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滅亡世界 前編  作者: 紙本臨夢
第二・五章
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二・五話

 忌楼はMRIの上で寝ている。

 すると突然、紅達の隣の医者から「もう暑いし取ろう」と言う独り言が聞こえてきた。

 今の季節は真冬なのでこの部屋は暖房の温度を高めにセットしてある。なので、もう暑いは理解出来る。だが、取ろうは理解出来ない。

 そのため、紅と湖で首を傾げている。

 すると、隣の医者から何かを破るような音がした。なので、二人は隣の医者を見た。


「っ!?」


 隣の医者の正体を見て二人は息を飲んだ。

 隣に居たのは「暑い」と言って団扇(うちわ)で自分の顔を(あお)いでいる研究長だ。


「今回は、連れてくるの早かったね。前は言われた通りの時期に連れてきたのに」


 そう言われ紅は殺した少女の事を完全に思い出し怒りと無力さに駆られた。


「どうして……研究長が前の少女の事を?」


 紅は何とか感情を押し殺し研究長に聞いた。


「それは、簡単だよ。紅君。前の少女を検査したのも私だからだよ」


 研究長は子供に(しつけ)をする様に紅に言った。


「さて、検査を再開しよう」


 団扇で自分を扇いで休憩していた研究長がそう言うとMRIが動き始めた。


「何の検査をしているのですか?」


 紅はこの研究長なら酷いことをしていると思い、聞いた。


「酷いなぁ。紅君は。普通の妖刀罪殺の適合率を検査しているだけだよ」


 研究長は紅の心を読んだかのようにそう言った。紅は研究長の心を読んだかのような言葉に悪寒を感じ鳥肌が立った。


「終わった。適合率は……っ!? やっと……やっとだ‼︎」


 研究長が適合率が表示されたディスプレイを見て息を飲んだ後に突然そう言い出したので紅と湖は適合率が気になりパソコンのディスプレイを覗き込んだ。


「…………」


 言葉にならなかった。


「99.8%……ほぼ、確実じゃないか」


 紅はそう言ったが、二人の心の中は嬉しさより悲しさの方が大きかった。

 今までの子の犠牲は何だったんだ。

 でも、忌楼だけにこの罪を背負わせてしまう。

 今は紅と湖の心の中はこの二つだけしかない。


「ハハ……ハハハハハ……良いモルモットを手に入れたじゃないか私」


 研究長は突然笑い出しそう言った。本当に心の底から喜んでいる。


「あの……研究長」


 紅はひとまず意見を言おうとした。

 すると研究長は、診察室の机の上に付いているマイクを手に持ち命令をした。

 そのマイクは、この研究所内全域に放送される。


「皆、喜んでくれ。妖刀罪殺の完璧なる適合者を診察で発見した。この研究所内に居る実験予定実験動物を全部処理しろ。以上だ」


 研究長は予想外の事を言った。


「研究長‼︎ どうして殺すのですか‼︎」


 さすがに我慢出来なくなった紅は研究長に掴みかかろうとした。

 だが、どこからかやって来た化け物に邪魔されて掴みかかれなかった。

 その化け物とは俗に言うゾンビという物だった。


「殺しても。これと、同じ物になるだけだ。この薬でな」


 ニヤリと笑ってそう言った研究長が取り出したのは、緑の液体だった。


「これはね、ゾンビの胃液という名の薬でね私の一人で作ったんだよ。作り方は簡単。実験で死んだ物を解剖して体内から胃液を取り出して色々な薬を混ぜたんだよ。まぁ、今はまだゾンビを操作出来ないから困ったものだけどね」


 研究長はそんな情報いらないのに薬に付いて教えてきた。


「湖‼︎ 一体しかいない‼︎ 今からこの研究所に居る子達を助けに行ってくれ‼︎」


 紅は必死に湖に言った。湖は頷いて走っていった。

 だが、数秒で湖がこの診察室に投げ飛ばされた。


「っ!?」


 ゾンビは瞬く間に診察室に増えた。


「大事な実験動物に触れるな」


 ゾンビがMRIの上で未だ寝ている忌楼に触れようとしたら、研究長は何かを取り出した。研究長が取り出したのは小瓶だった。

 その小瓶の蓋を開けて研究長は診察室に来るまでの廊下に向かって小瓶を投げた。

 紅と湖は小瓶の中に入っている物を見て吐き気がした。

 中に入っていたのは、研究長がゾンビの胃液を作る時に胃液だけを取り出した死骸をバラバラに切断した人だった物だ。


「さて、もう少し精密に調べないとね」


 研究長はそう言ってマイクに向かって「ゾンビを処理しろ」と命令してこの診察室に居る者以外の人にゾンビを殺して貰い忌楼に触れた。

 そして、


「運ぶの手伝ってもらえるかね」


 と紅に言った。紅が「拒否する」と言い始める前に研究長はわざとゾンビの胃液を紅達に見える様にした。そのため、紅は自分がゾンビにされるだけならそのまま「拒否する」と言うだろうが湖もきっとそうなるだろうと思い渋々承諾した。

