ミハイルの決意
読み終わった手紙をテーブルに上に置きジャンは興奮を隠せない口ぶりで言った。
「とんでもないものを持ってきてくれたじゃねーか。おかげでまた家に帰れやしない」
言葉とは裏腹にどこかうれしそうな表情にミハイルからは見えた。すぐに大声で秘書であるリンカ・アルゴットを呼びつけた。そして側にあるメモ用紙に乱暴に何かを書き止め渡した。
「すぐに今やっている雑誌の作り直しだ。詳しいことは一時間後話す。トンプソンに伝えておいてくれ」
リンカは分かりました。淡々とした対応をして部屋から出て行った。出て
行ったのを確認するとジャンが尋ねてきた。
「カルサス・テキーラという男は自殺するような男だったのか」
「少なくともそんなタイプではない。自殺するぐらいだったら、相手と刺し違える。そんな人間だ」
ミハイルはカルサステキーラのことを思い出した。少なくも自分の記憶では、意見の対立なんていうのはあっただろうか。我に返るように足を組みなおした。
「お前と同じタイプなわけだ。消印は二日前になっている。どこの郵便局から出したのか分かれば少しは違うと思うんだが。とにかくお前と会っているときにはすでに死んでいたことになる」
「それにオレと会ったときに話しただろう。どうしてわざわざ隠れる必要があるのかって。もしかしたら、姿を見せなかった理由はもうすでに殺されていたか、監禁かなんかされてたんじゃないか。そして今、世間に知らせる必要があったからわざわざ遺書をオレに残し、世間にカルサスの死体を公表した」
ジャンは腕を組み小さくなるほど。とつぶやいた。
「だが黒幕がカルサス・テキーラを殺す理由は一体何なんだ?」
「さあな。そんなことは黒幕をとっ捕まえればいいことだ」
ミハイルが口角を上げるとジャンも同じく口角を上げた。
「ところで警察発表はいつだったんだ」
「大分前だったさ。朝の六時くらいだった」
「ずいぶん早いな。団長のは未だ発表すらないのに」
「警察発表では、ロバルト・ジャンを殺したとは発表されていない。警察が知っていて隠したのか、それとも本当に知らないのかは分からん。そのまま世間が忘れていくのを待っているのかもしれん」
「カルサス・テキーラの死と団長の死はつながっているんじゃないか。オレは考えている」
「警察がこのことを隠している、そう仮定するとこの国の暗部を王宮内部に巣くう猛獣の尻尾を踏むかもしれんぞ」
「望むところだ。もう失うものはなにもない」
「……。何か手伝えることがあったらいつでも言ってくれ。出来る限りのことはする」
ミハイルは立ち上がり最後にジャンに尋ねた。
「あんたのかみさんはオレの知っているヤツか」
「さっきも会ったじゃないか。今オレの秘書をしているリンカさ」
ミハイルは何も言わずに社長室を出た。




