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滅亡世界 前編  作者: 紙本臨夢
第五章
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五話

 トシカリの元には、およそ二十体ほどのゾンビとモンスターの群れがいる。


「さて、勝てるかわからないけど、やるしかないか」


 トシカリはそう言い戦い始める。

 だが、トシカリは自分が勝てる自信があまりない。

 なにせ、この量の敵はトシカリは今まで、戦ったことがない。


「力を貸して。細無(さいな)


 細剣に向かってトシカリはそう言う。

 すると、細剣の刃の色が、銀色から、金色に変わる。


「さて、やってみようか」


 そう言いトシカリは、細剣──細無を振るい、首を跳ねようとするが、ゾンビは斧で攻撃を防ごうとするが、細無はその斧をすり抜けて、ゾンビの首を跳ねる。


「これが細無の力、透過だよ。防御を通り抜けて、敵を倒せる」


 トシカリは細無の力の説明をする。

 細無の透過の力を行使して、次々と敵を倒していく。

 すべて倒し終えるとトシカリは違和感があった。


「弱い。この程度で全滅? はっ! もしかして⁉︎」


 トシカリは何を思ったのかその場を離れて、圭兎が居る方向へと走って向かった。

 通信機の声から、他の皆も同じように全て倒してトシカリと同じ違和感を覚えて、同じことを思ったのか、圭兎達が居る方向へと走って向かったことがうかがえる。



 一方その頃。


「ふぅ。全て解読が終わった」


「お疲れ様。結局なにも、来なかったね」


「いや、わからないぞ。もしかしたら」


「もしかしたら?」


 そう会話をしていると、どこからか突如現れ、圭兎達を囲む。敵の数は余裕で千体は超えているほど居る。


「マジかよ‼︎ さすがにこの量は予想外」


 冷や汗が流れてきた。

 すると弧卯未が突然


「あたしが圭兎を護る」


 と言い出した。

 それを聞いた圭兎は首を横に振る。


「いや、いい。共闘するぞ」


 圭兎が初めて、他人に共闘を申し出た。

 その圭兎の言葉に、弧卯未は驚く。

 元の世界でも、圭兎は他人を頼らなかったからだ。

 すると、弧卯未は


「わかった‼︎」


 とその申し出に笑顔で応じた。


「お、おう。頼むぞ」


 圭兎は若干引き気味に言う。

 すると


「っ⁉︎ 久々に来たなこれ」


 と突然、頭が痛くなったのであることを考えた。

 すると、考え通りに頭に文字が浮かんだ。


『我、百戦錬磨の力によりて、向かうところ敵なし。我、一騎当千の剣士なり。妖刀罪殺無双形態』


 そう呪文を唱えると、全身が赤黒い色の鎧に包まれて、顔も赤黒い色の兜に包まれる。

 さらに、背中には八本もの日本刀が差されていた。

 だが、その八本もの日本刀は普通の日本刀より、五センチほど短い。


「さぁ、行くぞ。初瀬川」


 そう言い二人で敵に向かっていく。

 だが、速度は弧卯未の方が速い。

 慣れない鎧と兜を着ているからか。


「さてと、チャージスピード改」


 そう言うと、全身が金色の光に包まれて、今までのチャージスピードよりかなり速くなっていた。

 その速さは、人間の目で見ると、瞬間移動しているかのように見える。

 圭兎は数分で、五百体ほど殺せた。

 弧卯未は数分で、二十体ほど倒せた。

 同じ長さだが、速度が速いだけでこれだけの違いが出た。

 このまま行ったら、勝てる。

 そう思っていた弧卯未だが、その思いは一瞬にして消えた。

 なぜなら、圭兎が遺跡がある辺りまで、大きく後退していた。

 それも一瞬にして。

 圭兎の突然の後退に気になった、弧卯未は三回ほど地面に足がついたが、遺跡に後退して、圭兎の横に行く。

 弧卯未はしばらく、前を向いて、ゾンビやモンスター達が、動く速度を上げて遺跡に来るかもしれないと思って警戒していたが、全くそんなことが無かったので、圭兎の方へと振り向く。


