襲撃された部屋
鉄製の扉を何度も叩いている。
「ニールさん! 大家ですが。ちょっと話があるんで出てきてもらえませんか」
「さすがにこれはないだろう……」
「ええ。分かりやす過ぎます」
ミハイルは相手の常套句に絶句した。「しかしここまで情報の伝達が早いとはな」腰に挿してあった剣を抜き玄関に向かおうとした。
「兄貴。こっちです」
椅子からすでに立ち上がりテーブルの剣を握っていた。
「こうなったら数人ぶっ殺したところで大して変わらんだろ」
「何言ってるんですか。兄貴。実際に団長を殺してないのにどうして罪を重ねるようなことするんですか。ここから逃げるんですよ」
ニールは暖炉の中にもぐりこんでいた。
「逃げるって言ったって、お前何してんだ」
「兄貴早く! 中に入ってください」
ドアは激しく叩かれ怒声が聞こえる。
ミハイルも暖炉の中にもぐりこんだ。
「こんなことしてどうするんだ」
「入りましたね。ちょっと痛いかもしれませんが我慢してください」
すると突然、床の感覚がなくなり真っさかさまにミハイルは落ちていった。
真っ暗でわずかに弱々しい光が差すだけの暗闇の暖炉の中、ミハイルは落下の際強打した後頭部を押さえながら言った。体勢もよくない。
「兄貴、早く出てください」
一足早く暖炉から出ていたニールのせかす声が聞こえた。
「ここはどこなんだ」
ミハイルが暖炉からなんとか出るとすでにニールは窓ガラスを開けていた。
「ここは先ほどまでいた部屋の真下です。もしかしたら上にいる者にさっき落ちた音が聞こえたかもしれませんので早くここを離れましょう」
ミハイルは素早く部屋の外に出るとその後にミールが続き、何もなかったかのように窓ガラスを静かに閉めた。
幸い上にいる連中は二人がこっそりと抜け出したことに気づいていないらしかった。
二人は素早く大通りに向かい何事もなかったかのように人ごみの中に入り込んだ。東アムサーラ地区を抜けたところで警官の存在を確認してから裏道に入り込んだ。
「ここで一旦別れようか」
ミハイルは立ち止まりニールに話しかけた。
「兄貴はこれからどこ行くんですか」
「オレはこれから図書館へ行ってここ数日の新聞を目に穴が開くほど読んでくる。お前は今生きているであろうピエールを含めて仲間の存在確認をしてくれ。それとーー」
ミハイルは今現在自分の居在地の住所を告げるとニールは目を丸くした。どうやら居を構えていたところが東アムサーラ地区とは思っていなかったらしい。
「十二時少し前に白い粗末な家があるそこの近くに住所が書いてある看板があるそこに来い。昼飯でも一緒に食おう」
「分かりました。では兄貴もご無事で、二時間後に会いましょう」




