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第五章・第三話 罪の償い

 浦和先輩にイザベラについて教えてもらった。彼女は今、魔女狩りに遭っているらしい。 

 魔女狩りの首謀者は郷間ウェイだ。彼は彼女を校庭の中心に設けられた十字架に縛り上げ、身動きが取れない状態のまま燃やしている。最初は俺が助けに行かなくてもいいと思っていた。

 イザベラは炎をつかさどる魔装雅楽の使い手だし、郷間の炎なんて効かないはずだ。

 この学園には俺よりも強い生徒がそこそこ残っている。きっと彼らが助けてくれる。

 俺の出る幕はどこにもない。このまま見て見ぬふりをして部屋に引きこもろう……。

 そもそも、なんで浦和先輩はわざわざ俺にイザベラのことを伝えの来たんだ?

 彼女には借りがある。さらに俺に借りを作らせる気か? 何を企んでやがる。


「何が目的だ?」


「そんな目で見ないでくださいよ。先ほども言いました。私ではあのナルシストゴミ野郎を止めることはできない。だから、彼を倒すことができる人間を探しているんです」


「なんで俺なんだよ」


「アナタしかいないと思ったからです」


「教師とか先輩方とかもっと強いヤツがいるだろ」


「そこが問題なのです。まず、郷間ウェイの父が社長を務める会社・郷間コーポレーションは毎年この学園に多額の支援金を提供しています。それにより、楽しい祭りが開催される。ある意味、郷間の会社がこの祭祀学園の何パーセントかを支えています。教師にとって彼は神のようなもの」


「そうなのか?」


 あいつが金持ちだとは知っていたが、まさか支援金まで出していたとは知らなかった。


「それに誰も彼の言葉に逆らおうとは思いませんよ。逆らう者がいれば、彼は権力と財力でその人生徒をぶっ潰す。そう……小此木四音がつぶされたときのように」


「――!? なんで浦和先輩がその名前を」


「アナタのことを少し調べさせてもらいました。当時は気にならなかった30人自主退学事件も、調べてみたら面白いことが分かりました。そこで私は考えたのです。この学園で彼を止められる人間がいるとすれば、アナタなのではないかと」


「意味が分からない」


「分からないですか? アナタには隠された力がありますよね。いうなれば封印された力が」


「そ、それは……」


 この人はなんなんだ。ただのマスゴミかと思ったが、調べるスキルはあるようだな。

 どこまで知られているか分からないが、ここは誤魔化すことはできそうにない。

 浦和先輩は俺の顔をまっすぐと見ていた。曇りなく眼差し……真っ直ぐな意志だ。


「知ってんなら、分かるだろ。あの力は危険すぎる。あの力は危険だから封印されてんだよ」


「危険? アナタは何を言っているのですか?」


「先輩こそ何を言ってんだ。あの力は暴走だ。30人の生徒を退学に追い込んだんさぞ」


「はい。退学・・に。で、それが何か?」


「アナタはバカなのか」


 どうして分からない。何度も同じことを言わせるな。

 あの力は恐ろしい力なんだぞ。俺の両親はあの力が危険と判断したから俺の中に封印したんだよ。あれが危険な力であることの証明はいくらでもできる。

 神楽坂財閥崩壊事件も30人自主退学事件も犯人は暴走した状態の俺なんだから。


「それで、どうするのですか? 時間は待ってくれませんよ。アナタが助けに行かないと言うのであれば、私は他をあたるまでです」


「……」

 

