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勇者の復讐  作者: にけ
プロローグ
17/84

予想外のアパート

 数分後、二人は東アムサーラ地区3-7-7 スカイハイツに無事到着した。

 一瞬ミハイルは本当にここでいいのか自信がなくなった。明らかにミハイルが想像していたような場所ではない。もっとじめじめした安アパートを想像していたからだ。しかし側の外壁には東アムサーラ地区3-7-7とへたくそな字で書かれてある。 

 

 首をひねっているミハイルにエリザが話しかけてきた。

「あそこで聞いてみようよ」

 エリザ指したのは鉄扉の近くにある真っ白い造りの建物だった。あまり大きい建物ではなく何かを警備するためのもののように見えた。

 ついこの間まで王都にいたにも関わらず、いつの間にかこんなのができていることに驚いた。

 仕方なくミハイルは詰め所のようなところで聞いてみることにした。

 頑丈な鉄格子が付けられたガラス戸の隙間から軽くミハイルが叩いた。するとぶっきらぼうな声質でまるで軍隊に所属してかのような四十、五十くらいの熊のような大男がガラス戸から顔を出してきた。

 

 男はミハイルを見て眉間にしわを寄せた。チンピラ風情が何の用だ。と男の瞳が語っていた。舐めるように二人を見まわしてくる大男に嫌悪を感じながらもミハイルはこらえながら口を開いた。

「ここは東アムサーラ地区3―7―7 スカイハイツってのはここでいいんか」

「そうだ。物売りか何か。その割には何も持っていないようだが」

「今日から入ることになっている者なんだが、何も聞いてないか」

「あ、新入居者の方でしたが、大変失礼しました。お名前をお聞かせ願いますか」

 明らかに態度の豹変に怒鳴りつけてやろうかと思った。

 

まぁいい。今度家主にでもいいつけてやればいいことだ。


「アレクサンドロ・ミッテル」

 ぶっきらぼうに言い放つと

「少々お待ちください」

 大男はそそくさと消え入るように詰め所の奥へと消えていった。すると正面の鉄扉の隣にある小さい扉がゆっくりゆっくり開き、一人の住人が出てきた。二十から三十台くらいだろうか。身なりの綺麗な女だった。柄の悪さは感じられない。ただ夜の匂いをまとっているようにミハイルは感じた。


 ミハイルの視線に気づいたのか女は軽く微笑し会釈した。ミハイルも返すと女は繁華街方面へと歩いていった。

「お待たせしました」

 大男と一緒にもう一人初老の男がやってきた。男は白髪で物腰が柔らかそうな少し腰の曲がった初老の人物だった。


「アレクサンドロ・ミッテルさん。確かに今日入居ということになっております。契約されたのが今日の今日なので念のため、身分証明書を提示してもらえますか」

 歳のわりに発声が良かった。

 ミハイルはズボンのポケットに入れたほうの交通手形ではなく、上着のポケットに入れたカルーダの交通手形を見せた。

 初老の男は無表情で「確かに。家賃のほうは先払いで向こう半年をいただいております。それに言われたとおり食料品等の生活必需品は部屋のほうに準備してありますので」

 ミハイルが一瞬顔をしかめたのを初老の男は見逃さなかったらしく、どうかしましたか。と尋ねてきた。ミハイルは慌てて言いつくろうと初老の男は何事もなかったかのように続ける。


「家主からくれぐれもお礼をということなので。誠にありがとうございます」初老の男が深々と頭を下げていると詰め所出入り口から大男がて現れた。

「こちが部屋の鍵となります。邸宅の番号はこのキーホルダーに書かれております」

 

 バツの悪そうな顔でミハイルに渡す。銀色の鍵にキーホルダーが付けられている。「それとあの正面の鉄扉の近くにある、扉は一方通行でございます。こちらから入るときは使用できません。この敷地内から出るときだけ御使用ください」

 大男はチェーンを外し鍵を開け鉄扉を開けた。

  すれ違う際にミハイルは大男に向かってつぶやいた。


「人を見かけで判断するのはよくねえよ」

 大男が背後からでも頭を深々と下げているであろう姿が容易に想像できた。


 ミハイルとエリザが敷地内に入ると鉄扉がゆっくりと閉まっていった。

 二人の目の前に現れたのは綺麗に区画さてた真新しい白塗りの塔のような

建物。加えてまるで高級住宅地さながらの造り。

 

 ミハイルはあまりに想像していたものとは違う建物に思わず、感嘆の声を上げる。エリザもここに来るまでに見て来た建物とは雲泥の差に目を丸くし歓声を上げている。ここがあの東アムサーラ地区だと言われてもときっと信じられないだろう。事実ミハイルはどこか別世界に飛んでしまっていったのではないかという不安があった。

 

 スラム街の汚い道路ではなく道は綺麗に整備され壊れた壁や一切無い。当然、スラムにおなじみの淫靡な落書きもない。

 しかし考えてみれば納得いく。警察すらないこの地区で、まともな人間が住もうと思ったらこのくらいの綺麗な住宅にあのくらい厳重な警備は必須だろう。


しかし、どうしてこんなところに建てたのだろう。

確かに王都は物価は高いが……。

 

 握り締めているキーホルダーをミハイルは確認すると三棟目の3-302と書かれてある。 

 ディエゴは一体何を考えているんだ。

 一番奥に建てられているおそらく三棟目のアパートを見つめ胸に抱く不穏な予感をかき消しながらアパートに向かって歩き出した。


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