ジャンとの出会い
指名手配犯という不名誉な肩書きがなくなり、堂々と街中を歩けるのは生き返ったかのようだった。とりあえず、事の顛末をジャンに話そうと思った。少し早めの昼食をとった後、ジャンのいる会社へと向かった。しかし街中には相変わらず警察官がうろついている。
やはり亡国の聖戦が原因なのだろうか。
一人の警察官が、ミハイルを見て近くの警官に話していたが一人の警官は首を横に振っていた。ミハイルはそんな警官たちをみて心中で嘲笑した。ざまあみろ、と。
悠々と歩く歩道を歩いているといつの間にかロバートの会社にたどり着いた。オールスターパブリッシング社。新聞社が書けないような記事を書き出版している。ここがジャン・ジュークが編集長を勤めている出版社だ。ジャンがいるであろう三階へと向かった。 一階、二階と怒号のような声が建物内に響いていた。すれ違う会社の社員も慌しく動いている。
ジャンの部屋がある三階に到着し、編集長室と書かれたタグが書いてあるドアをノックしようとしたとき、後ろから声をかけられた。
「編集長なら二階ですよ」
振り返ると二十台半ばくらいのワインレッドのスーツを着た妙齢の女性が立っていた。
妙齢の女性はミハイルを見て「あら」と声を上げた。「確か、ミハイル・ドランコフさんでしたよね」
「ああ。よく覚えてるな、確か……」ミハイルは頭の中にある引き出しからなんとか顔と名前を一致させ答えた。
「リンカ・アルゴットさん」
「その通りです。あなたこそよく覚えてらしたわね」
「美人は忘れないんだ」
ミハイルが口角を上げるとリンカはくすりと笑い「お上手ですね」
「君こそよく覚えていたじゃないか。最後に会ったのは、確か、オレがここに初めて来た二年くらい前だったろ」
「昔から顔と名前を覚えるのは得意なんです。あなたがここに来たってことは指名手配を解かれたらしいですね」
ミハイルは頭を振って答えた。
「ようやくだ。ここ数日生きた心地がしなかった」
「でも編集長はあなたが犯人ではないと言ってらしたわ。編集長でしたら二階にいます。ご案内致しますわ」
「ジャンは忙しいんだろ。また後で来るよ」
「いえ、あなたが来たらすぐに知らせるように申し付けられているんです」
「何でもお見通してことか」
ミハイルは苦笑した。「じゃあよろしく頼もうかな」
「かしこまりました。社長室でお待ちになっていてください」
リンカは上品に頭を下げ去っていった。
ミハイルは社長室に一歩踏み入れた。
二年前と何一つ変わっていない。
一目見ただけでは社長室とは思えないほどのシンプルで無駄なものは一切ない。懐かしさをかみ締めながら二年前座った茶色い牛革のソファーに身をゆだねた。




