最終章・第三話 祭祀学園闘技祭
年に二回行われる喧嘩祭り、正式名称は祭祀学園魔装雅楽闘技祭だ。
一対一の試合は毎回、祭祀学園に設けられた広いドーム状の建造物で行われる。
因みに闘技祭開催期間は町の人も自由にドームに出入りすることができる。
これはれっきとした祀られ巫女の信仰心を高めるためのお祭りだからだ。
観る人が喜べば、それだけで祀られの巫女である美琴校長の力となる。
今現在、俺はドームから少し離れたところでその建造物を眺めていた。
出入りする人が激しい。町の人が俺を横切り、中へと入って行く。
みんなが楽しそうな雰囲気だ。人が戦う光景はワクワクするからな。
何より、魔装雅楽はキレイな音を奏でる武器が大半なので音でも楽しめる。
戦いを見て楽しみ、戦う音を聴いて楽しむ。一石二鳥だ。
「闘技祭なんていうけど、結局は祭りなんだよな」
この場に立つのは初めてだ。ここで戦うことなんてなかったからな。
正直、緊張している。試合が始まってしまうのは分かるが動けない。
沢山の観客が見るまで戦うのか。俺はあまり慣れてないないんだよな。
「志樹。緊張しているのか?」
チャリンッと聞き覚えのある三輪車の鈴の音が耳に届く。振り返るとそこには――
「幼女校長、とその愉快な仲間たち」
いたのは彼女だけではなかった。メイド服を着た姿のイザベラもいる。
しかもイザベラの前には車いすに座った謎の女性。イザベラの母だろうか?
面影があり、髪の色は娘と同じ紅色だ。間違いなく娘と母親だな。
二人は笑顔を浮かべ、こちらを優しい笑みで見ていた。
その隣には、全身が包帯で巻かれた校長代理・嘉陽挙玖の姿が見える。
彼の左右には校長代理の娘で、俺の妹である日和と比奈乃が立っていた。
「兄ちゃん!」「お兄ちゃん!!」
二人の妹が抱き着いてきた。俺は二人の頭を優しく撫でた。
ここにいる人はだいたい分かるのだが、車いすの女性は?
その女性を見ていると、彼女は「ふふっ」とお上品に笑む。
「初めまして御影志樹君。私はイザベラの母、神楽坂フレイヤと申します」
「あ、よろしく願いします」
「娘がいつもお世話になっております。裸のお付き合いをしているとかなんとか」
「ちょっと母さん!? 変なこと言わないでよ!」
そうですよお母さん。あれは誤解なんですよ。あれはまぎれもない事故なんです。
「では、あの方に裸を見られたことはないのですか?」
「それは……あるけど……」
おいぃいい、そこは嘘でもいいから否定しろよ。ややこしいことになるだろ。
「兄ちゃん。最低だな」「お兄ちゃん……許さない」
早速俺に殺意を向ける人間が現れた。何度も言わせるな。あれは事故だ。
「それにしても校長代理、すごい怪我ですね。俺のせいで申し訳ございません」
「アハハー、ほんと筋肉痛よー……」
乾いた笑みを浮かべる校長代理のことを幼女校長が呆れた表情で見ていた。
「本当のだらしないな。それでも祭囃子かまったく」
「申し訳ございません……。最近校長の仕事が忙しくて修業ができていなかったので」
「言い訳か?」
「いいえ、愚痴です。今度いからちゃんと修行しますよ」
「それは助かる。お主がこの学園唯一の祭囃子だからな」
幼女校長は俺の方へと視線を向ける。何か伝えようとしている眼差しだ。
「なんですか?」
「なぁ、シキ、祭囃子に興味はないか?」
「んー、まぁ、正直興味はありません。ですが――目指す理由はできました」
「ほう」
「俺は沢山の人に支えられてここにいます。だから、恩返しがしたいんですよ」
全員の顔を見回す。一人一人と目を合わせ、俺は強く頷いた。
「祭祀学園の大会で優勝します。そして祭礼学園にも勝ちます。その後は全国へ――!」
「大きく出たな。過酷な道だぞ?」
「それでも俺は行きます。行ってみせます。俺の意志は固いですよ」
「それならワタチらは信じるしかないな」
「俺が優勝すればこの高校の知名度も上がる。そうなれば入学希望者も増える」
「あらぁ~なんて親孝行な息子なの。お父さん嬉しいわ~」
彼は笑みを浮かべ、俺も笑みを浮かべる。場が笑顔で包み込まれた。
「志樹く~ん」と校長代理。
「志樹」と幼女校長
「シキ」とイザベラ。
「志樹君」とイザベラの母。
「兄ちゃん」と日和。
「お兄ちゃん」と比奈乃が呼んだ。俺にはこんなにも沢山の味方がいるんだ。
全員が声を合わせ「頑張ってこい!」と俺の背中を強く後押しする。
「行ってきます!」
俺は新たなる一歩を踏み出した。まずは一勝。絶対勝つぞ!!
