二章
「聞いているのかね。レノ・カーチェス少尉」
ルーカス・サーチ、ファリス国大使は忌々しげに口を開いた。ガマガエルを二、三発殴ったかのような男は、安楽椅子に腰を掛けふんぞり返りながらレノを見ていた。
「もちろんです閣下」
レノが閣下と言うと、少しは機嫌が良くなったのか口調にいくらか優しさを感じるようになった。
「貴官が優秀なのは聞いている。しかし今の王都の状態を本当に予想していたものなのか」
「このくらいは計算のうちです」
レノが王都に赴任して約二週間ほどたっていた。少なくとも今の状況はレノが予想していた方向とは全く違っている。常に先回りをされ、最初は大使館内に魔獣の奏者のスパイがいるのではないかと疑ったほどだった。しかしそんな様子は塵一つなかった。
それ以外を考えるならば自分以上に頭の回る何者かの存在。もしくはどこかで自分を監視しているのかのどちらかになる。レノはここ数日間ずっと考えていた。
「分っているな。失敗したら私の首も危うくなる。もちろん貴官のもだ」
ふっとレノは我に返り、がまかえるのような顔を見つめ「閣下のご期待に必ずや答えて見せましょう」
一礼して大使室を出た。




