二話
忌楼は目を覚ました。夢の事は全て覚えている。
妖刀罪殺か。危険な武器だったんだ。忌楼はそう思った。
忌楼はそんな思いを無視した。
そんな事より今は考える事がある。
それは、忌楼が目を覚まして周りを見回すと妙な部屋に居てしかも見た事の無い生地で出来ている見た事無い形の服を着ている事だ。
その部屋はダブルベット一つと勉強机が二つと本棚が三つがあるだけの部屋だ。
そして、壁は傷が一つしかない。その傷は、大きな穴に薄っすらと血痕が付いている。
その部屋の物は忌楼は一切見た事がない。
すると、入り口の扉(これもまた忌楼が見た事のない形だ)が開いた。
忌楼は咄嗟の判断で戦闘体制に移行した。
すると、入ってきたのは昨日忌楼が見た、長身の青年と長身の美人な女性だ。
忌楼の体制を見て青年は
「そんなに構えるなって」
と苦笑しながら言った。
そう言われても忌楼は今の体制を変えずにいた。
なぜなら、忌楼からすると青年は何か分からない物で少女を殺した張本人だからだ。
「まぁ、良い。その体制のままで聞いて。今日から僕達夫婦は君の親代わりになるんだ。突然で悪いね」
忌楼が体制を変えなかったので諦めて青年はそう言った。
だが、そんな事を忌楼は承知出来ない。
なぜなら、何も抵抗をしていなかった少女を何の躊躇いも無く殺したからだ。それに夢の中だが、母親に会ったばかりだ。
「そりゃ、承知出来ないよね。君にも両親が居るし、何よりあの少女を殺したからね。仕方ないよ」
青年は本心から自分を責める様に言ったが、忌楼にはそれが演技にしか見えなかった。
そのせいで、忌楼は消えかけていた怒りが再度が現れてきた。
「でも、何故あんなことをしたかとかあの実験は何の為にしているのかとか教えるけどね」
青年はそう言った。忌楼はこれは色々聞けるチャンスだと思い渋々頷いた。
「そうか、良かった」
青年は妙に安堵していた。だが、その安堵の中にはまた別の思いが混ざっているように忌楼には聞こえた。
「まずは自己紹介からだね。僕の名前は初瀬川紅。こっちの人は」
青年──紅が隣に居るおそらく妻であろう人の名前を紹介しようとすると、横から身体を出してきた。
「自己紹介ぐらい自分で出来るのよ。私の名前は初瀬川湖よ。これからよろしく」
青年の妻──湖がそう微笑んで言うと紅は驚いた顔をしていた。
「珍しい。湖が積極的だ」
紅がそう言うと湖が呆れた顔をした。
「君の名前も教えて」
紅がそう言った。忌楼は偽名を言うべきかと考えたが本名を言うことにした。
「私の名前は水川忌楼」
そう端的に言った。
すると、
「これからよろしくね。忌楼ちゃん」
と湖は馴れ馴れしく言った。
「ちゃんはやめて下さい。普通に忌楼で良いです」
そう忌楼が言うと何故か「分かったよ」と紅が言った。
「さて、まずは何をしようか?」
湖はにこやかにそう言った。
「実験の事について聞かせて下さい」
忌楼は即答した。その忌楼の言葉を聞いて二人は息を飲んだが気を取り直したかの様に
「いやいや、他にも楽しい事が沢山あるよ。それにまだ、忌楼は子供だし他の事で遊ぼうよ」
と紅は言ったが忌楼はその言葉で少しイラついた。
「私もう、裳着しているので子供ではありません」
忌楼はそう言った。
裳着とは戦国時代の時に女性が成人する事だ。その、裳着の時に今まで髪を短くしていた髪を髪上げする。
「でも、髪上げして無いからてっきり」
紅は戸惑った様に言った。
「誰かに切られたのでしょう。それでも、顔を見て分からないものですか? 私そんなに幼い顔をしてますか?」
忌楼は勢いに任せて紅に説教をした。
「見て分かりますね。幼く見えないです。すみません」
紅は本当に深く反省してそう言った。
すると、湖は笑いを必死に堪えていた。
だが、
「アハハハハハ‼︎ もうダメだ……堪えられない……これじゃどっちが親か……アハハハハハ‼︎」
と笑い始めた。なので、忌楼と紅は湖がひとしきり笑い終わるのを待った。
数分後。湖は「はぁ…はぁ…はぁ…」と息切れしている。
「さて、もう一度言います。実験の事について教えて下さい」
忌楼がそう言ったが、紅は「でも……」とまだ言っている。
すると、湖が
「もう、仕方ないし教えてあげれば」
と言った。
すると、紅は
「湖がそう言うなら……」
と何とも人任せに言った。
「それじゃあまずは、検査をしに行こう」
紅は突然そんな事を言い出した。
「検査……ですか?」
忌楼は不思議に思った。
「そう、検査。まだ、気が付いたばかりだし念の為にね」
紅はそう言った。
「はぁ……そうですか」
忌楼はそう言った。紅は気が付いたばかりと言ったので今まで、自分は気を失っていたのかと忌楼はそう思った。
そして、忌楼が紅達に連れられたのは何かの検査室だった。
その部屋の中央には磁気共鳴画像通称MRIがあった。
忌楼はそれが何か分からない。
すると、若い医者が部屋に入ってきて「そこに乗って下さい」と言われたので忌楼は素直に乗った。
「力を抜いて下さい」
と忌楼は言われて力を抜いた。
すると、突然眠くなりそっと目を閉じて眠った。
忌楼が最後に見たのは初瀬川夫婦の心配と申し訳なさが入り混じった表情の顔だった。




