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第四章・第四話 ☆4=のマガジン

 今日は今までにないほどお祭りを満喫することができた。たこ焼きも食べて、綿あめも買って、型抜きもして、輪投げもして、射的ををした。おかげで財布は空だが思い出はプライスレスだ。

 楽しかったことを思い出しながら、俺らは学生寮がある方へと歩いていた。

 正確には、俺とイザベラだけが歩いていた。日和よ比奈乃はと言うと――


「兄ちゃん! 最高に高いぜ! 肩車はやはり最高だな!」


 俺は日和を肩車をしていた。体は鍛えているので妹を持つことくらいは造作もない。

 

「おふぃいちゃんのふぇふぁふぁはあふぁふぁふぁい(お兄ちゃんの背中大きくて暖かい)」

 

 なぜ比奈乃がこんな喋り方なのか。それは俺が彼女をおんぶしているからである。

 日和を肩車、比奈乃をおんぶ。そう、日和の尻に比奈乃の顔が埋もれているのだ。

 そこまでして比奈乃は俺とくっついていたのだろうか……。ただの変態じゃん!


 だが、なるほど。これはいいな。最高だ。最高すぎて最高な柔らかさだ。


 日和を肩車しているので、彼女のは温かい太股が俺の頭や耳を包み込んでいる。

 肌もスベスベしていて気持ちがいい。ほのかに香る汗の匂いも男の本能を刺激する。

 それだけではない。俺の背中には比奈乃もいるんだ。

 おんぶをしている比奈乃の胸が、俺に背中に押し当てられる。素晴らしい巨乳だ。

 柔らかい。実に柔らかいんだよ。この手で触ることができないのが非常に残念だ。

 妹たちの重い愛を感じる。感じるのだが……比奈乃は大丈夫なのだろうか。


「比奈乃、呼吸はできているか?」


「ふぁいふぉうふ(大丈夫)」


 まだ生きているようでよかった。顔面で感じる日和の尻ってやっぱり柔らかいのかな?

 兄妹むつまじく戯れながら学生寮の方へと向かっているとイザベラが不満そうな表情を浮かべている。


「アナタたちって本当に仲がいいのね。もしかして昔からそんなに仲良しだったの?」


「むかし……」


 イザベラの発言に日和がションボリとした声を漏らす。その発言は禁句なんだよな。


「兄ちゃんと私らは……」


 声だけで分かる。明らかに陽気なテンションだった日和の雰囲気が暗くなっていく。

 イザベラと日和は今日知り合ったばっかりだ。互いの過去なんて知るはずがない。

 だから仕方がないことではある。誰もイザベラの何気ない質問を責めることはできない。

 やがて俺の後頭部に水滴が落ちる。顔をあげると、日和は涙を流していた。

 その涙にイザベラが困惑する。何も知らない彼女は、日和の涙の意味が分からなかった。


「私らと兄ちゃんは……私らと兄ちゃんは……うわぁああああん!」


 彼女は泣いているせいで説明ができてはいない。日和の涙には心当たりがあった。

 俺らが今は、こうして一緒にいて、同じ学校に通えることは奇跡のようなものだ。

 今日よりも前、つまり彼女らがこの高校に入学する前は、嘉陽家のルールにより会うことが一切禁じられていた。あの家ではババ様の発言が全てだ。

 それは妹たちが嘉陽家の人間で、俺が御影家の人間であることと関係している。

 俺もなんだか過去のことを思い出していると、悲しい気持ちになってしまう。

 次第に背中まで冷たくなっていった。おそらく比奈乃も泣いているのだろう。

 妹二人と俺は三人とも辛い気持ちになっていた。兄妹揃って辛いことを思い出す。


「え、なんでシキまで悲しい顔をするのよ。ちょっと、誰か説明してちょうだいよ」



「兄ちゃんはな。あぁああああ。兄ちゃんは嘉陽家の一族に蔑まれて。うわぁああああん。部外者扱いされてうわぁあああん」


「日和ちゃんは何を言っているか分からないわ。シキ、どういうことなの?」


 説明するのは簡単だ。だが、これはあくまでも嘉陽家と俺の話だ。イザベラには関係ない。

 彼女に話してもそれはしょせんは過去の話。過去なんて関係ない。俺らは今を生きている。

 それでもイザベラが知りたいと願いのであれば俺は教える。彼女は俺のルームメイトであり、掛け替えのない存在だから。しかし、今はそれを説明するときではないと俺は思う。


「お兄ちゃんは――」


「比奈乃。それ以上は言うな。俺の辛い過去なんてイザベラには関係ない」


 代わりに説明してくれようとした妹を止める。話すなら俺の口から話したい。

 以前も話したが、嘉陽挙玖、つまり校長代理は俺の養親である。俺は彼に拾われたんだ。

 そして嘉陽家とは由緒正しき家系の一つ。彼らは部外者を受け入れたりはしない。

 校長代理の養子となったとしても、一族の人たちは俺を蔑み、避け、邪魔者扱いした。

 

