六話
圭兎が羽根を生やして飛んでいるのは、トシカリ達からでも見えた。
だが、今までは黒かった羽根が血のように真っ赤に染まっている。
そして、目も。
トシカリ達は皆、圭兎の羽根が生えいる状況を最低でも、一回は見たことがある。
なので、今の圭兎の状況がおかしいことがわかる。
「アハハハハハ‼︎ アハ、アハ……。アハハハハハ‼︎」
圭兎が狂ったように笑っている。
「おい‼︎ 誰かあの圭兎の状況を説明してくれ‼︎」
トシカリは皆に、聞く。
だが、誰も答えられるものは居ない。
すると、トシカリ達が居る方向とは、真逆を見ていた圭兎が、トシカリ達の方へと見る。
そして、ニヤリと笑った気がした。
すると、瞬く間にトシカリ達の前に圭兎が現れた。
そして、トシカリを斬り刻もうとするが、トシカリを皆が護る。
当たり前だが、空気を読まずに、ゾンビとモンスターが攻撃を仕掛けてくる。
「邪魔ダ‼︎」
そう言い圭兎が妖刀罪殺を振るうと、瞬く間にゾンビとモンスターが細切れになる。
「まさか⁉︎ あの時と同じ状況か⁉︎」
トシカリはそう言い、忌楼が殺られた時の圭兎の状況を思い出す。
すると突然、トシカリとエリカとミレイの三人が、地面に倒れる。
だが、すぐに起き上がる。
鏡子はそれで理解した。自分だけが役立たずになっているということを。
すると、トシカリとエリカが圭兎にいや、圭兎の姿をした別の存在に向かう。
トシカリが、右人差し指と中だけを立てて、上へ振る。
すると、地面が盛り上がり、たくさんの土が出てきた。
それを見た、エリカは開いた右手を前に出し、閉じる。
すると、土が全て固まって、人型を取り動き始める。生命があるように。
ミレイは、開いた右手を前に出し、見えない盾を作る。
その盾で、こちらに飛んできている、石や、土を防いでいる。
それを見て、鏡子はやっぱり、自分だけが役立たずだと思い知る。
なぜなら、今、この場に居るのは鏡子以外は全員、人外または、別の世界の存在だからだ。
土で出来た、人型の生物に化物が襲いかかる。
「邪魔ダ‼︎ 邪魔ダ‼︎ 邪魔ダ邪魔ダ邪魔ダ邪魔ダ‼︎」
化物は狂ったようにそう言う。
化物は土人形に斬りかかるが、土人形には効かない。
それでも化物は土人形に斬りかかる。
「やはり破壊神だな」
トシカリはそう呟く。
そのトシカリの言葉に鏡子は驚く。
前にも、トシカリは破壊神と圭兎に向かって言っていた。
そして、今も。
「ここで終わらせましょう。私達と破壊神の長きに渡る戦いを」
本当に訳がわからない。今まで、仲間だった圭兎を殺す? それに、長きに渡る戦い? 私が知っている限り、今の状況は全ておかしい。それに、今は仲間同士で戦っている場合じゃない。
鏡子はそう思う。
なぜなら、目の前にまた、ゾンビとモンスター達が現れているからだ。
土人形はゾンビとモンスターに潰された。
破壊神と呼ばれた化物は、それを好機と見て自分達に攻撃を仕掛けてくるとその場に居る誰もがそう思う。
だが、皆の予想とは裏腹に破壊神はゾンビとモンスター達を薙ぎ払う。
「さて、もう一度土人形を出せよ」
破壊神の目は赤色から通常の圭兎と同じ黒色の目に戻っていた。
羽根も赤色から黒色に戻っていた。
それを見た、トシカリ達は微かに微笑む。
「「わかった。いくよ」」
トシカリとエリカがそう言うと、土人形がたくさん出てきた。
すると、それを見た破壊神は
『深淵の虚空へ堕ちろ』
とそう言い、暗闇の落とし穴に土人形は全て、堕とされた。
「やっぱり強いな」
トシカリはそんなことを言いながらも、楽しそうだった。
いや、トシカリだけではない。
エリカとミレイ。さらにクマナとミヤナも。
その状況にそれ以外の者は置いてかれる。
「だけど、楽しそうだから良いんじゃない?」
