六話
洸夜達は走っている。
誰にも追い付けない速さで走っている。
そのため今はまだ、誰にも追い付かれていない。
「これからどこに行く?」
洸夜はそう聞いた。
「とりあえず、孤卯未──姉さんの所まで行って敵が来ていないか確かめる。そして、来ていなかったらそのまま別の場所に移動する。もし、来ていたら敵を倒してから別の場所に移動する」
美右はそう答えた。洸夜はその言葉に「分かった」と言った。だが、これは誰も追い付けていない時の作戦だ。なので、敵に追い付かれたらこの作戦は実行に移せない。
すると、何かが洸夜達の横を通って洸夜達の前に止まった。
洸夜達も必然的に止まらなければ相手に衝突してしまう。なので、洸夜達は止まった。
すると、目の前に居たのは湖だった。
「母さん⁉︎ よかった、無事だったんだね」
美右がそう言うと洸夜も安堵した。
「今から、どこに行くか大体分かっているわ。私も付いて行っていい?」
湖がそう聞くと、洸夜は正気だと判断して笑顔で頷いた。
その頷きを見た湖は優しく微笑んだ。
だが、不意に空から羽音が聞こえた。
洸夜は鳥だと思い空を見ずに走る。
すると、次の瞬間にその羽音が近くで聞こえた。
そして、前に何が舞い降りた。
すると、目の前に居たのは目が紅くて純白な羽が付いている女天使だ。
洸夜は即座に敵だと判断した。
なぜなら、紅い目に生気が無かったからだ。
洸夜は背中に差していた大剣を美右は腰に差していた双剣をそして湖は腰に仕舞っていた銃剣を取り出した。
「天使一匹位私一人で出来るわ」
湖がそう言って天使と戦い始めた。
だが、戦闘は一瞬で湖の勝利で終わった。
まず、初めに銃で天使の羽をボロボロにし、次に天使に近付いて心臓を剣で一刺ししその剣を引き抜いて、最後に頭に剣を刺し込んで頭の中で銃を撃った。それで、天使を倒した。
「ほらね。言ったでしょ」
湖は後ろに居た洸夜達の方を向いてそう言いながら微笑んだ。
「どうして、そんな早く……」
洸夜は聞いた。すると湖は
「だってあれ、紅が作ったゾンビの外見を天使にしただけの試作品だからだよ」
と説明してくれた。
「そう……何だ……。とりあえず、今は進もう」
洸夜は最初に言葉を詰まらせながら言った。
すると、二人は無言で頷いた。
孤卯未が居る家に数百メートルの範囲まで近付いて来た。
「そろそろだよ」
洸夜は湖にそう言った。
すると、
「そうなんだ。久しぶりに会えるね。やっと……うっ!?」
湖は喜んでいたが突然苦しみだした。
「母さん⁉︎」
「まさか……」
心配をした美右を他所に湖はそう小声で呟いた。
「仕組まれた……早く孤卯未を安全な所に‼︎」
湖はそう言った。
洸夜には何のことか分からない。仕組まれた、何を洸夜はそう思いすぐに行動出来無かった。
まさか洸夜がそう思い動こうとした。
だが、時すでに遅し。
「予想通りだ。残念だったな」
周りは化け物に囲まれて聞きたくもない人の声を聞いた。
「やっぱり……紅‼︎」
洸夜はそう怒った。
なぜなら、自分の妻を時限薬で罠にかけて子供達を罠にかけてそれなのに平然としていたからだ。
「酷いなぁ。父さんを呼び捨てなんて」
紅はわざとらしくそう言った。
洸夜はその間に化け物達を薙ぎ払い走った。
どこに走ったかと言うと、この孤卯未の居る家がある住宅街を抜けてすぐの場所にあるビルの廃墟だ。
その廃墟は行き止まりだ。
洸夜もそれを知っている。
だが、あえてその廃墟を選んだ。
「さて、殺ろうか」
洸夜がそう言うと化け物達が大量に攻め入ってきた。その中には紅と湖も混ざっている。
「烈火の炎に包まれて消し炭になれ‼︎ フレイムバースト‼︎」
「耐えられない光に衝突し感電して‼︎ ライトニングピアー‼︎」
