表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
能力値【零】の《最下位闘士》と言われていますが、覚醒すると危険ですので※ご注意ください※  作者: 椎鳴ツ雲
第一章 我の意志に名を示せ・魂を刻まれし魔装雅楽
1/29

プロローグ 風呂場に見知らぬ女子生徒!?

 やはり日々の朝練というのは大事だな。良い汗を掻いた後は気持ちがいい。


 これは新入生が入学する一日前の話。


 祭祀さいし学園の生徒ら、たぶん200人くらいが前日祭で盛り上がっていた。

 能管のうかん篠笛しのぶえ龍笛りゅうてきなどの笛の音が耳に届き、和太鼓の力強い音が空間にとどろいていた。低音の大太鼓や中音の締太鼓しめだいこ団扇うちわ太鼓や大拍子だいびょうし。高音を担当する打楽器の鉦鼓しょうこなど。この高校には、新入生歓迎祭の前に、在校生だけが行う祭りがある。イメージは夏祭りだ。

 

 まっ、俺にとっては関係ない話だがな。個人的に祭りよりも練習の方が大事だと思う。


 日課である朝のランニングを終え、俺は自分の部屋がある学生寮へと向かった。 


 ×   ×   ×

 

 202号室。寮のドアノブを捻り、ドアを開け、靴を脱いで中に入る。

 自分の部屋と言うのは実に落ち着く。まるで自分の世界にいるような感覚。 

 この部屋にはルームメイトがいないので、俺はその場で服を脱ぎ捨てた。

 フルチンであっても誰も俺に文句を言わない。なんて素晴らしいんだ。


「さて、シャワータイムだ」


 脱衣場に置かれた乾いたタオルを掴み、シャワールームのドアを――開けた。


「……って……ん?」


 お、おう。ドアを開けた俺は少しだけ状況が理解できずに硬直した。

 目を瞬かせる。……うん、いる。目をこする。……うん、いる。

 目をこすってもいるということは幽霊ではないのだろうか。

 見間違いではない。そこには確実に質量のある人間と呼ばれる生き物がいる。


 風呂場には美しいフォルムをした、身長160cmくらいの女性が立っていた。

 彼女はシャワーを使い、髪を濡らしている。濡らすというより洗っているのか。

 紅蓮に輝く紅色のキレイな髪。その長さは身長と同じくらいあるだろう。

 ザーザーと言う水の音だけが響く。これの音の影響で俺に気づいていないのか。

 確かに髪を洗っているときって、意外と周りの音が聞こえないんだよな。

 それにしても……。なんて綺麗な白い肌と曲線美なんだ。

 何より魅力的なのが胸――ではなく、あの舐めまわしたくなる美しい足だ。

 すごく長くてまるでモデルさんのような抜群のプロポーション。


 ジッと凝視していると、つい「可憐だ……」と吐息交じりに漏らしてしまう。

 彼女は蛇口を閉め「誰!?」と叫んだ。俺は突然の出来事に焦って逃げようとした。


「やばっ!?」


 しかし、手に持っていたタイルを踏んでしまい、バランスを崩してしまう。


「なぁああああに!? やっちまったな!! 男は黙ってあわわわ!?」


 手を回してバランスを取ろうとするが……もう手遅れだ。あとは倒れるのみ。

 俺の体は、後ろ向きのまま倒れそうになり、風呂の方へと入って行く。

 滑りやすい床に足を取られそうになったが、どうにか片足を下げた。

 踏ん張ることで、間一髪で転倒だけは防ぐことができた。

 浴槽に後頭部をぶつけたら痛いからな。それよりもこの状況……。

 顔をあげて、可憐な全裸少女へと視線を向ける。自然と目が合ってしまう。

 彼女はお~~~~きく息を吸う。この行動パターンは理解している。


「叫ぶのだろう? 叫ぶなら思う存分叫ぶがよい。だが、まずは話を聞いてくれ。これは誤解なんだ! 俺は別に君を襲うために風呂場に入ってきた訳ではない。偶然持っていたタオルで滑ってしまい、偶然こっちの方向へと倒れ込み、偶然ここに入ってしまったんだ!」


 逃げも隠れもしない。俺は正々堂々とする。裸の付き合いだ。気が済むまで話し合おう。


「――」


 叫ぶと思ったのだが、彼女はなかなか悲鳴をあげない。なぜだろうか?

