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依頼書No.11 森の三連星、敗れる!

挿絵(By みてみん)

 続いては、戻ってイオとモォちゃんのタッグがクマミュータント小に挑んでいる場面だ。

 コレーがクマミュータント中を倒し終わるまでに、背中のコアは何とか壊せたみたいだな。それでも、立役者であるモォちゃんは疲労困憊(ひろうこんぱい)って感じか。

 ほれ、男イオ、ここが踏ん張りどころだぞ。


 ――イオ、どうする? 俺が手伝ってやろうか?――

「大丈夫。モウポリエさんは少し休んでてください。後は僕が、なんとかしますから……」

「ふぅ。じゃあ、お願いするね。こんなことになるとはちょっと予想外だったよ」

 モォちゃんを守るように立ち塞がって、回転させ始めたトンファーで威嚇か。流石のクマミュータント小も、何度かトンファーの攻撃を受けて警戒しているんだな。


 モォちゃんが距離を取ったのを確認したら、イオが一気にクマミュータント小との間合いを縮めた。と言っても、俺やコレーから見ると、どちらも子供のヨチヨチ歩きだけどな。

 カウンター気味にクマミュータント小の袈裟掛けパンチが繰り出されるも、イオも慣れ始めたらしくて、身を低くして何とか回避できましたよ。頑張れ、頑張れ。


 流れるような反撃には出られないけど、動きが鈍ったクマミュータント小へ回転力を溜めたトンファーを一発、二発と叩きこむことに成功したな。

 ――良いぞ。態勢を崩したら――

「首筋のところに最後の一つ」

 ――なんだ、もう分かってたのか――

 イオも馬鹿じゃない。これぐらいはもう見つけていて当然だろうな。


 しかし、問題はどうやってイオの身長で攻撃を届かせるかだ。溶け始めた部分を削って姿勢を傾かせようと試みてるんだが、イオの腕力じゃ微々たる量しかジェルを弾き飛ばせない。

 攻撃をしかけられる回数もコレーほど多くないし、相手の攻撃を避けるのだって余裕があるわけでもない。いずれ、イオがポカして殴り倒されるのがオチじゃないかね。


 ほれ、そう予想してる間にイオがどんどん近付いて行っちまう。博士が作ったまま残していきやがった、跳ね上げ式足括り罠の方に。

 ――おい、イオ! そっちには罠がって、遅かったか!――

 俺が気付いて忠告するものの、間に合わずに足を踏み入れちまった。

竿の張力に宙吊りにされるイオ。

 振り抜かれるクマミュータント小の拳。


 トンファーを二つ構えて防御するも、吹っ飛ばされて遠心力と踊っちまう。だが、そこで俺は気付くんだよ。

「これでどうだッ!」

 ――ははぁ~ん。こりゃ、上手いこと考えたな。トンファーが回せないなら自分を振り回せば良いじゃない、ってか!――

 そう、イオは敵の攻撃力を利用する手に出たんだ。上手く相手の攻撃に合わせて宙吊りになったんだよ。


 打点をずらしてダメージを減らすやり方はコレーが殴り飛ばされたので学んだか。

 勢いに乗ってぐるりと回り、油断したクマミュータントの首筋に向かって体当たりするだけ。

 この一撃だけじゃコアを破壊し切れなかったが、態勢が崩れて前のめりに倒れただけで十分だ。

「すみません、モウポリエさん!」

「オッケー!」

 イオの声に反応して、クマミュータント中が起き上がる前に肉薄するモォちゃん。


 飛びあがり、上段からの突き下ろされる右ストレートが見事にコアを打ち砕いた。

「良しッ。コレリーウスさん、今行きますから! と、まずこれをはずさないとワッ!」

 クマミュータント小が動かなくなり、何とかウォーラント(二尉)級を相手にして生き延びることができた。二人ほど、今後の冒険者活動に支障が出そうなダメージを受けてが、死んではいないだけマシだ。

 そして、コレーを手伝いに行くためイオが急いで罠をはずそうとするんだけど、ここで思ったより早く罠が土塊に戻っちまう。当然、宙吊りのイオは地面に落下するわけだ。


「ププッ。イオ君の間抜け~」

「イタタ……。アハハハ……さ、さぁ、行こうか」

 モォちゃんに笑われちまうけど、気を取り直してコレーの元へと急ぐ。

 既に腹と胸のコアは壊し終えているから、上手く連携すりゃそれほどかからずクマミュータント大を倒せるだろう。


「そっちは終わったのですわね。漸く、楽ができますわ」

「すみません、お待たせしました。モウポリエさんは右から」

「押さえていてくれてありがとね。うん、残りも頑張ろうッ」

 三人で言葉を交わし合い、クマミュータント大を倒すべく連携を取り始める。敵の動きが大体わかってきたんで、イオとモォちゃんもどう動けば隙を作れるのかわかってきたみたいだな。


