一話
孤卯未は六年間の事で孤卯未が知っている事だけ圭兎達に話した。
圭兎達は静かに孤卯未のその話を聞いていた。
今の時刻は午後六時三十分。話し始めたのが午前十時だったので八時間経っている。
「そんなことがあったんだな」
圭兎はそう言った。そして、圭兎以外は孤卯未に「大変だったね」と言った。
孤卯未はその言葉に少し怒りを感じた。
この六年間は孤卯未にとって過酷で辛かったから「大変だったね」と哀れみの言葉だけで済む事では無い。
圭兎は内心、初瀬川でもなぜこの世界が滅亡世界したか知らないかと思った。
圭兎は無言で立ち上がりどこかへ一人で向かった。
数分後。圭兎は血に濡れている大きな袋を持ってきた。
無言で圭兎は袋を孤卯未達の方に投げた。
「お前らで処理しろ」
そう一言だけ言って圭兎はどこかへ行った。
トシカリは袋の中身は怪しい物だと思いそっと袋を開けた。
袋の中身トシカリの予想とは全く違う物だ。
トシカリは、なぜ、あいつがこんな物をと不思議に思った。
袋の中に入っているのは食材だ。全て賞味期限も消費期限も切れていない。
トシカリはそれだったらこの赤いのはなんだろうと思ったので触ってみた。たが、その赤いのはやはり血だった。
圭兎は相変わらず皆とは別行動している。
圭兎は一人で自分の左肩を押さえている。
圭兎はさっき、無言で立ち上がりどこかへ行った時に近くのスーパーに行っていた。そのスーパーで食材をレジから取ってきた大きな袋に入れて外に出た。圭兎がスーパーを出て前を向いた瞬間、モンスターが二匹居た。そのモンスターの姿は一匹は小さなドラゴン。もう一匹は小さなグリフォンだった。
圭兎はまだ子供だし、俺達に被害を出して無いから殺さないでいようと思った。今までと同じように。
だが、二匹の魔物は突然成長して大人の魔物になった。
そして、圭兎に向かってきた。
いつもなら気付いている圭兎だが、今回はなぜか全く気付いていなかった。
なので、左肩をドラゴンとグリフォンに斬り裂かれた。
圭兎はその攻撃でやっと気付いて、すぐドラゴンとグリフォンの体を妖刀罪殺で真っ二つにして殺した。
そして、今に至る。
圭兎は服屋から盗んだ服の袖を捲り自分の肩を見た。傷が目に見える速度で治っている。
圭兎はそれを見て、俺はもう人間じゃないなと自虐的な笑みを浮かべている。
すると、トシカリ達が居る方向から何者かが走って来た。
圭兎は左肩を服で隠し一応身構える。
やって来たのは孤卯未だ。
圭兎は予想通りと思ったので、身構えるのをやめた。
「少し話があるのだけど今良いかな?」
孤卯未は圭兎にそう聞く。圭兎はやはりなと思いながら小さく頷く。
「忌楼についてなんだけど……」
孤卯未は少し言いにくそうに言った。圭兎は仕方ないかという顔をしながら
「お前に憑いてる奴だろ。少し姿を見させてくれないか?」
と孤卯未に言った。孤卯未は不思議に思いながらも頷いて「忌楼出てきて」と言った。
すると、普通の人には見えないらしいが忌楼が出てきた。だが、そんな忌楼でも圭兎には見える。
圭兎は笑顔で「ありがとう」と孤卯未にお礼をして笑顔のまま刀で忌楼の心臓部分を刺した。
「えっ……」
孤卯未と忌楼が圭兎のその行為に驚いている。
圭兎はそれを無視して「戻れ」と小声で言い、刀を引き抜く。
「これで完了だ」
圭兎がそう一人で言うと忌楼に身体が戻る。
「どういうこと?」
孤卯未は不思議に思い圭兎に質問をする。
圭兎は孤卯未のその質問に呆れて溜息を吐きながらも
「俺の武器が妖刀罪殺ってだけだ」
ときちんと質問に答えた。
ついでに妖刀罪殺を手に入れるまでの経緯についても話した。
「それじゃあ……」
