四話
皆が圭兎の後ろに来てから、十分程過ぎた。
皆が来ていることに気づいているであろうが、圭兎は、トシカリ達が見たことの無い、字が敷き詰められている石の壁をずっと見ている。
トシカリ達は、なんとなく、話しかけ辛くて黙ったままだ。
だが、このままではいけないと思ったトシカリが、圭兎に話しかけることにした。
「なぁ、圭兎。これなんて書いてある?」
若干話しかけられたことに驚いた圭兎だが、すぐに返答することにした。
「さぁな」
さっきのトシカリの質問に対する答えはこれだ。
その返答にトシカリは少し、驚いたが気を取り直す。
「知らないのに見ているのか⁉︎」
「あぁ。読めないが、大事なことが書いてあることがわかる」
「大事なこと?」
「そうだ。今まで黙っていたが、何度かこの字を読んだことがある。そこには、この世界──滅亡世界から元の世界へと帰る方法が所々、読めない部分があったが、書いてあった」
「なっ⁉︎」
その圭兎の平然とした、態度にその場に居る元の世界へと帰りたいと思っている者達──圭兎以外が愕然としていた。
「どうして……どうして今まで黙っていた‼︎」
「まだ正しいかわからないし、帰り方もわからないからだ。それに、一部は知っていたぞ。なぁ、雨美。美佐」
「えっ? あっ……はい」
突然、話を振られたので、驚いて、ついそう美佐は答えてしまった。
だが、よくよく考えるとあることを思い出した。
「うん。私も知っていた。だけど、元の世界へと帰る方法が書いてあったということは知らなかった」
「私も元の世界へと帰る方法が書いてあったということを知りませんでした。それに、圭兎さんに聞いたら、何もわからなかったと言ってました」
二人がそう答えるともう一度、全員の目が圭兎に集まる。
「なぁ、圭兎。色々と説明し」
「下がれ‼︎」
「っ⁉︎」
圭兎の下がれの一言で、全員が普通の人間ではあり得ない速度で後ろへ下がった。
「生成」
そう言い圭兎は、武器を生成した。
今回生成した武器は刃の部分が光り輝いている西洋の剣。
その生成された、西洋の剣で圭兎は前から、飛んできた、何かを斬った。
だが
「あぁぁ‼︎」
と声を漏らした。
なぜか圭兎の腕と生成した西洋の剣は煙を上げていた。
「圭兎⁉︎ どうしたの⁉︎」
その光景を見た、エリカは圭兎にそう大きな声で聞いた。
「絶対に近づくな‼︎」
だが圭兎は、エリカの質問に答えずそう指示した。
そして、もう一度何かが飛んできた。
また、それを斬り落とすが、今度は圭兎の左腕が煙を上げた。
「……」
我慢しているのか、はたまた、もう痛みに慣れたのか圭兎は無言だった。
すると、もう一度何かが飛んできた。
「チャージスピード」
だが、今度はチャージスピードを使い、避けた。
圭兎は後ろや左右に避けずに前に避けたので、何かが飛んできた方向に進む。
さっきまで、圭兎が居た地面から煙が上がっている。
前に進み続けると、何かを持っている男性が居た。
その男性に一瞬で近付き、男性の腕を両腕を素手で折る。
「……」
その男性は腕を折られても無言。
もしかして、この人は軽総都に人工的に作られた、人間なんじゃないか?
