三話
エリカは一時間くらい歩くと圭兎に話しかける。
「もう、疲れたから、朝食を摂ろうよ」
「あ…あぁ。わかった」
圭兎はその場に皆が居たことを今、初めて知ったかのように、驚いた顔をしながらそう言う。
そんな圭兎の反応を見た皆は、なぜか驚いている。
料理する場所無いかと圭兎は思います辺りを見回すと、ちょうど、近くに喫茶店があった。
「多分、ここは電気、ガス、水道が通っているだろうから、どこかの席に座ってしばらく、待っていてくれ」
根拠の無い勘で圭兎は皆にそう言い、喫茶店の中に入って行った。
「私達って、そんなに陰が薄いのかな?」
「自分ではわからないよ」
「いえ、多分、あれは私達の陰が薄いのでは無く、あの人がボッとしていただけだと私は思います」
「美佐の言う通りかもね」
「そう言われれば、圭兎さんは突然、何かに引き寄せられるように動きましたね」
「まぁ、よく圭兎は、中学生の頃もボッとしていたので、多分、ボッとしていただけだと思います」
「さすが、中学生時代の同級生ですね」
「さすがって言われるほどでも……」
「いや、さすがだよ。あっ⁉︎ そうだ⁉︎ あたし達に中学生時代の圭兎君のことを教えてよ」
「わかった。それじゃあ、初めはあたしと圭兎の馴れ初めから」
「馴れ初めって言ったら、まるで、恋人みたい」
雨美にそう言われ弧卯未は突然、顔が茹でタコみたいに真っ赤になった。
「ちょっ、ちょっと待ってて。落ち着いてから話しますから」
弧卯未はそう言い深呼吸を始めた。
深呼吸を五回ほどしてから弧卯未は口を開く。
「改めて、あたしと圭兎の馴れ……出会いから話します」
弧卯未はまた、馴れ初めと言いそうになり首を横に振って言い直した。
圭兎は喫茶店の中の電気、ガス、水道が使えるかどうかを、念入りに確かめる。
そして、電気、ガス、水道。
全てがちゃんと、使えるのを確認してから、食材を持って無いことに気付いた。
弧卯未は楽しそうに、中学生の圭兎について話す。
「それでね、あたしは圭兎のこと」
「俺のことがどうした?」
「圭兎のこと、す……って圭兎⁉︎ どうしたの⁉︎」
「食材を受け取るのを忘れてたのを思い出してな」
「そ、そうなんだ。は、はい、これ。朝食分の食材。 これで、作れるんだったら、何でもいいよ」
「了解。それじゃあ、戻る」
圭兎はそう言いその場を歩き去って行く。
「危なかったぁ」
「弧卯未さん。続きを話して」
「う、うん。あたしは圭兎のこと──」
圭兎は何にしようかと考える。
朝食だし、軽いものでいいな。さて、調味料は何が置いてあるだろう。
えっと。塩、砂糖、みりん、醤油、胡椒──。調味料は揃っているな。さて、何を作ろうか?
まぁ、適当に、思いつきで作ろう。
料理を作り始めてから、数十分経つと、エリカとミレイとクラルが厨房に来た。
「何か、手伝うことある?」
「そうだな。邪魔だから、戻ってくれると助かるな」
料理の手を止めずに圭兎は全員に言う。
「どうして? 本当に手伝うことが無いの?」
「うん。無い。料理の邪魔だから、戻れ。お前ら全員、料理したら失敗することがわかっているからな」
そう言われて、少し気持ちを沈めながら三人は客席に戻っていく。
前に全員が、一回は、料理を圭兎の代わりに作って、圭兎にご馳走したことがある。
だが、全員のを食べて、わかったことがあった。
それは、圭兎以外全員が、料理出来ないということだ。
貴族達今まで、使用人に全て、作らせていて料理の仕方すら知らなかった。
平民の弧卯未と希楽夢、そして、人外の者達もなぜか、作れなかった。
その理由は、全て、人任せにしていたので作れなかったと圭兎は予想している。
唯一作れたのは、圭兎と忌楼だけだった。
だが、今は忌楼がこの世に居ないので、料理ができるのは圭兎だけだ。
だから、圭兎は仕方なく一人で作っている。
料理を始めてから、一時間ほど経つとやっと、料理が完成した。
圭兎は慎重に客席まで持っていく。
客席の机に大皿を一枚と小皿を六枚。つまり、計七枚のお皿を置く。
「これ、何?」
