序章
序章
なんとしても護りたい。私の身はどうなろうとも――。
霞んでいく視界と自由に動かなくなった翼を必死に動かし目的地へと進んだ。
幸いお腹の子には影響がない。
傷つけられた場所は背中とわき腹。致命傷になったのはわき腹だろう。
今でも青紫色の血液が流れ、地上に血滴が落ちている。
背中に乗せている愛しい人の声が聞こえた。
うめき声のようだ。
私以上に重傷なのが分かる。
滴り落ちる真っ赤な血液の量は尋常ではない。
しかし幸い脳や心臓には傷をつけられていないが一刻も猶予がない。
彼は私と同じ道を歩むことに同意してくれた。
人間を捨て竜人の仲間入りになることを。
しかし私と同じ不老ではあるが決して不死ではない。
この戦いが終わってゆっくり三人で暮らそうと言ってくれた。
山奥の家であまり人と会わずに住むところで。
目に浮かぶようだった。
私は夕飯の準備をしている。
彼と子供が家にお腹をすかして帰って来る。
笑顔で私は二人を出迎える。
そんな平凡だけど幸せな日々を過ごすという夢もどうやら叶いそう
もなかった。思わず涙がこぼれる。
意識が絶え絶えの中力強く目を見開き、最後の力を振りしぼり、
両翼を強く羽ばたかせた。
私の望みを叶えてくれた彼だけは死なせたくない!
ようやく見慣れた町並みが少しずつ地上に見えてきた。龍人の町に。
もう少し、もう少しで着く……。
薄れていく意識を奮い立たせ懸命に翼を羽ばたかせた。
伝えないといけない。それにこの戦いは本当に無意味で
人間側にはめられた戦いだということを。