骨を折られても無言の男性を見て、圭兎はそう思う。
「……」
男性が無言で突進してきたが、その突進は一直線に進むだけだったので、容易く避けて男性に足をかけて、転げさせる。
すると、上手く行ったのか男性は起き上がってこない。
それを見た圭兎は「もう、大丈夫だろ」と思い皆がいる場所に戻った。
戻って早々にエリカに問いかけられた。
「あれはなんだったの?」
「あれか? あれは多分、濃硫酸だ」
濃硫酸。それは、質量パーセント濃度が九十パーセント以上の硫酸のことだ。
「それは、大丈夫なの?」
「多分酷くても火傷程度だ。フッ化水素酸じゃなくてよかった」
「フッ化水素酸?」
「実物は見たことがないが、フッ化水素酸とは簡単に言うと、骨までも溶かす液体だ。多分、それを頭からかぶると死ぬと思う。身体の全てが溶けてな」
「うっ」
圭兎の話を聞いて、圭兎以外の全員が圭兎から離れて、吐いていた。
そんな状況を見て圭兎は
(全員が想像力が豊かだとわな)
と思う。
実際に圭兎も、想像力がある方だと自分で思っている。
でも、圭兎はなぜがこういうのに慣れていた。
すると圭兎が突然
「来たか」
と小声で呟く。
「もう、吐き終わったのなら、ちょっと来い」
吐き終わったのを確認したのでそう皆を呼ぶ。
「今から話すのは、頼みだ。俺のな」
「えっ……」
皆が意外そうな顔をしながら、そう言う。
圭兎が「頼みだ」と言ったので、圭兎が何かを話そうとしているが、思考停止している。
すると、突然、パン‼︎と音が鳴って思考停止状態だった皆が、我に返る。
それを見た圭兎は
「俺の頼みというのはな──」
と話し始める。
「──頼めるか?」
圭兎が自分の頼みを話し終える。
その圭兎の頼みを聞いてトシカリが
「わかった。僕はやってみる」
と言ってくれた。
それを見たミレイが
「私達も」
と言うと、女子達、皆が首を縦に振ってくれていた。
「じゃあ、頼むぞ」
「了解」
「わかったわ」
そう会話を交わらせると、弧卯未と圭兎を残して皆、どこかに立ち去った。
すると、少ししてから、皆が立ち去った方向から殺気を感じた。
「始まったか。さて、こちらも始めるか」
感じた殺気を元に圭兎はそう言い、文字が書いてある石の壁に近付く。
そして、腰に差してある妖刀罪殺を取り出す。
妖刀罪殺を石の壁に当てる。
「ありがとな。だが、もういい忌楼」
小声でそう言ったつもりだったかはわからないが、その圭兎の声は弧卯未にも聞こえていた。
その圭兎の言葉は何も知らない人からしたら意味のわからない言葉。だが、弧卯未はなぜ圭兎がそう言っているか理解できている。
優しい瞳。やっぱり、圭兎は人一倍に死に対する、痛みが強い。そんな圭兎をあたしは護りたい。
忌楼と会話している圭兎を見て、弧卯未はそう思う。
「大丈夫だ。これは危険なことじゃない。むしろ、皆を安全に元の世界へと帰すために必要なんだ。だから、頼む」
妖刀罪殺──いや、妖刀罪殺の中に眠っている、忌楼にそう言う。
すると、妖刀罪殺が光り始めた。
その光景を見て弧卯未は、きっと忌楼は中で、ため息を吐いただろうなと思った。
「さてと、今からこの字を読む。初瀬川。護衛を頼む」
「うん。わかった。でも……」
弧卯未の言葉を聞いて圭兎は、いつ生成したのか、真っ二つに曲げられている剣を投げた。
弧卯未はその投げられた真っ二つに曲げられた剣を片手で受け取った。
「その武器は、ボタンみたいな物があるだろう。そのボタンを押したら、広がって両刃剣になる」
圭兎は弧卯未の言おうとしていることが、わかると言わんばかりにそう説明する。
とりあえず、弧卯未は圭兎に言われた通りにしようと思い、ボタンを押した。
そのボタンは、ギリギリ目で見えるほどの小さなボタンだ。
すると、圭兎が言った通りに広がって、上下両方に刃が付いている、両刃剣と呼ばれる真っ黒な剣が姿を現した。
「よし。頼むぞ」
それを見た圭兎は、弧卯未にそう言った。
時間を少し遡る。
圭兎が頼みを話している。
「俺の頼みというのはな、お前らに俺を護って欲しい」
「護る? 何から?」
