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滅亡世界 前編  作者: 紙本臨夢
第二・五章
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四話

 初瀬川夫妻が忌楼を監視し始めてから数年が経った。忌楼の年齢は初瀬川夫妻が引き取った時は十五歳だったが、今は二十歳だ。つまり、五年経った。少女だった忌楼は今はもう、立派な女性だ。それにつれて忌楼は現代のことも少しずつ理解してきた。年齢だけで見ると立派な女性だが精神はまだ幼い。いや、どちらかと言うと歳をとるにつれて、精神がどんどん幼くなっている。

 その原因は研究長による、過度な実験のせいだ。

 初瀬川夫妻はあの時、研究長に反抗しても無意味だと知り、それ以降反抗していない。いや、正確に言うと従順になっている。

 研究長に部屋の鍵を締めるなと言われたら鍵を締めなくなり、実験動物を貸してくれと言われたら素直に忌楼を渡している。

 研究長に反抗しても無意味と分かったばかりの時はそれでも反抗していた。

 だが、どうしてこの様なことになったかを言うと、自分達のしている非人道的な実験に加え、研究長の人を人とは思わない発言に精神を削られてしまったからだ。

 今日もいつも通り、研究長に実験動物を貸してくれと言われた。

 なので、いつも通りそれを承諾して初瀬川夫妻は忌楼に付き添った。

 だが、いつもとは違う場所に連れてかれた。

 その部屋は、初瀬川夫妻も忌楼も全く入ったことのない部屋だった。

 その部屋は壁も天井も全て真っ白で中央に何かの機械が置かれていた。

 そんな内装だったので忌楼は何かの診察室かなと思った。

 だが、研究長は


「最後の実験に入る。それで、安全だったらいよいよ、妖刀罪殺をこの実験動物に持たせる」


 と冷徹な声で言った。

 その言葉を聞いても初瀬川夫妻は無言だった。

 そんな中、精神が幼い忌楼は涙を流した。

 なぜなら、研究長は忌楼には今まで優しく接してきた。そして、いつも「もうすぐ、本当のお父さんとお母さんに会えるよ」と優しい声で言っていた。ましてや、実験動物なんて言葉を一回も聞いてなかった。なので実験動物と言う言葉を初めて聞いて忌楼は泣きながら逃げようとした。だが、何者かに手を持たれて機械に連れて行かれ機械に拘束具で縛り付けられた。

