六話
圭兎が森の中に入る数時間前に雨美と弧卯未もこの森に入っていた。そして、森の中をしばらく走ったら森から抜け海が見える崖に着いた。
「はぁ…はぁ…はぁ。弧卯未さん大丈夫ですか?」
雨美は息を切らしながら弧卯未に聞いた。
「はぁ…はぁ…はぁ。ちょ…っと…待っ…て」
弧卯未は喋るのが辛くて少し待ってもらえるよう雨美に息を切らしながら頼んだ。
それから、数分がたった後に弧卯未の息遣いが穏やかになってきたので
「大丈夫ですか?」
と雨美は聞いた。
「うん。ありがとう。大丈夫。それよりこんな場所まできて圭兎は見つけれるの?」
弧卯未は雨美が心配をしてくれたことにお礼を言ったが少し恥ずかしくなり話を変えた。
「多分、大丈夫だと思います」
雨美はそう言ったが自信を無くし少し声を小さくして言った。
「そうなの? 圭兎ってそんなに勘鋭かったっけ?」
弧卯未は今までのことを思い出していったがそんな心当たりがなかったので雨美にそう聞いたが、雨美もよくわからなかったので首を振った。
その後に、雨美と弧卯未は色々な話をしていた。
すると、森から音が聞こえたので圭兎が来たと二人は思っていたが森から出てきたのはゾンビの群れだった。
「っ!? ゾンビ⁉︎」
雨美はそう声に出して、戦闘態勢に入った。
圭兎が森に入る数十分前に、トシカリ達は森に入った。
「志水どこに行ったんだ。次会ったら殺してやる」
トシカリは怒りを露わにしながら圭兎を探していた。
「まぁまぁ、少しは落ち着こうよ。昨日からその調子じゃない」
ミレイはそう言ってトシカリの怒りを抑えようとしたが全く効果がなかったので、さすがに、いつも笑顔のミレイも困った顔をした。
それからしばらく歩いていたら森の出口が見えてきた。そして、ほのかに潮の香りがしてきた。
「ん? 潮の香りってことは海が近いのかな?」
トシカリは無言で森の中を歩いていたら少し気持ちが落ち着いてきたのですぐにそう反応した。
「え? 海? 本当に!?」
ミリカが急に元気になり走って行こうとしたが、
「待て! 何か聞こえる」
とトシカリに止められたのでミリカは少し不機嫌になりながらも耳を傾けた。
「本当だ。何か聞こえる」
エリカは周りの雰囲気を察して静かに言った。
「静かに森を抜けよう」
トシカリはそうみんなに指示し、先頭に立って静かに歩いて行った。
「私達も付いて行こう」
ミレイがそう言うと女子達が頷いてトシカリの後に静かに付いて行った。
「止まれ。ん? あれは確か志水と行動させられた神様と…誰だ?」
トシカリは雨美を見た後、弧卯未を見て不思議に思った。
「まぁ、間違い無くあれは志水と行動していた神様だな。志水はどこだ? まさか、あの人たちを見捨てて自分だけ安全なところにいるのか」
トシカリはそう考えた。
すると、森の中から音が聞こえた。そして、森の中から現れたのはゾンビだった。
「っ⁉︎ あれは、あの時の化け物!?」
トシカリは圭兎に会う前に遭遇したゾンビを思い出してそう言った。
すると、雨美が戦闘態勢に入った。
「あの神様あの化け物と戦うつもりか!? …あ、良い案が思い付いた」
トシカリは、最初は驚いていたが少し冷静になりある考えが思い付いた。
「助けに行かなくちゃ!」
「止まれ‼︎」
エリカと美佐が雨美を助けようと飛び出そうとしたがトシカリに止められた。
「どうして止めるの!?」
「俺に良い案があるからだ」
「聞こうじゃない」
トシカリの行動に疑問を抱き聞いたら良い案があると言ったので、二人冷静になりトシカリの策を聞いた。
「まず、俺たちには化け物と戦える武器が無い。だから、俺たちが助けに入っても邪魔にしかならない。そこでだ。ちょっとした実験をする。あの人たちがこのままでは危ないって所まで待つ。何を待つかって? 志水だ。アイツがあの人たちを本当に裏切って無いかと調べるためにはあの人たちに悪いが危険にあってもらう。助けに来なかったら俺たちが邪魔であろうが救いに行く。助けに来たらその流れに任せる。以上だ」
トシカリは戦闘の最中にそう言った。
「あの」
「なんだ」
「っ⁉︎いえ、なんでもありません」
エリカは色々と反論をしようとしたが、トシカリの気が怖すぎてなにも言えなかった。それは、そこにいるみんなも同じ思いだった。
圭兎は、森の中を一人で歩いていた。
(ここにも、いなさそうだな)
圭兎は周りの状況を見てそう思った。
すると、遠くから戦闘音が聞こえてきた。
圭兎はそこに雨美達がいると考えて罪殺の力を解放しようとした。
だが、力を解放した時、周りに被害が出ていたのを思い出して、力を解放するのを諦めて普通に走った。
海があった。
ゾンビ達がいた。
雨美達もいた。
それと、横を見るとトシカリ達もいた。
圭兎はそういう場所に出た。
ゾンビ達を殺したら雨美達に血がかかると思い圭兎はすぐさまゾンビ達を殺さなかった。
幸い、ここにいる者たちは皆、圭兎の存在に気づいていなかった。
なので、圭兎はゾンビの群れを飛び越え雨美を噛もうとしているゾンビの首をはねた。
『圭兎!』
その場にいるトシカリ以外の皆が一斉にそう言った。
エリカ達は「しまった」って顔をしていたが、雨美達は自分ら以外の声が聞こえていない様だった。
「無事でよかっ」
「話は後だ! まずはこいつらを俺が殺す! だから、お前らは下がってろ!」
雨美が圭兎の無事を喜ぼうとしたら圭兎に止められて、圭兎に言われたことに頷いた。
すると、圭兎はポケットに手をいれてある物を出した。
「おや? こんな所にマッチと油がある。さぁ、これでどうなるかな?」
圭兎はわざとらしくそう言い、マッチに火を付け、油が入ったペットボトルの蓋開けゾンビの群れに投げ入れた。
すると、炎がゾンビ達を包み込んでいった。
「よし。作戦成功。雨美もう大丈夫だぞ」
圭兎は後ろに雨美達がいるのを察していたので後ろを振り向くと雨美がゾンビに崖まで追いつめられていた。そして、崖から落ちようとしていた。その状況にさすがのトシカリでも雨美を助けるため走っていった。
「っ⁉︎」
圭兎は咄嗟の判断で崖まで全力疾走して雨美の腕を持ち、引き上げて雨美は陸に戻し自分が崖から落ちた。そのついでに圭兎はマッチをゾンビに投げつけていた。その炎でゾンビは海に落ちていった。
トシカリが走っていたので雨美は、圭兎を助けてくれると思った。
だが、崖に着いたトシカリは圭兎を冷たい目で見下ろしながら
「死ね」
と言った。
圭兎はその言動に驚いたが笑って口を動かした。
「っ⁉︎」
トシカリはその圭兎の口の動きを見ながら何を言ったか理解して驚いた。
「圭兎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼︎」
すると、圭兎は最期に雨美達の悲痛な叫び声が聞こえたので呆れた。
(俺みたいな悪役は死んでいいんだよ。正義が生き残りさえすればな)
圭兎はそう考えながらこの世界で少しでも一緒に過ごしてきた仲間達の事を走馬灯の様に思い出していった。
そして、圭兎は海の中に落ちた。