 なのに若くて大人の事情とか一族のあり方が分からない妹たちだけは俺を俺として扱ってくれた。

 当時は三人とも小学生だった。年が近かったからか、俺らはすぐに仲良くなることができた。

 でも、俺が二人と仲良くしているのを知った嘉陽家の一族は、俺と妹たちを引き離した。

 御影家の人間とは遊んではいけない。けがれるから部外者に近づいてはいけない。

 それ以来、嘉陽家の人間が見ているところでの関りが一切禁止されてしまった。

 もちろん今のように肩車やおんぶをすることなんてできる訳がない。

 だからこそ、二人にとってこんな風に触れ合えることはある意味奇跡のようなものなんだ。


 正直俺は今でも信じられない。嘉陽家の代表であるババ様が二人の入学を許したとは思えない。

 きっとそこには俺が想像するよりもはるかに説得に苦戦した校長代理の姿があるのだろう。

 詳しい話は知らないが、とにかく二人は今ここにいる。俺はそれが一番大事だと思う。


「シキ、私には関係ないってどういう意味よ?」


 俺が妹の話を止めたせいで、今度はイザベラの機嫌が悪くなってしまう。

 妹たちが涙を流し、イザベラは不機嫌。俺もなんだか気持ちが沈んでいる。

 せっかくのお祭りあとだというのに、どうしてこんな暗い気持ちにならなければいけないのか。

 ここで誤魔化してもイザベラの機嫌がさらに悪くなるだけだ。だから素直に伝えよう。


「つまらない話だが、聞きたいのなら、部屋に戻ってからゆっくり話す」


「分かったわ」


 納得してくれたのか彼女は口をつぐんだ。四人とも無言になり静かになる。

 校庭の方から聞こえてくる軽快な音楽も、今は俺らの心には響かない。


「帰りましょ」


「そうだな」


 それ以外の会話をしないまま、俺らは帰るべき場所である学生寮へと向かった。

 祭りも終盤なので、俺ら以外にも帰る生徒の姿が割と沢山見えた。


 ↓   ↓   ↓

 

 学生寮へとたどり着く。俺とイザベラは二階の部屋で、妹たちは少し離れた一階の部屋らしい。


「神楽坂イザベラ、兄ちゃんのそばにいてくれよな」


「そんなのもちろんよ。メイドとしてご主人様に使えるのは当然のこと」


「そういう冗談はいいから……」


「じょ、冗談ではないわよ。……いや、ちょっと冗談だったかもしれないけど」


 それは暗い表情をしていた日和を励ますために行ったイザベラのネタだったのかもしれない。

 なのに、過去のことを思い出して落ち込んでいる妹は調子が狂うほど顔が暗かった。


「じゃあ、兄ちゃん、神楽坂イザベラ、私たちあっちの部屋だから……その。また明日な……」


「お兄ちゃん、神楽坂先輩、お休み。……お兄ちゃんに手を出したら潰すから」


「はいはい。お休み。手なんて出さないから安心してよね」


 比奈乃が先に背中から降りる。次に日和が俺の肩から飛び降りた。俺は二人に伝えた。


「明日は入学式兼始業式だから、くれぐれも寝坊はするなよ。遅刻厳禁だぞ」


「「うん」」


 二人は仲良く手をつなぎ、自分たちの部屋がある方へと向った。

 残された俺とイザベラは階段を上り、自分たちの部屋がある二階へと向かう。

 その間、イザベラが俺に何かを尋ねることはなかった。


「ねぇ、シキ」


「ん?」


「心の準備が出来たらでいいんだけど……私にもシキの過去の話をしてちょうだい。私はシキのことがもっと知りたいの」


「聞いてもつまらない話だぞ」


「それでも知りたいの。アナタのことを」


 俺は小さく頷いた。俺もイザベラに聞きたいこともあるからちょうどいいのかもしれない。

 同じ部屋のルームメイト。さらに絆を掴めるためには互いのことを知ることも大事なのか。

 

