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滅亡世界 前編  作者: 紙本臨夢
第三章
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八話

 真っ白な世界に居る。

 圭兎はそれは夢だと前の経験からすぐに分かった。

 前みたいに現れるであろう者を待っている。

 圭兎の予想通り、ある者は姿を現す。

 だが、前に見た姿とは全くの別物だ。

 圭兎はその姿を見て戸惑いもせず、やはりなと思った。

 前に見た時の姿は完全な人型だったが、今回の姿は原型を留めていないがなんとか人型と分かる位だ。


『殺セ……全テヲ……。潰セ……大事ナモノヲ』


 それだけを言いすぐに姿を消した。

「何があったんだ」と心の中で言い圭兎はしばらくの間ボッとしていた。

 気が付くと圭兎は目を覚ましていた。

 いつの間にか寝ていて見回りをしていなかったので圭兎は見回りをした。

 だが、不思議なことにゾンビが一人も居なくて建物も廃墟ではなく普通に建っていた。

 皆、普通の人間として動いていた。

 圭兎の手元には、妖刀罪殺というより全ての武器が無かった。

 圭兎は不思議に思いながらも自宅があるかもしれない場所に向かった。

 辿り着くと本当に自宅があった。しかも、電気が点いている。

 その光景にさすがの圭兎も驚いた。

 何かを確かめるため圭兎は自宅に走って行き、勢いよく扉を開け放った。

 すると、ある人が身体をビクつかせた。


「おかえりなさい」


 ある人──圭兎の母親がそう言った。

 圭兎は驚きのあまり声が出なかった。


「早くお風呂に入って来なさい。お風呂を出たらリビングに来て」


 母親はそう言いこの場から居なくなった。

 圭兎はうわの空状態でお風呂に入りお風呂を出たのでリビングに向かった。

 そのリビングの光景を見て圭兎は夢だと思いながらも泣きそうになった。

 なぜなら、そのリビングに姿が変わってない父親と母親と成長した姿の二人の妹が笑顔で迎えてくれたからだ。

 圭兎は首を横に振って何とか涙を堪えてリビングに入った。


「何の用?」


 圭兎は出来る限り冷たく言う。圭兎のそんな言い方に父親は圭兎のことを怒ろうとしたが、止められて父親は大人しく引き下がった。


「家に帰って来るのが最近遅いから。その理由が聞きたかっただけよ」


 母親はそう圭兎に聞いた。圭兎は素直に答えそうになったが何とかその言葉を抑えて「関係ないだろ」と冷たく言う。

 その言葉を聞いた母親はさすがに腹が立ち圭兎にビンタをしようとしたが、ゾンビやモンスターの動きで目が鍛えられたようでそのビンタがかなり遅く見えて、そのビンタを軽く避けた。


