78 師匠が言ったこと
一方的に話したロワは話を終える合図のように、温くなってしまったカフェオレの残りをすすった。ただ温いだけの飲み物に変わってしまっていた。
「あの時、師匠はなんて言ったんだ?」
黙って聞いていたミハイルが口を開く。
「師匠が三人の男の死体を見て言った一言だな」
ロワの言ったことに小さくミハイルはうなずいた。
「耳を疑ったさ、でも師匠が言ったことは確かなんだ」
ロワは視線を外し、通りを見た。数秒間黙っているとミハイルが言ってきた。
「もったいぶらないで早く言えよ」
「信じられないとか言うなよ」
「今さらそんなこと言わねえよ」
大きく息を吐いた。聞き間違いでは決してない。最初どうしても信じられなかった。
師匠が言ったことは一体何を意味しているのか。未だに分からない。
正直、このことは他言することは考えていなかった。こんな一連の事件さえなければ。
しかし数日前襲われたという竜と師匠は何かしら関係があるのだろう。ミハイルは一体どういう顔を
するだろう。
「人間風情がまた邪魔するのか」
ミハイルはいきなり何を言っているんだと言ったような驚きの顔でロワを見た。
「……本当に師匠が言ったのか?」
「もちろんだ。聞き間違いなんかではないからな」
「分かってる。しかしその言い方だと、まるで……」
「ああ。自分は人間ではないと言っているのと同じだ」
ロワの思いがけない発言にミハイルは混乱しているようだった。
「ミハイル。君はどうして師匠のもとから去ったんだ?」
「去ったわけじゃないさ。レノたちと一緒で卒業さ。師匠のほうからと突然言ってきたんだ」
「突然?」
「一ヶ月くらい前だったかな。荷物もまとめておいたからって。それに。あの剣をくれた」
「じゃあ、ミハイルの卒業は師匠が考えていたってことか。まあミハイルは一番古株だったし、集団
行動とか苦手だったからな。それはそうと一週間後時間を空けておいてほしい」
「何かあるのか」
ミハイルは声をひそめ尋ねてきた。レノが小さくうなずいた。
「協力してほしいことがある」
レノはディエゴに話したことをミハイルに話した。ミハイルは少し考えながらも、条件があると言
ってきた。レノは全てを聞いて了承した。
「じゃあ一週間後、大使館で」
ミハイルは早足で店を出て行った。




