第一章・第三話 タイマン決定
ハプニングで神楽坂さんの全裸を見てしまい、俺は警備員に捕まってしまった。
その後、校長室へと連れてこられたのだが、そこで待っていたのは神楽坂さんだった。
彼女は全裸を見てしまった俺に復讐するため、体には非常に熱い魔力を帯びる。
神楽坂さんが俺を攻撃しようとしたとき、偶然にも彼女のパンツが見えてしまう。
彼女は恥ずかしがり、俺への攻撃をやめた。
そして神楽座さんの体から出る熱に天井に設けられていたスプリンクラーが反応する。
校長室の天井から降り注ぐ水により体が徐々に冷えていく。なんだこの状況……。
考え込んでいると、校長がゴホンッと咳ばらいをする。まさかの救世主ですか?
彼の方へと視線を向けると、机の上に置かれていた書類が全て片付けられていた。
気づけばスプリンクラーの水も止まり、生暖かい空気だけが俺らの間を流れていく。
「もっと喧嘩してておこおこプンプン丸状態かと思ったけど、喧嘩はやめたの?」
「やめたというか、強制的に戦えない状態になったというか」
神楽坂さんを見ると、彼女は今も照れながら動揺していた。
「何はともあれ、仲がよさそうで助かったわよ~」
俺らのどこを見たら仲がいい風に見るのだろうか。実に意味が分からない。
「まぁ、ちょっと時間がないからちゃっちゃっと話すわねぇ」
「え、何か急ぎなんですか? 今日は祭り日和で授業なんてないはずじゃ?」
「私はねぇ、美琴様を探しにいかなきゃいけないのよ」
なるほど。あの自分勝手で天真爛漫な永遠の幼女を探しに行くという事か。
「それで、話と言うのはなんでしょうか?」
「二人のルームシェアの話よ」
「あぁ、その話ですか――」
いわゆる同居生活って言うあれね。
うん、知ってる。
知ってる……。
知ってる?
いや、知らねぇええよ!!
「「え!?」」
俺と神楽坂さんの声が重なる。そりゃ驚くわな。なんの話だよマジで!?
「志樹君までなに驚いているのよ~ん。だからルームシェアよ。入居って言ったでしょ?」
「た、確かに言いましたけど……」
「で~あれぇ? 神楽坂ちゃんには話してなかったっけ? 私の記憶では話したようなぁー」
「聞いてませんよ! どうして私がこんな三流でさえないダサ男と同居なんですか!!」
酷い言われようだな。三流は許せるが、ダサいとは聞き捨てならないな。
俺はこう見えても顔は中の上くらいだと思う。髪型にも気を使うタイプだ。
闘志を露にする神楽坂さんとは対照的に、校長代理は落ち着いた表情を浮かべる。
「この学校は経営が危険なのよ。だからルームシェアして、少しでも電気代やガス代を節約しようと。そのことは、入学が決まったときに言ったじゃなーい」
「経営が危うい、と言う話はお聞きました。ですがルームシェアの件は間違いなく初耳です」
「そうだったかしらー。あ、そうかも。うけるぅ~。まぁ、いいじゃない。今言ったんだし」
適当だなおい。校長代理の適当は今始まったことじゃないけどさ。
この件、神楽坂さんじゃなくても怒るぞ。全米が激おこだぞ。
「ルーズにもほどがあります! 大切なことはしっかりと伝えてください!」
「怒らないでよぉ~、一人より二人の方が絶対楽しいわ~ゼッタイ」
神楽坂さんは俺の方を見てからあからさまにわざとらしい重い溜息をついた。
そんな目でこっちを見るなよ。まるで俺が悪人のようじゃないか。
「それにぃ~理由はそれだけじゃないのよ。実は――」
「ありえない!」
校長代理がもう一つの理由を言おうとしたとき、言葉を妨げるようにして神楽坂さんが声を荒げる。彼女は足で床を何度も踏みつけ、怒りの感情を体で表現していた。
「ありえない、ありえない、ありえない! どうして私がこんなヤツと!?」
「じゃあどんな人間だったらいいのよ?」
