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能力値【零】の《最下位闘士》と言われていますが、覚醒すると危険ですので※ご注意ください※  作者: 椎鳴ツ雲
第一章 我の意志に名を示せ・魂を刻まれし魔装雅楽
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第一章・第二話 ミンチになりなさい!

 校長室に流れ込んでくる煙。その中心に立つ女性は眉間に皺をよせ、怪訝な眼差しを俺に向けていた。

 恐怖心から咄嗟に目をそらしたが、校長室に逃げ場がない以上、相手からは俺が丸見えだ。

 一瞬だけだったが見ることができた。確かに俺の部屋で見た女子生徒だ。

 だが、もし人違いだったらどうする? もしそこにいる女性が今朝の女性じゃなかったら?

 ハッキリと見ていないので断定することはできない。ここはシッカリと確認しないとな。

 彼女のことを見れば目を焼かれてしまう。かと言って見ない訳にはいかない。

 俺は、絶妙な角度に首を傾げ、彼女と壁の間を見た。まさにザ・シャフ度である。


「ちょっと何よその角度……私のこと、見ないでくれる? 目を燃やすわよ!」


「それはどうかな? 俺は壁を見ている。決して君を見ている訳ではない」


「え……あ、本当ね。言われてみれば顔はこちらを見ていても、目は壁を見ている」


「どうだこの角度。非常に首が痛いが、目を焼かれるよりかはましだがな。ふっ!」


「何をそのドヤ顔! 気に入らないわね! 見るならちゃんと見なさいよ!」


「断る!」


「その首が痛そうな体勢。見ているこっちまで痛くなりそうだからやめて!!」


「君を見ていないんだから問題ないだろ。それを大きなお世話と言うのだ」


「何よそれ……」


「見たくなければ見なくていい。君にはその選択権があるんだ」


「確かに……。ま、まぁ、いいわ。目は燃やさないであげる。で、なんの話だっけ?」


 彼女は考え込み、やがて本題を思い出す。


「そうよ。思い出したわ。で、そこの冴えない男、私に何か言うことは?」


 言うことか。朝の挨拶か? 謝罪か? それとも――褒めるだ!

 以前、女性は外見を褒められると嬉しいと雑誌で読んだことがある。


「祭祀学園の制服、似合ってるよ!」


「殺すわよ」


 違ったようだ。ならばやはり無難に謝罪の方なんだな。


「心からごめんなさい。首をさらにまげてお送りいたします」


「……」


 彼女は腕を組んだまま黙り込んでしまった。一体何がダメだったのか。

 女子生徒はため息をつき、舌打ちをした。何か文句でもあるのか?


「言いたいことがあるなら早く言えよ。この首の角度だと首が痛いんだよ」


「うん。まずはその角度をどうにかして。不自然すぎて見ているこっちが落ち着かない」


「でも角度を変えたら、俺は君の事を見てしまう。そしたら目を焼かれる」


「っはぁー……アナタ言ったわよね。見るか見ないかは自分で選択しろって」


「たしかに言ったな」


「なら、アナタが私に背を向けて話せばいいじゃない?」


「しかしだ。相手に背を向けて話すなんて邪道だ。それは大変失礼な行為だと思うぞ。だいたい、女性に尻を向けて話すなんて下品なことは、何があっても俺にはできない」


「奇妙な角度で目も合わせず会話をしている人間にだけは言われたくない台詞ね」


「じゃあ、背中を向ければいいのか? 君は俺の尻と会話がしたいのか?」


「呆れた。もういいわよ。思う存分、飽きるまで私の方を見なさいよ」


「目は?」


「燃やさないわ。こんなところでアナタを傷つけたら、校長代理に怒られるしね」


 校長代理がウインクをした。身の安全の保証を得た俺は首をまっすぐと戻した。

 さっきの角度、曲げっぱなしだったから肩と首の間あたりが今も若干痛い。

 首をポキポキと鳴らして痛みを軽減させていると、女子生徒も指をポキポキ鳴らしていた。


「ようやくまともに会話ができるわね。さて、覚悟はできてる?」


「覚悟?」


 彼女の方を見ると、まるでヤンキー映画に出てくるチンピラのような顔をしていた。

 

