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第三章・第五話 お呼び出し……

 学園に到着した妹の日和と比奈乃は、幼女校長の助けを借りて俺らを見つける。

 登場そうそう、愛するお兄ちゃんに四の字固めをしたり、ロープで縛りあげたり。

 妹たちの兄に対する愛情で俺のおなかはいっぱいだ。うんうん、嬉しい限りである。

 そんな俺らを見ながらイザベラが唖然としていた。やがて彼女がモノ申す。


「兄妹のくせにくっつぎすぎでしょ!! 今すぐシキから離れなさい!」


 離そうとするイザベラ、離したくない妹たち。三人の思いが真っ向から対立する。

 そして彼女らは二対一の試合を行うことになった。しかも廊下で。

 幼女校長の合図で戦闘が始まり、廊下の天井や窓が次々と壊れていく……。

 なんてことをしてんだよ。これじゃ校長代理が可哀そうだ。あぁ、悲しい。


 ◆   ◆   ◆


 三人が暴れた結果、俺らは校長室に呼び出されていた。まさかこんな日が来るとは。

 昨日来たばかりで、まさか今日もここに来るとは思わなかったな。


「ごほんっ……。でみんな、自分たちが何をしたか分かってる?」


 メイド服がボロボロのイザベラと制服がボロボロの妹たち。そしてなぜか俺がいる。

 ここにいるのは四人である。つまり幼女校長はいない。

 あのロリババア、校長代理に怒られるのが怖いからって一人だけ逃げやがったな。

 そんな俺らは一列に立たされ、校長代理は威厳のあるポーズで俺らを見ている。


「メイド喫茶の前の廊下で起きた戦闘。【学生証明書】すら持ってないのに試合をしたらしいじゃない。そこんところどうなの? 神楽坂ちゃん?」


「美琴校長の許可はいただきました」


「神楽坂ちゃん。許可を得たからって、何をしても許されると思ってんの?」


「それは……」


「世の中には限度っていう物があるのよ。例えばの話、誰かが『あの人を殺していいわよ』と言ったら、あなたはその人物を殺す?」


「殺す訳がありません」


「じゃあ、誰かが『このリンゴを潰してジュースを作っていいわよ』っていったら作る?」


「頼まれたのなら作ります」


「でしょ? つまりそういうことなの。TPOが大事なのよ。他の生徒に迷惑がかかる場所では、どんなに美琴様の許可が出てもダメなの。高校生なんだから、それくらい分かるでしょ?」


「すいません。思えば、何人かの生徒が窓から落ちていったような……」


「やーい怒られてやんの」


 日和がニッシシッと笑みを浮かべてイザベラのことを小バカにしていた。


「日和。アナタもよ。反省しなさい」


「はーい。すいませんでしたー」


 反省の色を見せない日和とは裏腹にイザベラは俯いたまま委縮いしくしていた。


「校長代理。本当に申し訳ございませんでした。私、まだ一般常識に慣れていなくて……」


「まぁ、生きてきた環境が無法地帯だったし、イザベラちゃんは裏闘技場で戦っていた人間だからねー」


 ……ん? 無法地帯? 裏闘技場? イザベラの過去に関係している単語が飛び出す。

 ここで『なんのこと?』と訊いてもよいのだが、さすがに訊ける雰囲気ではない。

 俺はそのことが気になりつつも、彼女らの会話を黙って聞くことにした。


「暴れたいのは分かるけど、学校が始まるまで待ちなさいよ。後一日の辛抱でしょ? 【学生証明書】があれば、能力は使い放題だからさ」


「……はい」


 待て待て。その言い方だと『校則を破ってもいいですよ』にしか聞こえないんだが。

 能力は確かに使い放題だが、授業以外で他人を傷つける目的で使ったら校則違反だぞ。

 校長代理はいつも言葉が足りないんだよ。こんなんだからいつも大変なことになるんだって。

 まぁ、明日になれば生徒手帳も渡されて、そこに全部校則が書いてあるけどさ。

 今度また器物破損を招くような出来事がないように、イザベラには読ませないとな。

 

「校長代理。勝負事になると前が見えなくなるもので……」


 イザベラは顔を俯かせて本気で落ち込んでいるようだ。今回は確かに物を壊しすぎたからな。

 それを見ていた校長代理が頬を掻き、少し言い過ぎたかなーみたいな顔を浮かべる。

 ここまで落ち込む彼女を見るのは俺も初めてで、どうしたのか心配になる。


「神楽坂ちゃんの気持ちはもちろん分かるけどぉ……少しくらい『我慢』という言葉を覚えてよね~」


「……はい」


「反省しているようだから、これ以上は言わないわ。さてよ、次は日和、比奈乃」


「なんだパパ!」


「パパ、久しぶり、元気にしてた?」


 彼の娘で、俺の妹たちである二人が反省の色を全く見せずに元気よく返事をした。

 そんな反応をする娘たちを見て、校長代理は小さくため息をついた。


「まさかこんな形で再会するとは思わなかったわ。いや、考えてみてばいつものことよね。仕事で忙しかったから、あまり面倒を見てあげられなかった。二人いるところに嵐あり。二人がこうなったのは私のせいなのかもしれない。……でーも、校則違反は校則違反。全生徒平等に扱い、悪いことをしたら叱ります!」


