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勇者の復讐  作者: にけ
プロローグ
6/84

温泉街ミモラ

ミハイルがミモラで生活し始めて三日ほどたった。


レノはすべての段取りを手際よくしてくれ、貸家の確保に


生活必需品等の買い物をすべて用意してくれていた。


背中に背負った女児はレノが帰るまでに目覚めることはなく、


レノはとても残念がった。


 ミハイルと女児に日に三回は秘湯につかる事を指示し、


午前、午後、そして夜と時間の指定までして


電光石火のごとくカルーダに戻っていった。

 

それから数分後にタイミング悪く女児は目覚め、何事もなく


ミモラで生活している。

 

 名前はエルザ。年齢は頭をひねっていたが、八歳くらいだと答えた。


何かしらの原因で記憶を失っているのだろう。自分がどうして火傷をし、


傷だらけになっていたのかは全く覚えていないという。


さらにエルザは何かを隠しているかのようにミハイルには見えた。


しかしここであまり激しく突っ込んで尋問しても仕方ないと思って


聞かなかった。時期が来ればそのうち自分の元からいなくなるに違いない。


「ミハイルー。朝ごはんできたよ」


 あわただしい足音と共にやってくる叫び声。


ベッドの中でだらだらと惰眠を貪るのが好きなミハイルに


とっては地獄の一丁目に似たようなものだった。


 どういうわけかエルザの朝は早い。ミハイルより数時間は早く起き、


朝食を作った後、掃除をする。自分の年齢はあいまいで


記憶のほうもほとんどないにも関わらず不思議なことに


家事は完璧だった。あまりの完璧さにミハイルは初日から


ドン引きしたくらいだった。


「ほら! 早く起きて!」


 毛布の上から身体をゆすった後、ベッドの近くの窓を全開に開けてくる。


山の中独特ひんやりとした冷気がミハイルを襲う。


「寒い寒い。窓を閉めろ」 


 毛布の中に身体をうずめたミハイルがうめく様に言う。 


「じゃあ早くおきて!」 


「起きる、起きるから早くしろ」


 ミハイルは毛布の中で丸まり再びゆっくり瞳を閉じようと


した瞬間だった。たちまち毛布はめくれ、ミハイルの身体に


冷風という名の矢が全身に刺さったようだった。


「てめぇ、何しやがる」


 ベッドの上で猫のように丸まって震えながら叫ぶミハイルに、


泣く子も黙るとされている暁の稲妻の幹部にはほど遠い。


「早く起きてね。朝ごはん冷めちゃうから」


 エルザはさっさと部屋を出て行ってしまった。


 年恰好だけはミハイルのほうが上なのに、行動だけはもう


自分の姉か母親のようだった。

 

 ただ――天涯孤独だったミハイルはエルザのこのような行動は


少なくとも嫌というほど嫌ではなかった。きっと長くても


数ヶ月のかりそめの同居生活。


あまり情を持つことはないようにしよう。一緒に暮らし始めた初日、


エルザの寝顔を見てミハイルは思った。

 

 まだわずかに火傷と傷が痛む身体を慰めるかのように


ゆっくりとベッドから起きた。まだこのミモラという秘湯しか


とりえのない村に来てから三日しかたっていなかったが、


一昨日より昨日、昨日より今日と身体のほうはどんどん癒えていっている。


レノが太鼓判を押す理由が十分すぎるほど理解できた。

 

 着替えが終わりエルザがいるリビングへ行くといつものように


エルザはテーブルの前に座っていて立派過ぎるほどの朝食がテーブルの上に


出来上がっていた。

 

 朝食なんてほとんど食べていなかったミハイルに


とって初日はありがた迷惑だったが、エルザの作った朝食を


食べ一気にとりこになった。さらに毎日違う献立だったことがなかったのにも驚いた。

 

 ミハイルは椅子に座りフォークを持ち近くの料理に手をつけた。


エルザは黙ったまま自分の作った料理に手をつけないで


ミハイルの食べる様子を凝視している。エルザの表情は硬いままだ。


「うま!」


 ミハイルの心の奥底からにじみ出たような感想を聞くと


たちまちエルザは破顔一笑し


「よかった~。いっぱい作ったからたくさん食べてね」と


言い自分の作った料理に手をつけた。

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