不吉な出迎え
オールスターパブリッシング社を出たとき、いかにも堅気ではない異彩を放っている二人の男の姿にミハイルは目を留めた。大通りに止まっている馬車を背に、軍人のような黒いスーツを着ている姿は、明らかに周囲から浮いている。二人の男はミハイルを見るや否や近づいてきた。
「お疲れ様です」
二人の男はほぼ同時に長年付き添った夫婦のように息ぴったりに頭を下げ言った。
「シェンの兄貴がお待ちです」
シェン・ヤン。【暁の稲妻】の幹部の一人。昔一族がはるか東方の国から流れ、最後に行き着いたのがカルーダ王国だった。元々は違う組織に入っていたが、三年前団長であるバルト・シャーンに引き抜かれ、暁の稲妻の幹部として迎えられた。
「どこへ連れて行くつもりだ」
ミハイルは答えた。二人の男は頭を上げ左側の男が口を開いた。
「シエラレオネです」
店名を聴いた瞬間懐かしくさえ思った。最後に団長と行ったのはいつだっただろう。思い出すことが出来ないほど昔だったのだろうか。
事務所がまだ王都の端っこにあるとき、本部をどこにするかという話しになったとき偶然、この店に入った。そして団長はあの店に一目ぼれをするくらい通いつめ挙句の果てに本部事務所を店の近くに移転させたほどだった。
もう一人の男が低い声で言った。
「お乗りください」
ミハイルは無言で馬車のタラップの足をかけた。




