怪談:アリだな
なんか怒られそうな小説。
眠れない夜に眠気眼で書いたので、可笑しなテンションの内容となっておりやす。
どうぞお楽しみ下せえ。
その女は白いワンピース姿だった。
半袖から伸びる腕は白く華奢で、ワンピースと相俟って百合の花を連想させる。
その黒い長髪の掛かった背中はか細くか弱く、無視する事が出来ない不可思議な魅力があった。
女は振り返る。
ゆっくりと、勿体振るように振り返り、マスクに覆われた顔をこちらに向ける。
目元だけ見ても、女は相当な美人だと分かる。
そのマスクが隠す素顔は、果たして如何に美しいか。想像しただけで胸がときめいた。
「私、キレイ…………?」
女はそう問い掛けながら、か細い指でマスクを外した。
瞬間、心臓が凍り付く程の衝撃が全身を襲った。
この女は危険だ。
そう本能がシグナルを送り、今すぐこの場所を全速力で立ち去るよう運動神経を刺激する。
しかし、それは出来なかった。
何故なら我が友人が、女を凝視したまま一向に動こうとしないのだ。
友人は女の体を上から下へ、下から上へと舐めるように眺めると、その恐ろしい相貌を、見事なまでに無視して、女の胸部へと視線を固定させた。
「フム…………」
友人は厳かに頷いた。
その間、女は世にもおぞましい笑みを浮かべながら、錆び付いたハサミを手に近付いてくる。その錆の原因は、想像したくも無かった。
「おい、おい! 逃げるぞ、おい!」
友人を急かす。
しかし、彼は動かない。
ただ女の胸部をじっくりと眺めた後、視線をこの世のモノとは思えない面妖に向け、一言だけ呟いた。
「アリ、だな――――」
取り敢えず頭を殴り付けた後、腕を引いて全力でその場を駆け出し事なきを得た。
図らずも友人が放った一言が、女を動揺させたようで逃げ切れたのだった。
しかし、何故、友人はあの状況であんな台詞を吐いたのか。
落ち着ける場所まで辿り着いた時、その謎を質してみた。
「お前、どういうつもりで何がアリであんなことを言ったんだ?」
友人はその問いに、小首を傾げながら簡単に答えた。
「D。いや、あれはFくらいあったと思う」
「は?」
「結構、ゆとりのあるワンピースだったからねぇ。目算では正確には測れなかったけど」
「何の話だよ?」
「いやだから、あの女の人は相当な巨乳だったって話だよ」
この瞬間、謎は全て解けた。
そして以前から友人に抱いていた違和感は、一瞬にして確信へと変わったのだった。
「お前バカだろ?」
あの非現実的な状況において、胸囲の測定を行っていた友人の肝の座りようには、感心さえ通り越し呆れさえし、尚且つ得体の知れない恐怖すら覚えた。
本当に無理矢理にでも連れて逃げて正解だった。
ホラー要員の女性を完全無視。
モデルはお察しの通り『口裂け女』であります。女性の口が裂けていたかどうかは、墓場まで持っていくレベルの秘密。
そして思春期真っ盛りの友人の本性は、生粋の巨乳好きだったのだ。
この見解を聞き、友人は嘯く。
「いや、別に大きくなくても良いけど? 小さいのもステイタスだと思う。大切なのは、全体のバランスなのさ。その点、あの女の人はパーフェクトだったよ。あれだけ胸が大きいのに華奢な体躯に不自然にならないバランスは、なかなか無いんじゃないかな?」
「うん、お前バカなんだな? 取り敢えずさっきの女に謝ってこい」
こうして二人は何事も無かったように、日常生活に戻って行くのだった。
友人の本性は、極度の変人ということだった。
友人に変わって、ここに謝罪の言葉を述べておきます。
いや、もう、何か、本当にごめんなさい。
折角の雰囲気を台無しにしちゃって。