◆ ◆ ◆
試合開始五分前、俺は試合が行われる予定のフィールドの上に立っていた。
足場はアスファルト。横幅と縦幅は両者ともに20メートル前後だと思う。
広いので逃げることも可能だ。助走をつけた攻撃も可能な設計。
校庭で催し物が行われるフィールドよりちょっとこっちの方が大きい。
一番近い観客席からここまでは約5メートルだ。あくまでもなんとなく。
周りに被害が出そうなレベルの戦闘を行っても、観客には届かない。
分析をしていると、前方からは一人の男とそれを囲む複数の女性が歩いてきた。
「初めての試合はどんな感じだい? あと五分ほどで僕たちは殺し合うんだよ」
この男こそ、忘れるはずがない。金も女も全てを手に入れた男――郷間ウェイだ。
彼は校長代理と同じように包帯でグルグル巻きにされ酷いありさまだった。
昨日の事件で彼はボコボコになったのだろう。一応、申し訳ないとは思う。
「郷間」
「様をつけやがれこのゴミムシ!!」
「郷間様、魔装雅楽闘技祭は殺し合いではないですよ」
「うるさい! 僕の言葉を否定するな! 僕が殺し合いだと言えばこれは殺し合いなんだよ! なぁ、そう思うだろ女ども!」
「当然ですわっ!」「当たり前田のクラッカーです」「殺し合い以外に考えられません!!」
「ほら見ろ! これは殺し合いなんだよ!!」
「あ、そう。それでいいなら、それでいいと思う」
「ぐぬぬぬ。その態度。気に入らない……。御影志樹君、忘れるなよ。お前の秘密を僕が握ってんだ。僕がその気になれば、昨晩の犯人が誰か全校生徒に言いふらすことだったできる」
言いふらすことなら誰にだってできる。だが、果たして何人の人間がそれを信じる?
