七話
圭兎側の皆が空中戦を開始して早々に苦戦を強いられている。
圭兎以外の者は皆、同じことを思っている。
それは、こいつら苦手だ。
不利なのを百も承知だが、想像以上に強い。
「仕方ないあれを使おうか」
「あれを使うのですか?」
「なるほどね」
雨美と美佐とクマナとミヤナ以外の者、つまり、圭兎の中にいるであろう、破壊神と同じ強さの神達がそんな会話を交わしている。
そして、トシカリは少しニヤリと笑い、雨美とミダにでは無い神達がある言葉を発する。
「呪縛解除‼︎」
「っ⁉︎」
三人が同時にそう言うと、圭兎だけが反応する。
「な、なんていう、力だ」
「やっぱり、私の方が強いんだ」
「お前じゃねぇよ‼︎」
圭兎はそうツッコミを入れる。
軽総都の目が点になっている。
「さぁ、どうしようか?」
「適当にやってぶっ放すというのはどうでしょうか?」
「それで良いや。それじゃあ、全てを殺るよ二人共‼︎」
「「はい‼︎」」
トシカリの指示に、エリカとミレイが返事をする。
まずはトシカリが先陣を切って、敵を三体、一気に倒そうとする。
だが、倒せなかった
なぜなら、敵が全て、攻撃を通さないシールドを展開したからだ。
「止まれ‼︎」
トシカリはエリカとミレイにそう指示する。
だが、もう、止まれない。
なぜなら、二人共、もう、敵の目の前に居るからだ。
敵が笑うはずの無い、実験生物なのにニヤリと笑った気がする。
だが、そんな気がした時には、すでに、エリカとミレイの腕が両方喰われていた。
「「っ⁉︎」」
二人共痛みのあまり、声が出ない。
「クソ‼︎」
トシカリはそう言い、二人の怪我を治すために移動しようとしたが、一瞬にして、トシカリも両腕が喰われる。
雨美と美佐は、三人の腕を回復するために、移動するが、すぐに、実験生物に腕を喰われそうになるが、何とか、避けれる。
雨美と美佐は不思議に思う。
自分達よりも確実に、力と地位が共に上なのに、どうして、三人は実験生物の攻撃を避けれなかったのだろうと。
「言い訳になるけど、僕達はまだ、この身体に馴染んでいないんだ」
三人を代表して、トシカリがそう言う。
エリカとミレイが痛みで苦しんでいるのに、なぜか、トシカリだけが平然としている。
「まぁ、馴染んでいないとは言え、破壊神との戦いで、腕が無くなることなんて、よくあることだから、腕が無くなる痛みには慣れているんだけどね。でも、この二人は、なぜか、破壊神との戦いで、腕が無くなるどころか、怪我すらしたことが無いから、痛みには全然慣れていなんだけどね。だから、痛覚に関しては、普通の人と変わらないんだけどね」
トシカリはそう語る。
会話を交わした、時間は分はいっているのに、トシカリ達の腕は一向に治らない。
つまり、トシカリ達は圭兎と違い、神の力を持ってしても、傷が修復しないようだ。
雨美は敵の攻撃を避けながらだが、何か嫌な予感がして、背後を振り返る。
すると、背後では、心臓辺りが何かで貫通させられた、クマナとミヤナが居た。
しかも、最悪なことにクマナとミヤナは、クラルとミリカというほとんど無力な二人に戻っている。
だが、幸いしたことに、クマナとミヤナの力で、二人の傷は修復している。
でも、最悪な状況には変わらない。
雨美と美佐以外の神は、戦闘続行不可能なほどの傷を負っている。
クマナとミヤナも元の、身体の持ち主に戻り、しかも、意識が不明と完全に戦闘続行が不可能な状況だ。
でも、まだ、一応は戦闘が出来る雨美と美佐も、攻撃ができずに、逃げるだけしかできない。
この戦闘は完全に詰んだ。
だが、唯一の希望があるとしたら、圭兎だけ。
そのため、意識がある者達の気持ちは一つしかない。
圭兎頼む‼︎
今から、時刻が十分ほど戻る。
「さぁ、俺はここを終わらすだけで、行けそうだな」
「できるものならやってみなさい」
「誰がそんな挑発に乗るか」
「あら? 残念」
全く残念そうでは無い。
それで話は終わり、軽総都の首に妖刀罪殺を振り下ろす。
だが、残像を斬ったようだ。
へぇ、自分じゃ戦えないと思ったが、普通に戦えるんだ。
そんなことを思っているうちに、軽総都が目の前に居る。
「フレイムウォール」
そう圭兎が、今まで聞いたことが無い魔法名を言うと、圭兎の周りに分厚い炎の壁が生み出される。
軽総都はその攻撃に弾き飛ばされる。
「まぁ、これを作ったら、俺の方からも見えないんだけどな」
そう呑気に言っていると、強い力が消えていることに気付く。
まさか、創造神と生命神と守護神が殺られたのか? いや、生きているな。だけど、どこかが負傷して、力がある出せなくなったか? その可能性が一番高いな。まぁ、確認のために、あいつらのところへと向かうか。
圭兎はそう考えて、神達が戦っている場所に向かう。
あれ? そういえば、あいつら、どうして、合流しているんだ?