 部屋にたどり着く。ポケットから鍵を取り出した俺は鍵穴にさしてドアをアンロックした。


 ◆   ◆   ◆


 制服のまま居間にある卓袱台で対に座る。俺は彼女に過去を話すと決めた。

 なのだが、もう、何分経ったか分からない。

 まだ個人的に気持ちの整理ができておらず、何から話せばいいか分からないでいた。

 何かを話さなくてはいけない。イザベラは俺を信じて座りながら待ち続けている。

  

「……そうだな。まず、どこから話すべきか」


「シキの過去について聞きたい」


 俺は過去か。一番鮮明に覚えている記憶は、俺が嘉陽家の養子になった日のことか……。


「分かった」


 大きく息を吸い。そして吐き出す。昔のことを思い出しながら俺はゆっくりと語り始めた。


「比奈乃の言う通り、俺は部外者なんだ。苗字からして分かると思うけど、俺はもともと御影家の生まれなんだよ。そんな俺がどうして嘉陽家の養子となったか。俺が小学生だったある日、両親は一族を裏切り、俺と共に逃げ出した。そして彼らは俺を嘉陽家の玄関先に置いて、突然姿を消えてしまったんだ。どうやら俺のお父さんと嘉陽挙玖は親友だったらしく、校長代理はすぐに俺を受け入れてくれた」


 ただ、ここが問題なんだ。俺は中学生になったとき、その事実を校長代理から聞かされた。

 しかし、それはありえないことな。なぜなら、俺の両親が裏切った一族と言うのは……。

 これはイザベラには口が裂けても言えないことだが、嘉陽家とは相容れぬ存在。

 俺や両親が元いた一族と言うのは【神殺し一族】なんだ。

 この世界は神によって創られたわけではない、自然によって創られたのだ主張する一族。

 ただ主張しているならともかく、彼らは古くから実際に何百人もの人を殺めてきた。

 神に関係するものを絶対に許さず。神の下で使える者を野放しにはしておかない。

 先ほど校長代理の話で出た。『犯罪者から祀られの巫女を守る』に出てきた犯罪者とは具体的には【神殺しの一族】のことなんだ。ただ、これはとても危険な名前で、口に出しただけで命を狙われる。

 神殺しの一族はどこにいるか分からず、見つけることはできない。

 それでも罪のない人を殺していることは確実。年々犠牲者は増えていく一方だ。


 どうしてそんな無神論者の集団で育つた両親と嘉陽挙玖が親友だったか。

 もともと俺の両親が変わり者で、校長代理も変わり者だったからだと思う。

 彼らは無神論者でも有神論者でも理解し合えば、きっと仲間になれると信じていた。

 両親はたぶんそれを神殺しのおさに伝えたんだ。そして裏切り者扱いされた。

 命を狙われた両親は、俺を連れて三人で逃げ出したんだ。

 その後、俺は嘉陽家に引き取られ、両親は……たぶん追ってきた神殺しの執行人に殺された。 

 あの日、何があったか詳しく覚えてはいない。今となっては薄れゆく記憶だ。


「つまり、シキはその日からずっと迫害を受け続け、嘉陽家の養子として生きてきたんだ……」


「そうなるな」


「でも、シキの過去を聞く限り、やっぱり現代魔闘士ではない。校長のコネで入学できたとは考えにくいわ……。武器を持たない人間は入学できないはず……」


「実はな、嘉陽家に引き取られたその日から一週間くらい、俺は同じ夢を見続けていたんだよ」


「どんな夢?」


「俺の両親が左右に立ち、お札のようなモノをもって何かを唱えている夢。そのあと俺が苦しいー! って叫んで毎回起きるんだ。起きたときは汗を沢山書いて、心臓がバクバクしていたのを覚えている」