「圭兎。どうしたの?」


 弧卯未はそう圭兎に心配そうに聞いた。


「ガハッ‼︎」


 すると、その弧卯未の疑問に対する答えと言わんばかりに血を地面に吐いた。


「クソ‼︎ 消耗が速い」


 そう呟き、その後も何度も血を地面に吐いた。

 六回ほど吐き終わった後に、足の力が抜けたのか、地面にヘタレ込んだ。


「えっ⁉︎ 大丈夫⁉︎」


 今まで、こんなことが無かったので、弧卯未はそう聞く。

 答えはわかっているので、その問いは愚問だった。


「あぁ。大丈夫だ」


 圭兎は大丈夫じゃなくても、必ずそう言う。

 それは弧卯未にしたら、わかりきっていることだ。

 だが、そう聞かずにはいられなかった。


「本当に大丈夫?」


「あぁ。大丈夫だ。普通にこうやって、立つこともできる」


 そう言ったが、立ち上がれなかった。

 足に力が入っていないようだ。

 何度も必死に立とうとするが、まったく立てる気配がない。

 そうこうしている内に、ゾンビやモンスター達が、二人に近づいてきた。


「ここまでか……」


 圭兎がそう諦めかけると


「大丈夫」


 と弧卯未が言い、圭兎の前に立ち両刃剣を構える。


「あたしが圭兎を護るから」


 そう言い、ゾンビの首とモンスターの心臓を捉える。

 そして、二体があっという間に倒された。



 一方その頃トシカリは、圭兎と弧卯未以外の皆と合流した。


「どうした? みんな?」


「そっちこそどうしたの?」


「僕は何か、嫌な予感がして」


「あら。私達と同じね」


「え? みんなもかい?」


 そう皆に聞くと、皆、頷く。


「今すぐ、遺跡は向かおう。圭兎と初瀬川さんを護るために」


 皆、頷く。

 だが、廃墟のビルを曲がると、さっきまでトシカリ達が遭遇していた、ゾンビとモンスター達の数を優に超えている群れが居た。


「なっ⁉︎」


 その状況にさすがの皆もたじろぐ。

 神も颯華も一般人達も。

 そんな中、トシカリは自分を奮いたたせて近くに居たゾンビに斬りかかる。

 もちろん、細無の透過の力を使ってだ。

 ゾンビは武器を持っている。

 本能的に防御するだろうとトシカリは思った。

 だが、ゾンビは全く防御しなかった。

 なので、細無がゾンビの身体をすり抜けた。


「どうして、細無の透過の力の弱点を見破られている⁉︎」


「そんなの一度見たら、なんとなく予想が付くでしょうが」


「えっ……?」


「どうしたの?」


 トシカリの動きは固まっている。


「どうして……」


「ん? 何?」


「どうして、ここにいるんですか‼︎」


 トシカリはそう叫ぶ。


「それはもちろん、軽総都様の計画のおかげでだよ。ミソンジ君」


 トシカリはその女性のことを知っている。

 その女性は国立丘道学園で高等部になってから、三年間トシカリのクラスの担任をしている、先生だ。

 すると、ドン‼︎ という銃声が響き彼女の首は飛んで行った。

 その銃声が聞こえた方にトシカリは向く。

 すると、そこには見知らぬ大人の女性が二人いた。

 片方の女性の──ミヤナは、髪が銀色で、目が血に染まったように真っ赤。そして、ショットガンを構えていた。

 もう片方の女性──クマナは、ショットガンを構えていた女性と目を除いて、瓜二つ。その女性の目は闇に染められたように黒い。そして、スナイパーライフルを構えていた。


「……」


 恐れからかその場にいる皆は声が出ない。


「あの人を助けないと。例え中に居なくても」


「わかりました」


 二人はそう言い、一体一体敵を倒していく。

 銃で。

 だが、銃弾が斬られた。


「貴女達のような美しいお方を殺すのは心苦しいですが、仕方ないですね」


「コラ‼︎ あの人達を全員殺して、遺跡に居る実験体を連れてくるのが私達の使命でしょ」


「わかったよ。姉様」


 姉弟(きょうだい)によって道を塞がれる。


「私達でこの姉弟を倒しましょう」


 ミヤナがそう言うと、トシカリ達は反射的に頷いてしまった。


「来て」


 姉弟がそう言うと、二体の人間の等身大の人形が現れた。

 姉の方にはイケメンの人形が。弟の方には美少女の人形が。