この世界にはもう、それを証明する証拠がないんだよ。
なぜならイザベラが彼のデータベースに忍び込んで。写真のデータを消してくれたから。
郷間の口調から分析するに、彼はおそらくまだUSBがないことに気づいてはいない。
なら、ここは何も知らないふりをして適当に彼に会話を合わせよう。
「そう、だったの……お願いだから、あの写真だけは……」
「ふっ! それでいいんだよ。君はダンゴムシのように丸まっているのがお似合いだ」
「ごめんなさい……」
それで、俺は彼とこれから試合をする訳だが、その前にあのメールが気になる。
「なぁ、郷間様、今日は珍しくなんで俺に試合に出る許可をくれたんだよ?」
「僕を格好よく見せるためだ。君とイザベラが戦った試合、実は僕も見ていたんだよ。すごいと思ったよ――僕ほどじゃないけど。それで、学園では密かに御影志樹という生徒に注目する生徒が現れた。最初は君をぶっ殺そうと思ったけど、冷静に考えたら利用できると思ったんだよ」
「ほー」
「今日の試合、君がクソメイドと戦ったときのように素早く動き回って、僕をどんどん追い詰めていく。次第に観客は負けそうになる僕を応援する。すると僕の力はどんどんどんどん強くなっていく。僕の魔装雅楽は人々の声援で強くなれる!! そして僕は格好よく華麗なる逆転勝利を手に入れる」
「そんなうまく行くのかな?」
「ハァ? うまくいくのかな……? うまく、するんだよ! 君が!!」
「俺が!? それってつまり、八百長試合をしろってことか?」
「当然だ。君はしょせん最強である僕の踏み台にしか過ぎない」
彼が最強であるのであれば、そんな八百長をする必要なんてない。
ならなぜわざわざこんなことをする? あ……まさか。
「実力で俺に勝つ自信がないとか?」
「ギクッ」
「最下位の俺に負けるかもしれないと思っているとか?」
「ババババッバババッカなことを抜かすなゴミ! 僕の魔装雅楽は最強だぞ! とにかく君は僕の言葉に従え。くれぐれも忘れるなよ、写真のデータは僕がもっているんだ。この僕が!!」
「あぁ、そうだったな」
「クソッ。お前と話していたら気分が悪くなった。試合開始時間までトイレに行ってくる」
そう言い残し彼は取り巻きの十人の女子生徒と共にトイレの方へと向かって行った。
八百長か。はなから八百長試合をする気はないが、負けたふりをするのはいいかも。
自由になった今、俺には選択権がある。逆転からの勝利もなかなか格好いいな。
緊張はしていない。トイレも大丈夫だ。周りから聞こえるのは生徒や市民の声。
楽しそうに会話を楽しんでいる。心地よい響きだ。これが歓声へと変わるのか。
拳に力をこめ、大きく深呼吸をした。今回は手加減無用。全力で戦える!!
× × ×
試合開始二分前。郷間ウェイはこちらを睨んでいた。試合前から戦闘態勢だ。
俺は彼の怪訝な眼差しなど気にせず、集まっていた観客を見回していた。
すると、司会席には見覚えのある眼鏡の先輩が座っていることに気が付く。
「浦和先輩だ」
彼女はマイクを握りしめてその場で立ち上がる。すごいやる気を彼女から感じる。
「皆の衆、祭りだ祭りだ! お爺ちゃんも、お婆ちゃんも、お母さんも、お父さんも、お兄ちゃんも、お姉ちゃんも、犬も、その他大勢のポーポー見てるかい!」
何あのテンション。普段は落ち着いた雰囲気の先輩がまるで今は別人のようだ。
「ついに始まってしまった祭祀学園魔装雅楽闘技祭! Bブロック一回戦の試合はなんと、今まで大会出場経験ゼロ、魔力もゼロ、能力値もゼロ。トリプルゼロなのにあの神楽坂イザベラに勝利した人物。学園でも有名人? 知っている人は知っている最下位闘士の異名を持つ祭祀学園二年生・御影志樹君だ!」
彼女の紹介に会場がざわつく。浦和先輩が書いた嘘の記事を読んだ生徒が、『あれ? 彼の名前どこかで聞いたような』と思っているのだろう。だがな、無理に思い出そうとするな。
