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第四章・第三話 お祭り三本勝負 前編

 妹たちに腕を引かれ、強制的に校舎の外へと連れ出されていた。出た先は校舎と祭祀神社をつなぐ通路だ。この通路の左右には出店が並んでいる。見たところ、午前中よりも今の方が繁盛していた。

 どうやら今朝の段階ではどことなく遠慮していた一年生の生徒が、今じゃすっかりお祭り野郎だ。

 わいわいという祭りを楽しむ生徒の声が耳に届く。本当に楽しそうな声なんだよな。


 通路を歩く生徒の数は町で行われる祭りと比べると少ないが、通路をふさぐには十分な人数がいる。

 俺らはお祭りエリアの手前で立ち止まっていた。日和と比奈乃がどうするか話し合っている。


「まずはどうする比奈乃!?」


「夜ご飯?」


「おぉお! それは名案だな!!」


 晩ご飯か。気づけば空はすっかり暗くなっていた。左右に飾られた提灯には光がともされる。

 午前中イザベラと歩いたお祭りエリアは、まったく違う顔を俺に見せてくれていた。

 あの時は、浦和先輩に写真を撮られ、郷間ウェイと会ってしまい、いいことはなかったな。

 できれば、ヤツと遭遇する確率を下げておきたいのだが、この状況で逃げることは難しい。

 逃げたとしてもすぐに妹たちに捕まり『なんで逃げんだよ!』と言われるのがオチだ。

 それに、そんな不自然な行動を取れば、明らかに何かあることが三人にバレてしまう。

 ここは潔く妹たちと歩くしかないのか。俺は仕方なく覚悟を決めた。

 

「兄ちゃん! 決まったぞ! 私たちはたこ焼き食べるぞ!」


「そうか。なら食べてくればいいと思う」


「何を言ってんだ兄ちゃん? 兄ちゃんが出すんだぞ!」


「なんでだよ!?」


 日和は背負っていたカバンをおろし、その場で逆さにする。次々と中のモノがこぼれ出す。

 戦隊もののお面、けん玉、ヨーヨー、スーパーボール、消しゴム、謎なマスコットキャラクター、水鉄砲、女児向けのアニメキャラのお面、風船セット、うまい棒、魚のおもちゃ、などなど。

 どれもお祭り以外では使い道のなさそうなモノばかりだ。この大量のゴミは何なのだろうか。


「これは……なんだ?」


「アッハハハ~、実はさっき比奈乃とここへ来たとき、クジの屋台があって……」


「で?」


「一回500円で」


「で?」


「一等はPS4って書いてあって」


 なるほど。だいたいの話は見えてきた。日和は同様している影響で目を泳がせる。

 

「で?」


「パパから貰ったお金を全部くじに使ってしまった!! あと、比奈乃のお金も」


 最低なヤツだな。自分のお金だけならまだしも、妹のお金まで使ってしまうとは……。


「結局、PS4は手に入ったのか?」


「それが……無理だった。くじよりも先にお金が尽きてしまった……」


 もともとそういうくじには当たりが入っていない場合が多い。

 ここは楽しい学内のお祭りだが、中には何も知らない後輩からお金を吸い取ろうとする悪い輩もいる。

 お祭りの規定違反ではないし、当たりが出なかったという理由で訴えることはできない。

 PS4につられてホイホイくじに全お小遣いをつぎ込んだ妹にも非がある。


「兄ちゃん……ごめん……」


「なんで謝るんだよ。日和が貰ったお金だろ。使い方について怒ったりはしない」


「だからお金がないんだ」


 すると、妹たちは目を潤ませ、わざとらしく財布を取り出して逆さにして見せた。

 中からは埃すらも出てこない。正真正銘の一文無しだ。


「兄ちゃん、お願いだよぉ」「お兄ちゃん。お願いたこ焼きが食べたいの……」


 可愛い妹たちが、子犬のような目で見てくる。こ、これは卑怯だ。破壊力は抜群。

 正直メイド喫茶で食べた特別メニューのお金は俺が払った。俺は自分の人生において、趣味があるわけでも、ほしい物がある訳でもないが、無駄な失費は何となくさけたい。貯金は大事だと思うから。

