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 レクサスは紫音たちを執務室に呼んだ。彼女たちが姿を現すころにはティーノやアプローズ、カムリ、それにモビリオとディオンも揃って円卓に座っていた。円卓にはお菓子が並んでいる。紫音たちが席に着くとティーノが紅茶を入れてくれた。

「石のことで解ったことがある。ジューク、説明してくれ」

 レクサスにそう言われて、ジュークは剣を構成している石はデスパロスではなく、アスタロテである可能性が高いことを説明した。

「……とまあ、ある程度石のことはわかったのですが、破壊する方法まではまだわからない状態です」

 ジュークがそういうと、モビリオが尋ねた。

「もし、アスタロテだとしたら破壊するというより元の石に戻すということは可能でしょうか?」

「いえ、それも難しいかと思われます。我々の国では薬として消費してしまったので、元に戻す方法も存在しませんね。一番の問題は、アスタロテには二つの力が宿っているために、双子という稀なものにしか加工できないということです。それは逆に破壊するためにも双子の力が必要ということではないかと私は考えています」

 全員が落胆の表情を浮かべる中で、ティーノはそんなもの最初からあるじゃないかと言った。全員の視線がティーノに集まる。ティーノは慌てる様子もなく、むしろ首を傾げるようにして言った。

「だってさ、剣には双子の魂が宿ってるんだろう?その力を使えば、破壊はできるんじゃないか?」

「どうやって双子の魂を使うつもりよ」

と、アプローズが突っ込むとティーノは平然と答える。

「魂を引っぺがせばいいんじゃないか?ヒカリちゃんやシオンちゃんならできると思うけど」

「なるほど、確かにそうかもしれませんね」

 ジュークがそういうと、紫音とひかりはお互いをみあった。

「魂を同時に浄化してしまうんですよ。そうすれば、剣は石に戻る可能性が高い」

「確かにねぇ。案外いけるかも」

とカムリが頷く。

「ならば、逆もあり得るな」

レクサスがそういうと全員が彼に注目した。

「融合させるという手もあるんじゃないか?どうだ?ジューク」

「そうですね。もともと双子は一つの魂が別れたものだと考えられていますから、その可能性も十分にあるでしょう」

 そう言われて、紫音とひかりは何やら話し込み始めた。まわりには、何を話しているのかわからないが二人が真剣に話し合っているので黙って見守っていた。不意に、視線を感じた紫音がぽりぽりと頬をかいてうっかりしてたと呟いた。

「えっとね。今、ひかりとはなしてたの。浄化か融合のどちらが正解かわからないなら、同時に両方できないかなって……」

 全員が難しい顔をした。

「あの、できないことはないと思うんです。融合させて浄化するって考えれば……」

 ひかりは、様子をうかがうように自分の意見を言ってみた。

「なるほど、その手があるわね」

とアプローズが頷く。すると、モビリオとディオンが同時につぶやいた。

『神の御許にて魂は一つとならん』

 二人はお互いに驚いた顔を見合わせた。

「それってどういう意味かなぁ?トリビスタンのお二人さん」

 カムイがおどけて尋ねると、モビリオが答えた。

「古い信仰の言葉です。神が人とたもとを分かつときに残した言葉だとも伝えられています」

「僕らの国では魂はそれぞれの魔力の属性と結びついていて、死ねば属性の神のもとにかえるといわれているんです。今は昔ほど神々を信じている者はいません。ただ、王家の人間は七つの祝いの席で、儀礼的だけど、この言葉を神官長から授かるんです。融合と浄化ときいてふと思いついて……」

 俺もですとモビリオが言った。

「魂の融合と浄化にはぴったりな言葉かもしれないな。どう思うシオン?」

「そうね。いい言葉だと思うわ。そうだ!ちょっと試してみようよ。ね、ひかり」

 紫音はキラキラした好奇心いっぱいの目でひかりを見た。それで、ひかりは紫音の意図を理解した。こくりと頷いて、すっと立ち上がる。全員の視線がひかりに集中した。

 ひかりはすっと白の剣を自分の間の前に構える。剣士が胸の前で剣を垂直に立てるように、恭しく剣を掲げた。

『神の御許にて魂は一つとならん』

 ひかりがそう告げると、白の剣はまばゆい光に包まれたがすぐに何かに引っ張られるようにして光は消えた。

「やっぱり、黒の剣と一緒じゃなきゃダメみたい」

 ひかりはがっかりした表情で紫音を見たが、紫音は首を横に振る。

「大丈夫よ。それがわかれば、もうほとんど答えはでたじゃない」

「ああ、そっか。そうだよね」

 紫音は、みんなに向かって微笑んだ。

「今のでモビリオさんたちの言葉が剣に作用するってわかったでしょ。きっと、黒の剣と白の剣を迎え合わせて言葉を発したら、双子の魂は浄化できると思うの。あたし、今夜中にトリビスタンに行って寝込みを襲ってやろうと思うんだけど、駄目かなぁ」