「じゃあ、家出させてもらうよ」


 圭兎は軽くそう言いこの家から出て行った。

 自分はあの人達と一緒に居てはいけないと思った圭兎は二度とこの人達が居るこの家に帰って来ないと誓った。

 圭兎は相変わらず野宿だ。

 一応、念のために制服は家から持って来ている。

 圭兎は制服に着替え、あるはずのない国立丘道(くどう)学園に向かった。

 だが、国立丘道学園は存在していた。

 圭兎は夢だと判断した。

 なぜなら、圭兎が消えて欲しいと思っていた貴族達が皆、居なくて国立丘道学園には国立丘道学園別館の生徒が居た。つまり、平民だ。

 だが、希楽夢も孤卯未もその学園には居ない。

 正直に言うと圭兎はあの二人も消えて欲しいと思っていたから都合が良すぎると思い夢だと判断した。


「この世界は平和だなぁ」


 圭兎は登校中にそんなことを小声で呟く。

 数人がその言葉を聞いてか圭兎の方に振り向く。

 圭兎は恥ずかしく思う。

 側から聞いたらあんな台詞を吐く人は近寄ってはいけない人──厨二病だと思われるからだ。

 圭兎は学園生活を難なくこなした。

 正確に言うとそこには居ないかのように皆から喋りかけて来なかったし、教師にも問題を当てられなかったからボロをこぼす場面がないから難なくこなせた。

 圭兎は放課後今日はどこで野宿をしようかと考えた。

 頭に浮かんだ案は路地裏で野宿することだ。

 圭兎は野宿出来る程の路地裏で野宿することに決めた。

 圭兎は野宿出来る程の広さの路地裏を探さないとと思い探し始める。

 一方その頃、圭兎の夢の外のトシカリ達は目を覚ました。

 少ししたら朝食の時間だ。

 だが、朝食の時間を過ぎても圭兎は姿を現さない。

 トシカリ達はそれを不思議に思いながらも昨晩に圭兎が盗んで来た食料に全員の朝食分くらいの余りがあったのでとりあえずそれを食べることにした。

 トシカリ達が朝食を食べ終わっても圭兎は姿を現さない。

 何かあったのかと不安になり全員で圭兎を捜すことになった。

 皆、それぞれ別々の場所に向かった。ちゃんと武器を持って。

 雨美は寝ていた場所から少し進んだ場所で圭兎を見つけた。

 だが、圭兎は寝ているようだが揺すっても起きない。さすがにおかしいと思い神力を使い回復をしたが効果が無かった。

 雨美は念のために圭兎の息を確認する。

 すると、圭兎の息をしていない。

 雨美は驚き、心臓マッサージをする。

 息を聞くと少しマシになったがまだ、浅い。

 そして、また止まる。雨美はもう一度心臓マッサージをする。だが、息が浅い。そして止まる。

 二人はそれを何度も繰り返す。

 だが、その繰り返しが十回過ぎると心臓マッサージをするが呼吸をしない。

 雨美は咄嗟に人工呼吸をした後に心臓マッサージをする。それで、やっと普通に心臓が動き始める。

 雨美は安堵する。確認のため神力を使い回復させる。だが、効果が無い。

 雨美はさっきまで呪文を唱えて居なかったが次は呪文を唱えようと思い、呪文を唱える。


『全てを救い、全てを受け入れる。私の力によって、か弱き者を救い給え。ヒーリング』


 そう唱えると雨美は圭兎の体の少し上に両手をかざす。

 すると、今まで何の変化も無かった雨美の手が眩しいくらいに黄緑色に発光し圭兎を包み込んだ。

 だが、圭兎に変化は無い。雨美には圭兎を見守るくらいのことしか出来ない。

 雨美は自分の無力さに苦しむ。

 すると、黄緑色の発光を見た美佐が皆を集めて雨美の所に向かって来た。

 辿り着いた足音で雨美は振り返る。

 その雨美の顔を見てもしかしてと皆は思い、圭兎に近付いて息を確認する。

 ちゃんと、息をしている。

 トシカリは寝ているのかと思い圭兎の身体を揺する。だが、起きる気配が無い。トシカリは心配になり雨美の方に振り向く。

 雨美はそのトシカリの顔を見て何を言いたいのか察した。


「圭兎は今は生きています。ついさっきまでは息が止まっていたのですが」


 雨美はそう言う。雨美はそう言ってから余計なことを言ってしまったと気付く。

 雨美は「すみません」と謝る。

 トシカリは「いや、いいよ」と言っているかのように笑顔で首を横に振った。


「それよりも、今は圭兎を安全な場所まで運ぼう」


 トシカリは話を急に変えそう提案し圭兎を背負う。

 そして、自分達が寝ていた場所に移動し圭兎をそっと地面に置いた。


「僕達はまた、見守ることしか出来ないのか」


 トシカリはそう悔しがる。

 圭兎は野宿出来る程の広さの路地裏に着くと突然、誰かに揺らされたように立ち眩みがした。

 だが、それはすぐに治る。

 次は突然息が出来ないようになる。

 これは二十秒続いた。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 圭兎は必死に息を吸いそう呼吸をした。

 最後に身体中が何か、暖かいものに包まれた気がする。

 すると、さっきまでの立ち眩みや呼吸困難が嘘のように身体中が軽くなる。


「何だったんだ? いったい」


 圭兎はそう一人で小声で呟く。そのまま路地裏の奥に入っていった。

 すると、不良が居た。

 不良達は圭兎を見付けると絡んできた。

 圭兎はその不良達を一瞬で気絶させる。

 そして、その不良達を路地裏から路地に置く。

 通行人が分かりにくい場所に。


「あ、あの」


 後ろから女の子の声が聞こえてきた。

 圭兎は振り向き小三くらいの女の子が圭兎を感謝の眼差しで見ている。

 圭兎はその眼差しが嫌いで女の子を睨んだ。

 女の子は身体をビクリと震わせながら「助けて頂き……あ、ありがとうございました」とお礼を圭兎に言う。

 圭兎はその女の子の言葉を聞き


「お礼はいいから早く帰った方が良い。家族が心配するぞ」


 と冷たいながらも圭兎にとって精一杯の優しさでそう言い女の子を帰らせた。

 だが、圭兎のその言葉の裏には変な奴に絡まれても次は、助けない。だから邪魔だ帰れという言葉が隠れていた。

 圭兎は路地裏の奥に入り近くのコインロッカーに入れていた野宿用のテントを張る。

 そして、きっと調理部の生徒が靴箱に入れたであろう、クッキーと煎餅(せんべい)を張ったテントの中で食べて、学校の水道で入れた水を飲み、残った水を浴びた。手芸部の生徒が靴箱に入れたであろうタオルで水気を取り寝た。

 翌朝、起きると心臓の部分から妖刀罪殺であろう刀が出ていたので、戻ろうとした所でその刀を手で受け止めて心臓の部分から引き抜く。

 そして、引き抜いた妖刀罪殺を少し不安ながらも布団の横に置き起きる。

 圭兎の不安は解消され、安堵する。

 妖刀罪殺が心臓部分に戻らないからだ。

 圭兎は家庭科部の生徒クッキーと煎餅を作った生徒とは違うであろう生徒が作った消費期間が作った日から一週間は保つサンドウィッチとおにぎりを食べてテントを出てテントを片付ける。