「ゾンビやモンスターからだ」
「どこに居るんだ?」
「お前らは信じないだろうが、俺にはなぜか、ゾンビ達やモンスター達が来ることがわかる」
「前からそう思っていたよ」
「そうか。今回、こんなことを頼んだのは理由がある」
「その理由とは?」
「俺はこの石の壁の字を、なぜか妖刀罪殺の力で読める。そして、この石の壁に書かれている字の内容は、さっきも言ったが、元の世界へと帰れる方法が書いてあるかもしれないと、俺は予想している。なぜなら、前に見た石碑に、方角はわからなかったが【この世界と似た別世界へ行ける装置がある】と書いてあったからだ。この世界と似た別世界つまり、俺達が居た元の世界の可能性が高い。話を戻すが、俺はこの字を読んでいる時はきっと使い物にならないだろうから、俺を護って欲しい」
圭兎が説明していると、トシカリが手を挙げた。
「どうした?」
「ゾンビ達やモンスター達がどこに居るかわかるのか?」
「あぁ、かなり大雑把だがな。ゾンビ達やモンスター達はこの遺跡の全方位に居る」
「全方位か……。この人数で出来るか?」
「いや、無理だ。だが、一人だけ、一番強い者を遺跡に残らせる。その他のメンバーで防げる範囲を防いだら、もしかしたら、いけるかもしれない。まぁ、こんな無謀な頼みは断ってくれていい。この頼みは戦果を上げても、雨美、美佐、希楽夢、颯華には関係の無いことなんだし」
「もし、僕達が圭兎を護らないと言ったらどうする気だ?」
「それはもちろん、俺が命に代えてでも一人でなんとかする。幸い、俺が死んでも悲しむ奴なんて居ないしな」
「そんなことな」
「いいや、そんなことある。実際に俺は家族も居ないし友達も居ない」
「えっ……。ごめん」
「謝らなくてもいい。そんなことより今は、俺を護るか護らないかだ」
圭兎はエリカが謝ろうとしてきたのでそれを、止めさせ、話を元に戻した。
「あたしは護るよ」
弧卯未がそう言う。
「よく、考えたらあたし、圭兎に護られてばかり。だから、今度はあたしが護る。あたし達のために、圭兎は圭兎にしかできないことをやってくれるんだから、あたしでも、力になれるんだったら、あたしは護るよ」
弧卯未がそう言って、トシカリ達は顔を合わせていた。
「初瀬川さんが言った通りだ。圭兎は圭兎にしかできないことをやっているだ。だから、僕達がその圭兎を護らないと」
トシカリがそう言うと皆が頷く。
「みんなぁ」
なぜか、弧卯未が泣きそうになっている。
「そうか。助かる。さて、それじゃあ、誰が遺跡に俺と残るんだ? 俺はお前らとまともに行動してないから、誰が強いかわからないんだが」
「それはもちろん」
そうトシカリが言うと皆の目線が弧卯未に向いた。
「え? あたし?」
「へぇ。初瀬川が一番強いのか。驚きだな」
そう言い圭兎は真剣に驚いた顔をしながらそう言う。
「初瀬川さんは、強い。本当に」
トシカリは一呼吸置く。
「だって、初瀬川さんはどんな武器でも、その武器の性能を完璧なまでに引き出し、戦いなのに美しく戦う。圭兎は彼女が戦っているところを見てないから知らないかもしれないけど」
「そんなことないよ。絶対にミソンジさんの方が強いよ」
弧卯未は謙遜する。
「いいや、初瀬川さんの方がすごいよ。ねぇ、みんな」
すると、皆が頷いた。
それを見た弧卯未はあたしって強いんだと思う。
「そうか。それじゃあ、もう一度確認する。俺を護ってくれ。初瀬川が俺を遺跡で護ってくれ。その他の奴らは、遺跡の周りで俺を護ってくれ。雨美と美佐と颯華と希楽夢には関係ないが頼めるか?」
「わかった。僕はやってみる」
「私達も」
こういう会話を圭兎達は交わしていた。
時間は元に戻る。
「さて、みんなやるよ」
ゾンビとモンスターの群れを見て、トシカリは一人でそう言う。
すると、いつから持っていたのか、通信機をネックレスみたいに首から下げている。
その通信機から「わかった」と言う圭兎と弧卯未以外の声が聞こえた。
「みんなで圭兎達を護ろう‼︎」
トシカリがそう言うと、圭兎と弧卯未以外の皆が「うん‼︎」と言う。
そうして、トシカリ達の戦闘が始まった。




