五話
孤卯未が入院してから三ヶ月が経った。
孤卯未は老夫婦と医者と看護師以外は誰も話す相手がいなくて退屈していた。
退屈過ぎて夜に病室を抜け出し、朝に病室に帰ってきて看護師達を驚かせようと思った。
すぐに、孤卯未は行動に移した。
この三ヶ月間リハビリと言う名のトレーニングをしていた。
なので、孤卯未の動きは軽快だ。
病院に入院する前よりずいぶんと鍛えられている。
入院する前は筋力、持久力などの力は孤卯未と同年代の女子の中では平均を大きく下回っていた。今は、孤卯未と同年代の女子の平均を少しだけ上回っている。
なぜ、鍛えたか。それは、若い二人の役に全く立たず意識を失ったからだ。
それを、悔やんで孤卯未は身体を鍛えた。
孤卯未がなぜその記憶があるか。それは、階段から落ちたと言われた次の日は記憶に靄がかかっていなかった。なので、思い出そうとしたら思い出せると考え孤卯未は考えた。
すると、前日のことが嘘のように簡単に思い出せた。
病院の敷地内の庭に着いた。辺りは真っ暗だ。
孤卯未は病衣のポケットの中から、密かに持ってきていた小型のライトを取り出し、灯りをつけようとした。
だが、あえてつけなかった。
なぜなら、雲に隠れていた月が出てきて光が差し込んだからだ。
その光が滝桜に当たり幻想的に見えたからその邪魔をしてはいけないと思い灯りをつけなかった。
すると、滝桜の幹に寄り添って寝ている孤卯未と同じ病衣を着た銀髪銀目の木に寄り添っているだけで明らかに孤卯未より背が高いことが分かる女性がいた。
「あの……大丈夫ですか?」
遠くから見たら死んでいる様に見える女性に身体を揺すりながら声をかけた。
「んっ……ん?」
すると、女性は密かに声を出して目を開けた。
「よかった」
孤卯未は安堵した。
「え? え?」
だが、女性は困惑していた。
「その木に寄り添って寝ていたんですよ。ちょっと、夜は肌寒い時期なので、風邪を引いたり、病気が悪化しないかと心配で声をかけさせてもらいした。迷惑だったでしょうか?」
孤卯未がそう言うと女性は無言で首を横に振った。
孤卯未はさらに安堵した。
「あの…何かの縁ですしよろしければお友達になりませんか?」
孤卯未は突然そう言った。
だが、孤卯未は恥ずかしくて初めての人に話しかけるのが苦手だった。
今は、その恥ずかしさより退屈さが勝っていた。
女性は無言で縦に何度も首を振っている。
「あたしの名前は初瀬川孤卯未です。これからよろしくお願いします」
孤卯未は素直に手早く自己紹介を済ませた。
「私の名前は水川忌楼です。こちらこそこれからよろしくお願いします」
女性──忌楼もそう手早く自己紹介を済ませた。
「あの…一つお聞きしたいのですがよろしいですか?」
忌楼は小さく手を挙げてそう質問した。
孤卯未はその忌楼の質問に頷いた。
忌楼は一度お辞儀をしてから言葉を発した。
「ここどこですか?」
数分か数秒かわからないが二人の時間が止まった。
「え? もしかして、記憶喪失?」
孤卯未は目を丸くしてそう聞き返した。
忌楼はしばらく、悩んでから頷いた。
「と、とりあえず病室に戻ろう?」
孤卯未はそう聞いた。
だが、忌楼は首を振った。
「きっと、私はそちら側の人間では無いと思います」
忌楼はそう言うと、孤卯未から少しずつ離れていった。
孤卯未が顔を伏せながら忌楼の言葉のことについて考え込んでいて、孤卯未が気付いて顔を上げたらもう、どこにも忌楼の姿は存在していなかった。
孤卯未はあの後さらに考え込んで気が付いたら孤卯未の病室のベットで目が覚めた。
孤卯未は昨晩のことが全て夢では無いかと思った。
だが、それは夜に夢では無いことが分かった。
なぜなら、昨晩通り孤卯未は病室を抜け出し滝桜の場所まで来た。
そして、そこで忌楼に再会したからだ。
自分が通っていた学校が無くなっていたこと。
学校で多分、一番親しかった少年のこと。
老夫婦に拾われたこと。
若い二人が何かわからない者から自分を救ってくれたこと。
孤卯未は今まで自分が経験したことを洗いざらい話した。
忌楼は聞き上手だったので、孤卯未は素直にそして、おもしろおかしく話せた。
忌楼が興味を持ったのは通っていた学校が無くなっていたことと学校で多分、一番親しかった少年とのことだった。
「今晩は楽しかったね」
二人揃ってそう言った。
翌日、老夫婦が来た。
そして、老夫婦は孤卯未にこの病院の怖い話をしてくれた。
その内容は、この病院の敷地内のどこかの地下に人体実験している実験所がある。その人体実験は戦争での犠牲を無くす為にある。だが、そんな人体実験は逆に戦争を引き起こす種になる。影では今、戦争が勃発している。そこに、研究者達が人体実験に成功した万能な人間を投入している。その、戦争での犠牲者が病院の敷地内にある滝桜のある丘の下に埋められている。その、埋められている犠牲者が夜な夜な生き返り、周りの人々に被害を与えている。例えば、病気を極端に悪化させたり、大怪我を負わしたりしている。
「そして、最後に人々を殺して自分達と同じ場所に埋めようとしている。だって。嘘くさいよね」
孤卯未は忌楼にそう言った。
忌楼は考え込んでいる。
孤卯未が声をかけようとしたら、またいつも通り、無言で孤卯未から少しずつ離れていって最終的にはいなくなる。
孤卯未はもしかしたら、忌楼もその犠牲者の一人では無いかと思った。
だが、すぐさま首を振ってそんな考えをかき消した。
そうよ。そんなこと、あるわけ無い。
孤卯未は最後にそう思って病室に戻った。