 ミヤナ達の戦闘が始まる。



 少し遡る。


「っ⁉︎ まさか……あいつらが……」


 ミヤナとクマナが現れたのを、気配で感じ取った圭兎は驚く。

 あいつらが味方してくれるとはな。

 だが、ここまでに辿り着いてくれるかどうか。

 圭兎はそう思う。


「うっ……」


 今、圭兎は弧卯未に護られている。

 弧卯未の身体は傷だらけだ。それに他人が見てわかるほどに戦闘の疲労が出てきている。

 それもそうだ。

 弧卯未は、一人でゾンビやモンスター達の猛攻を凌いでいる。

 だが、それも限界だと見てわかる。

 仕方ないか。

 圭兎はあることを決意する。


「初瀬川。俺より少し後ろの場所まで後退してくれ」


 圭兎は弧卯未にそう言う。

 圭兎の意図は掴めていないが、とりあえず言われた通りにそこまで下がる。

 それを見た圭兎はゆっくりと立ち上がる。

 そして、弧卯未の右腕を妖刀罪殺で貫いた。


「えっ……? 圭兎?」


 今の状況を理解したくない弧卯未は、そう聞く。

 だが、状況は進む。

 その貫いた時に付いた血を地面に散らす。


(あぁ、やっぱり圭兎は、あたしのことを殺したかったんだ。そりゃ、そうか。圭兎が嫌いな貴族のような生活を送っているあたしのことなんか)


 弧卯未がそう考えていると、何を思ったのか圭兎は自分の左腕を斬り落とした。


「えっ? えっ?」


 さすがに今の状況が理解できなくなった。

 すると、圭兎は自分の血が付いたままの妖刀罪殺を地面に突き刺し


「起動」


 と言う。

 すると、青白い光が弧卯未の周りを囲んだ。


「えっ? どういうこと?」


 さっきから、弧卯未は疑問しかない。


「どういうことって、お前は元の世界へと帰りたいんだろう。そのためにこの仕掛けを起動したんだ。起動方法は、その魔法陣の中に入った者の血を流し、起動する者の血を倍以上流させる。そして、起動というだけ。これで、起動完了だ。元気でいろよ。元の世界でも」


「圭兎達はどうなるの?」


「その内違う場所の魔方陣で帰る。この遺跡の壁には起動方法と魔法陣が複数あることが書いてあったからな」


「それじゃあ、いつになるかは」


「あぁ、わからない」


「そんな……」


 そう言うと弧卯未は涙を流した。


「圭兎も一緒に‼︎」


「残念。もしかしたら、俺は元の世界へと戻る方法を調べれる、唯一の存在かもしれないしな。全員を元の世界へと帰してから俺も帰る。だから、今は、無理だ」


「圭兎……。死なないでね」


「さぁ、それはわからない」


 圭兎はそう言うと、無言で背中から羽根を生やし、身体を軽い赤黒い鎧で包み込んだ。


「じゃあな。元気でな。弧卯未」


「今なんて言っ」


 そこで、弧卯未の身体は完全に青白い光に包まれた。

 弧卯未が最後に見たのは、圭兎が空高く飛び上がっている状況だ。



 目を開けると、そこは今まで見てきた、人類が滅びた滅亡世界ではなく、人類が元気に生きている元の世界だった。

 まるで、あの世界での出来事が全て夢のような気がした。


「でも、あんな夢……」


 弧卯未は夢だと思う気持ちを拭えなかったので、圭兎の家へと向かった。

 すると、そこには、普通の二階建ての一軒家で、木の表札には志水と書いてある家があった。

 その家からは全く生気が感じられなかった。

 その状況で、やっと、弧卯未はあの世界でほ出来事が夢ではない事がわかった。

 すると


「もしかして、弧卯未?」


 と弧卯未の名を呼ぶ、おばさんの声が聞こえて来た。

 弧卯未は声が聞こえた方へと振り返ると、買い物袋をたくさん提げた、三十代後半くらいの女性──弧卯未の母親が居た。


「ただいま。母さん」


 弧卯未がそう微笑みながら言うと、母親が抱きついてきた。


「よかった。無事で……本当に……」


 母親が泣きながらそう言っている。


「い、痛いよ。母さん」


「あっ、ごめんなさい。つい」


 痛かったので弧卯未がそれを言うと、母さんは謝ってきた。

 やっぱり本当の母さんだ。

 弧卯未はその状況でそう思った。

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