狐目の思惑
タラップを降り二、三歩したところでミハイルは背後を振り返った。
大通りをはさんだ真後ろに【暁の稲妻】の本部が見える。本部の前にはいかにもな男が一人帯刀し、仁王立ちで周囲に目を光らせていた。あの男はオレの存在には気づいていないようだった。それとも気づいているが、無視をしているのだろうか。どちらなのかは分からない。
「どうかしましたか」
背後にいる男の声が聞こえた。
「なんでもねぇ」
ミハイルはシエラレオネ店内に市を踏み入れた。
三百年ほど前に建てられたといわれる建物は、外観だけをみるとお世辞にも綺麗とは言えないが内装のほうはいつきても関心してしまう。
床全体に敷き詰めるように敷かれた真っ赤なじゅうたん。
黒いタキシードを着た店員を先頭にその後を男が歩き、一番後ろをもう一人の男が歩く。ミハイルは二人の男に挟まれるように歩いていた。
店員の足が一つの扉の前で止まった。
「シェン様はこちらにいらっしゃいます」
店員は観音開きの扉をゆっくりと開き、ミハイルに対し頭を下げた。二人の男たちは入ってこなかった。シェンにあらかじめ言われているのだろう。
「久しぶり、でもないな。一週間ぶりくらいか、なあミハイル」
シェンは細い狐のような目をさらに細め立ち上がり出迎えた。大陸東部のなまりが耳に障る。
丸く大きな朱色のテーブルには所狭しと料理が並んでいる。
出された右手を無視しシェンの正面の椅子に座った。シェンは何事もなかったかのように手を引っ込め椅子に座った。
「遠慮せずに食べてくれ。さすがに一人では食いきれない」
「わざわざ呼び寄せて何の用だ」
「今回のことは組織にとって大ダメージだ。即刻体制の立て直しをしないといけない」
シェンの声は部屋中に響き渡るほどの大きく威圧的な声だった。
「今更何を言っているんだ。シェン。団長が殺されて、自分たちの派閥だけはほとんど無傷でいやがったじゃねーか」
「幸か不幸か亡国の騎士団も組織内の不協和音でうちよりよっぽどでかい内乱が起こっている。警察や軍隊はうちよりも亡国の騎士団をマークしていた。これが何を意味しているか分かるか。俺が中立を保つことで組織の力を少しでも維持しようとしたんだ」
確かにその通りだ。もしシェンがどちらかに肩入れをしたら、警察や軍は確実に暁の稲妻をターゲットにしただろう。組織は壊滅し、力を失いかねないところまでいっていたかもしれない。
「……シェン、お前は、この事件についてどう思っている」




