える王”みたいに休憩時間があるぐらいか。


「中空だから一本20キロほどだ、問題なかろう。それに、二十本だから限界数の半分も使っていない」

「そういう問題じゃありませんのよ……。ミュータントの遺骸で滑りますので、地面を貫通した棒キレを引き抜くのは一苦労しますわよ?」

「外殻で失速するとは言え、数百メートルの高さから落としてるんだ。当たり前だろう」

「わかっているなら自分の個人技でなんとかなさってくださいまし……。持ち上げる力は全く必要ないのですから、怪我人をこき使う必要はありませんでしょうに……」


 ドロドロの残骸がミスリル棒に絡みついて、それをコレーが全身で持ち上げって状況。それだけでなんだかいけない想像を掻き立てられちまうね。

 ボロボロ、デロデロになりながらもコロナの武器を回収してやるコレーねーさんだが、実はやっぱり仲が良いんじゃないだろうか。

 ちなみにコレーを囮に使っていたけど、コロナ単騎でもメジャー級トリミュータントの3~5匹ぐらいは容易く倒せるはずだぞ。ブリガディア級冒険者の称号は伊達じゃないってことだな。


 アーカンハイスでも十指に数えられる上、メルティノ王国内にいる現存の冒険者としては最若年でブリガディア級に上り詰めたんだ。こっちでの昇給制度は他の国と違うけど、おおよその実力はわかってもらえるはずだぜ。

「しかし、どうして貴女がここにいますの?」

「今更な質問だな」

 そう、だいたいどうしてコロナがメルティノ中央に近いバシュキルシェまでやってきているかだ。


「お前、そんな簡単なことも分からないのか? (まつり)事を除くとお前は脳味噌まで筋肉になるな。ふぅ」

「露骨に煽りますわね。いつものことですけれども」

 大方、以前のメイジャー級ミュータント“フィクスバルム”討伐の報償授与。っていうのが口実だろうぜ。

 裏の理由としては、コレーが『ジュピター』の疑いありと報告したイオのことを観察しにきたってところか。


「簡単なことだ。風船ミュータントの討伐に関して、バシュキルシェの冒険者たちをねぎらってやらねばならないだろ?」

「……理由はわかりましたわ。ただ、その上からの言い様は少し隠した方が良いですわね」

「なーに、人前でバラす程度なら、私など人の上には立ってなどいない」

「それなら、良いのですけれど……良いのですの?」


「私がここに来たのはお前も同罪だ。諦めろ」

「イオさんのことですのね? まだ、確証は得ていないと伝えてあったはずですわよ」

「それを私が確かめに来たんじゃないか」

 とまあ、そんなやりとりが繰り広げられていただろうよ。

 ――俺達が到着するまでの予想はこんな感じだが、どうかね?――


「なるほど。コレリーウスさんも無事でよかったです」

 俺が予想を話してやることで、なんとかイオの焦りを抑えることができたわけだが。イオの基準では何をもって『無事』と言うのかがわからんな。

 穴だらけの惨状を見るに、コロナが来ていたのは間違いないだろう。戦いの挙動や言動が逐一同じかまでは答え合わせなんてできないのは許せよ。

 ミスリル棒を引っこ抜くのに体力を使いきったグロッキーなコレーはさておこう。コロナの奴、っちゃっかりハカセとハリベェの意識まで刈り取ってやがる。


「ハァ……ハァ……。イオさん、貴方までどうして?」

 おい、そこんとこコロナは話していかなかったのかよ。どうせ、イオがコレーを優先したら、ビアンカちゃんの方へ行くつもりだったんだろうが。

 第一、コレーの奴も隠すの下手だな。考えるだけの余裕も残ってないのかもしれねぇけど。


「ビアンカさんがミュータントの急襲に遭ったというので助けに来ました。コレリーウスさんの方にも数匹向かったのが見えたので急いで追いかけてきたんですが……」

「そう、ですの……。心配には及びませんわ。体力が回復したらお二人を起こして帰れますのよ」

 さすがのコレーも激しい戦闘の後で二十本近いミスリル棒を引っこ抜くのは骨が折れたみたいだな。もしかしたら、空から落ちて本当の骨を数本やってるかもしれんが。


「良かったです。コレリーウスさん一人だったらどうなっていたか」

「? えっと、私一人で片づけられたのですわよ?」

 お前ら下手くそか。


 名前とかで炎系の個人技だと思っていた方は、残念!

 分かりやすいことはしない天の邪鬼な作者で申し訳ありません。

 炎とかにしなかったのには、性格など含めてちゃんと理由がありますのでご容赦ください。

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