「悪夢ってヤツね。それで、その夢と今の話になんの関係が?」


「それでな、ある日、俺は夢で両親が唱えていた呪文を唱えてみたんだよ。我の意志に名を示せ・魂を刻まれし魔装雅楽って」


「それって、召喚のセリフじゃない。まさか、それで?」


「そうだ。胸の部分から光が放たれて、やがて収束した光が形を成す」


「でもアナタは魔力も能力値もゼロなのよね。召喚なんてできるの?」


「俺にも分からない。意志と魔力と能力値は別の物の様だからな」


「それでどんな武器なの?」


「それが、魔装雅楽と呼べる代物ではなかった。実際に見た方が早い」


 胡坐を書いたまま、俺は自分の胸部へと手をかざす。そして――唱える。


「【我の意志に名を示せ・魂に刻まれし魔装雅楽】 姿を現せ、亜斬武銃万あざぶじゅうばん


 眩い輝きがテーブルの上へと集まる。やがて光が収まり、武器がその姿を現した。

 置かれていたのは銃のマガジンだった。そう、マガジンだけ。ゴミ同然だ。

 これで殴るより、拳で殴った方が強い。これで防御するより、足で避けた方が速い。


「ナニコレ?」


 イザベラは期待通りの反応をしてくれた。これを初めて見たときの俺と同じ顔をしている。

 俺は確かに現代魔闘士のはしくれだ。だがこの武器を見て分かる通り能力値も魔力もゼロ。

 まぎれもなく最下位&まぎれもなく底辺。これでは一般人とか変わらないレベルだ。


「なんでマガジンだけなのよ。これだけあっても使えないじゃない」


「俺に言うなよ。魔装雅楽ってーのは人の意志を具現化したものだ。そして俺は別に武器を使おうと思ったことは一度もない。自分の体を動かした方が絶対に実戦では役に立つからな」


「ふーん。ちょっと見せて」


「いいけど」


 彼女がマガジンを手に取り、横のデザインを見た瞬間、眉間に皺が寄って顔が強張った。

 

「この横のデザイン……このマーク、どっかで見たような……思い出せないけど……」


 マガジンの横には『☆4=』と書かかれ、緑色の二重線が印象的。所詮はデザイン。

 魔装雅楽はいうなれば人の心だ。同じデザインの物は二つとして存在しない。

 人間の指紋やDNAと同じようなものだ。

 だからイザベラがどこかで俺のマガジンのデザインを見たなんてありえない。

 ☆とか4とか、よくある記号と数字だ。きっと勘違いだろう。それに――

 

「イザベラに俺の魔装雅楽を見せたのは初めてだ。どこかでみたなんてありえない」


「そうよね。ありえないわよね……。ありえない……わよね」


 彼女は思い出せな自分に不安を覚えつつ、マガジンを俺へと手渡してきた。

 俺は自分の意志で武器を眩い光にかえ、心の中へとしまい込んだ。

 イザベラは顎に手をあてながら、真剣な表情で何かを考えている。


「ねぇ、シキ。魔装雅楽が召喚できるってことは、アナタの魔力ってゼロじゃないんじゃない?」


「いいや。ゼロなのは確かにだ。今年測ったときもゼロだった。まぁ、正確にはゼロじゃなくて0.3なんだけどね。この世界には小数点まで測る高校なんてないから、結果的に俺はゼロ」


「魔力は?」


「0.3くらい?」


「一般と変わらないじゃない」


「でも武器は召喚できる。だから底辺ではあるが現代魔闘士だ」


「でも、なんで小数点までちゃんと計算しないのよ」


「そこまで細かく計算する必要がないからだろ。中学の時に習った気がするんだが」


「う、うるさいわね! 私は小学校は中退、中学校は全然行ってないのよ!」


 彼女は叫んだ。そこが俺の気になる部分だ。やはり彼女は義務教育を受けてはいない。

 イザベラの過去で知っていることと言えば『神楽坂財閥奇跡の生き残り』と言うことくらい。

 俺はもっと彼女の事が知りたい。彼女の口から過去について教えてもらいたい。


「ねぇ、イザベラ」「ねぇ、シキ」と声が重なってしまった。俺はどうぞどうぞと言う。


「じゃあ、私から。シキの目的って卒業証書を受け取り一人前として認められることでしょ。一人前になるのが目的なら、べつに現代魔闘士じゃなくてもいいんじゃない?」


「ん~……まぁ、そうなんだがな……」


 なんて言えばいいだろうか。本当は一人前の現代魔闘士になって神殺しの一族と戦うためなんだ。

 俺がこちら側の人間であることを言葉ではなく、意志で示せば本当の意味で皆と仲間になれる。

 今の俺はどんなにあがいても神殺しの一族の血を引いている。

 校長代理は「君は君」と言ってくれるけど、それじゃ俺の気が収まらないんだ。

 形として証明できるものがほしい。それが両親の最期の願いでもあるから。


「やっぱり両親の願いだからかなー。才能がなくてもやるしかないんだよ」


「それだけの理由でそこまで頑張れるの……私には理解できない」


 本当の理由はそれだけではないんだがな。いう訳にはいかない。まだ言えない。


「まぁ、そんな感じかな。さて、話は終わりだ。先にお風呂入るぞ」


 俺は立ちあがり、脱衣所へと向かおうとした。今日はさっさと風呂に入って寝よう。

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