「そうね。強いて言うなら料理が上手で、優しくて、大人なんだけどちょっと子供っぽい一面もあって、スタイルが良くて、細いんだけど力持ちで、ある程度の収入がある人」
「ある程度の収入って?」
「年収1000万円ぐらい」
それもう学生じゃないだろ。大きなお友達の話だろ。
途中まで『もしかして俺の話し?』と思ったがお金の話が出た瞬間心が砕けた。
お金は持ってないが、大きな優しさならあるぞ。
俺的に美少女との同棲生活はありだと思う。毎日がバラ色になりそうだから。
「か、神楽坂さん、俺は構わないかな。きっと楽しいよ」
「私が構うの!! 大体なんなのアナタ、覇気のない顔しちゃって!」
「顔は関係ないだろ! 生まれつきこんな顔してんだよ!」
「覇気だけじゃない……」
彼女は俺のことを注意深く見て、あることに気づいてしまった。
「嘘でしょ。魔力が感じられない……? え、ねぇ、どうして?」
「どうしてと言われてもなー。どう説明すればいいか」
「アナタみたいな一般人、この高校へ来るべきではないと思うわ」
うわっ、この子はなんなんだ。まさかド直球に言ってくるとは。
「確かに俺に魔力はない、能力値は零だ。でも、ただの一般人ではないぞ」
胸元のポケットから【学生証明書】を取り出し、彼女に見せた。
「こう見えても、魔闘士生徒育成機関祭祀学園の生徒としても認められている」
「……本当ね。でも、入学するためには魔力が必要……どういうこと?」
神楽坂さんが理解しようとするが――やっぱり理解できないようだ。
彼女は眉間に皺を寄せ、戸惑いを隠せないような表情を浮かべる。
「魔力がないってどういう意味? この学園では魔力が全てでしょ?」
「そうだな。能力値が零と言うことは、俺は正真正銘、学園最弱の男だ」
「……なん……ですって……」
目の前にある事実が信じられないのか、神楽坂さんは大きく目を見開いた。
「嘘でしょ……そんな人間が魔闘士の高校に入学できる訳がない」
「訳ないと言われてもなー。現に俺は入学できている」
彼女は一向に俺の言葉を信じようとはしない。やがて呆れた笑みを浮かべる。
「なるほどね。これはあでしょ、ドッキリよね? 私を騙すための」
「いいや、この生徒手帳は本物だ」
「嘘よね」
「本当だ」
「ウソ」
「本当」と以後はこれの繰り返しだ。相手は俺の言葉を信じようとはしない。
「校長代理。俺の言っていることは全て本当ですよね」
「そうよ~。御影志樹と言う生徒には魔力と呼べるものは存在しないの……今はね☆」
「嘘でしょ……」
神楽坂さんは固まった。一拍置き、彼女の止まっていた時間が動き出す。
「入学試験で最高得点をたたき出したSSランクの私が……能力値【零】のカスと一緒に住むっていうの? かなりありえない。ほんと……最高にありえないんですけど……」
「そういうけどねぇ~、美琴様と話し合って決めたことだしぃ。決定事項てきな?」
「なぜですか! 校長代理のお考えを教えてください! ルームシェアは本来同じくらいの能力値を持つ者がなるはずです。私が更なる強さを得るためには、能力を高め合える人と一緒に居るべきです」
「そうね~」
「アナタのこの選択は、自らの首を絞めているんですよ! 学園の経営がさらに危うくなります!」
「そうかしらねぇ~、私はそう思わないけど。それにアナタは強い。強すぎるがゆえに、同じレベルの生徒がこの学校にはいないのよ。強者はみんな転校しちゃうからね~」
「それは……以前お聞きしましたが……」
神楽坂さんは顔を俯かせる。ただ、校長代理の発言に俺は違和感を覚えていた。
この学校には一人、神楽坂さんにふさわしい生徒がいるじゃないか。
毎年、学内で優勝し、学園対抗戦に出る郷間ウェイと言う男が。
どうして校長代理はそれを隠したんだ? 彼は嘘をついているのか?