忘れているのなら忘れる。あれは完全なる嘘で誤解なんだ。
俺とイザベラはハワイの海よりも綺麗な関係だ。淫らなことは一切していない。
「そして実況はななななんと! この祭祀学園唯一の祭囃子で、しかも校長の代理人を務めている男・嘉陽挙玖だぁああああ!」
「ハァ~イ、そろそろ二人目の祭囃子がほしいわぁ~」
「今年こそは今年こそはと言い続けて何十年。そろそろこの高校もヤバいのかぁ~~~!!」
ヤバイと思うなら浦和先輩も貢献しろよ。このままじゃ祭祀学園は潰れるぞ。
「司会進行は私は、実況は校長代理、そして最後にスペシャルゲスト!! じゃじゃん!」
「ワタチだ!」
「そう、この高校で一番偉いはずなのに見た目が一番幼い大人! 祀られの巫女・祭囃美琴様だぁああ!」
「ワタチは見ているだけ! 今日は思う存分、ワタチのために戦え!」
幼女校長が大はしゃぎをしている。そんな中、浦和先輩が会場を見回す。
「そういえば校長代理。今日はなんだか会場に来ている生徒の数が少ないような。もしかして昨晩なにかあったのですか?」
その発言に校長代理が鋭い視線を彼女へと送る。まるで殺し屋の眼なんだよな……。
身の危険を感じた浦和先輩は表情をこわばらせ、苦笑いをしながら謝罪した。
「アハハー。たまたまですよねー。昨晩は何もなかったですよねーアハハ」
昨日の話は一応一部の生徒だけが知っている。そして口外しないことになった。
暴走した俺が昨晩の事件の犯人だと言うことも、一部の人間しかしたない。
だからこそ、俺は今もこうして普通に学校に通うことができている。
みんなに感謝だ。感謝して、感謝して、そして感謝する。すごく感謝をしている。
「でぇー対戦相手はSSランカーの郷間ウェイです。今年もどうせ準決勝あたりまで行くんでしょ。はい以上」
すごく適当だ。校長代理に睨まれた彼女は一気にやる気をなくしてしまっていた。
彼女も黙り、校長代理も静か、幼女校長はワクワクしているだけ。
シ――――――――ンと静寂が訪れる。ときどき訪れる皆が静かになるよき。
「頑張れ志樹君!」と三年生の芋後リラ先輩の声が聞こえた。
「負けないでねメイドちゃんの彼氏君!」と紗代先輩が叫んだ。
あの先輩方、イザベラや妹たちと同じ列に座ってんだな。そしてまた静寂。
なんでこんなの静かなんだよ。もっとパッーッと盛り上がれよ。
そのあまりの静かさに校長代理がすぐに浦和先輩に声をかける。
「ま、まだ試合は始まらないわ浦和ちゃん、何か郷間ウェイ君に関しての紹介はないの?」
「えー。分かりましたよ。御影志樹君が対する相手は、成績優秀、スポーツ万能、学園のアイドル的なスター。顔は良いけど性格は残念。クール系でほっておけないタイプ? 祭祀学園二年・郷間ウェイだ!」
彼女の紹介に郷間ウェイがどや顔をしていた。お前な、途中で貶されていたぞ。
その時、「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」と市民が雄たけびを上げる。
「正直私は彼のことが大っ嫌いですけどね……さっさと負けてしまえ。この嘘つき野郎」
「浦和ちゃん、本音がだだ漏れよ」
微かに聞こえた浦和先輩の本音も、残念ながら市民の応援の声に掻き消されてしまう。
「彼は前回も前々回も試合に出ていますが、準決勝で敗れています。つまりかなりの強者で実力の持ち主です。三度目の正直で今度こそ都大会へ行けるか? ワクワクしますね。マジで」
そんなやる気なさそうに言われても困る。言わされてる感が半端ではない。
「じゃあ、試合を始めるぞ!! ワタチの合図で始まりだ! はじめ!!」
「……え、もう始まってんの!?」
試合ってこんな急に始まるのかよ。焦る俺とは対照的に郷間は余裕の表情を浮かべる。
「ふふっ。ついに始まっちゃってね。死刑執行が。君にクソメイドと同じようにしてあげるよ!」