ミリカは机に置かれた七枚のお皿を見て、圭兎にそう聞いた。
「大皿はサンドウィッチのパン。小皿はその具」
「まぁ、いただきます」
「召し上がれ」
そう言うと、圭兎以外の全員がサンドウィッチのパンだけを食べようとしている。
「ちょっと待て」
そう言うと、全員食べる前に止まってくれた。
「なに?」
「さっきも、説明した通り、小皿はサンドウィッチの具だ。つまり、サンドウィッチのパンには具が入ってない。ここまで言ったら、俺が止めた理由がわかるよな」
「自分で小皿の好きな具材を入れてということですよね?」
「そうだ。美佐の言った通り、自分で好きな具材を挟め。つまりセルフサービスだ」
「そうなの? わかった」
エリカがそう言うと皆、自分で好きな具材を挟み始めた。
「あれ? もう食べないの?」
席を立った圭兎に雨美がそう聞く。
「あぁ、もう満腹だ」
「そう。わかった」
「少しの間、散歩してくる」
「わかった。後片付けはどうすればいい?」
「やっていてくれたら、助かる」
「わかった。じゃあ、皆でやっておくよ」
トシカリがそう言うと圭兎は無言で立ち去る。
そんな圭兎を見た雨美は心配になった。
「体調悪そうだったけど大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。きっと」
「それなら良いのですが……」
独り言だったつもりの雨美はトシカリに返事をされて少し驚いたが、すぐに敬語に変えて返した。
圭兎は一人で路地裏を歩いている。
「ここなら誰にもバレないな」
そう言う圭兎の額には汗が吹き出ていた。
そんな彼は路地裏の壁にもたれかかって地面に座る。
すると突然
「うっ⁉︎ ……あっ⁉︎」
とかすれた声で言い出す。
「また……、妖刀罪殺を……使った……反動か」
圭兎はそう言い、地面に横になった。
圭兎の身体はまた、黒い痣がたくさんできている。服から肌が見えているところと、足は何もできていない。
だが、服で隠れている肌には前よりも濃い黒色の痣ができている。
その痣が、身体を喰うかのように、激痛を圭兎に与えている。
その激痛のせいで圭兎の意識は朦朧としている。
だが、圭兎はなぜか、意識を失わないように武器を生成する。
生成した武器は、のこぎり型の剣だ。
圭兎はその剣を見て少し微笑む。
なぜなら、今、生成されて欲しい武器が出てきたからだ。
圭兎はその剣を左指の全てに当て、左指を全て削り落とす。
「あれ? 痛みを感じない? もしかして、俺はとうとう痛みに慣れたのか? 多分、そうだろう」
圭兎はそう言い、ある意味、好都合だと思い、一瞬で削り落としたはずの指が生えてきたので、のこぎり型の剣を左に持ち替えて、右指を全て削り落とした。
圭兎はこれを、二十回ずつした。
圭兎は指を削り落とすのが、二十回ずつ終わったので、喫茶店に向かった。
圭兎は理解したことを喫茶店に向かっている最中に整理している。
「二十回ずつ指を削り落としていると、最後の方で、指の回復速度がまだ、目に見える速度の回復力だったが、明らかに回復速度が衰えていた。
そして、回復速度が衰えるのにつれて、身体の黒い痣も薄くなっていた。
その二つの状況でわかったことは、あの黒い痣は俺が怪我というか、血を流すと消えていく。つまり、戦闘中に攻撃を避けなければ、あの黒い痣は出来ないということか」
「何ブツブツ言っているの?」
「っ⁉︎ 驚かすなよ」
気がつくと、喫茶店に着いていたので、雨美に声をかけられた。
「ただの考え事だ。お前らにはどうすることも、関係もないことだがな」
それだけ言うと、喫茶店の室内に入る。
すると、パリン‼︎ とガラスが破れる音がした。
急いで、その音源に向かうとエリカとミレイが割れたお皿を素手で拾おうとしていた。
「やめろ‼︎」
圭兎は気がつくと声を上げていた。
その声に反応して二人は手を止めて圭兎の方を見た。
「お前らはこの部屋から出ろ。居ると仕事が増える」
「……わかった」
二人は事実なので、何も言い返せなかった。
「さてと、ガラスを拾おうか」