 クマミュータントどもは数がいれば上手く連携してくるけど、一体ずつだとどうしても攻撃が単調になる。一発、一発が大振りなだけあって威力こそ高いものの、それを回避できたら下半身に隙ができるんだ。そこにカウンターを入れてバランスを崩してやると、今度は態勢を整えようと四つん這いになるから、動きが鈍ったところをこちらも大振りの一撃を叩きこんでやるだけなわけ。


 突進に関しても、ちょっと動いて誘導すれば木々が邪魔をして勝手に速度を落としてくれるのよ。広い場所だと辛いが、一体なら密集した場所へ移動するのは難しくねぇしな。動きが鈍くなったところで、大きく横に避けたらガラ空きの背中のコアに攻撃すると。

 ほら、あんなに厄介そうだった怪物が簡単に料理できちまう。


「はい、そっちへ行きましたッ」

「右に誘導していきますわ。そこをイオ君とモウポリエさんで崩してくださいまし」

「了解。トドメは任せるよ、コレリーウスさん」

 イオがクマミュータント大の注意を引きつけて、距離が取れたところでコレーと入れ替わるんだな。そしたら今度はコレーを追いかけるようになるんで、イオとモォちゃんが後方の左右から挟撃すると。上手く行けばこれでクマミュータント大は地面に伏せることになって、最後にコレーが唐竹にドデカイ包丁を振り下してコアを叩き割ればお終いだ。


「これで、お終いですわッ!」

 コレーがトドメをさして、クマミュータント大も白濁のジェルへと変わってしまう。

「お、終わった……?」

「終わったね」

 初めてウォーラント級を相手に生き延びたという喜びに、二人はまだ頭が追い付いてないみたいだ。


「皆さん、お疲れ様でしたわ。えっと、あとのお二方は……?」

 そういや、コレーは二体を相手にしてて気づかなかったんだっけか。ハリベーは最初の遭遇地点で腰抜かしてるぜ。博士は、治癒薬を飲みに行ったと思うけど、あの有様で飲めたか心配だな。


「ハリメデさんは何とか無事ですね。ニクスはその……治癒薬でも辛い怪我を……」

「名誉の負傷だよ。感謝してもしたりない……」

「そう、ですのね……。でも、まだ生きているだけマシですわ」

 万全の勝利と行かなかったのは残念だけどよ、クヨクヨしてたって始まらないぜ。さっさと薬草を届けて、パーッと打ち上げでもしようじゃないかい。


 ――ほら、薬草が飛び散ったぜ。拾って依頼達成しよう。そして労ってやりゃぁ十分さ――

「そうだね。皆で祝えば、また頑張る気力も湧いてくるよ」

 リーダーのイオが締めて、今回の依頼は達成となるはずだったんだ。怪我が治ったら、また皆で冒険ができると思ってたよ。

 しかし、戻ってきた博士の言い放った言葉に、イオ達はきっと頭が真っ白になったはずさ。特に、イオは凄いショックだったにちがいねぇよ。


「イオ……もう、お前とは組まないッ! お前の所為で、ハリメデも俺も、冒険者として再起不能になっちまった……!」

 そう酷い剣幕で言い放ち、博士が手に持ったそれを見せつけてきやがった。

 小さな半透明の袋に液体を詰めた物体。と言うか、腸詰って奴だな。手のひらで包み隠せるかどうかぐらいの大きさをしてて、一つ割れてないのがあり、後数個ぐらい腸詰の破片が手のひらに乗ってるんだ。


 余程の新米冒険者でもなけりゃ、それが何なのかぐらいはわかる。イオにだって、それが何なのかぐらい分かるさ。

 だから、真っ赤かに顔を染めた博士とは対照的な色の表情をして口を開くイオ。幽鬼みたいでヤバいぐらい。

「ニオイ……玉……? それが、僕とどう、関係するんですか……?」

 カプセル自体というより、カプセルが割れてるってぇのが問題だ。


 ニオイ玉っていう冒険者が使う道具で、ミュータントの好む臭いの液体を詰めたカプセルなんだ。ミュータントを罠にかけたり、遠くに誘導して安全にお取り抜ける、っていうような使い方をする代物。肉や木の実の香りに近い所為か、食後や森の中だとちょっと臭いが強いだけに感じるかな。

 俺はこの通りなんで、臭いがしてること自体に気付けなかったが。

「これが、お前の荷物の底で割れてたんだよ!」

 そこまで聞けば、博士の言いたいことが漸く分かってくるってもんだ。


 要するに、今回ミュータント三体に襲われたのはイオの所為だ、と言いたいわけだな。事故でニオイ玉が荷物袋の底で割れてしまって、ミュータントを誘き寄せちまったってことか。

 いや、でもイオだってそんな危険なものを常に持ち歩いたりはしねぇぞ。冒険に持っていく荷物だって、必要最低限、過不足なく準備して選んでいくぐらいだ。討伐や巣を通りぬけるでもない依頼に、ニオイ玉を持ってくるような間抜けはしないだろ。それに、ある程度の力を入れないと割れるような代物じゃねぇしな。