「あぁ。この人‥……水川は身体が元に戻った。だが、少し水川の母親の思念が入っている。そうだろ?」
孤卯未が確認しようとしている事を理解したので圭兎はその事を肯定した。そして、忌楼に話を振った。
「はい。少しですが、私の母親の温かい心が伝ってきます」
忌楼は自分の胸に手を当てながらそう言う。
その反応を見た圭兎は「なら良い」と少し微笑みながら一言だけ言った。
「圭兎さんはどこまで妖刀罪殺の力を扱えていますか?」
忌楼は圭兎にそう聞く。孤卯未は初対面のはずの圭兎に忌楼が志水さんでは無く圭兎さんと呼んだので驚いている。
「飛行形態と時空切断王形態だっけ? その初歩段階の二つだけ」
圭兎は忌楼の質問に答える。「そうですか」と納得している忌楼に圭兎は重大な事を言うのを忘れているのに気付く。
「ちなみに同時使用だ」
圭兎は付け加える。その圭兎の言葉にさすがの忌楼でも驚く。
なぜなら、妖刀罪殺の形態変化は二つ同時に行えないからだ。
「妖刀罪殺から母親の心と私の身体を取り除いて大丈夫ですか?」
忌楼は圭兎の事が心配になりそう聞く。
「多分、大丈夫だ。俺が乗っ取られなかったら良いだけの話だろ」
圭兎はそう言ったが、忌楼は妖刀罪殺の怖さを一番知っているのは自分だと思い誰にも聞こえない大きさの声で妖刀罪殺に自分を封印して妖刀罪殺の暴走を止める呪文を唱えた。
だが、妖刀罪殺の中に封印出来なかった。
「残念だな。妖刀罪殺の中に居る何かにこの呪文を唱えていたら安全だと言われて、誰も妖刀罪殺に入れないし抜けられない障壁を張らせてもらった」
圭兎のその言葉に忌楼は驚く。障壁は妖刀罪殺に認められて数ヶ月経たな張れないはずなのに妖刀罪殺に認められて数日しか経っていない圭兎が張れていたからだ。
「まぁ、妖刀罪殺に俺が乗っ取られて暴走したらお前が止めてくれ水川。だから、これからよろしくな」
圭兎は忌楼に挨拶した。
「よろしくお願いします。圭兎さん。それと、私の事は忌楼で良いです」
忌楼は圭兎に挨拶を返した。これまた、孤卯未は驚いた。忌楼が圭兎に自分を下の名前で呼ぶよう頼んだからだ。
「ひとまず、俺の事は圭兎で良い。慣れてきたら敬語を使わないようにしてくれ」
「分かりました。圭兎」
圭兎の言葉に忌楼は納得した。孤卯未は二人の会話に置いてけぼりだ。
あの時、家族って言葉を出したから駄目だったのかなあたしと孤卯未は密かに思った。
圭兎は仲間になったので忌楼に雨美達に挨拶に行くよう言った。もちろん、圭兎は付いていかない。付き添いは孤卯未にさせた。
圭兎は今ここに一人で居る。
圭兎は左肩の事がバレなかったので安堵する。
圭兎は少し考える。元の世界に戻るための方法が有るかどうかをだ。
孤卯未の話を聞いて一層早く全員を元の世界に戻さないとなと思った。
孤卯未は家族が居ないと元の世界では言っていたが、実際は居た。しかも、今は元の世界に孤卯未の話に登場した洸夜と美右という家族が居ると圭兎は予想している。それには理由がある。
親というのは自分の身を犠牲にしてでも子供の身を守ろうとする。だから、孤卯未の話の最後に出たどうしようもない状況でも親は子供を安全な所に避難させようとする。孤卯未の両親の経験上二人が知っている一番安全な所は元居た世界だ。
圭兎はそう思っている。
すると、頭には自分が経験した昔の情景が浮かんだ。
その景色を消すため圭兎は首を振った。
「さて、行きますか」
圭兎はそう言ってこの周辺のパトロールを開始した。
圭兎は貴族達が嫌いだ。だが、ここで死んだら面倒くさい状況になると思い圭兎は仕方なく毎日のようにパトロールしている。
自分の睡眠時間を削って。