 他に心当たりがあるなら行けばいいさ。俺以上に強い生徒なんていくらでもいる。

 俺が行く必要なんてないんだ。俺が行く必要なんて……。俺が――


「行くしかないのかもしれない」


 このまま逃げていても意味はない。悩み続けながら生きていくのはイヤだ。

 殺意を向けられ、罪悪感を覚え、殺される恐怖が常に付きまとう人生。

 そんな学園生活。俺には耐えられる自信がない。

 もしかしたら、過去の出来事とけじめをつける時なのかもしれない。


「このままじゃダメなんだよな」


 正しい選択なんて分からない。俺はすぐに答えが出せるほど頭が言い訳ではない。

 ただ、俺はまだ本当の意味で神楽坂イザベラに謝ることができていない。

 本当の謝罪は俺自身の命を君に捧げて、初めて意味を成すと思う。

 俺は過去にとんでもないことをしてしまった。罪を償いことは当たり前だ。

 誰も知らない秘密。神や巫女が俺を許しても、俺が俺を許せない。


「浦和先輩。俺、イザベラの復讐を受け入れるよ」


「それがアナタの意志だと言うのなら」


 このまま俺だけが逃げ続け、生きていても何も変わらない。

 俺は過去にイザベラから沢山の者を奪ってしまった。奪われた者が返ってくることはない。

 君は俺を探している。恨みを抱えている。殺したいと思っている。

 俺みたいな犯罪者は野放しにはできない。君に裁かれるなら本望だ。


 両親は昔から口癖のように言っていた。『優しい子に育ちなさい』と。

 神殺しの一族は残酷な組織だ。それでも異端者である両親は優しい子に育てた。

 誰も殺さず、誰も傷つけず、神を殺さず、神を信じる者と和解するために。

 自分が優しい子かは知らない。ただ、確実に両親の意志は俺の中にある。

 きっと両親も、一人だけ罪から逃げ続ける俺なんて望んではいない。

 そこまでして生きたいとは思わない。これが俺の出した答えだ。


 覚悟を決めた俺は、拳に力をこめ、力強く玄関を開けて飛び出した。

 浦和先輩を横切り、学生寮の通路を全速力で駆けだした。

 彼女は今も復讐に燃え、神楽坂財閥の仇を探している。そしてその仇が俺なんだ。

 言葉だけの謝罪なんて意味がない。本当に申し訳ないと思うのならこの身を捧げる。

 誰かの人生を壊してしまった。罪悪感や危機感と共に生きる人生なんてイヤなんだ。


 だからけじめを付けに行くんだ。俺は拳に力を籠めて階段を飛び降りた。


 ↓   ↓   ↓


 一階の階段下で俺は足を止める。陰に隠れていた二人の女子生徒が現れる。

 月明かりと電灯に照らされて初めて見る二人の表情は、あまり好意的ではない。

 その二人の女子生徒は、ここから校庭へと向かう道にふさいでいた。


「行かせないよ。兄ちゃん」


「お兄ちゃんは……あそこへ行っちゃダメ」


 その二人の生徒とは制服を着た状態の義妹いもうと。嘉陽日和と比奈乃だった。

 俺と止めると言うことは、今現在校庭で行われていることを知っていのか。


「日和、比奈乃、お願いだ。俺を行かせてくれ」


「嫌だ! 兄ちゃんが神楽坂イザベラを助けたら、神殺しの一族の仲間だと思われる」


 思われるじゃなくて、俺は神殺しの一族なんだよ。そしてイザベラは違う。


「お前らにだって分かるはずだ。イザベラは神殺しの一族ではない」」


 二人は顔を背けた。日和も比奈乃も知ってんだ。知った上で助けに行けない。

 俺の妹たちは強い方だと思う、だが郷間ウェイには勝てない。

 だからこそイザベラを助けられる存在が必要なんだ。それが――俺なんだよ。

 そして彼女を助けた後は……この世界や妹たちともお別れだ。

 俺の意志は固い。きっと妹たちは俺の心を知ったうえで立ちはだかるのだろう。

 ここで見逃せば、俺とはもう会えない。直感的に二人はそれを感じ取っている。

 