 真っ白だった診察室までの廊下は今は真っ赤に染まっている。

 次に紅達が来たのは解剖室だ。

 紅はまさかと思い研究長に聞いた。


「忌楼を解剖するのですか!?」


 研究長は即答した。


「する訳無いよ。大事な実験動物何だし。ほんのちょっとだけ、皮膚と臓器と血液を貰うだけだよ。安心なさい」


 誰もそんな言葉で安心出来る訳が無いであろうと紅は思った。

 そして皮膚などを取り終えると、次は紅達も来た事の無い部屋に来た。


「ここは?」


 湖が研究長に聞いた。


「珍しいね。湖ちゃんが私に話しかけるなんて。ここは複製室。要するに、クローンを作るための部屋だよ」


 湖は研究長に「湖ちゃん」と言われて悪寒が走った。


「クローンってまだ、人間は成功して無いのでは?」


 紅はそう研究長に聞いた。


「いつかは成功するだろうから、その時の保存用よ」


 実は研究長は凄い人だ。

 例えば、ガン細胞を完全に死滅させる薬を作ったり、事故などで亡くなった腕を再生させる薬を作ったりだ。その他にも色々と社会に貢献している。

 だから、妖刀罪殺の実験を成功させて社会に貢献しようとしている。


「よし。保存完了。最後はあそこにしましょう」


 研究長と紅達ある場所に来た。道中研究長は楽しげな足取りだった。

 その場所は忌楼が入っていたカプセルがある部屋だ。


「ここをそれの、寝床にしましょう」


 研究長は忌楼を指差して言った。

 だが紅達は、道中研究長は楽しげな足取りだったことを思い出して、必ず無断で勝手に忌楼の実験をし出すと思い二人で顔を合わせて頷き合った。


「あの……研究長。彼女は今、私達が見張り役として付いています。ですから、私達の部屋で良いのでは?」


 湖はそう言った。研究長はあからさまに嫌がっている顔をしたがそれは一瞬だけだった。

 湖は安堵した。


「そうね。貴方達に任せた方が良さそうね」


 研究長は笑顔で言った。その様子を見て紅は安堵した。


「しかし、ちゃんと部屋に鍵を掛けとくのよ。大事な実験動物なんだから」


 研究長はさっきの笑顔のまま言った。

 言葉を続けられた時には紅と湖も、不安で心臓が張り裂けそうだった。

 気が付いたら時刻はもう、午後八時だった。

 自分の部屋で紅と湖は忌楼を起こして夕飯を食べてから、湖と忌楼は一緒に風呂に入り忌楼はまだ眠いからと言って寝に行った。

 今部屋の中では、紅と湖の二人だけ起きている。

 だが、二人は別々に何かに没頭していた。


「「出来た」」


 二人同時にそう言った。

 紅の方は新しい部屋の鍵。湖の方は鍵を新しく変えた理由を。

 紅が新しい部屋の鍵を作った理由は今の鍵のままでは、研究長に容易に入られて忌楼が連れて行かれ実験されるため。

 もし、その鍵を変えた理由を聞かれた時のための言い訳のため。

 二人は共同作業をした。


「それじゃあ、ちょっと鍵を取り替えてくるね」


「いってらっしゃい」


 片方が部屋を出る時に部屋に残っているもう片方が「いってらっしゃい」と言う。それが、この部屋のルール。


 数分後。紅が部屋に戻ってきた。


「ただいま」


「おかえり」


 この挨拶もこの部屋のルール。


「さて、寝ようか」


「そうだね」


 そう二人が言葉を交わすと紅が床で寝ようとした。


「こっちで寝れば?」


 湖がそう言いながらベッドを指差した。


「でも、狭いだろ。ダブルベッドだし」


 紅がそう言うと湖は呆れた顔をした。


「もう、忘れたの?」


 湖にそう言われたが紅は何のことか分からない。


「もしかしたら、家族が増えて寝る場所に困るだろうからってトリプルベッドにしたでしょ」


 紅は言われて思い出した。


「あぁ、そうだったね」


 紅はそう言いながらダブルベッドの横を引っ張ってベッドをもう一つ取り出した。

 そして、トリプルベッドになった。


「おやすみ」


「うん。おやすみ」


 そう言って紅は湖の額に口づけをした。それも、この部屋のルール。

 そして、一人減って新たに一人増えた家族は仲良く川の字で寝た。

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