「パパ……ごめんなさい……私、元気すぎるせいで……。こんなお転婆に生まれてきてごめんなさい……」


「比奈乃、お兄ちゃんのために頑張りたくて……ごめんパパ。お兄ちゃんのために頑張ってごめんなさい……」


 日和よ比奈乃が瞳を潤ませ、大粒の涙を流していた。うわぁー胡散臭いんですけどー。

 妹たちのウソ泣きに父は騙され、彼は突然の涙にあたふたと焦り始めた。


「どどどどうしたの日和ちゃん!? 比奈乃ちゃんまで泣いて!? どこか痛いの!?」


「パァパァー、ごめんなざぁあい。私パパに褒められたくて、うわぁああああん!」


「比奈乃も実はお兄ちゃんのためじゃなくて、すべてパパのためも戦ったの……パパァに褒められたくて。ずっと会えなかったから褒めてもらえなくて、ぐすんっ、ぐすんっ」


 お兄ちゃんの扱い雑だな。都合が悪くなると、切り捨てられるのかよ。

 妹の茶番に騙されている校彼は、二人の涙を見て校長代理から父の顔に変わる。


「愛娘たちが私のために戦ってくれていたなんて…………私の胸に飛び込んできなさい!」


 校長代理が校長席から立ち上がり、テーブルの前へと出てくる。そこで手を広げる。


「パパー!」


「パパ!」


 妹たちが彼の元まで駆け、力強いハグを交わす。

 なんて素晴らしい家族の光景なんだ……と俺は思わない。なぜなら全部嘘だからだ。

 彼女らは校長代理の腕の中で笑みを浮かべ、互いに見つめあって親指を立てている。

 おーい、涙はどこへ行った。なんで校長代理はあんな演技に気づかないんだよ?

 やっぱり自分の娘は可愛いものなのだろうか。まぁ、いいけど。

 やがて校長代理が二人から体を離し、妹たちの肩を置いた。


「頑張ったのは嬉しい、悲しいのも分かる。でもパパは許しません! 校則は校則! パパはお父さんでありながら、この高校では校長の代理人なんだから。生徒は皆、平等に――


「パパ大好き。だから許して……パパ大好き」


「愛してる。比奈乃のパパはパパしかいない」


「うん、許す!」


「「おい!」」


 イザベラとハモってしまった。さすがに今のはねーよ。驚きのあまり声が出てしまった。


「ちょっと校長先生、正気に戻ってください! 彼女らは私と同じで【学生証明書】をまだ貰っていないのですよ。正式にはまだ学生ではないはずです! 同じ扱いをしてください」


「はぁう! あ、危なかったわ。もう少しで許してしまうところだった。ありがとう神楽坂ちゃん」


「チッ」と日和がイザベラに聞こえるようにわざとらしく舌打ちをした。

 比奈乃も恨みの念を込めた眼差しでイザベラを睨みつける。妹たちこわっ。


「なんで、なんでそんな目で見るのよ……これじゃ私が悪者みたいじゃない……」


 彼女は口を尖らせて視線をそらした。


「こんな目をされたのは二回目だわ……ほんとありえない……さいあく……」


 犬猿の仲の様だ。イザベラが視線をそらしても妹たちは彼女を睨み続けている。

 そんな愛娘を見て校長代理は大きなため息をついた。本日何度目のため息だよ。


「結論から言うとね、べつに三人とも罰はないのよ。神楽坂ちゃんはメイド喫茶の手伝いをしていたし、

学校行事に貢献していた。それは祭祀学園の学生として最高の行いだと思うから。試合の許可を出したのは美琴様。全ての元凶は美琴様。悪いのも美琴様。TPOなんて言ったけど、この高校において美琴様の言う事は絶対。アナタたちは美琴様のお言葉にしたがっただけ。でもね、やっぱりここは高校だから、形だけでも怒っておかないと、ほかの生徒に示しがつかないのよ」


「じゃあ、パパは私たちのことを許してくれるのか?」


「そりゃ許すわよ。最初から許すつもりだったし」


「停学処分もない?」


「三人とも反省してる?」


「「「はい」」」


「じゃあ、ないわ。だから、残りの時間はみんなで祭りを楽しんでいらっしゃい」


「パパ! ありがとう! おこずかいくれるか!!」


「パパ。私、いろいろ食べるお金が欲しい」


「しょうがないわね~」


 校長代理は財布から二千円を取り出して、愛娘たちに手渡した。二人は「わーい! ありがとー!」と喜びながら校長室を出て行った。あの二人は本当に反省しているのだろうか……。