 そして、服を全て破かれた。下着もだ。その時初めて忌楼は手を持った何者かを見た。

 それは、初瀬川夫妻が忙しい時に何時も遊び相手をしてくれていた四十代位の研究員の男性だった。


「ハハハ。やっぱり催眠薬は便利だね」


 研究長はその光景を冷たい目で見て言った。

 初瀬川夫妻も研究長と同じ冷たい目で見ている。

 そして、研究員の男性は自分が着ている服を全部脱ぎ忌楼に馬乗りになった。徐々に研究員の男性は忌楼に裸の身体に自分の裸の身体を近づけてきた。

 幼い精神の忌楼だが、知識があるのでこれから自分がどんなことになるか理解し涙を堪えながら目を瞑った。

 すると、研究長が「時間だ」と言った。

 忌楼は何のことか分からなかった。

 すると、忌楼が拘束されている機械が突然カプセル状になり、研究員の男性を弾け飛ばした。

 真っ白な部屋にはカプセルの中に入っている忌楼と床に弾け飛ばされた研究員の男性しか居ない。研究長と初瀬川夫妻は白い部屋の状況が分かる透明な窓がある別の部屋に居る。

 研究長は手に持ったボタンが一つしか無いリモコンの一つしか無いボタンを笑顔で押した。

 カプセル内で横を見た忌楼の目の前で研究員の男性は破裂した。

 その光景を見た忌楼は


「あっ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」


 と激しく取り乱しながら叫び、その叫び声がカプセル内に反響した。

 だが、忌楼の心の中は親しかった人の死に対する悲しみと自分を襲おうとした人の死に対する喜びの二つだけだった。

 真っ白だった部屋は一部を残し人の血で真っ赤に染まった。

 だが、研究長の前にあるさっき研究員を破裂さしたリモコンとは違う何かの機械のボタンを押すと、一瞬にして真っ白な部屋に戻った。

 すると、研究長は


「頃合いかな」


 と言ってさっきの機械のさっき押したボタンをとは違うボタンを押した。

 すると、忌楼の意識が真っ暗になった。

 忌楼が目を開けるとそこには、何かの屋敷に居た。

 そして、忌楼の目の前に何かで撃たれた様な傷がある女性が居る。

 忌楼はこの人が自分の母親だとすぐに理解した。

 気が付くと忌楼の周りには、甲冑を着ている人や着物を着ている人などの色々な格好をした人が集まっている。

 その様子を見て忌楼は、母親は死んだのだと理解した。

 すると突然、忌楼の周りに居る人が一斉に忌楼を見た。そして皆、口を揃えて


「お前が悪いんだ。お前のせいでこの人が死んだんだ」


 と言った。


「え?」


 忌楼は何を言われているか分からなかった。

 そして、ずっと皆口を揃えて「お前のせいだ」と何回も言っている。そして、「お前のせいだ」と言いながら周りの人は忌楼に近付いてくる。そして、誰かに足を掴まれた。


「お前のせいだ」


 そして、足を掴んでいる手を見つけてその手を辿った。すると、死んでいるはずの母親にそう言われた。母親の目と口の中は憎しみ染められた様に真っ暗だった。


「あっ……あっ……」


 どうにもならないのに忌楼は叫び声を上げようとした。

 すると、


『貴女のせいじゃない』


 と何処からか聞いたことのある声が聞こえてきた。


『全て、思い出しなさい』


 そう言われると身体に何かが走った。そして、その何かが頭に辿り着くと今までの事を全て思い出した。両親の事。実験の事。そして、妖刀罪殺の事。

 それに伴い、精神は二十歳よりは幼いが十五歳になった。

 全てが元に戻った。

 だが、幼い精神の時に経験した記憶や感じた気持ちは消えなかった。

 研究長は忌楼の脳波が映っているディスプレイを見て笑った。


「今だ」


 そう一言だけ言ってパソコンを操作した。

 忌楼は母親に一発だけ盛大に頬を平手で叩かれた。


『もう、心配させて』


 忌楼の母親は泣きながらそう言い忌楼を抱き締めた。


「ごめんなさい」


 忌楼は素直に謝った。

 すると、母親が離してくれた。

 だが、忌楼の視界は突然何かの光で一杯になった。

 しばらく、目を開けれなかった。


「母様。何処に」


 目を閉じながらそう言ったが反応が無い。

 忌楼は微笑んだ。

 なぜなら、母親は生前の時、たまに突然目を瞑らせて黙りだし、隠れんぼを始めたからだ。

 忌楼はまたかと思いながらも、目がちゃんと見える様になったら探してあげようと思った。

 目が見え様になった。そして、探してあげようと思った。だが、目の前にはさっきまで無かった刀しか無かった。

 忌楼はその刀に見覚えがある。

 それは、自分が昔使っていて、今は妖刀罪殺と言われている刀だ。


「ハハハハハハ‼︎ ついに、ついに成功した‼︎」


 研究長は高笑いをしてそう言った。

 そして、自分のポケットに触れた。

 念のために。

 研究長はそう思うと、自分のポケット入っている催眠薬を二つ取り出した。

 そして、初瀬川夫妻に打った。

 そして、命令した。


「もし、私が死ぬ様な事があったら実験を続けろ」


 研究長はそう言い窓を見た。

 すると、目の前に赤黒い色をした妖刀罪殺を持っている、裸の忌楼が居た。


 すると、


『我、鉄壁ノ鎧ヲ身ニ(マトイ)シ時空ノ王ナリ。我ニ時空ヲ斬リ裂ケル(ツルギ)ヲ手ニ。妖刀罪殺時空切断王形態』


 と唱えると、忌楼は赤黒い色の鎧を纏い、妖刀罪殺は青白い色になった。

 そして、忌楼は妖刀罪殺を振るった。

 すると、空間が裂けて忌楼はその中を通り一瞬にして研究長の前に来た。

 そして、研究長の身体に妖刀罪殺を斬りつけた。

 すると、斬りつけた部分から空間が裂けて、最終的には研究長何て存在が元から無かったようになっていた。

 この部屋にはいつの間にか初瀬川夫妻が居なくなっていた。

 忌楼は何とか意識を妖刀罪殺から奪い返して空間を裂き、何か変な呪文を唱えた。

 そして、裂いた空間に入っていった。

 その後の忌楼の行方はまだ誰も知らない。

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