 すると、足音が聞こえてきた。それも複数。

 逃げ切れないと分かった圭兎はそこでジッとする。

 圭兎はどうせ警察だろうと思った。

 だが、姿を現したのは警察では無かった。

 姿を現したのは寝不足で目の下に隈が出来た父親と母親といつもより早く起こされたであろう二人の妹だった。


「よかった……無事で……」


 母親は突然そう言い出し涙を流した。よく見ると、父親と二人の妹もだ。

 圭兎は自分の腰にある物に気付いた。

 腰にあるのは妖刀罪殺だ。

 そして、妖刀罪殺の言葉も思い出した。

 圭兎は何度も何度も妖刀罪殺の鞘を触る。

 そして、意を決したかのように妖刀罪殺を鞘から抜き放つ。


「っ!?」


 圭兎のその状態を見て二つの意味で四人は息を飲んだ。

 一つは単純に圭兎が刀を抜き放ち自分達に向けたからだ。

 もう一つは圭兎の両手に黒い(あざ)が出来ているからだ。


「やっぱりね」


「何がだ?」


 母親が何か一人で納得しているので圭兎は聞き返す。

 母親と二人の妹の一人が笑顔で


「貴方がこの世界とは別の世界から来た圭兎の偽者だと言うことを」


 と優しな声で言う。

 圭兎はそのことについて気付かれていたことに驚く。

 だが、圭兎はさらに驚くことになる。


「でも、貴方はこの世界に来た方法も分からない。だから、唯一の手掛かりのために母さん達を殺すという所かしら?」


 母親の予想がほぼ確実に合っているからだ。

 圭兎はそこまで、分かっているなら武器を隠し持っているだろうなと予想し身構える。


「良いよ。母さんは殺しても」


 母親はそう言い全てのポケットを裏向ける。武器を持っていないことを分からせるために。


「母さんだけじゃない。私……ううん。私達妹二人も殺しても良いよ圭兎お兄ちゃん」


 妹の二人も満面の笑みで母親と同じ行動をした。


「父さんも。遠慮なく殺して良いぞ」


 父親は圭兎に近付き圭兎の頭に手を置いてすぐに元居た場所に戻りこれまでの人達と同じことをした。

 圭兎はここまで言ってくれているのだし殺そうと思う。


「あれ……? どうしてだろ……? この人達は俺にとって偽者なのに……どうして……出て来るんだ……涙が……」


 圭兎は涙を流しながら言う。


「それはね、圭兎。偽者でも同じ姿をしているからだよ。でもね、私達には貴方という息子が元々存在して居なかったのよ。感染症に掛かって流産したから」


 母親はそんなことを言う。


「え?」


 圭兎は不思議に思いそんな情けない声を出す。


「どうして名前を知っているかって聞きたいのね? 実は貴方が来る前日に何か分からない人に突然言われてね、最初はそんなことあり得ないと思ったよ。でも、本当に貴方が来た。少しでも、息子と喋れて楽しかったよ」


 母親は笑顔でそう言う。

 圭兎はさらに涙が出て来た。

 少しの間、涙を流してから圭兎は涙を拭き取り


「ごめん」


 と涙を堪えながら全員を一気に殺した。首を跳ねて。皆、顔がすごく笑顔だった。


「あっ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」


 圭兎は盛大に泣き叫んだ。

 一分後。泣き叫ぶのを止めた。だが、涙はまだ流れてくる。


「ごめん……俺は二度も貴方達を殺した」


 圭兎は最後の涙の雫が流れ落ちている時にそう言った。

 すると、突然妖刀罪殺が青白く光る。今まで以上の明るさで。

 圭兎はゆっくりながらも妖刀罪殺を振るった。

 すると、どこか別の世界に通じる穴が五つ開いた。

 そして、四つの穴は圭兎が殺した死体をそれぞれ別の穴が開い吸い込んでいき分解される。

 圭兎は自分の目の前に現れた穴に入る。

 白い光に包まれる。

 圭兎が目を開けると目の前には、皆が居た。


「どうした……? 全員で集まって」


 圭兎がそう言葉を放つと皆が


「圭兎‼︎ 無事で良かったぁ‼︎」


 と言い無駄に絡んできた。


「痛い痛い‼︎ 数人抱きつくなって‼︎ 俺の身体は一人が限度だ‼︎」


 圭兎はそう叫ぶがそんなのお構い無しで、さらに人数が足された。

 皆の気が済むまで圭兎はされるがままだった。

 今、やっと解放される。

 圭兎は雨美からどういう状況だったか事情を聞いた。


「お前等……その……ありがとな。心配してくれて」


 圭兎は照れながらそう言う。

 圭兎に感謝を言われたので皆、目が点になった。


「特に雨美。本当にありがとな。お前が居なかったらもしかしたら、今ごろ俺は死んでいたかもしれないしな」


 圭兎は照れは少し無くなって、笑顔で雨美の頭に手を置いた。

 すると、なぜか雨美は茹でタコのように真っ赤になり


「き、きききき気にしないでね!」


 とちゃんとに喋れて居なかった。

 その光景を見て羨ましいと思った者が数人居た。

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