「校長代理。失礼します」


 イザベラは浮かない顔をしたまま、彼に頭を下げ、校長室を後にする。

 さて、俺も行こうかな。そもそもなんで俺までここにいるのか謎だし。

 出入り口の方へと歩み、三人がいる廊下へと出ようとしたとき――


「ちょっと志樹くん。待ってー」


 俺は校長代理に呼び止めらた。振り返り、心配そうな表情を浮かべると目が合う。


「なんですか?」


「そのね、可愛い娘達をよろしくねん。お兄ちゃん♪ あの二人には、きっとあなたが必要なのよ」


 なんなんだろうな。この人は妹のさっきの涙が嘘だと知ったうえで演技してんのかな。

 真相は分からないけど、きっとあれが彼なりの愛情表現なんだと思う。

 俺から見ればあの二人に必要なのは俺よりも校長代理だと思うんだがな。

 でもま、あの二人に俺が必要なんだと言われたら、俺から言えることは一つ。


「安心してください。日和と比奈乃は俺が守りますから」

 

 校長代理は微笑んだ。俺もハニカミ、くるっとターンをして格好よく校長室を後にする。


 ◆  ~3分後~   ◆


 決め台詞を言った後に校長室を出たのだが、ものの数分で戻ってくる羽目になった。

 幸い、イザベラと妹たちが戦闘を繰り広げて戻ってきた訳ではない。

 廊下に出た俺は早速妹たちがいないことに気づいた。守ると誓った矢先の出来事だ。

 その後、お祭りエリアや祭祀神社などを走り回って探したが、どこにもいなかった。


「どうしよう……拉致とかされていたら俺はどうすれば……」


 最悪のシナリオが次々と頭の中に流れ込んでくる。いきなりいなくなるなんて不自然だ。

 いや、冷静に考えて見たら不自然ではないか。

 あの二人の場合、目を離したすきにいなくなるからな。妹たちはただの自由人だし。

 どうしようか悩んでいると、校長代理が「まぁまぁ、リラックス」と言い出す。


「日和ちゃんと比奈乃ちゃんは自由人よ。好きな時にどこかへ行って、好きな時に好きなことをする。それに、校内放送で呼び出したから。そのうちここへ来るわよ」


「妹たちが自由人なら、校内放送で呼び出しても来ないんじゃないですか?」


「あ、確かに」


「それに、拉致とかされていたらどうします? 今日は新入生歓迎祭ですし、知らない顔の生徒も沢山います。知らない生徒の中に生徒ではない犯罪者が紛れていたら……」


「もぉ~志樹君は心配性だなー。私の娘たちは嘉陽の血を継いでいる。結構強いのよ?」


「そうですけど……」


「まぁまぁ、そのうちお祭りに飽きたらここへ戻ってくるわよ」


「そうなることを願いましょう」


「シキ、大丈夫?」


 落ち込む俺の背中をイザベラが優しくさすってくれる。彼女の体温が温かい。


「そんなに気にちなくていいじゃない? あの姉妹だってもう高校一年生なんだから」


「そうかもしれない。だが、数分前、俺は二人を守ると誓ったのに……。何も言わずにいなくなるなんて、そんなことをされたら不安になるのは当たり前だ」


「でも、守ると過保護は違うと思うわよ。彼女らにだって自由はあるの。それに、あの二人が行先も言わずにどこかへ行くのはなんだかありえることじゃない? あの性格からして」


「そうだな」


「でしょ。だから、私たちにできることは何もない。待つことだけよ」


「そう、だな」


 彼女の言葉に励まされ、俺の顔に少しだけ笑顔が戻っていた。久しぶりに妹たちと会ったので頑張ろう! と思っていたが、変に張り切りすぎて自分を追い詰めていたのかもしれない。

 いつも通りでいいんだよな。たぶんそれが最も正解に近いことだから。

 イザベラのいう通り日和も比奈乃ももう高校一年生。いつまでも子供ではないんだよな。

 守るときは守る。自由にさせるときは自由にさせる。俺は兄として二人の成長を見守るよ。

 亜螺視虎あらしこの所有者である嘉陽日和と銅鑼俱狸どらぐりの所有者である嘉陽比奈乃。

 二人が入学してきたことは嬉しいことだ。ただ、これから大変になるんだろうな。

 先のことを考えると不安になる。問題を起こさなければいいのだが……。

 一人じゃきっと今もずっと心配していただろうが、今の俺には友がいる。


「イザベラ、ありがとうな」


「何が?」


「なんでもない」


 なんだか心が軽くなった気がする。やっぱり隣に誰かがいるって本当に温かいことなんだな。

 イザベラが隣にいてくれることで、俺はなんだかんだ言って救われている。

 だから俺は、もう誰かを犠牲にしたくはない。イザベラも妹たちも全部まとめて守るんだ。

 そう誓った俺は、拳に力を込めた。一度失ったからこそ、その大切さが俺には分かる。

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