「俺はもう決めたんだよ。罪を償うって」


「でも行ったら、もう後にもは戻れない。せっかく一緒に学園生活が送れるようになったのに……」


「それでも行く」


「お兄ちゃんは酷いよ……。比奈乃たちがどんな思いで今日まで生きてきたか……」


「それでも行く」


 日和と比奈乃の瞳から水滴が零れる。そんなことは俺だって分かっている。

 俺だって可愛い妹たちと過ごせる学園生活が続けばいいと心から願っている。

 だがな、人生はそんなに簡単じゃねーんだよ。過去の過ちは変えられない。

 自分が幸せになるために、他人を不幸にすることなんて俺にはできない。


「こんなお兄ちゃんでゴメンな……」

 

 その言葉が全ての答えだ。妹たちもその言葉を受け取り、二人は手を胸元にかざした。

 やっぱり戦わなくてはいけないんだな。妹たちとの喧嘩か……人生で初めてかもな。

 今思えば、俺らは遊ぶことを禁止されていた。だからこそ喧嘩などしたことがない。

 俺が何かを言えば、妹たちは「スゲー」とか「そうなんだー」と必ず同意した。

 だからこそ、妹たちは兄に歯向かうことはなかった。こんな二人を見るのは初めてだ。

 なんだか新鮮は気分だな。兄妹は喧嘩をするもの。俺も全力でその意志に答える。

 

「【我の意志に名を示せ・魂に刻まれし魔装雅楽】毒の元に全てを貫け――亜螺視虎あらしこ


「【意志に名を示せ】雷鳴とどろく――銅鑼具狸どらぐり


 日和の胸元に眩い光が集まり、彼女のその中から魔装雅楽である中さな吹き矢を取り出した。

 比奈乃も武器を召喚する。彼女が手を前に突き出すと、胸元から現れた光が前方へと集まっていく。やがて光が収束していき、形を成していく。彼女の前に灰色の銅鑼が現れる。


「お前ら、神楽坂イザベラが死んでもいいのかよ?」


「……もちろん神楽坂イザベラは大切な存在だ……。だが、私らにとっては兄ちゃんの方が大事なんだよ。いや、もちろん神楽坂イザベラも大事だけど……だけど……」


「それでも比奈乃はお兄ちゃんを止める。比奈乃たちとお兄ちゃんの幸せな毎日のために」


 妹たちの意志は曲がらない。俺の意志も曲がらない。これは意志と意志のぶつかり合いだ。

 本当は戦いたくはない。逃げられるものなら逃げたい――だが、隙がない。

 一歩でも動けば比奈乃の銅鑼で行く手を阻まれる。その隙に日和の毒矢を撃たれる。

 さすがは由緒正しき嘉陽家の人間だ。高校一年生でも既にかなりの実力を持つ。

 

「日和、比奈乃、二人がこの高校に入ってきて本当に嬉しかった」


「兄ちゃん……何を言ってんだよ……」


「お前ら二人は昔から厄介者で、歩く嵐なんて言われていた」


「……お兄ちゃん……やめてよ……」


「周りの人に迷惑ばかりかけて。新入生歓迎祭でも案の定問題を起こして。イザベラと喧嘩とかしてさ。騒がしい奴等だよな。それでも、俺はそんなお前らが好きだった」


 俺は語った。動けなくても口は動く。率直な思いを二人に伝えた。

 妹たちは顔を俯かせて顔を隠す。歯を強く噛み締めていた。


「なんだかよ。飽きないんだよな。二人といると。なんだか心が温かくなる」


「やめろよ……兄ちゃん……同情作戦なんて卑怯だぞ……」


「二人と出会えて、俺は本当に幸せだった。だから――ありがとう」


「兄ちゃん!!」「お兄ちゃん!」


 二人が俺のことを叫んだ。戦闘態勢に入り、俺へと攻撃を開始した。

 比奈乃が俺の四方を銅鑼で囲む。そして日和が吹き矢を構える。

 連携の取れたいい動きだ。だが、俺の速さには勝てない。

 俺が今日まで鍛え上げてきた身体的能力は二人を超える。


「こんなお兄ちゃんで……ごめんな」


 もう一度謝った。妹たちには悲しい思いをさせてしまう。

 俺は体を回転させ、周囲を囲んでいた銅鑼をすべて吹き飛ばす。

 銅鑼が光へと変わった瞬間、その明るさを利用して走り出す。

 

