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紫音は穏やかな寝息を立ててぐっすりと眠っていた。その寝顔を見つめながら、そろそろ夜明けが近づいてくることにため息を吐くレクサス。
(結局一睡もできなかった……)
レクサスは紫音の目元に、頬に、唇にやさしくそっと口づける。紫音はくすぐったそうにするだけで、起きる気配はない。
(この様子だと本気で王に罰を下すつもりはないようだな)
それならば、それでいいとレクサスは思う。とにかく、ひかりが解放され黒の剣も白の剣も消失してしまえばそれで充分だろう。今のところその確率は五分五分というところであるが、それでも、この穏やかな寝顔が苦痛に歪むことがないように祈るばかりだ。
(そろそろ起こすか)
レクサスは軽くため息を吐いて、紫音の鼻をつまみ、口を塞ぐように口づけた。数秒後、紫音はなにごとかという驚きで目を覚ました。
「な、なに?なんかすごい息苦しかったんだけど」
「さあ、夢でもみたんだろう。そろそろ起きて準備をしたほうがよくはないか?」
紫音は、そうだったと慌てて起き上がり、洗面をすませると衣裳部屋に飛び込んだ。今日の服装は、アプローズが特別に用意してくれた軍の儀礼服である。詰襟の白い儀礼服には襟元と袖口に青いラインがあしらわれ、胸元には左胸のあたりには鷲をデフォルトした軍の意匠が施されていた。
鏡を見て紫音は、よしっと気合を入れた。
衣裳部屋から出てレクサスの前に立つと、紫音は、おどけた様にどう似合う?と一回転してみせた。
「似合う」
「ほんとに?なんか、褒められてる感じしないけど……っていうかさ、なんか元気なくない?大丈夫?」
レクサスは、ふっとため息を吐いて紫音をぎゅっと抱きしめた。
「いかせたくないだけだ。寂しいから」
耳元でそっとそう囁かれて、紫音の胸はぎゅっと苦しくなった。まるで、小さな男の子を一人で留守番させてしまうようなそんな奇妙な気分になる。
「……すぐに帰って来るわよ」
そういいながら、レクサスの背中に腕をまわして抱きしめ返す。
「あたしの帰る場所はここしかないんだから」
レクサスはそっと腕を緩めると、紫音に優しく口づけた。紫音はそっと目を閉じて、いつまでも離れたがらない唇を受け止める。二人だけの甘やかな時間。しばらく、お預けになるそんな時間を惜しむようにレクサスは、口づけを止めなかった。
だが、それもつかの間のこと。
「あら、お邪魔だったかしら」
アプローズがノックはしたのよと一言付け加えてドアの前で苦笑していた。
アプローズに呼ばれた二人は、軽い朝食をすませて謁見の間に向かった。そこには、すでにトリビスタンへ向かうひかりとディオン、カムリがいた。そして、それを見送るために、ディーノとジューク、モビリオがすでに待機している。
「ごめん、おそくなっちゃった」
紫音は、気恥ずかしそうにいうとひかりは大丈夫だよと微笑んだ。
「あたしたちも今集まったばかりだし」
「そうだねぇ、俺もどんな黒狼になろうかなって考えてたところだし、丁度良かったんじゃない?」
カムリはそういうとぱっと変身してみせる。体長五メートルほどの黒狼が現れると、ひかりと紫音は目を輝かせた。
「すごい!」
「わぁ、でっかい犬~」
そういいながら、二人は変身したカムリに近づいて、頭や背中を撫で始めた。
『まてまて、二人とも。おさわり禁止。俺、殺されちゃうよぉ』とカムリの声が頭の中に響く。二人ははっとして、顔を見合わせると苦笑する。レクサスとモビリオが少しだけ複雑な表情を浮かべていたのは言うまでもなく、アプローズやディーノ、それにジュークまでが笑いを噛み殺していた。紫音とひかりはカムリにごめんなさいというとカムリはとりあえず、しっぽを振って見せた。
(とびつかれなかっただけましかなぁ)
カムリは複雑な表情をしているレクサスとモビリオを見て思った。特にレクサスはいつもの無表情とは違い口元がかすかに微笑みを称えている。だが、目は笑っていなかった。
(……騎士団の災厄が目に浮かぶな)
カムリはぷるぴるっと頭を振るともう出発するかいと紫音とひかりにたずねた。
「そうね。さっと行ってぱっと終わらせて帰ってきたいな」
あたしもとひかりが頷く。
「みんな準備はできているようだから、そうしたほうがよさそうね」
アプローズはちらりとレクサスを見てそういった。レクサスは表情を硬くして小さなため息を吐いている。
(早く帰ってきてもらわないと、団が全滅しかねないわね)
「うん、ひかり、体調は大丈夫?」
「大丈夫だよ。それじゃあ、行こうか?」
「そうだね」
二人は手をつないで、レクサスたちを見た。ジュークはその姿をみて、まるで双子のようだなと思いつつ、今回の方法は最良の策かもしれないと感じていた。
「じゃあ、いってくるね」
「いってきます」
二人がそういうと、金色の魔方陣が展開し、あっという間に三人と一匹を消し去った。残されたレクサスとモビリオは少しだけ不安な気持ちを抱いていたが、レクサスはアプローズとジュークに団の準備はできているかと言った。
「できているわよ。でも、その前に少し落ち着いてね。レクサス様」
「俺が落ち着いてないとでも?」
「ないですね。そのまま、団と手合わせされては困ります」とつかさず、ジュークが突っ込んだ。
「手合わせなら、俺も参加していいですか」
モビリオが恐ろしいことをいうとディーノは思ったがレクサスはかまわんと言った。
「と・に・か・く、一旦、執務室に戻ってお茶します。ディーノ、ハーブティの準備しておいてくれる?」
「了解」
そういって、ディーノは謁見の間を離れた。
「俺は、団をつぶす気はないぞ。アプローズ」
「ええ、ええ、わかってますよ。でもね。念のためです。さ、私たちも行きましょう」
アプローズはジュークに目くばせした。ジュークは頷き、騎士団の隊舎へ向かった。レクサスとモビリオは、アプローズの後について執務室に戻る。執務室は、穏やかな甘い香りに包まれていた。モビリオはその香りに不安な気持ちを慰められたようなきがして、隣に立っているレクサスを見た。だが、レクサスは無表情で今何を思っているのかは、わからなかった。