「確かにそうですね。いつもの圭兎さんとトシカリさんみたい」
雨美と鏡子は呑気に会話をする。
今、居る場所が戦場だと忘れて。
鏡子は瞬きをすると、目の前に破壊神が居た。
破壊神は鏡子に向けて妖刀罪殺を振り下ろす。
「えっ……?」
驚きのあまり、そんな声しか出なかった。
「血迷ったか⁉︎」
トシカリは破壊神の行動を見てそう言う。
破壊神はそんなトシカリの言葉を気にせずに、鏡子を斬る。
だが、鏡子の身体は斬られていない。
それに驚いた鏡子は自分の身体をあちこち触る。
だが、どこにも斬りつけられた跡が無かった。
「え? どういうことですか?」
「こういうこと」
「?」
鏡子の質問に対する破壊神の返答の意味がわからなかった。
「なぜだ⁉︎ なぜいることがわかった⁉︎」
「バレバレ。そんなので、逆にバレないと思っていたのか? 今の俺は、この身体の本当の持ち主とは違うんだぞ」
「っ⁉︎」
破壊神は、鏡子の身体に取り憑こうとした敵に向かってそう言う。
だが、鏡子は違うことで怒りを覚えた。
鏡子だけではない。雨美もだ。
「破壊神かなにかは知りませんが、圭兎を返してください」
雨美は破壊神にそう言う。
「今は無理だ」
「どうしてですか⁉︎」
「こういう状況だからだ」
そう言い、破壊神は指をパチン! と鳴らす。
すると、少し身体にモザイクが入ってから姿が変わる。
全身の肌が、真っ黒に変化している。
「この身体の本当の持ち主は、強い奴だ。仲間を救うために自分だけが犠牲になっている。そして、一人でこんな痛みに耐えている。普通の人間だったら、この痛みに耐えることが絶対にできない」
「どういう痛みなんですか?」
「言葉にし難いな。だが、簡単に言うなら、この世のありとあらゆる痛みを全て、数十倍にしたくらいだろうな」
「えっ? それじゃあ、どうやって……」
「何かしらの方法で痛みを抑えているんだろう」
「そうですか……」
その言葉を聞いた、雨美がそう呟く。
きっと、圭兎は自分の身を傷つけて、痛みを抑えている。私達には何もできない……。
雨美はそう考える。
いや、雨美だけではない。皆がそう考えている。
気がつくと、姿や力を変化させていた人達が、元に戻っている。
「うっ⁉︎ くっ‼︎ これが……か。想像……以上だな」
破壊神は誰にも聞こえないほどの大きさで呟く。
さっき、圭兎の痛みについて話した破壊神だが、実は自分が経験をしたことが無かったのだ。
それじゃあ、どうして知っているかというと、圭兎から説明していたからだ。
実は圭兎と破壊神は夢の中で会っている。
なので、圭兎は自分の身体の中に破壊神と呼ばれる者が入っていることを知っている。
破壊神の姿も。
圭兎は話すだけで、破壊神までにも、黒い痣に蝕まれる痛みを味わせないために、これまで、痛みを受けるときは自分が受けていた。
だから、今回が初めて黒い痣に蝕まれる痛みを味わった破壊神は冷静に保とうとしているが、泣きそうになっている。
圭兎の痛みなので、破壊神の涙は表面上には出ない。
だが、破壊神の心は涙を流しそうだ。
「っ⁉︎」
破壊神は息を飲む。
なぜなら、黒い痣に飲み込まれて昏睡状態だった、圭兎の精神が目を覚ましたからだ。
そして、無理矢理、破壊神から自分の身体の操作権を奪う。
「どうした? 皆、揃って?」
「っ⁉︎ 圭兎‼︎」
驚いた皆はそう声を上げて、圭兎に近づいてきた。
「おっと、敵さんのおでましだ」
そう圭兎が言うと、本当によくわからない、球体の物が現れる。
「やっぱり貴方は良い、研究材料です」
そう喜びながら、軽総都が球体の中から出てくる。
軽総都は顔以外は変わっていないが、顔が少し前までより幼くなっていた。
「お前、まさか‼︎」
圭兎は軽総都が姿を変えている理由に予想がつく。変え方も。
理由は身体の寿命が尽きるから。