 駄目だと即答したのは、当然のことながらレクサスである。

「なんでよ」

「あちらが警戒して待ち構えていたらどうするつもりだ」

「えーそんなことないと思うなぁ。きっとディオンさんが戻って来るって安心しきってると思うけど」

 紫音は反論してみたものの、バレンシア公爵という人物についてよく理解できていないので、レクサスの言い分もわからなくはなかった。だが、早くひかりを開放してやりたいという気持ちがはやって仕方ない。

「まあまあ、どっちにしても今夜のところはゆっくり英気を養って、朝日が昇る前に奇襲をかければいいじゃないの。シオンちゃん」

 アプローズがそういう。

「それにさ、ヒカリちゃんは元気を取り戻したばっかりなんだしさ。もう少し休んだ方がいいと思うよ」

とティーノもいうので、紫音はしぶしぶ分かったと言った。確かに、今ひかりは元気だけれど、完全に回復していないのかもしれない。一晩しっかり眠って、朝一番で奇襲をかけることは、ひかりの体力面を考慮すれば十分に納得のいく話だった。

 話がある程度まとまったとことで、女性陣は湯あみに行った。残った男性陣は、お菓子を肴にブランデーを飲み始めた。寝酒だといって、レクサスはモビリオとディオンにグラスを差し出す。ゆらりと波打つ琥珀色と甘い香りが部屋に広がる。ジュークは私は紅茶にしておきますといい、自ら紅茶をいれる。そして、カムリにも紅茶を渡した。

「俺のんだらだめなの?」

「君は姫君たちの守役ですからね。深酒されては困りますから」

 ジュークは微笑んでいたが、目が笑っていなかった。はいはいといいながら、カムリは紅茶を飲み、クッキーをぼりぼりと食べ始めた。

「で?レクサス様は我々に何をさせたいんですか?」

 ジュークにそう言われて、軽くため息を吐く。

「……出撃の準備だ。あくまでも準備だがな」

「そんな準備は不要かと思いますが、貴方の気が落ち着くのならそうしましょう」

 そういってジュークは部屋をあとにした。

「おいおい、戦争するつもりか?」

 ティーノがそういうと、レクサスはしないと言った。

「じゃあ、なんでそんな物騒な準備が必要なんだ?」

「決まってんじゃん。シオンちゃんがいない間、レクサス様がじっとしてられないからさぁ」

「どういう意味ですか?」

 モビリオが尋ねるとカムリは八つ当たりと答えた。ティーノはその一言で納得した。

「要するに、自分の相手をさせる準備ってことな」

「そういうこと。モビリオ君もこっちに残るんだろ?」

「ええ、トリビスタンには俺を担ぎ上げたがっている人間が多いので。刺激しないためにもそうしようとヒカリと話しました。あとのことは、ディオンに任せています」

 ディオンは頷いた。

「じゃあ、俺も呑んでいいよね」

「それは駄目だろ」

 カムリがブランデーに手をのばそうとすると、すばやくティーノが瓶を取り上げた。

「もどったら、好きなだけのめばいい」

「わっかりましたぁ。じゃ、もう俺寝るわ。明日早いしねぇ」

 そう言ってカムリは退出した。そして、適当に呑んだ面々もそれぞれの部屋へ戻った。


 モビリオは、風呂に入り着替えると、一気に喪失感が襲ってきた。コレオスを亡くしたことがこれほどにも重く苦しいと思うほどに、自分が無意識に彼を心の支えにしてきたことを痛感した。失って気づくほどの感情ほど、苦しいものはないと知った。

 深いため息をついてソファーに沈み込む。それでも、涙は流れなかった。そこへ、ひかりが戻ってきたがすぐに気づくこともできず、不安そうな顔で膝をついてどうしたのと言われて、はっとした。そして、ひかりを強く抱きしめ、彼女の肩に頭を乗せてコレオスが死んだことを伝えた。

 ひかりはモビリオを強く抱きしめ返し、ただひとことそうとだけ言った。優しい顔の老人はもういないのかと思うとひかりも少し悲しくなった。ただの道具として扱われることに腹を立てたときも、諫めてくれた人。どうにかしてひかりの命を助けようとしてくれた人。そして、モビリオの大事な人。

 ひかりは少しでもモビリオが慰められるようにと祈りながら、彼を抱きしめて眠ることにした。



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