妻帯者だったジャン
「あの時と全く変わっていないだろ」
突然背後から低い男の声に「相変わらず人が物思いに耽っているところを突然話しかけるなんて相当性格が悪いな」ミハイルはなんとか驚きを隠しながら答えた。
「過去に旅立っていたお前を今の世界に呼び戻してやったんだ。感謝してもらいたいくらいだ」笑いながらミハイルを見ている。
「もう仕事のほうはいいのか」ソファーに座ったジャンに尋ねた。
「ああ。もう峠は越えた。少しくらい休んでもいいだろう」
ジャンの顔には前日に会ったとき以上に疲労の色が顔ににじみ出ていた。どこか顔はやつれ、目のしたには黒いくまがくっきりと昆虫のように浮かび上がっている。
ミハイルは疑問に思った。
前日会ったときは不精ひげが口の周りに生えていた。髪の毛も前日より脂ぎっているよいうにも見えるしかしなぜか着ているシャツは新しくなっている。ミハイルはどういうことか尋ねた。
「着替えはかみさんが持ってきてくれているんだ。数日に一回くらいだがな」
ジャンは足を組み持ってきていたタバコに火をつけた。
「お前妻帯者だったんか!?」
「オレだっていい歳なんだ。かみさんくらいいたって不思議じゃないだろ」
ジャンは見た目だけだったらミハイルと数歳しか変わらないくらいにしか見えない。なるほど、人間分からんもんだ。
「世間話をしにきたんじゃないだろう。お前の報告しだいで雑誌の内容ががらりと変わるんだ」
ミハイルは上着のポケットからカルサス・テキーラの遺書の入った茶色の封筒を渡した。
「誰からだ?」
「とにかく読んでみてくれ。それから意見を聞きたい」
封筒から便箋を取り出したジャンは視線を便箋に移した。