そう不思議に思うが、気にしないことにして、そのまま向かう。
時間は戻る。
「な、何? あれ?」
雨美がそう言う。
だが、すぐにトシカリが
「あれは圭兎だ」
と言い出す。
雨美はえっ⁉︎ と思ったが、あんな状況になれるのは圭兎だけだと思い、なるほどと納得する。
すると、雨美達にも、どれほど大きな物かわかるほど近くに、その炎の壁が来てから、突然、弾け飛ぶ。
すると、その弾く勢いで軽総都が思いっ切り、吹っ飛ぶ。
「大丈夫か⁉︎」
「私達は大丈夫だから、あの二人を‼︎」
雨美にそう言われて、圭兎は初めて、ミヤナとクマナがミリカとクラルに戻っており、今にも地面に叩きつけられそうな、勢いで落ちているのを知る。
空気しか無いところを、思いっきり蹴り、ミリカとクラルの元へと一瞬で辿り着く。
その時には、いつの間にか、圭兎の身体が赤黒い鎧に包まれていた。
二人を確保してから、ゆっくりと地面に降り、下に居る希楽夢と鏡子の目の前に二人をゆっくりと寝かせる。
「こいつらを頼む。それと、この場から遠い場所まで離れていろ。地上の敵は任せる」
そう言い、圭兎は、返事も待たずに、羽を生やして、空中戦へと戻る。
「「はい、わかりました。任せてください」」
希楽夢と鏡子は聞こえないとわかっているが、何の打ち合わせもしていないのに、声を揃えてそう言う。
空中戦のど真ん中に、地上から入る。
つまり、神達が逃げている戦いのど真ん中にだ。
そのため、狙われないはずもなく、実験生物に両腕を喰われる。
だが、一瞬にして、生えてきて、さらにもう一度、実験生物達が腕を喰う前に、近くに居た、五体の実験生物を殺す。
そのおかげで、また、喰われそうになっていた創造神の生命神と守護神が助かる。
「ありがとう。助か」
創造神がそう言う終える前に、創造神、生命神、守護神の意識を奪う。
そして、まるで、瞬間移動したかのように、全く違う場所に行った、希楽夢と鏡子を探す。
すると、すぐに見つかった。
だが、二人が居るのは、今まで圭兎がこの世界で見たことの無い、大きさの遺跡。
「お前らもついて来い」
一応、雨美と美佐にそう言う。
そして、圭兎は三人を何とか担ぎ、希楽夢と鏡子が居る遺跡の真上の空に向かう。
そして、希楽夢と鏡子が居る遺跡の真上の空に着いたので、羽を無くす。
すると、重力の影響でそのまま、まっすぐに物凄いスピードで、落下していく。
雨美と美佐はそれを見てギョッとしたが、圭兎について行く。
雨美と美佐は圭兎とは違い、羽で飛んでいるわけではなく、神力で飛んでいるので、神力を操作して、圭兎の後ろをついて行く。
実験生物達はそれで、雨美と美佐を見失っている。
落下をし続けて、圭兎は地面に着きそうなところで、羽をもう一度生やして、落下速度を押し殺す。
雨美と美佐は急だったので、少し焦ったが、すぐに落ち着き、落下速度を落とし、圭兎と同じ速度になる。
そして、圭兎、雨美、美佐は静かに地面に降りる。
「佐藤蘭駆。二人共ちょっとこっちに来てくれ」
圭兎は遺跡に居る二人を呼ぶ。
普通に二人は来た。
「悪いが、俺は、ミソンジを運ぶから、その他の二人を運んでくれないか?」
圭兎がそう聞くと、二人はコクリと頷く。
圭兎がトシカリを担ぎ、希楽夢がエリカを担ぎ、鏡子がミレイを担ぐ。
だが、一人一人担いでいるのだ。
そのため圭兎が一番早く、遺跡に着く。
圭兎はトシカリを置くのと同時に、なぜか、遺跡の地面も見る。
そして、圭兎はバレないように、妖刀罪殺で遺跡の地面に横たわっている、皆を少しだけ刺す。
圭兎の次に、希楽夢がエリカを担いできて、地面にゆっくりと置く。
「佐藤。少し、この遺跡から出てくれないか?」
「ん? わかりましたけど」
希楽夢は圭兎の指示に従い、遺跡から出る。
圭兎は希楽夢の耳元で、指示している最中にバレないように、妖刀罪殺でエリカを少しだけ刺していた。
希楽夢がこの遺跡から出て行ったのを確認してから、圭兎も遺跡を出て、まだ、運ぶのに苦戦している鏡子の元へと向かう。
「軽く背中押してやろうか?」
「ありがとうございます。お願いします」
鏡子は圭兎に少しだけ、甘えることにした。
だが、圭兎は甘やかすためなどでは絶対にない。
全て、自分の計画のため。
鏡子の背中を軽く押しながら、圭兎は鏡子の背中を少しだけ、妖刀罪殺で刺す。もちろん、バレないように。
