ねむの木学園3
いつも通り柔和な表情で騒いでいる生徒数人を注意した後、教壇の前に立った。教室には十三人の生徒がいる。少し間があってから、師匠は、生徒一人一人の顔をまるで記憶に刻み込むかのように見ているようだった。いつもと違う師匠の雰囲気に教室はどこかざわついた。ようやく師匠は口を開いた。
「本当はもっとあなたたちに教えたいこと、教えなければならないことがありました。しかし、もう時間がありません。これからあなたたちには山を下りてもらいます。しかし数年後きっとまた会えます。なので卒業式をしようと思います。でも申し訳ありませんが、
知っていると思いますが卒業の証として一振りの剣を渡す予定でしたが、それはまた今度会った時までに作っておきたいと思います」
師匠は大きく優しい声で言った。そして二人一組でペアを組ませ、少しの手荷物を持たせ教室を出て行かせた。中には泣きながら師匠に離れようとしない生徒もいた。最後、ロワは一人教室に残った。教壇に立つ師匠に名前を呼ばれ、師匠の前まで進んだ。師匠はロワに微笑した。
「ロワ、あなただけ一人で申し訳ありません」
「師匠はこれからどうするのですか」
「私のことは心配ありません。さて、数年後に会うまでに宿題を出しておこうと思います」
「宿題、ですか?」
突然の降ってわいたような言葉にロワは困惑を隠すことができなかった。
「そうです。あなたは次会うときまでに、ファリス軍に入ってもらいたいのです」
「ファリス軍に……」
「ええ。士官学校があるのでそこを卒業すれば自動的に少尉からです。あなたならすぐに将校クラスにはなれるでしょう」
「でもファリスは師匠を殺そうとしたところなのに……」
「だからですよ。だからあえてあなたには入隊してほしいのです」
分かりました。と答えるしかなかった。ロワは小さくうなずいた。
「ほかの子達なら色々注意をしないといけないかもしれませんが、あなたなら大丈夫でしょう」
手荷物を渡され、いくらかの金貨と銀貨を渡された。教室を出ようとしたとき、背後から声が聞こえた。
「毎日、素振りをするのですよ」
普段と同じような優しい微笑と声だった。