 しかし、妹たちにこんな目で見られたら、金を使わないという意志も揺らいでしまう。


「兄ちゃん」「お兄ちゃん」


 迫りくる妹たち。俺は……俺は……。もうダメだ。こんな顔をされたら甘やかしてしまう。

 本当はお小遣いを使われた比奈乃の分だけ出すつもりだったが……。

 俺は瞳を閉じ、大きなため息をついた。まったく、今回だけは特別だからな。


「入学祝いってことで特別だからな。今度からお小遣いは計画的に使えよな」


「お兄ちゃん大好き」「わーり兄ちゃん大好き!」


 日和は地面に広げた物をリュックの中に無造作にしまい込み、それを背負った。


「んじゃ比奈乃、たこ焼き屋まで行こう!」


 妹たちには楽しそうに人込みへと飛び込み、たこ焼き屋の方へと向かった。

 俺の記憶が正しければ、真ん中の店あたりがたこ焼きやさんだった気がする。

 しっかりと見た訳ではないが、午前中は教師の一人がたこ焼きを作っていたと思う。


「アイツら気がはえーよ。お金を払うのは俺なんだからさ。先に注文しておく気か」


 俺はポケットから財布を取り出す。中には千円札一枚と五百円玉一つ入っていた。

 たこ焼きが六個入り300円くらいだとして、妹が二人いるから合計600円か。

 金は使うためにあるんだから、妹たちに使われるお金たちも本望だろう。

 お金とにらめっこをしていると、イザベラが俺の制服の裾を引っ張る。


「大丈夫なの? お金が足りないなら、少しだけ貸そうか?」


「いいよ。少しは入っているから。たこ焼きくらい余裕で買えるよ」


「シキがそれでいいならいいけど」


 俺らも人込みへと歩み、たこ焼きの出店があると思われる中央へと向かった。


 ◆   ◆   ◆


 出店までたどり着いたのだが――俺はすぐにそばにあった死角へと隠れた。


「なんで隠れるのよ? あの先輩、いい先輩じゃない」


「苦手なんだよ。声が大きいし、なんかいつも笑顔が眩しいから」



 クソォ。なんであの先輩がいるんだよ……。たこ焼きを焼いていたのはゴリラ先輩だ。

 そしてそのアシストをしているのは制服とエプロンを来た沙代先輩だった。

 出店の看板には『5分待ち』と書かれており、調理している真っ最中だ。

 彼はたこ焼きを作りながら、眩しい笑顔で妹たちとの会話を楽しんでいた。


「お、君たちは志樹君と一緒にいたお嬢ちゃんじゃねーか!」


「お前は誰だ?」


「アハハ~。いきなり失礼な態度だな。俺は三年生の芋後リラだ。先輩には敬語だぞ」


「先輩なのか!? じゃなくて、先輩なんですか!? ごめんなさい!」


「うんうん。それで、志樹君は一緒じゃないのかい?」


「兄ちゃんならいるぞ。なんでだか知らないが、あの角に隠れてなかなか出てこない」


 日和が俺の隠れている場所を見抜き、比奈乃が俺の方を指さした。

 見つかってしまったのなら仕方がない。俺は堪忍して死角の中から現れた。

 なんでよりによってこの声の大きな人がたこ焼き屋の店員やってんだよ。


「おぉ、志樹君! 俺から隠れているのかと思ったよ。ガッハハハハハ!」


 はい、隠れてました。また店の手伝いをしなさいと言われるのは嫌なので。

 オムライスはともかく、たこ焼きの作りからなんて知らないからな。


「いや~本当に元気で可愛い妹たちだな。俺は一人っ子だからうらやましいぞ!」


「へぇーそうなんですか。で、なんでメイド喫茶の厨房にいた先輩がここに?」


「あれはクラスの出し物で、これは部活の出し物だ。校内の出し物は6時までだからな、夜はこっちを手伝っている。紗代、タコとネギと準備しておいてくれ」


「あいよぉ~!」