洸夜と美右は二人で別々の方向に能力を放った。
すると、ゾンビ類は全て消えた。
だが、それ以外の種類には防がれたり跳ね返されたりした。
洸夜と美右はこれまた、別々の方向に向かって行って斬り殺していった。
洸夜は全部倒して後は紅と湖だけだと思ったがまた、突然化け物達が大量に出てきた。
「っ!?」
洸夜は息を飲んだ。
だが、その後はさっきと同じ方法で敵を倒していく。
能力でゾンビ類を消し、その後に剣でそれ以外の種類を倒す。そして、また大量に敵が出てくる。
それが数十分続いた。すると、薬の効果が切れて能力が使えなくなった。
「クソ‼︎ 時間切れか‼︎」
洸夜はそう言い、ポケットから同じ薬を取り出し自分に打った。美右も同じ行動をしている。
そして、また数十分経った。
だが、一向に敵は減らない。どちらかと言うと増えてきている。
「さぁ、動こうか」
紅が小声でそう言った。
すると、湖が動いた。
化け物達の隙間を縫って行って、的確に洸夜と美右の右腕を斬り落とした。
湖の武器は普通の細剣に変わっていた。
「っ!?」
洸夜も美右も痛すぎて声が出なく痛覚を感じなかった。
「やばいな……。仕方ない。美右!」
最初は小声で言っていた洸夜だが、美右の名前を呼ぶ時だけ声を大きくした。
美右はそれで何か察した。
二人で頷きあってから
「神速によって相手を翻弄する‼︎ チャージスピード‼︎」
と呪文を唱えた。
すると、二人の動きがその場の誰にも見えなかった。
突然窓ガラスの割れる音がした。だが、ここはビルの九階逃げれないそう思った紅は
「逃げたか。追わなくていい」
と全体に指示した。
すると、全員止まった。
だが、湖は何を察したか自分も窓ガラスから飛び出した。
湖も身体を強化されている。
「もう、ここまで来たら追えないだろう」
洸夜はそう言った。美右もその言葉に頷いた。
今二人が居る場所は孤卯未も住んでいる家がある住宅街。
今、洸夜達が向かっているのは洸夜達と孤卯未の家。
そこに向かっている理由は家の中に止血する為の薬がある。
洸夜達はそれを取ってこの場から離れるつもりだ。
洸夜は「僕が行く」と言って入って行って、血を止める薬を持ち出した。
どのようにして、持ち出したかと言うと能力で自分の身体を数秒間この世に存在しないものとする能力だ。その能力で、扉を通り抜け血痕が残らないように薬を探して持ち出したという方法だ。
洸夜の能力の効果が解けた、
洸夜達は薬を打って止血してこの場を離れようとした。
だが、そこに湖が来て二人の最初に左腕と両足を瞬時に斬った。
次に腹を貫通する位刺した。
そして、最後にトドメを刺す為に心臓に細剣を突き刺そうとした。
だが、出来なかった。
なぜなら、紅が打った時限薬の効果が切れたからだ。
そして、湖は自分の持っている細剣に付いた血痕と洸夜達を見てすぐに自分は何をしたか理解した。
「あっ……あっ……」
湖は自分が仕出かしたことに泣きながら後悔して叫ぼうとした時に洸夜に言われた。
「母……さん……あい……つが……来る……前に……逃げ……て……グハッ‼︎」
洸夜は文字通り血を吐きながらそう言い母親に逃げるように指示した。
だが、
「でも……」
と湖はその後に何かを言おうとした。だが、
「早く……行け‼︎」
と洸夜に言われて言葉を止めて
「ごめんなさい」
と泣きながら言ってどこかへ行った。
洸夜はその様子を見て力の無い笑みをした。
そして、美右の所まで身体を引きずりながら行き、美右の手を軽く握った。
そして、僕達死ぬ時も一緒だねと洸夜が心の中で言った。
すると、心の声が通じたのか、はたまたまぐれなのか、美右が力の無い笑みをした。
二人で力の無い笑みをしながら二人共そこで、意識が暗闇に落ちた。