いや、だが校長代理は男モードにはなっていない。
つまり、心から神楽坂さんのルームメイトには俺がふさわしいと思っているのか。
え、なんで? 俺なんて雑魚じゃん。意味が分からない。クエスチョンマークだ。
校長代理はこちらを一切見ることなく説明を続けた。
「誰しも大きすぎる才能の傍に居たら壊れてしまうのよ。うちの学校の生徒はね、アナタみたいに過酷な人生なんて歩んでいる人ばかりではないのよ」
「……」
過酷な人生と言う言葉に興味を惹かれる。少しだけこの女性に興味がわいてきた。
「才能にあふれるアナタの隣に居ても退学しない相手が、御影志樹君なの。最高と最低、二人はいいバランスをとれると思うんだよね。志樹君はお金も愛想も器用さも顔もそこまで格好良くないし、料理も上手ではないけど――」
それ褒めてないよね。貶しているよね。俺、そのうち泣くよ。あと、料理は人並みにはできるからね。
「けど、なんですか?」
「ただ一つだけ誰にも負けないものがある。それが『意志』よ」
「いし?」
「どんなことをされても、どんな状況にあっても、彼は決して目的のために逃げたりはしない」
なんだよ校長代理、いいこと言うじゃねーか。照れるだろ。ただ、矛盾してるぜ。
俺は数分前、神楽坂さんに殺されそうになり、逃げようとしたんだがな……。
「それとやっぱり光熱費の節約が……」
「「結局そこかよ!?」」
声が重なる。校長の建前は戯言だ。本音は出費の節約である。
「どう、神楽坂ちゃん、分かってくれた?」
「私は認めない……どうして私がこんな変態痴漢変態破廉恥痴漢男と!」
「変態が三回くらい出た気がするんだが……そこまで俺は変態じゃないぞ」
「アナタは黙ってなさい!」
「はい……」
俺に関係している話の筈なのに、なんだよこの部外者的な扱いは……。
能力値が零だと知った途端これだ。まぁ、こんな扱いをされるのは慣れてはいるがな。
校長代理は椅子から立ち上がり、真剣な表情を浮かべる。こんな校長代理久しぶりだ。
「神楽坂ちゃん。この学校にはね、ある校則があるのよ」
「知っています。勝者が全て、ですよね」
「だったら分かるわよね。アナタが今、何をすべきか。口ではなく意志で示しなさい」
神楽坂さんは俺の顔を見て、不敵な笑みを浮かべる。
「覚悟しなさい。虎はね、兎を狩るときも全力なのよ」
だからそんな目で俺を見るなよ。校長代理も思わせぶりなこと言うなよ。
「校長代理。その校則には続きがあるだろ。公式試合以外での戦闘、および喧嘩は禁止だ。行う場合は幼女校長・祭囃美琴の許可を得なければいけない。大事なことを言うなら最後まで説明をしてください」
「ごめぇ~ん。てへぺろ。でも、大丈夫よ。勝負はできるわ。確実にね」
「なんでだよ?」と聞いたとき、校長室のドアが勢いよく開いた。
立ち込めていた暖かい空気が廊下の方へと逃げ、廊下の空気が入る混む。
俺と神楽坂さんが振り返る。一体こんな大事な話をしている時に誰が!?