彼は両手を前に突き出した。これが彼の魔装雅楽を召喚するときのポーズだ。
「【我の意志に名を示せ・魂に刻まれし魔装雅楽! ステージを紅蓮の豪火で焼き尽くせ ――火火篠鎖斗」
召喚された四つの案山子がそれぞれステージの端へと刺さる。そして炎のロープで繋がれる。
ものの数秒でただのフィールドの格闘技のステージみたいになってしまった。
「ファイアー!」
案山子の口から放射される火がみるみるとステージを炎で包み込んでいく。
郷間は火属性なのでこの暑い中でも大丈夫だ。だが俺は――……。
「あ~ごめんごめん。ついつい最初から本気出してしまった」
郷間の大技を見ていた司会進行役の浦和先輩が熱い実況をする。
「何だこの圧倒的な力は! 最高燃王の名にふさわしい迫力だ!? そのあまりのすごさに志樹選手は何もできない! 郷間選手は最高で最悪。誰にも負けない究極の力を持つ。格好いい! ……チッ……うざ。女の子にもモテモテな情熱的な男なのだぁ!!」
今、舌打ちしたようにも聞こえたが、気のせいだろう。それよりも今は試合に集中だ。
「行くよ志樹君。まずは僕が君を甚振るシーンから始めよう!!」
このリングの中では郷間が全ての主導権を握る。周囲の炎も自由自在だ。
右から火が来る。左から火が迫る。下から火が上り、上から火が降り注ぐ。
避けることは簡単だ。だが俺は、攻撃を避けずにすべてを喰らっていた。
「どうだどうだ志樹君!! 僕は強いだろ! 熱いなら降参したまえ!!」
「志樹選手、郷間の猛攻になすすべがない! このまま終わってしまうのか!!」
俺を攻撃し続ける郷間ウェイ。次第に彼の表情が不満の物へと変わっていく。
「なんで攻撃をよけないんだ。これじゃエンターテイメントにならないだろ」
「……」
「おい志樹、聞いてんのか? 予定通り君は僕の攻撃を避けて僕を追い込め」
「……」
全身が焼け焦げていく。ステージに放たれた炎が骨の髄まで焦がしていく感覚。
小此木やイザベラはこんなにも熱い火の中で苦しい思いをしていたのか。
郷間は火属性だ。彼が炎の苦しさを理解することはこの先一生ないだろう。
だが、だからと言って人を傷つけていい訳ではない。まずは人の痛みを知れ。
焼け焦げていく制服の火を消さないまま、俺は観客席へと視線を向ける。
イザベラや日和、比奈乃や先輩たち。掛け替えのない存在を目が合う。
「大丈夫だ。俺はもう誰も一人にはしない」
「アハハッハ燃えろ燃えろ! この際、エンターテイメントはもうなしだ! このまま君を倒して僕が勝つ! いける。いけるぞ。やっぱり君は恐れるに値しない最下位闘士だったんだ!!」
「なぁ、郷間。お前にとって仲間ってなんだ?」
「ハァ!? 試合中に何を言ってやがる! だが、聞きたいなら答えてやろう。仲間? そんなの駒に決まってんだろ」
「そうか。俺にとって仲間は力をくれる存在だ」
「それがなんだっていうんだよ! 早くくたばりやがれクソ雑魚がぁああああああああ!」
彼が五体目の案山子を召喚し、それを剣のように構えた。彼の攻撃が迫りくる。
俺はもう自由なんだ。高く、高く、高く羽ばたくことができる。反撃――開始だ。
「俺は魔力も能力値のゼロだ。あるとすれば、それはたぐいまれなる身体的能力のみ。あと強いているならば強い意志かな。意志が固いからこそ、この炎の中でも俺は俺でいられる」
「うるせんだよぉおおおおおおおおおおおおおお!」
「体術奥義:竜巻!!」
左足を軸に、左足で地面を蹴った。物凄い回転をすることにより、竜巻が発生する。
巻き起こされた風がフィールドの火や案山子たちを次々と天へと飛ばしていく。
もちろん防御にもなる。俺が作り出した竜巻は郷間の攻撃を完全に防いだ。
「な、なんだこの力は!?」
「最近の現代魔闘士は魔力や能力に頼りすぎている。体も鍛えなきゃダメだぜ」
