武官室へ
見栄を張ったものの、これからどうすればいいか検討がついていない。大使館の長い廊下を歩きながらレノは小さくため息をつき、武官室に入った。
レノが入室するといなや、お疲れ様です。と張りのいい若い声が女の声が聞こえる。一人のまだ若い女性武官が座っていた椅子から立ち上がり、レノに向かって敬礼をした。
大使館に派遣されたのはレノ以外にもう一人いた。レノの部下である、ユリ・ミチガエリだった。 ユリの階級はレノより一つ下の准尉だ。三ヶ月前に士官学校を優秀な成績で卒業し、ファリスに武官として赴任してきた。
「私一人のときはここではそんな堅苦しいのは必要ないって言っているだろ」
レノは一番奥の席の自分の椅子に座った。
「すいません。どうもまだ慣れてなくて」
ユリは苦笑いを浮かべ座っていた椅子に再び座り「朝から大使に呼び出されるなんて、何かあったんですか」
話すべきであろうか……。
レノは宙を仰ぎながら少し考えた。自分の任務は軍内部でも数人しかいない。だが、もう過去の話なら別段構わないだろう。
「准尉。今王国内で騒がれている事件を知っているか」
「もちろんです。暁の稲妻の内部争い、そして亡国の騎士団も内部争いです」
「そうだ。詳しいことは話せないことを前提に聞いて欲しい」
レノは少しもったいぶるかのように間隔を空け言った。
「あの原因を作ったのは俺なんだ、と言っても空いていた隙間に穴を開けただけだけどな」
ユリは椅子をレノのほうに向けた。好奇心を隠せないのか目を輝かせている。
「少し判りにくい説明になるかもしれないが我慢してくれ。仮に全体の勢力を100としたとき数週間前までの勢力は、暁の稲妻を45%とすると亡国の聖戦は大体、30%くらいになる。新興勢力である魔獣の奏者は大体、15%くらいかと思う。残りはこの国の小さな勢力だ。そして大きな三つのある勢力の中には後ろ盾をもっている勢力がある。今は少し違うが暁の稲妻と亡国の聖戦にはなかった。二つとも権力者たちと一線を画していたからな。傭兵団なんてそんなもんだろう。しかし魔獣の奏者の背後には夕刻の聖騎士団が控えている」
大きく深呼吸をついて、真剣なまなざしのユリを見た。