二人の足音が聞こえないようになってから、圭兎はそう言い、素手で割れたガラスを拾い始める。
数分で手で拾える大きさの割れたガラスをすべて拾い終わる。
その後に、店内にあった掃除機で、素手では拾えない大きさのガラスの破片を吸う。
指からは血が出ていた。
珍しくその血が中々止まれないので、腰に差していた妖刀罪殺を抜き、その刃の部分に血を数滴垂らし「血を吸え」と言い血を吸わせる。
すると、妖刀罪殺が血を吸い、ガラスの破片で切れた指が修復する。
そして、圭兎は跡形も無くなったのを確認してから、掃除機を元に戻し、皆と合流する。
すると、また、何かに引き寄せられるような感覚を覚える。
すると、圭兎はまた、ふらふらとどこかへ向かっていく。
その後に皆が付いてくるという、絵図ができる。
「なぁ、圭兎」
トシカリは圭兎に話しかけたが反応がない。
その様子を見て、皆、またかと思った。
なぜ、そう思ったかというと、早朝にショッピングモールから出た後に圭兎は、突然、ふらふらと歩き出した。
そんな圭兎が心配になった、トシカリは「なぁ、圭兎」とさっきと同じように話しかけた。
だが、その時も圭兎は反応がなかった。
その後も、皆、圭兎に話しかけたが、誰にも反応しなかった。
唯一反応したのはエリカが
「もう、疲れたから、朝食を摂ろうよ」
と言った時だけだった。
それから、数十分歩くと、モンスターとゾンビ達に遭遇した。
皆は戦闘態勢になるが、圭兎だけは変わらず、ふらふらと前に進む。
前にはモンスターとゾンビ達がいるというのに。
「ちょっ⁉︎ 圭兎⁉︎ 危ないから戻ってきて⁉︎」
雨美はそう圭兎に向かって叫ぶが、相変わらず反応しない。
「皆‼︎ 圭兎を止めよう」
雨美は皆にそう言うと皆が無言で頷く。
皆が同時に圭兎に向けて走り出す。
だが、走り出してすぐに、モンスターとゾンビ達が圭兎に襲いかかっていた。
その光景を見て、皆、圭兎が殺されると思った。
だが、殺されたのはモンスターとゾンビ達の方だった。
なぜなら、圭兎にモンスターとゾンビ達が襲いかかると圭兎は
『邪魔だ。どけ』
と人間じゃないような声で言葉を発して、妖刀罪殺を勢いよく一振りした。
すると、圭兎の前方のモンスターやゾンビ達だけではなく、建物までも消し飛んでいたからだ。
そんな光景を見て呆然としていた、皆は見てしまった。
圭兎が自分達を見て不気味にニヤリと笑ったのを。
すると、ミリカとクラルは気がつくと、圭兎に向かって銃弾を撃ってしまっていた。
だが、圭兎は自分の身体に銃弾が着弾する前に斬り刻んでいた。
そして、瞬く間に圭兎がミリカとクラルの前にいて妖刀罪殺を二人に向けて振るった。
だが、なぜかミリカとクラルから遠かった、トシカリとミレイとエリカが止めていた。
『やめるんだ。破壊神』
『そうね。この子達は、破壊神の貴方の不気味な笑いに恐怖してやってしまっただけよ』
『破壊神だとしても、人の子を殺してはダメですよ。先輩』
『チッ‼︎ 創造神に守護神に生命神か。まさか三人も居るとはな』
四人が人間じゃない声で会話する。
圭兎は後退した。
それを見た、三人も後退した。
「あれ? 僕は何を?」
「トシカリも?」
「あれ? トシカリさんとミレイさんも?」
三人はそう会話すると、圭兎が進み出したので、三人は考えながら後をついて行く。
「六人共どうした? 置いてくよ」
トシカリは立ち止まり六人にそう言うと六人共、無言で後をついてきた。
それから三十分ほど真っ直ぐ歩くと、圭兎が突然立ち止まる。
辺りを見回すとそこは何かの遺跡だ。
「ここは?」
トシカリは圭兎に聞く。
「っ⁉︎ まさか⁉︎」
圭兎はトシカリの声を聞こえているだろうが、それよりも遺跡の壁に走って向かっていく。
トシカリ達はそんな、圭兎の後についていく。
すると、圭兎はある場所で立ち止まり壁をじっと見ている。
トシカリ達も後からその壁を見た。
すると、そこには、トシカリ達にとって今まで、見たことのない文字がぎっしり敷き詰められていた。