「待て待て、見ていいって言ったじゃないか! だから俺は君を見たんだ!!」


「私のことは見たいだけ見ればいいわ。でも……今朝の事件は別件よ。あれは許さない!」


「謝罪してもダメなのか!?」


「女性の全裸は高価な物なのよ!!」


 彼女は手を前に突き出す。現代魔闘士がこの動作をするときは間違いなくあれだ。


「【我の意志に名を示せ・魂に刻まれし魔装雅楽エシャンテ】 全てを砕け、【多照魅火槌たてみかづち】!」


 呪文を唱えた瞬間、部屋の温度がさらに上昇する。サウナ室から地獄風呂へと激変した。

 彼女は自分の胸部分から眩い光が放たれる。彼女を自らの手をそこへと移動させる。

 心の中から出てきた武器の鞘を掴み、力強く引っ張り出した。閃光が部屋を包み込む。


 やがて光は収まり、神楽坂さんへと視線を向ける。そこにあった武器に言葉を失う。

 彼女の手の中には、2メートルの大きさをほこる、赤いハンマーが握られていた。

 それが彼女の【魔装雅楽】だ。大きくて太くて、たくましくて強そう……。


「正気か? こんなところで武器を取り出すなんて?」


 この状況はさすがにまずい。魔装雅楽を使用するには【使用許可書】か【現代魔闘士生徒手帳】のどちらかが必要となる。これを持たずして能力を使った場合、二年以上の禁固刑、または五万円以下の罰金がかせられる。因みに現代魔闘士生徒手帳は一回目のホームルームで担任から渡される。

 しかし、おそらくではあるが、神楽坂さんは今日が登校初日。つまり、ホームルームはこの後である。

 さらに掘り下げて言うと、神楽坂さんはまだ武器の使用を認められてはいない状態だ。

 このことを真面目に彼女に伝えても、今のこの人の心には届かないんだろうなー。


「どうしよう……」


「ねぇ、クイズ。アメリカでは土葬、チベットでは鳥葬、じゃあ日本は?」


 何この人? 目が本気で怖いですけど。明らかに冗談を言っている顔ではない。

 許可書を持っていたとしても、人を殺す目的で武器を使った場合は重罪だ。

 彼女が俺を殺した場合、こまるのは彼女だ。それでは彼女が可哀そうだ。

 ……じゃなくて、俺が可哀そうだろ! なんで俺が死ななくちゃいけないんだよ!


「はやく答えてよ。私、我慢できないわ。恨み辛みで貴方が憎い。裸を見られるなんて……屈辱だわ!」


「待て、時よ止まれ」


「私はもう止まらない。一度決めたら最後までやり遂げる」


「それ以上近づいたら俺が溶けてしまう。うわっ、あつっ!? 床が焦げてる!?」


 彼女の前身はおそらくバーナーで暖められた鉄球のようになっていると思う。

 そんな熱い体に触れたら、俺の一般的な体なんて、火傷どころか溶けてしまう。


「なぁ、話そう。話せば分かる。あれは誤解なんだよ」


「でも、ノックしなかったのはあなたよ」


「なんで自分の家をノックしなきゃいけないんだよ。誰かいるなんて普通は思わないから!」


「シャワーの音で気づくよね? それでも風呂場に入ってきたのはやましい気持ちがあったからじゃないの!!」


「ぐぬっ、正論。確かに音がするなーとは思っていた……」


「でしょ! だから確信犯は殺す!!」


 この女性は今、明らかに俺を殺そうとしている。重罪になれば死刑の可能性もある。

 俺も死んで彼女も死んで。それじゃ誰も喜ばない。誰かお願いだから助けて。


「校長代理」


 俺は救いを求めて彼へと目を向ける。だが、彼はネイルファイルで爪の角質を落としながら整えていた。残念ながら、こちらの事など一切眼中にないようだ。なんて最低や奴だ。

 なぁ、頼むよ! 助けてくれよ校長代理! 俺は一応あんたの養子だろ。

 諦めずに熱い視線を送る。すると、彼は俺の視線に気づき、笑顔で手を振ってくる。


「志樹く~んがんばー♪」


 そうじゃない。助けろって視線だよ! もうこのバカ親父! コン畜生め!!

 なんでこんなに生徒がピンチなのに、助けないんだよ。鬼か? 最低か?

 それとも……。まさか、そういうことなのか? 俺は気づいてしまった。


「校長代理は、俺を試しているのか?