「比奈乃! 兄ちゃんはどこへ行った!!」


「分からない。どうしよう見失った」

 

 困惑する妹たち。俺は二人の背後に立っていた。日和と比奈乃の肩に手を置いた。


「兄ちゃん……なんであんな女のために……」


「ルームメイトだからな。俺は一度、小此木という友達を失っている。だからもう誰も失いたくはないんだ。俺が生きて、彼女が死ぬのはおかしい」


「おにい……ちゃん……」


 二人の首筋を叩いた。二人の体から力が抜け――ゆっくりと崩れていく。

 目覚めとき、俺はもうこの場にはいない。だが、大丈夫だろう。

 今は四月だ。温かい春。ここで寝かせておいても問題はないだろう。

 本当は部屋に返してあげたいが、俺には時間がないんだ……。

 日和と比奈乃をその場において振り返る。そして俺の前には――


「志樹、これが君の出した答えか?」


 子供用の三輪車のにった幼女校長、いや、祭囃まつりばや美琴みことの姿があった。

 今の彼女は普段の純真無垢な幼女ではなく、祀られの巫女としての顔をしていた。

 そこの幼さはなく、年相応の威厳のある佇まいをしている。これがもう一つの彼女の姿だ。


「イザベラのあの光景を見ることがどういうことだは分かっているのか?」


「分かってる」


「君は、小此木四音が傷だらけで帰宅したときと同じ状態になるぞ」


「知ってる」


「だが、君の目的は魔闘士学園卒業証書を手にすることだろ」


「そうかもしれない。でも、俺はもう決めたんだ」


「そうか」


 幼女校長は優しい笑みを浮かべた。その顔は妙に大人びて見える。

 きっと彼女はこんな日が来るのだと分かっていたのだろう。

 だから俺とイザベラをルームメイトにしたのだと思う。

 すべては俺に決断させるために、そして過去と向き合わせるために。

 イザベラが校長代理に保護されたのも必然なのかもしれない。

 これが彼らの意志だ。なら、やっぱり俺は応えなくてはいけない。


「なぁ、幼女校長、校長代理はこのことを知ってんのか?」


「いや言ってない。ヤツに言うと、いろいろと面倒くさいからなー。今頃は校長室で残業しているはずだ。まぁ、校庭での業火に気づくのも時間の問題だ。だから早く行け。この問題は御影志樹と神楽坂財閥の問題だ」


「あぁ、行ってくる」


「最期にワタチに最高のお祭りを見せてくれ」


 俺は走り出した。幼女校長を横切り、郷間ウェイのいる校庭へと向かう。

 幼女校長、今までありがとうございました。アナタと過ごした学園生活を俺は一生忘れない。

 彼女との思い出が走馬灯のように蘇る。思いえば、楽しいことがいろいろあったな。 

 もう会えないと思うと悲しいことだが……これでいいんだよ。

 

 ◆   ◆   ◆


 校庭に近づくにつれて郷間ウェイと共に魔女狩りを行っている生徒の声が耳に届く。

 前方を見ると、赤い炎が校庭を包み込んでいた。夜空には黒い煙が昇っていく。

 間違いない。浦和先輩の情報通り、あそこのにはイザベラがいる。

 さらに足を進めると、校庭が火の壁によって囲まれていることが分かった。

 その周りには何人かの教師や生徒が立っている。彼・彼女らは手を合わせている。


「おぉーこれは聖なる炎、我らの心を照らす奇跡!」「神よ、我らを温めて!!」


 狂ってやがる。ここにいる教師も生徒も誰も炎の中に飛び込もうとはしない。

 この中で何が行われているか知らないのだろうか。炎の中は何も見えない。

 激しい炎だ。何十人もの生徒がこの中にいて、郷間を称えているのだろう。

 郷間ウェイの魔装雅楽は、彼に向けられる尊敬の量で力が増幅していく。

 俺が想像していた以上にこれは一刻を争う事態だ。まずは中を見なくては。


 炎の前でどうするか迷っていると、炎の中からスピーカーで話す彼の声が聞こえる。


「超絶イケメンでお金持ちで優秀な僕はなんと! 神殺しの一族の一人を捕まえた!! この中にはコイツらに家族を殺された人間もいるはず! 思い出せ、その苦しみを、思い出せ、その悲しみを! 思い出せ、その屈辱を! 復讐に燃えろ、もっと燃えあがれ! そして僕を称えろ!!」