 顎に手をあて、彼女の顔をよく見る。なるほど、女性は白目を向いていたのだ。


「立ったまま気を失ってしまったのか……って、それはヤバイ!?」


 体の力が抜けて倒れるに決まっている。そう思った瞬間、彼女の全身の力が抜けた。

 このままでは彼女が床か浴槽に頭を打ち付けて、頭蓋骨を怪我をしてしまう。

 俺は手を伸ばした。こんなかわいい女の子を病院送りにする訳にはいかない!


「よしっ!! キャッチ!」


 彼女の腕を掴んだ――のだが、風呂場の床はとても滑りやすいのだ。

 俺も滑ってしまい、再びバランスを崩す。今度は思いっきり倒れこんでしまった。だが、今度は予期していた転倒だ。片手で彼女を抱きかかえ、片手で床に手をつく。そして、手も滑ってしまう。俺はドフッと下へと倒れ込んだ。なのに痛みはなかった。なぜだろうか? と疑問に思い、顔をあげて状況を確認。


「なるほど」


 どうやら女性の程よく大きな胸がクッションの代わりとなり俺の守ったのか。

 なかなかいい形の美乳だ。こんな時間が永遠に続けばいいのに……。


 いや。


 いやういやいや。駄目だ。あれだ。この子は気絶してんだ。状況は深刻なんだ!! こんな時にのんきにラッキースケベを楽しんでいる場合ではない。この人でなし!

 俺にはこの見知らぬミステリアスガールを助ける義務があるんだ。


「まずは人工呼吸をしなければ。これも彼女を助けるためだ。だが……本当にそれでいいのか? 彼女は気絶しているのだろ? 無抵抗の相手にキスなんてものはできない……んー、どうすれば」


 決断を迫られている間も、彼女の柔らかい肌の感触が俺の身体に触れている。

 おかげで股間はお祭り騒ぎ。いわゆるカーニバル状態だ。

 先ほど ”祭り” に興味ないと言ったが、こういう熱い祭りなら大歓迎だな。


「そもそも人工呼吸器って、誰かが海で溺れたときにすんだよな。なら、この場合は必要ないのか」


 冷静に考えてみればそうだよな。彼女はべつに水を飲んで気絶した訳ではない。

 人工呼吸器なんてしなくていいのか。

 なら、次に考えるのは気を失った人をどうすればいいのかだ。

 心臓マッサージとか? AEDを使うとか? 分からない。

 なんか授業でやったようなテレビでやっていたような気がするんだが……。

 俺は風呂の床で胡坐をかき、どうするか真剣に考え込んでいた。

 気を失うって言うのは明らかに普通のことではない。早く何かしないと。

 死に至ることはないと思うが、そう断言することもできない。


「まずは助けを呼ぶか! 校長代理を呼べばいいのか!」


 やることが決まり、俺はもう一度だけ謎のミステリアスガールへと視線を向ける。

 至近距離で見ると想像以上に美しいな雰囲気なんだよな。

 絶世の美女にふさわしい顔立ちだ。まつ毛が長いし、唇も綺麗だな。輪郭もいい。

 髪が濡れているせいか、どこか妖艶ようえんで魔性な感じがする。 

 冷静に考えて、なんでこんな美少女が俺の部屋に居るのだろうか?

 答えは分からないが、とりあえず服を来て校長代理を呼びに行こう。

 全裸のまま立ち上がり、風呂場を出ようとしたとき、ガタッと物音が聞こえる。


「変態……」


「ん? 目覚めたか」


 振り返ると、風呂場の床に倒れていた女性の目に光が戻っていた。

 良かった。これで校長代理を呼びに行く手間が省けたな。

 あと、なぜだかは知らないが、汚物を見るような眼差しを向けられている。

 彼女は力強く立ち上がり、おおおおきく息を吸った。まさか、これは!?


「へ、へんたぁああああああああああああああああああああああああああああい!」


「ぐふぁっ、ゆずるぅ!? はにゅっ!!」


 女性の強烈な右ストレートが俺の頬にクリーンヒット。

 俺の体はトリプルアクセルしながら脱衣場の方へと飛んでいき、壁に激突する。

 そして下へと落ち、洗濯機の中へとNBA選手並みのナイスシュートしてしまう。

 顔面を洗濯機の中に突っ込んだまま、スイッチが入り、ひとりでに回り出した。


「あわわわ、あわわわ、あわわわ、目が目が回るぅうううう!」


 なんなんだいったい? なんで? なんで俺の部屋に女の子がいるんだよ!?

 しかも可愛い外見とは裏腹に、めちゃくちゃ筋力がパネェっすよ。

 きゃしゃな体のどこにそんな力があるのだろうか。何もかもが謎である……。

 あと、この洗濯機止めてもらえます? 目が回ってそろそろ吐きそう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