 紗代先輩が、切り刻まれたたこの脚とネギが入った銀色のトレイを彼の隣に置く。

 ゴリラ先輩は会話をしながらも、自分がたこ焼きを作っていることは決して忘れない。

 彼の顔が真剣な表情へと変わる。木柄ヘリ引に力を持つ手にも力が入る。

 カッと喝を入れた瞬間、彼の大きな体からでは想像もできないほどの調理が始まる。

 繊細な動き、的確な調理時間。彼は音で料理をしている。たこ焼きの声を聞いている。

 まるで芸術だ。

 ジュゥウウと言うたこ焼きの鉄板の上で焼かれる油の香ばしい音が聞こえる。

 彼は「今だ!」と叫び、ヘリ引を巧みに使い、次々とたこ焼きをヒックリ返していく。


「この動きは……まさか!?」


 たこ焼きをヒックリ返す場合、多くの人間は球体に針をひっかけてヒックリ返す。

 しかし、その場合、本体に開いた穴から熱が入ってしまい、中まで焼けてしまう。

 一方、ゴリラ先輩はたこ焼き本体の皮だけを引っ掛けて回転させている。

 つまり、穴が置くことはなく、中はトロッ、外はパリッを実現させている。

 こんなたこ焼き、食べる前からでも分かる。美味しいに決まっているじゃないか。


「先輩、俺はあなたのことを誤解していました」


「お、なんだって?」


 彼に対する見方が少しだけ変わった。今までは厨房で指示を出すだけの何もできない先輩かと思っていた。だが、それは違ったんだ。彼はきっと、俺らの誰よりも料理が上手なんだよ。

 紗代先輩がゴリラ先輩の汗を拭く。たこ焼きをひっくり返し、反対側が焼けるのを待っている。


「ありがとう紗代。さて、もう少し待ってくれな。すぐにできるから!」


 彼は笑顔で言ったが、妹たちはヨーヨーで遊びながら聞いてはいなかった。

 俺の妹たちが自由人でごめんなさい。彼女らに悪気はないんです。


「なぁ、お嬢ちゃんたちは見ない顔だが、今年から入った一年生かい?」


「え? あぁ、そうですね。私は兄ちゃんの妹の嘉陽日和」


「比奈乃もお兄ちゃんの妹の嘉陽比奈乃」


「おお、日和ちゃんと比奈乃ちゃんか、いい名前だな! ……いい……名前?」


 その名前を聞いた瞬間、彼の眉間に皺を寄せて「ん?」と考え込み始めた。

 そして徐々に後悔したような表情へと変貌していく。この顔はなんだろうか?


「嘉陽ってまさか……校長代理の本名と同じ……?」


「そうだぞ! 校長代理は私らのパパだ!」


「なぁああああに!?」


 ゴリラ校長の顔が強張り、額から汗が流れ出す。鉄板の熱で出ている汗ではない。

 彼はあわわわ、と戸惑いはじめ、木柄ヘリ引を握る手が小刻みに震えていた。


「校長代理の娘に俺はなんて無礼なことを言ってしまったんだ!? これは、も、申し訳ない!!」


 彼は大いに取り乱す。ゴリラ先輩のサポートをしていた紗代先輩も焦りを見せている。

 校長代理って一見偉い人に見えるかもしれないが、あの人はあくまでも校長の代理人だ。

 この学園の生徒が彼の存在におびえるほど高い地位でもないし、偉い訳でもない。

 確かに彼は由緒正しき嘉陽家の跡継ぎで、しかもこの学園唯一の祭囃子だ。

 だが、由緒正しい家なんてこの日本を探せんば沢山ある。

 正しい家の人間だから、周りの人間が敬語を使わなければいけない訳ではない。

 俺らは同じ人間だ。同じ学校に通う生徒で、同じ時間を歩む学生だ。

 何より妹たちは嘉陽家で特別扱いをされていたので、学園での特別扱いを嫌う。

 彼女らは普通に暮らしたいんだ。日和はムスッとして機嫌を悪くする。


「せ、先輩、顔をあげてください。校長代理はそんな恐れるような人じゃないんですよ。ましてやその娘である日和と比奈乃に敬語なんてやめてください。先輩は先輩、後輩は後輩なんですから」


