もう一つ、行くところ
カフェから離れたレノは一旦大使館に戻り、大使にディエゴとの話を伝えた。大使は手を叩き大喜びをし「さすがわが軍きっての切れ者だ」皮膚のぶ厚い脂ぎっている手で何度も何度もレノと握手した。すぐにトイレで手を洗い、大使館を出る間際、ユリが近づいてきて耳打ちをした。「本部からの速達です」
渡された手紙を裏を返すと極秘を示す、真っ赤なファリス国のロゴが押されてあった。
「ご苦労」
一言告げミハイルの自宅へ向かった。ミハイルの住んでいるところは王都の東アムサーラ地区3-7-7。ミハイルはディエゴの隣の部屋に住んでいると聞いている。スラムの中心にあるにも関わらず、最近出来たアパートで警備もしっかりしているとのことだった。外に出なくても生活する分には特に問題ないらしい。
大使館から東アムサーラ地区の目的地まで馬車で行くと目的であるアパートが見えてきた。そばに白い簡素な造りの詰め所だが、窓ガラスには鉄格子がつけられている。ニ、三回ほど軽く手の甲で叩くと、品の良さそうな初老の男が詰め所の置くから現れた。初老の男は、数秒レノを品定めするかのように見た後、ゆっくりとガラス戸をわずかばかり開けた。
「なにか御用ですかな」
穏やかそうな声質だが、どこか警戒感がにじみ出ているように感じた。
偽名で登録してあるのでくれぐれもミハイル・ドランコフという名を出さないでください。ディエゴに厳命されたのを思い出し頭の片隅に記憶しておいた苗字と名前を口に出した。




