五話
両親に連れられて、洸夜と美右は入ってすぐにあった部屋のとなりの部屋に来た。
その部屋は会社などにある応接室に似ている。
洸夜と美右は紅に「そこに座って」と言われて二人は同じソファに座った。
そのソファは二人が座っても広さに余裕がある程広かった。
紅と湖は洸夜達の前の席に座った。
今の時刻はそろそろ午前四時だ。洸夜達に眠気が来ないのは眠気がすぐに冷める薬を飲んだからだ。
「さて、何の用なんだい?」
紅が突然本題に入った。
すると、湖と美右は無言で立ち上がり応接室にあるガスコンロで湖はお湯を沸かし始めた。美右はガスコンロの近くにある棚を開けて瓶を三つとティーカップを四つ取り出した。
紅と洸夜は真剣な表情をしている。
「単刀直入に言うよ、父様達は何がしたいの?」
「というと?」
洸夜に質問されて紅はすぐに疑問で返した。
「だってやってる事、矛盾だらけだよ。例えば最初の時に平和の為と言いながら変な薬を作って、突然息をして無さそうな人にこれを使ってこいと言ったよね。言われた通り使ったよ。平和の為とか言われたから。でも、何なのあれ。死んだ人がゾンビ化したよ」
洸夜がそう言うと紅は
「あれは、今はここにいない崇高なる研究長様が作ったゾンビの胃液だよ。死んでも生き返るから戦争で戦死者が出ても何回も再利用が出来るから平和の為になるのだよ。動かないものは死んだと同じという定義だったら誰も死なない国を創れると言ったよね」
と言い返した。
「それじゃあ、あの時どうして僕達も一緒に入れてくれなかったの?」
洸夜はそう聞いたすると、
「あの時?」
と一瞬だけ疑問に感じた紅だがすぐに
「あぁ‼︎ 孤卯未の居る部屋の横で実験をした時か。あの時は、僕達がやった方が成功しやすいと思ったからだよ。結果は失敗に終わったけど」
と言った。さすがに洸夜は父親のその言葉に腹を立たせた。
「何なの父さん達は‼︎ 自分の娘が危険な目に遭ったのに何も感じないの!? あの時、僕達が突入しなかったら姉さんは今頃この世にいなかったんだよ‼︎ それなのに……」
洸夜がそう言うと紅は「何も感じなかっただって?」と聞いた。すると、
「僕だってあの娘に怪我がなくて、安心したよ」
と言った。洸夜はその父親の言葉にまだ、少しでも親としての心があったんだと安堵した。だが、紅が続けた言葉に洸夜は驚愕した。
「そりゃ、安心するよ。唯一の実験の成功例に
接触する為の者に傷が入らなくて」
その言葉を聞いた洸夜は瞬時に紅に近寄って、胸倉を掴んだ。
そして、脇差に差していた小さな短刀を抜き放ち紅を斬ろうとした。だが、紅が小さな声で
「散れ」
と一言だけ呟くと短刀が一瞬のうちに灰になった。
すると、
「さぁ、これでも飲んで落ち着こう」
と湖が紅に美右が洸夜に言った。すると、彼女達の手には飲み物が入ったティーカップがあった。
紅と洸夜は珈琲が入っているティーカップ。
湖と美右は紅茶が入っているティーカップ。
紅と洸夜は気持ちを落ち着かせその珈琲が入ったティーカップを受け取った。
「ありがとう」
と紅は湖に洸夜は美右に笑顔でお礼を言った。
数分間、休憩してからまた、すぐに話し合いになると思った。
だが、話はすぐに終わった。
なぜなら、
「二人で話し合った結果、僕達は二度とあなた達の非人道的な研究に付き合いません」
と洸夜が紅達に言ったからだ。
紅はその言葉を聞いて
「そうか。なら仕方ないか」
と言い湖はまさかという顔をしていた。
「研究の内容を知っているお前達を抹殺する」
と紅は声をいつもより低くして言った。
「っ!?」
さすがの洸夜達も息を飲んだ。
「ちょっと考え直さない?」
湖は必死に止めようとした。
「仕方ない」
紅がそう言うと湖に何かの薬を打った。
湖が最後に見たのは研究長と姿が見え被った様に見えた自分の旦那だった。
「母さん!?」
美右がそう言って母親に近付こうとすると洸夜が止めた。そして、首を横に振った。
すると、薬を打たれた母親が何かに身体を乗っ取られた様に動いた。
そして、口を開いた。
「コロス」
そう一言だけ喋った。
すると、突然この部屋の全方向から大量にゾンビが出て来た。その中にはゾンビじゃないモン
スターも混ざっている。
「っ!?」
洸夜と美右は息を飲んだ。
「さぁ、あの者達だけを殺せ」
そう紅が指示をするとその部屋の物達全てが洸夜と美右に近づいてきた。
その様子を見た洸夜は
「烈火の炎に包まれて消し炭になれ‼︎ フレイムバースト‼︎」
と呪文を唱えてすぐに炎を放った。
すると、出口までの道のりが開けた。
「急ごう」
洸夜はそう言い美右の腕を引っ張ってこの研究所を出た。
そして、洞窟に出るとそこにも大量のゾンビとモンスターがいた。
「くっ!?」
洸夜がその様子を見て驚いていると美右に肩を軽く叩かれた。
それに振り向くと美右は
「洸夜はフレイムバーストを放ってお願い。作戦があるの」
と言ったので洸夜は頷いて呪文を唱える。
「烈火の炎に包まれて消し炭になれ‼︎ フレイムバースト‼︎」
そう呪文を唱えてフレイムバーストを放つと美右の口から
「耐えられない光に衝突し感電して‼︎ ライトニングピアー‼︎」
と聞いたことも無い呪文が唱えられて前に突き出した人差し指の指先から電気が放たれた。
すると、その電気が洸夜が放ったフレイムバーストの炎と融合した。
そして、前にいた物達を包み込み外までの道が開けた。
「凄い」
洸夜は驚いてその場から動けなかった。
だが、美右に
「今は道が開けているよ。急ごう」
と言われ動いた。
洸夜達は走った。
薬で肉体強化した状態で。
なので、誰にも追い付けない。
すぐに、洞窟の出口が見えてきた。
すると、そこには紅に何かの薬を打たれた湖と化け物達がいた。
「もう、終わりだ」
その様子を見た洸夜は絶望した。
なぜなら、湖が自分達より何十倍も強いと知っているからだ。
だが、
「ここは……私が食い止めておくから……あなた達は早く逃げて」
と苦しそうな湖の声が聞いてきた。
「母さん‼︎」
美右が近付こうすると、湖は
「来ちゃダメ‼︎」
と叫んだ。
「でも……」
美右はそれでも湖に近付こうとした。
「早く行きなさい‼︎ あなた達は自分の意思で姉さん──孤湖未と一緒にいるって決めたんでしょう。だから……孤湖未を任せたよ」
湖は微笑みながら涙を流した。
「っ!? 分かった……でも、母さんも無事で」
それでも近付こうと美右がしたから洸夜はある事を察して美右の腕を無理矢理引っ張って連れて行った。
「母さ」
「見るな‼︎」
美右が衝撃的な光景を見そうだったので洸夜は美右の目を手で隠した。
その光景とは、ゾンビの群れに湖が囲まれているとい物だ。
洸夜は涙を流しながらも美右を引っ張って走って行った。
行く当てもなく。
そして、ちょうど朝日が出てきた。
なので、洸夜と美右と湖の涙はキラキラと光っていた。