「そう……なのか? ため口をきいて退学処分とかにされないか?」


 そんなことしたらこの高校はマジで終わるから。する訳がないだろ。


「しないですよ。しないから今はたこ焼き作りを集中してください」


 彼は頷き、妹たちへと視線を向ける。そしてやる気に満ちた笑みを浮かべる。


「よっしゃー! 最高においしいたこ焼きを食べさせてやるよ!!」

 

 ×   ×   ×


 ゴリラ先輩名物のおいしいたこ焼きができた。妹たちがそれをおいしそうに食べている。


「はふっはふっ、おいしいけど熱い! 比奈乃、おいしいな!」


「うん。なんだかカリカリトロトロしていておいしさが口の中で広がる」


 妹たちの幸せそうな顔を見て、ゴリラ先輩と紗代先輩もつられて笑みをこぼす。

 嘉陽家の人間だろうと、ただの生徒だろうと同じ人間だ。立場なんて関係ない。

 おいしい物にはおいしいと言うし、まずい物にはまずいと言う。

 楽しそうに焼きを食べる妹を見ながら、俺もなんだか幸せな気分になる。

 そんな中、なんだか視線を感じた。横を見ると、イザベラが妹のことを見ている。

 いや、この視線は妹たちではなく、正確にはたこ焼きを見ている目だな。


「もしかしてお前も食べたいのか?」


「え、ハァ? え。い、いらないわよ! 私に金銭的な余裕はないから」


「いいよ。俺が出すから」


「いらないわよ。シキにも余裕がないことは知っているから……」


「あと900円残ってる。買おうと思えば余裕で買える」


 なのにイザベラは俺の財布を圧迫しないためにも「いらない」と言う。

 しかし、腹減りは実に素直だ。彼女の態度とは裏腹にお腹が大きく鳴った。

 彼女は腕を組み、恥ずかしそうにそっぽを向いてしまった。


「じゃあ、俺がたこ焼きを買って、一人じゃ全部食べきれないから、半分をイザベラにあげるってーならどうだ?」


「それなら……いいかもしれないわね。たぶん、いいと思うわよ」


「つーわけでゴリラ先輩、たこ焼きもう一つ」


「ゴ……ゴリラ先輩?」


 あ。やばっ。つい思っていたことを言ってはいけないことを言ってしまった。

 彼の顔が引きつる。顔が鬼の形相へと変わる。どうしようどうしよう……。

 これは確実に怒られるフラグ。絶体絶命――と思った瞬間、彼は笑顔を浮かべた。


「よく俺の名前が分かったな! そう、俺の名前は芋後いもごリラだ。だが志樹君に名乗った覚えはないのだが……」


「え、そうですか? いやー、初めて会ったときに言ってましたよ。イモゴリラって」


「そういえばそうだったな。アッハハハハ!」


 フルネームにゴリラが入っていて誤魔化すことができるとは思わなかった。

 変な汗を掻いてしまう。今度からはちゃんと彼のことを芋後先輩と呼ぼう。


 焦りつつ、紗代先輩にお金を渡し、ゴリラ先輩から容器に入ったたこ焼きを受け取った。

 俺とイザベラは出店の横へとそれ、誰の迷惑にもならない場所で食べ始める。


「シキ、本当にいいの?」


「遠慮はしなくていい。ほらっ、あぁ~ん」


「え!?」


 俺はようじたこ焼きをさし、イザベラの口の方へと近づけた。彼女は恥ずかしがりながらも「しょうがないわね……」と呟いて口を開けた。俺はたこ焼きを彼女の口の中に入れた。

 