圭兎の手伝いのおかげで少しは、早めに遺跡に着く。
そして、鏡子がミレイをゆっくりと遺跡の地面に置く。
「もしかしたら、目が覚めているけど、起き上がれない奴が居るか見てきてくれるか?」
「はい。わかりました」
圭兎の言葉に頷き、鏡子は奥に置かれている、貴族達を見に行く。
圭兎はまたも、バレないようにしながら、ミレイの体を少しだけ、妖刀罪殺で刺す。
妖刀罪殺に付いた血を飛び散らせるために、一度、妖刀罪殺を振るってから、鞘に収める。
すると、ちょうど、鏡子が圭兎の元に来た。
「みなさん。まだ、目を瞑っていたままでした」
なぜか、少しだけ寂しそうに、鏡子は報告してきた。
「志水さん。次は何をすれば?」
そう聞きながら、鏡子は近づいてきた。
だが、圭兎はそんな鏡子を突き飛ばし、自分の右腕を妖刀罪殺を鞘から引き抜いて、切り落とす。
そして、遺跡の地面に妖刀罪殺を突き立てる。
そして
「起動」
と言うと、遺跡全体が、青白い光に包まれる。
「なっ⁉︎」
青白い光が眩しすぎてかはわからないが、気絶していたはずの皆が、起き上がり驚いている。
突き飛ばされた、鏡子も起き上がり、青白い光に驚いている。
なるほどな。全員がこの青白い光が何かわからないのか。好都合だな。俺のことを俺が悪く言えば、こいつらとは元の世界に戻ったら、関わらなくて済むからな。
「驚いたか? これはお前らを二度と元の世界に戻れないようにするための光さ‼︎」
「なるほど、つまり、この青白い光は私達を元の世界に戻すための物だと」
「あれ? 予想外の反応」
そう言うと、なぜか皆に「はぁ」とため息を吐かれた。
「僕達みんな、圭兎がいい奴だって知っているからさ。そんな嘘通用しないよ。しかも、さっきの嘘は自分から、みんなを元の世界に戻す光って言ったのと同じだよ。圭兎なら、もし、本当に悪いことをするなら、むしろ黙るから。つまり、自分で、宣言したってことは、その逆ってこと」
「はぁ。もう、お前らには敵わないな。そうだよ。ミソンジが言った通りだ」
「やっぱり。さぁ、圭兎もこっちに来て」
エリカにそう言われる。だが、圭兎は首を横に振る。
「どうして?」
「その光は結界の役割を果たしているのさ。つま、俺からそっちに入ることもできないし、お前らからこっちに来ることもできない」
「あはは。冗談はよしてよ」
「疑うなら、試してみれば良いさ」
そう言うと、青白い光の中に居る皆が、試し出す。
だが、皆、結果は、同じだ。
触れたら、電撃が走って、弾き飛ばされる。
「一緒に帰るって約束したよね⁉︎」
「してない。もし、していたとしても俺が、お前らとの約束を守るもの義理がない」
「それじゃあ、圭兎はこれからどうするの?」
エリカがなぜか、心配そうに聞いてくる。
「研究長を殺してから、この世界が平和になったら、帰るつもりだ」
「それじゃあ、もしかしたら……」
「あぁ。もう、一生会えないかもな。そもそも、この世界と元の世界は、繋がることがあってはならないだろうしな」
「ふざけるな‼︎ 圭兎は一人で、研究長に勝てると思っているのか⁉︎」
「あぁ」
「っ⁉︎ その理由は?」
「理由はと聞かれても勝算があるからとしか言えないな」
「どこにそんな、勝算があるんだ⁉︎」
「俺の中だ」
「っ⁉︎ ということは」
「多分、お前の予想通りだ。ミソンジ。俺という人格を無くし、破壊神と妖刀罪殺に身体を明け渡す」
「そ、そんなぁ⁉︎」
「どうして、お前らが泣きそうな顔をしているんだよ。俺のことなんて、いや、この世界のことも元の世界に戻ったら、どうせ、しばらくしたら忘れるんだしな」
「あたし達は忘れ」
「じゃあな、お別れだ。もしかしたら、一生の」
「それだったら、こんな」
「それじゃあな」
青白い光はお別れの挨拶すら待ってくれなかった。
「さて、軽総都を殺すか。なぁ、お前ら……。っ⁉︎」
圭兎は雨美達と軽総都を殺しに行くつもりだったが、背後を見ると誰も居なかった。
いや、背後の地上には居なかった。だが、背後の空中に居る。
空中に居たのは、軽総都。
そして、その軽総都の後ろには何か大きなモニターがある。
そして、そのモニターの中に映っていたのは、鉄で作られた十字架に、バラの棘が大量に付いている長い緑の茎、で押さえられて、張り付けられている、雨美と美佐。そして、希楽夢。