「「「「「おぉおおおおおおおお!」」」」」と生徒の声が空間を揺らした。


 団結力が間違った方向へと行っている。誰もイザベラを助けようとはしない。

 だいたい郷間は何を考えてんだ。神殺しの一族を口外することは危険なんだぞ。

 イザベラが神殺しの一族ではないにしても、嘘はときとして本当になる。

 神殺しの一族に耳にこのことが届けば、郷間ウェイは間違いなく殺される。

 講師陣はあてにならない。生徒も役に立たない。クソッ、もう時間がない。


 神楽坂イザベラが処刑されるまで――あと1分だ。


 待て。そもそも俺は何を迷ってんだ?

 殺される覚悟をしたんだろ?

 この期に及んで命乞いか?

 また、口だけの男になってしまうところだった。

 自分が情けない。最期の最期くらい男を見せやがれ。

 俺は何度目かは分からないが、再び覚悟を決めた。

 紅蓮の業火へと近づき、炎の中へと飛び込んだ。

 体が焼けるようだった。熱くて、痛くて……。


 ↓   ↓   ↓


 炎の中に入った瞬間、俺はその場に空気に吐き気を催した。

 生徒たちの禍々しい雰囲気、焦げた物の臭い、殺意に満ち溢れた空間。

 高校一年生も高校二年生も高校三年生も多くの生徒がここにはいる。

 そして皆が郷間ウェイを神のように称えている。なんだこの空気。

 圧倒されながら、それでも顔をあげる。視線の先には――


「イザベラ……」


 生徒の中心には十字架に縛られ、燃え盛る炎に焼かれた彼女の姿が見えた。

 制服は燃え、消し炭へと変わる。残されていたのは下着のみだ。

 彼女は俯きながら、動いてはいない。炎が肺に入れば苦しいはずなのに。

 生きているのか。死んでいるのか分からなかった。呆然と立ち尽くす。

 まさか、俺は間に合わなかったのか。また、救うことができなかった。

 彼女を助けて、その後はけじめをつけるためにここへ来たのに。

 俺はまた……誰も守ることはできなかったのか……。


「さぁ、皆! 神殺しの一族を殺そう! 俺らは英雄だ! 神の敵は俺らの敵だ!!」


 イザベラの処刑が開始されるまで――0分。郷間の言葉で生徒が武器を構える。

 あぁあ、あの時と同じだな。この胸糞悪い空気。俺が最高に嫌いな空気だ。

 こんなの間違っていだろ。

 なんで誰もイザベラを助けなかったんだよ。

 なんで誰も彼女が神殺しの一族ではないと主張しなかった。

 なんで誰も証拠もないのにイザベラを殺そうとするんだよ。


「許さねぇ……」


 こんな現実。俺は許さない。こんな結末。俺は認めない。だから全部、壊すんだ。

 ここにいる全員を壊す。罪のない人間の命を奪っていい人間なんていない。

 これは俺とイザベラの問題だ。その邪魔をする人間は――世界には必要ない。


「能力値ゼロの最下位闘士と言われていますが、覚醒すると危険ですのでご注意ください」


 そう呟いた瞬間。俺の心を縛り付けていた鎖があの日と同じように砕け散った。

 心の中からあふれだす魔力が俺の体を包んでいく。熱く。痛く。辛く。切なく。

 全身の魔力が、俺の意志とは関係なく動き出す。こうなって俺は、もう止まれない。

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