 俺だって博士に声が届いたら、ちゃんと一緒に確認したって証言してやれるんだが。

『……』

 モォちゃんもコレーも、どっちを信じたら良いの、って顔をしてるじゃないか。ここはビシッと否定してやれ。僕はそんなもの持って来てません、ってな。


「ごめんなさい。間違えて持ってきてしまったみたいです……。二度とこんなミスはしませんから、そんなことは言わないでくださいッ」

 ――って、なんで頭さげてんのぉッ!?――

 ニクスがお前に罪をなすりつけようとしたのかもしれねぇだろ。こういうのはしっかりと自分を持っておかないと、この先苦労することになるぞ。って言っても、イオのことだから自分が謝っておけば無駄な争いがなくて良い、とか考えるんだろうな。


「ダメだ! 今回、怪我をしたのが俺やハリメデさんだったから良いものの、モウポリエさんも不味かったし、コレリーウスさんだってダメージも危なかったんだぞ。俺一人が許してどうなることでもないだろッ!」

「ニクス君、そんなに怒らなくてもよろしいではありませんか……。これまで仲良くやってきたんですから、一度のミスぐらい、ね? 私だって、少しやられましたけれど無事ですわよ」

「わ、私は、悪いとか良いとか言えないから……。イザベラさんにお任せかな」


 ほれ、女二人もこう言ってるんだし、男ならパシッと割り切れや。イオだって男として、間違っていなくても、争いを避けるためにプライド捨てて頭を下げてんだ。いや、イオにそういうプライドがあるかどうかは置いとくけど。

 しかし、博士の心は動かないみたいだな。

「村に薬草を届けたら、そこでイオとは別れる。ここからなら、俺とハリメデさんだけで帰れるだろうしな」


 意思は固く、イオ達はここで決別することになったんだ。残念なこった。

 報酬は最初の取り決め通り、均等に山分けだ。P.Pについても、博士とハリベーが負傷して帰還が遅れてることをイザベラに伝えれば、無事に戻ってきたころに冒険者証へ登録してもらえるはずさ。

 依頼をしてきた村の人らだって、情報の不備には申し訳ないと思って馬を二頭貸してくれたからな。出発するときに借りてたロバをキャンプから連れてきたし、これで二人は楽に帰れるってわけだ。イオとコレー、モォちゃんは、かわるがわる休みながらバシュキルシェに帰るのでした。


「やっぱりニクス君とハリメデさんが心配ですわね。私、途中から合流して一緒に帰りますわ」

途中、コレーが抜けたおかげでイオとモォちゃんが真っ先にバシュキルシェへ到着する。

借りた馬は、そのまま野に放てば村まで自分から帰れる程度に調教されてるってぇんだから素晴らしいね。たぶん、途中でコレーや博士、ハリベーと合流して、またバシュキルシェまで乗ってくることになるだろうよ。


「少なからず最良とは言えないけど、無事に帰ってこれて良かったね」

「……」

 ――どうした? まだ博士やハリベーのことを気にしてるのか? 諦めろ。あいつらとは元から馬が合わなかったんだよ――

「そう、だね……」

 これは、少し回復に時間がかかるかねぇ。あんな奴らでも二年くらい付き合った仲だし、一応はパーティーのリーダーだったもんな。


「元気出してッ。じゃあ、私はイザベラさんに報告してくるから、イオ君はロバの返却をお願い」

「わかりました」

 モォちゃんもイオのことを心配してくれてるじゃねぇか。シャキッとしやがれ。

 こうしてモォちゃんとは別れたイオは、まだ軽くならない足取りで駄獣所へと向かって歩き出す。

そんな折だった。

 街の入口へと向かってくる一つの人陰を見かけたのは。確か、『冒険の家:イザベリア』の奴だったはずだ。


 ビアンカちゃんに依頼の手伝いを頼んで一緒に出かけた、メジャー(二佐)級の冒険者だな。えーと、確か名前はボールちゃんだ。

 あ、別に丸っこい体つきをしているからボールなんて呼んでるわけじゃなくて、体を球状に丸めて自由自在に転がることができる個人技だからそのあだ名をつけたんだ。まぁ、確かに丸っこいけど。

 そんな名前や見た目の反面、最高速でぶつかるとウォーラント級ミュータントぐらいならひき潰せるって話だ。


「大丈夫ですかッ? いったい、どうしたんですか……? ビアンカさん、はッ……?」

 イオがいつの間にかボールちゃんに近づいちゃってて、彼女やビアンカちゃんの安否を確認する。ボールちゃんは膝をつきながらも、必死に声を絞り出そうとしてるじゃないか。

「えん……。救援……を……はや、く……」

「救援って、何があったんですッ!?」

 ――そんなに急かしてもダメだぜ。レディは優しく扱えって言ってるだろ? たぶん、予定外のハプニングがあったのは俺達だけじゃないみたいだぜ――


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