「僕に指図するな! いいのか、そんな態度に出て、写真を――」
「バラまけよ」
「ハァ? いいのか?」
「いいぜ」
「ふっふははっははははっ、ならば後悔しろ!! このUSBを!! ……アレ?」
彼は武器を捨て、両手で自分の体に触れる。ありとあらゆるポケットを調べていた。
「な……ない!? 肌身離さず持ち歩いているUSBがない!?」
「これだろ?」
俺がUSBをポケットから取り出すと彼は動揺する。
「返せ!!」
俺は言われたとおりにそれを彼の方へと放り投げる。
彼は満面の笑みを浮かべ「よかったー」と安堵する。
「だが、データは消えてるぜ」
「……え?」
「データは消えている」
「……」
彼は崩れ落ちる。魂が抜けたような状態になってしまう。
「……僕の生き甲斐……力のすべて……俺は全国に行くんだ……君を脅して僕は楽しむんだ。君はしょせん僕のおもちゃ……あ、でも、復元ソフトをダウンロードすれば……きっと……」
「救えない奴だな」
彼の繊維は喪失だ。戦う意志はない。だが、俺はコイツに拳を叩きこまなければいけない。
イザベラを傷つけた分、小此木を苦しめた分、他人に迷惑をかけてしまった分。
「一言言っておくが、俺は能力値ゼロの最下位闘士と言われていますが、覚醒すると危険ですのでご注意ください。手加減はできねーよ」
「……ま、待て! 志樹君! 僕を許してくれよ。今までゴメン! 謝るよ!!」
「残念だが、俺の仲間を傷つけた罪は重い」
「お金か? やはり時代はお金なんだな。 一億円あげるから僕を勝たせてくれ!!」
「そうだなー。――断る」
救いようがないクズだな。どうせその金もお前の親父の金なんだろ。
金持ちになりたいのであれば、自分で苦労して稼ぎやがれ!!
「体術奥義!」
拳にありったけの力を籠める。右腕を一度後ろの方へと引き――
「右ストレートォオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
手加減なし。これが俺の全力だ。渾身の拳を彼に叩き込んだ。
「ひゃふひぃいあしぃいいいいいいいいいいいいいい!」
郷間の奇声が会場に響き渡った。彼の体は壁へと吹き飛ばされていく。
ゴォオオオオンと言う強い音と共に会場が一瞬にして静かになった。
見回すと、全員が唖然としながら、微妙そうな顔をしていた。
今の試合、振り返ってみたらお祭り要素はどこにもなかった。
音楽も楽器もないし。強いて言うなら炎のバチバチって音だけ。
たぶんこの試合は『つまらなかった試合ランキング』に入るな。
んー。エンターテイメント誠心かけていた。申し訳にない。
これでは幼女校長が激怒してしまう。つまらない! って。
一向にされない勝利宣言。俺、何か悪いことをしたのだろうか。
「で、結局、俺の勝ちでいいのか?」
一拍置き――
「シキぃいいいいいいいいいいいい」
「兄ちゃんかっこいぃいいいいいいいいいいいいいいい!」
「さすがお兄ちゃん……!」
イザベラや妹たちの声に続き、会場も大きな喝采をあげる。会場の空間が揺れた。
なんだこれは。多くの人が同時に喜ぶと、こんなにも場が揺れるのか。
「格好よかったぞ御影君! 俺はポンゴで祝福だ!」
「さすが彼氏君、なかなかの逸材だね! 私の目に狂いはなかった!」
全員が俺の勝利を祝福している。悪いことをした訳ではなくて安心した。
あっけなかったが俺は勝ったのか。なら応えよう。俺は拳を突き上げる。
初めての勝利。この勝利は俺だけのものではない。みんなのものだ。
両親の意志、校長代理や幼女校長の願い、妹たちの希望、先輩たちの応援。
そして何より、イザベラへの感謝。掛け替えのない存在のための試合。
この学園に入ることができて本当に良かった。そして――ありがとう。
これから俺はもっともっと恩を返していく。だから俺はもっと強くなる。