「熱いから気を付けろよ」


「大丈夫よ。私、炎をつかさどる魔装雅楽の使い手だから」


 そういう問題なのだろうか。彼女は口元を隠しておいしそうにたこ焼きを食べている。 

 このまま二人きりの時間が続けばいいのだが……人生そんなうまくはいかない。


「あぁあああ、抜け駆けだ!! メイドとご主人駆け落ち展開は許さないぞ!!」


 たこ焼きを食べ終えた妹たちに見つかってしまった。やはりバレてしまったか。

 妹は手をかざし、魔装雅楽を召喚しようとした。これだから戦闘脳は困る。

 俺は半ば呆れた状態で妹に近づき、彼女の腕をおろして召喚を止めさせた。


「日和。さっき校長代理に言われたことを覚えているか?」


「えっとー、なんだっけ?」


 俺の妹は鳥頭かよ。


「魔装雅楽を使いたいなら学生証明書をもらうまで待てだ。今使ったら怒られるぞ」


「ぐぬっ……パパに怒られるのは嫌だな……だが、それならどうやってイザベラと決着を付ければいい?」


「そもそも決着をつける必要があるのか? ここは仲良く行こうぜ」


「だ――――め―――だ―――――! このままでは今みたいに神楽坂イザベラに抜け駆けさてれてしまう!」


 それの何がダメなのか分からないが、ここは日和に抗わないほうが得策かもしれない。


「神楽坂イザベラ! 私と兄ちゃんとイチャイチャできる権利をかけて勝負だ!!」


「何その権利? だいたいなんでいちいちフルネームなのよ。別にいいけど。で? 勝負? いいわよ。どうせ勝つのは私だから」


 知らぬ間に景品が俺になっていた。まぁ、それで解決できるのであれば俺は喜んで景品になろう。

 戦うことは確定だったので、今度は平和的に決着をつける方法を考えなければいけない。

 魔装雅楽は何があっても使えないので、俺は二人が平等に戦える勝負方法を考え始めた。

 俺が考えている間も、イザベラと日和の話はどんどん先へと進んでいく。


「魔装雅楽が使えないないのよね。なら、肉弾戦? 拳と拳、生身で戦う?」


「それは名案だな!」


「いやいや待て待て。どこがだよ名案なんだよ。誰かが傷つく勝負はなしだ」


「なら、何があるのよ?」


「そうだなー」


 顎に手をあてて周囲を見回す。……ん? これはもしかして。最高なのではないか?

 自分が今現在どこにいるのか考えてみる。思えばここはエンターテイメントの宝庫だ。

 この瞬間、この状況、この勝負、これを超えるアイディアは他にないだろう。


「誰も怪我をしない平和的で最高のアイデアがあるんだよ」


「何よそれ?」「兄ちゃん、もったいぶってないで言えよ!」


「忘れたのか? ここはお祭りだぞ? 勝負はお祭りだ!!」


「「お祭り?」」


「名付けて〖お祭り三本勝負〗だ!! これなら誰かが傷つくこともないし、お互いの筋力やステータスに差があっても関係ない」


「そうね。確かにそれなら平等よね。いいわシキ、そのアイディア採用!」


「さすがは私の兄ちゃんだ! さぁ、神楽坂イザベラ、覚悟しておけよ!」


 二人が不敵な笑みを浮かべて互いに顔を見合わせる。なんだかこの二人、楽しそうだな。

 どんなにいがみ合ってみても、楽しい気分にしてくれる。それがお祭りなんだ。


「それで、三本勝負って言うことは、勝負のジャンルが三つあるのよね?」


「その通りだ。勝負は型抜き、金魚すくい、輪投だ。型抜きは難易度の高い型を抜いた方が勝ち。金魚すくいは多くの金魚をすくった方が勝ち。輪投げは獲得した景品の数で勝敗が決まる」


「面白そうね。ふふふ、そうと決まれば早速型抜きの出店を探しましょ!!」


「それなら奥の方にあるぞ。神楽坂イザベラ、私に喧嘩を売ったことを後悔させてやる!!」


 二人はある意味仲良く人込みの中を進んでいった。走るタイミングもピッタリかよ。

 そういえば、さっきから俺の隣に立っている比奈乃は無言のままだ。

 日和やイザベラにライバル心を燃やして『比奈乃もやる』と言うと思った。

 彼女はぼそぼそと歩き出し「お兄ちゃん、いこ」と口にした。なんだか眠そうだ。


「あ、あぁ。そうだな」


 比奈乃にしては珍しいな。もしかして一日中歩き回っていたから疲れたのだろうか。

 思えば、あの活発な姉と一緒に行動していたからな。さすがに疲れて当然か。

 俺も歩き出し、比奈乃と共にあの二人が向かったと思われる型抜きの出店へと向かった。

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