 人生に困難はつきものだ。一人で生きていけるために俺に試練を与えている。

 ここで道を切り開かなければ卒業はできない、そう言い事なのか、校長代理?

 だったら、俺も本気を出そうじゃないか。アンタの意思は受け取った。

 だから今度はそれに応える番だな。見ていてくれ、俺の有志を!!


 俺は覚悟を決め――――勢いよく倒れ、頭を下げた。謝罪こそが最高の策だ!


「ごめんなさい、なんでもするから許してください!」


 ディス・イズ・ジャパニーズ土下座。これをされたら相手もつい俺を許す。


「いま、なんでもって言ったわよね?」


「はい、なんでも!」

 

「へぇー、なんでも」


 頭を下げたまま数秒が過ぎる。

 神楽坂さんの攻撃が来ないという事は許してくれたのだろうか。

 恐る恐る顔をあげると――彼女はとても不気味な満面の笑みを浮かべていた。


「じゃあ死んで♪」


 なるほど。交渉決裂という事か。ごめんで済んだら警察はいらないよな。


「とりあえずアタナをミンチにして、私の裸を見た人間をこの世から消す。名案だわ」


「ミンチカツかぁ……」


 晩ご飯の食卓に並ぶのは嫌だが、女性の裸を見てしまったのも事実。

 それだけではなく、俺のウインナーまでもエクスカリバーしていたからな……。

 おかげで心の中はお祭り騒ぎのカーニバル。弁解の余地なし。

 牢獄にぶち込まれても文句は言えない。

 俺がミンチになることで彼女の気が晴れるのなら、俺は喜んで食卓に並ぼう。


「裸を見てしまったんだ。覚悟を決めるよ。気が済むまで俺を美味しいご飯にしてくれ」


いさぎよいのね。そういう男性、嫌いじゃないわよ」


 彼女はハンマーを力強く構え、天井が壊れる程高く振り上げた。

 校長代理がネイルから目を離し「あっ」と声をあげる。

 人の事は見捨てるくせに、自分の事になると焦るのかよ。

 彼の口からか細い声で「修理代」という単語が漏れる。

 死ぬ覚悟はできていたはずの俺だが、土壇場で怖くなった。


「やっぱり死にたくない! 車に踏まれたカエルみたいにはなりたくないんだ!! ――あ」

 

 その瞬間、奇跡は起きた。彼女がハンマーを上に持ち上げたとき、その風圧でスカートもめくれる。

 土下座状態の俺はまさに特等席。見上げると、目の前にはおパンツが……。

 赤いフリルのついた、大人の魅力あふれる情熱的な下着だ。

 お年頃で少し背伸びをしたい、という彼女の意思が伝わってくる。

 ガン見していると、それに気づいたのか、彼女はハンマーから手を離し、自分のスカートを抑えた。

 手から離れたハンマーは床へと直撃。地面をへこませ、器物を破損した。


「パ、パパッパパ、パンツ!? なに許可なく私の下着を見ているのよ!!」


「そこにパンツがあるから!」


 神楽坂さんの顔はみるみるうちに真っ赤に変わる。顔の色が髪の色と同化していく。

 今度は何にされる? ハンバーガーか? ウインナーか? もう、なんでもいいや。

 美しい女性の裸を見て、下着を見て、もう俺は満足だ。俺――消えるのか?

 また安い覚悟を決めたが、相手が俺を攻撃してくることはなかった。

 神楽坂さんは頭から湯気を出し、動揺を隠せないのか目を泳がせている。

 やがて彼女が召喚したハンマーも消え、光が神楽坂さんの心の中へと戻っていく。


「異性に下着を見られたことなんてないから、どう反応すればいいか……恥ずかしすぎて、体が熱いわね……。貴方を殺したいけど、恥ずかしくて逃げたい気持ちの方が優先されるわ……」


 彼女の熱に部屋のスプリンクラーが反応してしまい、天井から水のシャワーが降り注ぐ。

 校長代理は焦りながら机の上の書類を机の中にしまう。

 恥ずかしがる乙女と反応に困る俺。焦る校長代理と濡れる書類。なんだこの状況。

 この部屋にいる全員の服が濡れていき、各々の下着が透けていく。彼女は赤い下着だ。

 え、ナニコレ。どうすればいいのか分からない。誰か……説明をしてちょうだい。

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