ぶつけようのない怒り
ミハイルは歯を食いしばり腹のそこにたまりにたまったどす黒い恨みの処理の仕方に苦慮せざるを得なかった。
団長を殺したカルサス・テキーラを八つ裂きにいやそれ以上にしなければ気がすまない。しかしカルサス・テキーラはもうきっともうこの世にいない。
のろのろとした動作で封筒の消印を見た。昨日の夕方の十五時にスタンプが押されてある。 もうカルサスの死体を捜すだけになるだろう。そう考えると、何もかもがどうでもよく感じた。立ち上がりアパートを自室に向かおうと一歩踏み出そうとしたとき、遠くから声が聞こえてきた。
「兄貴!」
息を切らしたニールが近づいてきた。
「カルサスが自殺しました」
「そうらしいな」
「知っているんですか」
ミハイルは持っている手紙をニールに渡した。
手紙を読み終えたニールはつぶやくように言った。
「なんかしっくりしませんね……」
「まさか自殺だったなんてな。拍子抜けもいいところだ」
「でもこれで兄貴の指名手配はなくなったじゃないですか」
「確かに。大手を振るって歩けるな」
「そうですね。もう二つほど報告が」
ミハイルは座っていたベンチに少し空間を開け、ニールに座るように促した。失礼します。と言い腰を下ろし口を開いた。
「ここに来る途中ちょうどピエールらしき人物が馬車に乗るのを見まして、急いで追いかけたんですが、見失ってしまいまして……」(書き直し)
「ピエールが生きていたということが分かっただけでも吉報だ。もうカルサス派に追われることもないからな。ひょっこり顔を出すだろう。で、もう一つは」
「あまり申し上げにくいのですが……」
「いいから話してみろ。それだけでどうこう言う訳じゃない」
ニールは頷いてから話し始めた。「ムーンアンドサンの店長マリアさんがあの老舗高級ホテルといわれている、ホテルカスケードに入っていくのを見かけたんです。マリンさんも、団長が殺されてからやっぱり……」
ミハイルは首をひねった。
マリアに限って、いや……。
ホテルカスケードは確か、ホテル内に色々何かあったはずだ。
「マリアほどの女なら男のーー」
最後まで言おうとした瞬間、昨日店の開店前にも関わらずテーブルから乗り出しマリンと話していた男の事を思い出した。ミハイルやニール、それに団長とも違う表で生きる人間の匂いがした。
今更にになって気になった。あの男は何者なんだ?
ミハイルは咳払いをし、あくまでも慌てていないように取り繕った。
「マリアにだって男の知り合いの一人や二人いるだろ」
「確かにそうですね。どうでもいい情報でしたね」
ニールは立ち上がり言った。
「俺はこれでコレックに向かいます」
踵を返したニールにミハイルは問いかけた。ニールは少し呆れたように言った。
「兄貴忘れないでくださいよ。兄貴を襲った竜のこととコレックの竜伝説、そしてフローラとその子共に調査でしょ」
「そうだった。じゃあ頼む」
遠ざかっていくニールの背中を見ていた。