変え方は元の身体の人を実験して、命を奪い、その身体を吸収する。
「そうだよ。前の身体の寿命が尽きそうだったから、顔と心臓だけを変えたのさ」
身体を吸収するという予想は間違えだったが、理由は合っていた。
「つまり、また、可愛い子の顔と心臓を貰い受けたのさ。まさか、前の子の姉妹だとは思わなかったけどね。それと、前の子が心臓病で余命が短いというのも、予想外だったけどね」
「なら、その顔を速攻に剥いでやる」
圭兎は自分の身体の操作権を破壊神に奪い返された。
『ふざけるなよ‼︎ まともに動ける身体じゃないだろう‼︎ 良いから俺に返せ‼︎』
「嫌だ。また、そうやって君は一人で痛みを引き受けようとする」
「なに、一人でぶつぶつ言っているの? 殺すわよ」
軽総都は一人でぶつぶつ言っていることを、不気味に思ったのかそう言う。
あんたの方が不気味なんだよ。
破壊神はそう思う。
「殺せば? それだったら、あんたは研究ができないぞ」
「なにを言っているのかしら? いつ、生きたまま研究するって言ったのかしら。まぁ、生きているに越したことはないのだけどね」
「じゃあ、あんたを殺す」
「できるものならやってみなさいよ」
軽総都はそう挑発してきた。
「お望み通り殺ってやるよ‼︎」
そう言い軽総都に妖刀罪殺を振り下ろすが、何かに弾かれる。
それなのに、軽総都は首を掴んできた。
そして、勢いよく投げつけられた。
今は、空中だ。近くに大きな建物もない。
だから、地面に投げつけられた。
『できないんだったらやるなよな』
「できる。あんたに負けるわけがない」
『本当にできるのかな? 破壊神に憧れたお嬢様』
「っ⁉︎ 誰がお嬢様だ‼︎」
『あ、そうか。ごめん。お嬢様じゃなかったな』
「わかればいいんだ」
『お姫様だったな』
「誰がお姫」
『じゃあ、貰うぞ』
そんな会話を落下中に二人は交わす。
圭兎は油断したところで、身体の操作権を奪う。
そして、羽根を羽ばたかせて、軽総都の攻撃を避けながら、空へ飛ぶ。
「どうしたんだ? 避けられると思わなかったのか?」
「やっと、本当の姿になった」
「ん?」
「私はさっきの奴じゃなくて、君を解剖したいのだよ‼︎」
その軽総都の言葉に驚く。
へぇ、気づかれたんだ。まぁ、そりゃそうか。戦い方が全く違うもんな。
すると、軽総都も飛んでくる。
マジでどうなってんだよ。全くどうやって飛んでいるかわからない。
「まぁ、気にしても仕方ないか」
「ん? 何か言ったかい?」
「いや、なにも」
そんな会話を交わせていると、目の前に白い翼が生えた者が、現れた。
「雨美⁉︎ 美佐⁉︎ お前らどうして来た‼︎」
「その二人だけじゃありませんよ」
「ミソンジ⁉︎ タンダク⁉︎ レイシン⁉︎ クマナ⁉︎ ミヤナ⁉︎ お前らもどうして‼︎ いや、ミソンジ、タンダク、レイシンは違うな。創造神、生命神、守護神」
圭兎と軽総都の間には七人の羽根が生えた神とその手下が居る。
その状況を見た軽総都はわざとと分かるほどの困った顔をする。
「困りました。それと、卑怯ですね。八対一なんて。これは使うしかありませんね」
そう言い、軽総都は何かに緑色の小さな玉をポケットから出した。
「出てきなさい。実験動物No.01からNo.21」
そう言い、軽総都は次々に緑色の玉を投げる。
すると、離れていた皆の正面に各自三個ずつ緑色の玉が飛んでくる。
「数的にはこちらが有利だが、質的には互角。さぁ、これで殺り会おう」
軽総都がそう言うと、緑色の玉が全て一斉に割れる。
そして、圭兎以外の皆の前には、人が現れる。
皆の表情を見る限り、各自が苦手な戦闘方法の人が一人につき三人。
「なにが、互角だ。俺たちが圧倒的に不利じゃないか。まぁ、各自任せる」
圭兎は小さな声でそう呟く。
そして、空中戦が始まる。