「ワタチだ! 待たせたな皆の衆、ワタチが来たからにはモーマンタイだ!」
「まさか……こんな最悪のタイミングで来るとは……」
「探す手間が省けて助かったわぁ~」
自転車のチェーンが回る音がする。
校長室へと入室してきたのは三輪車をこぐ黒髪の小学生にしか見えない幼女だった。
というか、校内で三輪車って校則違反にはならないのだろうか……。
彼女が入ってきた瞬間、明らかに校長室の空気が変わる。
殺伐としていた雰囲気から楽しい空気へ。
薄紅色のワンピースを着ているこの女の子は、紛れもなくこの高校の……校長先生だ。
「ワタチが許可する! 勝負は祭りだ! 楽しいことはだいしゅき!」
舌足らずの喋りだが、こう見えてもれっきとした大人だ。
彼女はこの世界に存在する【祀られ神】の一人。
美琴校長は地区の神で、この学校に祀られている。
神は他の地にも居るらしいが、幼女校長以外の神はまだ見たことがない。
やはり全員、彼女みたいに幼女なのだろうか。実に気になるところではある。
「皆の衆、祭りをやるとワタチは嬉しい! そう思うだろ挙玖?」
「はい、私も思います。祭りは楽しくて嬉しいですよね。人々の喜びはこの地へと幸福をもたらす。美琴様の力にもなるはずです!」
「なら、思う存分、信仰しなちゃい! そしていつか、美箏より有名になる!」
美箏とは、美琴校長の会話に何度か出てくる人物の名前だ。
おそらく【祀られ神】の一人だと思われる。
妙にライバル視しているが、いったいどんな神なのだろうか。
美琴校長、基幼女校長と校長代理が楽しさのあまり踊りだす。
なんでいきなりダンシングタイムなんだよ……。
この空間に居る誰もが勝負を祭りだと楽しんでやがる。
だが、俺は戦わないぞ。煩瑣日を勝手に進めるな。
「ちょっと待て幼女校長。俺には神楽坂さんと戦う理由がない」
「えぇ? せっかくの祭りごとなのに……志樹、戦わいわないのか?」
幼女校長は俯き、泣きべそを浮かべる。幼女の涙は凶器だ。
間違ったことは一言も言っていないはずなのに、俺が悪者みたいな感じになっている。
罪悪感で押しつぶされそうだ。大人のくせに可愛い外見しやがって。
「あぁ~志樹君が美琴様を泣かせたぁ~」
「可愛らしい幼女を泣かせるとは、やっぱり最低な変態男ね。可燃ごみね」
「え、俺は……その……」
駄目だ。この空気には勝てない。まるで俺に選択権がないじゃないか。
「幼女校長。ごめんなさい……泣かないでください」
「じゃあ戦うのか?」
「っはぁー……」
戦いたくはないが、この空間を見ろよ。逃げ場なしじゃん。
校長代理はうんうんと頷き、神楽坂さんは敵意をむき出し、幼女校長は眩い笑顔。
常識的に考えてこんな状況で試合放棄することは許されないだろ。
「……分かりましたよ。一回だけ、神楽坂さんと戦いますよ」
「わぁ~い! 素直な志樹だいすき~!」
幼女校長は三輪車から降り、俺の足に抱き着いてきた。
年齢はともかく、体は小さないんだよな。そのギャップが可愛かったりするんだがな。
と言う訳で、なぜか神楽坂さんとの試合が決定してしまった。
「アナタ、覚悟しなさい。私、本気でぶっ潰すから」
やれやれ、彼女の殺意が痛いほど伝わってくる。
さっきの魔装雅楽を見るに、彼女は近距離型使いだろうな。
なら正々堂々、真正面から戦おうじゃないか。
今日は家でゴロゴロする予定だったが、急遽予定変更だ。
ポジティブに考えて。修行の成果を試す良い機会かもしれない。
なんたって、魔力はゼロだが、体だけは人一倍鍛えているからな。
「神楽坂さん、手加減はしないでくださいよ」
一応決めセリフ的な何かを言ってっみた。世の中楽しんだモノ勝ちだからな。